【魔女ローゼマリー伝説】~5歳で存在を忘れられた元王女の私だけど、自称美少女天才魔女として世界を救うために冒険したいと思います!~

ハムえっぐ

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第4章 竜は泉で静かに踊る

第32話 聖女フォレスタ

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 ベレニスがフォレスタさんを見つめる目には、複雑な感情を宿しているようだった。
 やがて何かを悟ったかのように表情が変わり、口を開いた。

「ふんっ! 私の記憶を引っ張っているみたいね。先代だからって、私の記憶を好き勝手にできると思わないでほしいわ」

 ベレニスの一言に、私たちは息を呑んだ。
 つまり目の前にいるフォレスタさんは、ベレニスから生み出されているってこと⁉

「クス……ベレニス、お母さんですよ~♪」

「ウザすぎ! てか、『マウント取りエルフ』って何よ! 私は優しくて可愛くて素敵な、超絶一流の冒険者なのよ! 勘違いも甚だしいわ!」

 フンスと、ベレニスがマウントを取った。

「要するに、さっきの私への『歴オタストーカー魔女』ってセリフ、ベレニスが普段思っているってことかな? ちょっと後でゆっくり話し合おうね~」

「え? なんで怒っているの、ローゼ?」

 ベレニスがきょとんとして私を見るが、悪意一切なしかい。

「コホン。わたくしへの『説教聖女』というのもよくわかりませんが、今は保留に致しましょう。つまり目の前のフォレスタ様は、ベレニスの中に引き継がれていたフォレスタ様の因子が、具現化された存在ということでしょうか?」

 ヴィレッタの言葉に、フォレスタさんは得意げに胸を張りムフン♪ とした。

「正解で~す。ローゼちゃんが炎魔法で森を怒らせちゃったじゃない♪ だからマズいって思って、木々を宥めて、みんなを世界樹の中に招待したのです♪ 凄く大変だったのよ? はい、私へ称賛の拍手してくださ~い。パチパチパチ」

 おわあ……ピンチを救ってくれてありがたいが、ただ……なんだろう? この残念な感じの人に助けられちゃった感覚って。

「蔦? ローゼ! まさか炎魔法を使ったの? ホント、ローゼって私がついていないと駄目なんだから! ん? そういえば、どうして私、記憶ないんだっけ? 途中でやられたんだっけ? なんか、お腹がめっちゃ痛かった気がするわ」

 ベレニスの言葉にリョウが目線を下にする。

 いずれベレニスは、ノイズに殺されそうになったところを、リョウが鞘を投げて吹き飛ばして助けてくれた事実を知るだろう。

 その時にリョウをフォローしないと、リョウの命がないかもしれないなあ。

「ていうか! 私、凄くない? 気絶中なのに、みんなのピンチを回避して、森の激怒も抑えたのって私の手柄よね? 超絶凄くない、私?」

「帰れたらだけどっすね」

 ドヤ顔のベレニスにフィーリアが即座にツッコむ。

 あ~もう。こんなところでまで喧嘩とか止めてほしい。
 ギャーギャー言い合っている2人は無視して、私はフォレスタさんに向き合った。

「木々を宥めたと言いますが、どうやってですか?」

「ん~。代償は貰ったわ。それでなんとかした感じ?」

 いや、疑問形かよ。

「代償ってなんでしょう! 交換可能なら私の武具は高く売れると思うのです!」

 いや、レオノール。その気持ちはありがたいけど、こういうのって金目の物を渡しても解決しないと思うよ?

「……代償はベレニスの寿命300年分です。構わなかったわよね?」

「あ~はいはい。別に構わないわよ。そんじゃ早く戻してくれるかしら?」

 軽く受け流すベレニスだが300年て……

「? ……はっ⁉ フフン♪ みんな、感謝しなさいよね? この私のお陰で危機を脱出したんだから♪」

「ベレニスごめん! 私のせいで!」

「ローゼは気にしなくていいわよ。傭兵は一生恩に着なさい♪ 大体、私の寿命なんてめっちゃあるんだから、どうだっていいわよ」

 ベレニスは、どうでもよさそうに言うと、フォレスタさんと向き合った。

「じゃあ元の場所に戻してよ! 癪だけど、ママって呼んでほしいなら呼んであげるから!」

「それはお母さんで! ……ただこのまま帰してもノイズ・グレゴリオに殺されるだけです」

「おお! やはり、力を授ける系の儀式が待っているのですね! よろしくお願いします‼」

 元気一杯なレオノールの声に、フォレスタさんはビクッてなった。

「そんな都合のいい話があるわけないでしょ! そんな純真無垢で頼られて、何も授けられない私を困らせないで!」

 シュンとするレオノールだが、どっちの気持ちもわかるよ。

「頼む……奴の狙いは俺だ。俺をノイズのいる場所に戻し、他のみんなを安全な場所まで送り届けてくれ」

 頭を深々と下げるリョウに、フォレスタさんは嘆息して、私たち全員がイラッとしたのは言うまでもない。

「……まずは今の現状を見せましょう」

 空中に、外の光景が幻影のように映し出された。

「そんな⁉」

 目に飛び込んでくる光景は、ララノアさんやクーリンディアさんたちエルフ……ザイルーガたちリザードマンの死体。

 目の前に広がる惨劇に、ヴィレッタの目から涙が溢れ出した。
 エルフたちとリザードマンたちの無惨な最期に、無力感と深い悲しみが込み上げているのがわかった。

 ベレニスの顔から血の気が引き、フラリと倒れそうになるのを、クリスとフィーリアが受け止めた。

 そして……剣戟の音。

「父上⁉ どうしてここに! 押されている⁉」

 レオノールが驚愕の表情を浮かべた。

 剣戟を響かせていたのは、血みどろになり息も絶え絶えのラインハルト王と思しき人物が、マントすら血で染まりながらなんとか抗っている姿。
 そしてラインハルト王と対峙するのはノイズ・グレゴリオの歪んだ狂気の笑顔。

 私は沈痛な面持ちで、目を瞑り歯を食いしばった。

「俺のせいだ……俺が怒りで我を忘れたせいで」

「リョウ……でもあいつはリョウを連れ去ろうとした。リョウだけの責任じゃない……私も弱かったから……」

 私にも……私たちにも背負わせて。

 リョウは自らの行動を責めていた。
 自分の怒りを抑えきれずに、周囲に被害を及ぼしてしまったことに申し訳なさが込み上げている。
 でも、もうその表情には、仲間を守り抜こうとする強い意志も宿っていた。

 そんな私たちを見て、フォレスタさんはもう大丈夫と告げるかのように微笑み、頭を下げてきた。

「貴方方7人にお願いします。この世界は再び闇に飲まれようとしています。森の魔獣たちの命は、とある封印を破るのに利用されたのです」

 フォレスタさんの表情が一変した。
 これまでの遊び心は一切なく、真剣な眼差しと固い口元が、重要なことを伝えるかのように、彼女は肩の力を込めて話し始めた。

「封印……ですか?」

「魔王軍宰相クレマンティーヌ。私たち七英雄が最も恐れた相手です」

 クレマンティーヌ。
 七英雄の物語のクライマックスである、魔王との戦いの直前の対決相手だ。
 物語では、七英雄全員で黒狼将軍と宰相クレマンティーヌを倒し、魔王の玉座に向かうのだが……真実は倒せず封印したってこと?

「ははあ、シュタイン王の手記は、そこら辺は戦いに次ぐ戦いで後日の記述が多かったすが、宰相戦についてはよくわかっていないどころか、知らないって印象を持っていたっす。参戦した人数も少なかったんじゃないすっかね?」

 フィーリアの疑問に、フォレスタさんはコクリと頷いた。

「クレマンティーヌとは、彼女と因縁のあるアニスとザックス、それと私の3人で戦いました。最初から封印を目的にして戦ったのです。例え七英雄全員で倒すべく戦っても、全滅したのは私たちだったでしょう」

 魔王軍宰相は、実のところよくわかっていない。
 七英雄物語は、全ての画策は魔王と宰相の命令で行われているという記述ばかりだ。
 それは、要はずっと魔王の側にいて、直接人類へ虐殺した事実もないということである。

「私たちが七英雄と今でも語り継がれる存在のように、貴方方がなってください。そのための奇跡を一度だけ与えます。この森の世界樹だからこそ起こし得る奇跡。……次からはきちんと悲劇を食い止めなさい」

 そう、フォレスタさんが言った瞬間、視界がグニャリとする。

 まだ! 聞きたいことが多くある!
 そう思った私だが、遠くなるフォレスタさんの微笑みで気合を入れる。

 ……必ずなります! フォレスタさんやアニスのような、多くの命を救った七英雄のように!
 
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