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第4章 竜は泉で静かに踊る
最終話 社交ダンス
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パーティー会場は、すでに出来上がっているダリム宰相の豪快な笑い声が響いていた。
リョウは黒い礼服を着せられ、会場に入ろうとするが衛兵に引き止められる。
「剣はこちらでお預かりします」
(あれ? 剣舞を披露しなくていいのかな?)
と思いつつリョウは剣を渡した。
巨大なシャンデリアが天井から垂れ下がり、会場全体を柔らかな光で満たしていた。
壁には豪華な絵画や織物が飾られ、貴族たちは華やかな衣装に身を包み、優雅に歓談している。
ローゼとヴィレッタは、頭にタンコブを作り、棒立ちしているレオノールと共に、テレサさんと、一目でこの国の妃とわかる品格と威厳と美貌を兼ね備えた女性と楽しそうにお喋りをしていた。
フィーリアは目を輝かせながら、グレン団長以下傭兵団の面々と話している。
そういえばフィーリアは、サラと会ったことがあると言っていたなと思いつつ、邪魔しちゃ悪いと思い目線を料理のあるテーブルへと向ける。
見たことのない料理が数多く並んでいた。
間違いなく上流階級の料理で、どうやって食べるのやらと思案していると、ベレニスとクリスがマナーを気にせず頬張り、頬を抑えている姿が見えた。
貴族たちの好奇の視線も感じつつ、リョウは隅っこの丸テーブルに座り料理を口に運ぶ。
美味い! どれも非常に美味かったが、その中でも一際美味しかったのはローストビーフだ。
表面にハーブと香辛料で味付けされた肉の薄切りを、生野菜と共にパンで挟んで食べてみたが、パンもふわふわしている上に香ばしく焼かれていて絶品だった。
政変直後のベルガー王国のパーティーは質素かつ規模は小さかった。
あの時もつつがなく飯を食って時を過ごしたし、今日のファインダのパーティーもなんとかなるだろう。
剣舞もやらなくていいみたいだしな。
そう考えていたリョウは、会場の異変に気づく。
(……何だ? この嫌な予感は?)
会場が暗くなり、中央にスポットライトが当てられる。
そこにファインダ王国国王ラインハルトと、先程ローゼとヴィレッタが会話していた女性が、優雅に手を握り合って踊りだしたのだ。
雅楽隊の演奏に合わせ、2人はゆったりとしたペースで踊り始める。
優雅に舞う2人の姿に、会場は感嘆の声と拍手に包まれた。
(……何が起きているんだ? パーティーにしては雰囲気が違うぞ?)
リョウが警戒していると、後ろから声をかけられた。
「あっ! リョウ。ここにいた」
声の主はローゼだ。
薄いピンク色のドレスを纏っている姿に綺麗だなと思わず見惚れていると、ローゼは続けて口を開く。
「えっと、一緒に踊ろ?」
え? あれを? と思うリョウだったが、ローゼはリョウの手を取りホールの中央へと連れ出した。
楽団の奏でる雅な旋律が会場を包んだ。
ローゼの手を握るリョウは、必死に先程のラインハルト王の動きを思い出そうとする。
だが……ツーステップ目でリョウは盛大に転んだ。
失笑する貴族連中に、爆笑を堪えるアラン傭兵団の面々の声。
ヴィレッタの激おこの様子と、他の仲間たちの他人の振りが視界に入ってきた。
「リョウ大丈夫⁉ おわっ⁉」
ローゼもまた、ドレスの裾に躓き2人して大転倒する。
痛てて……と立ち上がると、会場から大きな笑いが起こった。
(……なんだ? 何が起こっているんだ? これは何だ?)
リョウの困惑は深まるばかりだったが、ローゼに引っ張られて再び踊り始めた。
リョウとローゼの動きは、まるで初めて歩く子鹿のようにぎこちない。
リョウの足がローゼのドレスを踏みそうになり、ローゼが慌てて避けようとして更に体勢を崩す。
2人の必死な表情と対照的に、周囲からは笑いが漏れていた。
「リョウ様! この体たらくは一体どういうことですか! 大体、わたくしの話の途中でどこへ行っていたのですか!」
踊り終えると怒り心頭のヴィレッタが、腕を組んでリョウを出迎えた。
会場の隅っこで正座し、髪色と同じである青色のドレス姿のヴィレッタにリョウは説教される。
会場の貴族たちは笑いを堪えつつも、興味深げに一部始終を見ていた。
「ローゼもです! 踊れないのなら言ってくださいまし! 自信満々でできると仰るから信じましたが、全然駄目です‼ これは今後、ダンスも習わなければいけません!」
「うう~。こ、こんなはずじゃ……」
そんなローゼを見てベレニスはケラケラ笑っているが、ヴィレッタはベレニスもですよと目を光らせるのであった。
「ちょっ⁉ なんで人間の踊りに私まで⁉」
慌てるベレニスの背後では、クリスが他の貴族たちと混ざり、父のダリムと踊っていた。
ヴィレッタ以外の仲間たちが何で踊れるんだよとビビる中、音楽が止み、急に明かりが落とされ、国王ラインハルトが舞台上に姿を現した。
「諸君! 今日は集まっていただき感謝する。本日、集まってもらったのは、王国の危機に尽力し、また、俺の命を救ってくれた英雄たちを讃え、感謝の意を示す機会を設けるためだ。我が国を襲った危機の中、ある英雄たちが勇気を持って立ち向かい、危機を脱した。彼らの勇気と献身により、我々は再び安全な日々を送ることができるのだ。彼らの名前は、歴史に刻まれるべきであり、永遠に国民の心に語り継がれるべき存在であろう!」
王の手にはグラスが握られており、全員に行き渡ると再び音楽が流れ始める。
ラインハルトはリョウたちに目線を送りグラスを掲げる。
「若き英雄たちに! 乾杯‼」
ラインハルトの掛け声に会場が盛り上がり、グラスとグラスのぶつかり合う音が響き渡った。
リョウは安堵のため息をついた。
「リョウ……今、演説を求められなくてよかったって思ったでしょ? あとヴィレッタのお説教も流れてさ♪」
ローゼがイタズラな笑みを浮かべてリョウを見る。
「いやまあ……ああ……」
リョウの言葉にベレニスはケラケラ笑い、フィーリアもクスリと笑う。
「うおおおおおお! 姉様! ようやく母上から解放されました! こっからは自由に動けます!」
一国の姫として美しい純白のドレス姿のレオノールが、衣装に似つかわしくない大声で向かって来た。
「踊るのって楽しいね~。ローゼとリョウも、もう一度踊ってくれば~?」
クリスは、赤色のドレスの裾に目一杯の果実を詰めて合流してきた。
「ちょっ! クリス! 下着が見えているよ!」
白い下着が現れ、慌てて視線を逸らすリョウの目を隠しながらローゼが叫ぶ。
「はしたないです! クリス! 貴女にはまず淑女の嗜みから学んでもらいます!」
「え……ヴィレッタ……目が怖いんだけど……」
「美味しいわねえ。ホント毎日パーティーやってもらいたいわ~。てか、このお城の中で毎日ゴロゴロしたい、ゴロゴロしたい……」
「ベレニスさん。ゴロゴロ食っちゃ寝してたらデブるっすよ。大事なところは膨らまないのに、お腹はポッコリ、お顔はパンパンでドレスが入らなくなるっす」
「ちょっと、フィーリア、どういう意味よ!」
「姉様~、明日から私、学校の寮に幽閉されるんです。助けに来てくださ~い。ていうか今から脱出しませんか?」
「いいですかクリス。貴女はファインダ王国宰相の娘なのです。一挙手一投足が注目されているのですよ。陛下の顔に泥を塗るような真似はしないように心掛けて下さいませ」
「え~っ? 今度から下着を履かないから許してヴィレッタ~」
「えっと、踊るのには足がこうしてこうで、リョウの動きがこうなるから私はこう動く。……うん! 脳内は完璧かも!」
ローゼたちの賑やかな声が響き渡る。
リョウは、この仲間のいつもの賑やかな雰囲気にフッと笑みを零す。
するとカルマンに肩を組まれ、「紹介しろよハーレムクソ野郎」と絡まれた。
サラがローゼに跪き、「今夜一緒に寝ない?」とナンパしてローゼの頭の中をクエスチョンで染める。
サラのナンパに、ヴィレッタは何故かリョウに怒り、ローゼはオロオロし、クリスはお腹が空いたと料理を食べ始めるのであった。
「え? サラさんて女の人ですよね? てか胸が大きい⁉」
「サラ、あまり困らせては駄目ですよ? リョウの仲間なのですから」
パーティーでも修道服姿のテレサもやって来て、サラを嗜める。
「あはは、サラさんの女性好きは相変わらずっすねえ。うちのローゼさんは初心なので、あまり困らせないであげてほしいっす」
フィーリアもサラに軽く注意するが、特に止める気はないようだ。
「初心。それはいい響きだ。オレが色々教えてあげるよ」
「いやいや、あのあの、えっとえっと」
「う~ん、クンクン。でもみんな仲間だよ~」
「クリスさん。よいことを言いますね。そうです、我々は仲間です。恋愛は自由ですが節度を守ってですね……」
テレサが、この場の年長者として威厳を見せるが……
「いや~、みんな処……モガッ⁉ 何するのさ~フィーリア」
「クリスさん、それ以上は口にしちゃ駄目っすよ。下手したら死人が出るっす」
キョトンとするテレサに女性陣だったが、少し離れた場所で会話を聞いていたアレクシアが、手を口に当てて爆笑するのを必死に堪えていた。
様々な人の笑顔や喜びの声で満ちた会場に、リョウは不思議な気分に浸っていた。
酔った団長、王、宰相に絡まれ、近衛隊長らしき人物に嫉妬心混じりの挨拶をされ、カルマンとサラに絡まれ、ヴィレッタに説教され、フィーリアとベレニスのコントのようなやりとりを眺める。
レオノールが逃走を図ったが王妃に一撃で倒され、クリスが貴族男性からのダンスのお誘いで、尽く相手の目を回らせていく光景。
ローゼがわちゃわちゃするみんなに、慌てたり驚いたり笑顔を零している。
本当に不思議な空間だった。
この光景を俺は一生忘れないだろう……
やがてパーティーは終わりを迎える。
リョウたちは城の一室に泊めてもらうこととなった。
夜も更ける中、リョウはベッドに入るがなかなか眠れないでいた。
脳内に巡るのは先程までのパーティーの様子。
そして旅をする仲間たちとの出会い。
アラン傭兵団に拾われてからの日々。
デリムでの幼き平穏な日々。
叛乱を起こしたデリム公によって一変した地獄の日々。
叛乱軍の主導権を握ったノイズによって少年兵として戦った日々。
リョウは両の目をゆっくり閉じる。
思いを馳せるは過去ではなく、未来に起きうるであろう出来事と念じ。
今の仲間たちと共に歩んでゆく、信頼と期待に全力で応えるまでだ!
そう気合いを入れると同時に、意識は夢の中へ落ちていった。
***
それは夢か幻か。
ノイズが現れ語りかけてくる。
『よお、リョウ。バカだねえ。なんでそんなに生きていたいんだ?』
『決まっている! 仲間を護るためだ!』
『はっ! 仲間ねえ……見返りも貰わねえでよくやるわ。お前は戦場でしか輝けねえ存在よ。俺がよく知っている。ったく、俺に付いてくれば、ずっと戦わせてやれたのによお』
ノイズの姿は霧のように揺らめき、その声は耳元で囁くように響いた。
リョウは一瞬、かつての憎しみが蘇るのを感じたが、すぐに仲間たちの顔が脳裏に浮かび、その感情を打ち消した。
『…………』
『はっ! だんまりかよ! まあ、いいさ。俺は俺のやりたいようにやるだけだ。お前はせいぜい死ぬまでその剣で、救う価値のねえこの世界で護る戦いをして無様に散りな。その時は俺が地獄から迎えに来てやるぜ』
***
ノイズは返答を待たずに消え、リョウは目が覚めた。
「ああ、その時を待っているよノイズ」
そう口から漏らすと、リョウは着替え、剣を手にし、朝の鍛錬をすべく扉を開けた。
リョウは黒い礼服を着せられ、会場に入ろうとするが衛兵に引き止められる。
「剣はこちらでお預かりします」
(あれ? 剣舞を披露しなくていいのかな?)
と思いつつリョウは剣を渡した。
巨大なシャンデリアが天井から垂れ下がり、会場全体を柔らかな光で満たしていた。
壁には豪華な絵画や織物が飾られ、貴族たちは華やかな衣装に身を包み、優雅に歓談している。
ローゼとヴィレッタは、頭にタンコブを作り、棒立ちしているレオノールと共に、テレサさんと、一目でこの国の妃とわかる品格と威厳と美貌を兼ね備えた女性と楽しそうにお喋りをしていた。
フィーリアは目を輝かせながら、グレン団長以下傭兵団の面々と話している。
そういえばフィーリアは、サラと会ったことがあると言っていたなと思いつつ、邪魔しちゃ悪いと思い目線を料理のあるテーブルへと向ける。
見たことのない料理が数多く並んでいた。
間違いなく上流階級の料理で、どうやって食べるのやらと思案していると、ベレニスとクリスがマナーを気にせず頬張り、頬を抑えている姿が見えた。
貴族たちの好奇の視線も感じつつ、リョウは隅っこの丸テーブルに座り料理を口に運ぶ。
美味い! どれも非常に美味かったが、その中でも一際美味しかったのはローストビーフだ。
表面にハーブと香辛料で味付けされた肉の薄切りを、生野菜と共にパンで挟んで食べてみたが、パンもふわふわしている上に香ばしく焼かれていて絶品だった。
政変直後のベルガー王国のパーティーは質素かつ規模は小さかった。
あの時もつつがなく飯を食って時を過ごしたし、今日のファインダのパーティーもなんとかなるだろう。
剣舞もやらなくていいみたいだしな。
そう考えていたリョウは、会場の異変に気づく。
(……何だ? この嫌な予感は?)
会場が暗くなり、中央にスポットライトが当てられる。
そこにファインダ王国国王ラインハルトと、先程ローゼとヴィレッタが会話していた女性が、優雅に手を握り合って踊りだしたのだ。
雅楽隊の演奏に合わせ、2人はゆったりとしたペースで踊り始める。
優雅に舞う2人の姿に、会場は感嘆の声と拍手に包まれた。
(……何が起きているんだ? パーティーにしては雰囲気が違うぞ?)
リョウが警戒していると、後ろから声をかけられた。
「あっ! リョウ。ここにいた」
声の主はローゼだ。
薄いピンク色のドレスを纏っている姿に綺麗だなと思わず見惚れていると、ローゼは続けて口を開く。
「えっと、一緒に踊ろ?」
え? あれを? と思うリョウだったが、ローゼはリョウの手を取りホールの中央へと連れ出した。
楽団の奏でる雅な旋律が会場を包んだ。
ローゼの手を握るリョウは、必死に先程のラインハルト王の動きを思い出そうとする。
だが……ツーステップ目でリョウは盛大に転んだ。
失笑する貴族連中に、爆笑を堪えるアラン傭兵団の面々の声。
ヴィレッタの激おこの様子と、他の仲間たちの他人の振りが視界に入ってきた。
「リョウ大丈夫⁉ おわっ⁉」
ローゼもまた、ドレスの裾に躓き2人して大転倒する。
痛てて……と立ち上がると、会場から大きな笑いが起こった。
(……なんだ? 何が起こっているんだ? これは何だ?)
リョウの困惑は深まるばかりだったが、ローゼに引っ張られて再び踊り始めた。
リョウとローゼの動きは、まるで初めて歩く子鹿のようにぎこちない。
リョウの足がローゼのドレスを踏みそうになり、ローゼが慌てて避けようとして更に体勢を崩す。
2人の必死な表情と対照的に、周囲からは笑いが漏れていた。
「リョウ様! この体たらくは一体どういうことですか! 大体、わたくしの話の途中でどこへ行っていたのですか!」
踊り終えると怒り心頭のヴィレッタが、腕を組んでリョウを出迎えた。
会場の隅っこで正座し、髪色と同じである青色のドレス姿のヴィレッタにリョウは説教される。
会場の貴族たちは笑いを堪えつつも、興味深げに一部始終を見ていた。
「ローゼもです! 踊れないのなら言ってくださいまし! 自信満々でできると仰るから信じましたが、全然駄目です‼ これは今後、ダンスも習わなければいけません!」
「うう~。こ、こんなはずじゃ……」
そんなローゼを見てベレニスはケラケラ笑っているが、ヴィレッタはベレニスもですよと目を光らせるのであった。
「ちょっ⁉ なんで人間の踊りに私まで⁉」
慌てるベレニスの背後では、クリスが他の貴族たちと混ざり、父のダリムと踊っていた。
ヴィレッタ以外の仲間たちが何で踊れるんだよとビビる中、音楽が止み、急に明かりが落とされ、国王ラインハルトが舞台上に姿を現した。
「諸君! 今日は集まっていただき感謝する。本日、集まってもらったのは、王国の危機に尽力し、また、俺の命を救ってくれた英雄たちを讃え、感謝の意を示す機会を設けるためだ。我が国を襲った危機の中、ある英雄たちが勇気を持って立ち向かい、危機を脱した。彼らの勇気と献身により、我々は再び安全な日々を送ることができるのだ。彼らの名前は、歴史に刻まれるべきであり、永遠に国民の心に語り継がれるべき存在であろう!」
王の手にはグラスが握られており、全員に行き渡ると再び音楽が流れ始める。
ラインハルトはリョウたちに目線を送りグラスを掲げる。
「若き英雄たちに! 乾杯‼」
ラインハルトの掛け声に会場が盛り上がり、グラスとグラスのぶつかり合う音が響き渡った。
リョウは安堵のため息をついた。
「リョウ……今、演説を求められなくてよかったって思ったでしょ? あとヴィレッタのお説教も流れてさ♪」
ローゼがイタズラな笑みを浮かべてリョウを見る。
「いやまあ……ああ……」
リョウの言葉にベレニスはケラケラ笑い、フィーリアもクスリと笑う。
「うおおおおおお! 姉様! ようやく母上から解放されました! こっからは自由に動けます!」
一国の姫として美しい純白のドレス姿のレオノールが、衣装に似つかわしくない大声で向かって来た。
「踊るのって楽しいね~。ローゼとリョウも、もう一度踊ってくれば~?」
クリスは、赤色のドレスの裾に目一杯の果実を詰めて合流してきた。
「ちょっ! クリス! 下着が見えているよ!」
白い下着が現れ、慌てて視線を逸らすリョウの目を隠しながらローゼが叫ぶ。
「はしたないです! クリス! 貴女にはまず淑女の嗜みから学んでもらいます!」
「え……ヴィレッタ……目が怖いんだけど……」
「美味しいわねえ。ホント毎日パーティーやってもらいたいわ~。てか、このお城の中で毎日ゴロゴロしたい、ゴロゴロしたい……」
「ベレニスさん。ゴロゴロ食っちゃ寝してたらデブるっすよ。大事なところは膨らまないのに、お腹はポッコリ、お顔はパンパンでドレスが入らなくなるっす」
「ちょっと、フィーリア、どういう意味よ!」
「姉様~、明日から私、学校の寮に幽閉されるんです。助けに来てくださ~い。ていうか今から脱出しませんか?」
「いいですかクリス。貴女はファインダ王国宰相の娘なのです。一挙手一投足が注目されているのですよ。陛下の顔に泥を塗るような真似はしないように心掛けて下さいませ」
「え~っ? 今度から下着を履かないから許してヴィレッタ~」
「えっと、踊るのには足がこうしてこうで、リョウの動きがこうなるから私はこう動く。……うん! 脳内は完璧かも!」
ローゼたちの賑やかな声が響き渡る。
リョウは、この仲間のいつもの賑やかな雰囲気にフッと笑みを零す。
するとカルマンに肩を組まれ、「紹介しろよハーレムクソ野郎」と絡まれた。
サラがローゼに跪き、「今夜一緒に寝ない?」とナンパしてローゼの頭の中をクエスチョンで染める。
サラのナンパに、ヴィレッタは何故かリョウに怒り、ローゼはオロオロし、クリスはお腹が空いたと料理を食べ始めるのであった。
「え? サラさんて女の人ですよね? てか胸が大きい⁉」
「サラ、あまり困らせては駄目ですよ? リョウの仲間なのですから」
パーティーでも修道服姿のテレサもやって来て、サラを嗜める。
「あはは、サラさんの女性好きは相変わらずっすねえ。うちのローゼさんは初心なので、あまり困らせないであげてほしいっす」
フィーリアもサラに軽く注意するが、特に止める気はないようだ。
「初心。それはいい響きだ。オレが色々教えてあげるよ」
「いやいや、あのあの、えっとえっと」
「う~ん、クンクン。でもみんな仲間だよ~」
「クリスさん。よいことを言いますね。そうです、我々は仲間です。恋愛は自由ですが節度を守ってですね……」
テレサが、この場の年長者として威厳を見せるが……
「いや~、みんな処……モガッ⁉ 何するのさ~フィーリア」
「クリスさん、それ以上は口にしちゃ駄目っすよ。下手したら死人が出るっす」
キョトンとするテレサに女性陣だったが、少し離れた場所で会話を聞いていたアレクシアが、手を口に当てて爆笑するのを必死に堪えていた。
様々な人の笑顔や喜びの声で満ちた会場に、リョウは不思議な気分に浸っていた。
酔った団長、王、宰相に絡まれ、近衛隊長らしき人物に嫉妬心混じりの挨拶をされ、カルマンとサラに絡まれ、ヴィレッタに説教され、フィーリアとベレニスのコントのようなやりとりを眺める。
レオノールが逃走を図ったが王妃に一撃で倒され、クリスが貴族男性からのダンスのお誘いで、尽く相手の目を回らせていく光景。
ローゼがわちゃわちゃするみんなに、慌てたり驚いたり笑顔を零している。
本当に不思議な空間だった。
この光景を俺は一生忘れないだろう……
やがてパーティーは終わりを迎える。
リョウたちは城の一室に泊めてもらうこととなった。
夜も更ける中、リョウはベッドに入るがなかなか眠れないでいた。
脳内に巡るのは先程までのパーティーの様子。
そして旅をする仲間たちとの出会い。
アラン傭兵団に拾われてからの日々。
デリムでの幼き平穏な日々。
叛乱を起こしたデリム公によって一変した地獄の日々。
叛乱軍の主導権を握ったノイズによって少年兵として戦った日々。
リョウは両の目をゆっくり閉じる。
思いを馳せるは過去ではなく、未来に起きうるであろう出来事と念じ。
今の仲間たちと共に歩んでゆく、信頼と期待に全力で応えるまでだ!
そう気合いを入れると同時に、意識は夢の中へ落ちていった。
***
それは夢か幻か。
ノイズが現れ語りかけてくる。
『よお、リョウ。バカだねえ。なんでそんなに生きていたいんだ?』
『決まっている! 仲間を護るためだ!』
『はっ! 仲間ねえ……見返りも貰わねえでよくやるわ。お前は戦場でしか輝けねえ存在よ。俺がよく知っている。ったく、俺に付いてくれば、ずっと戦わせてやれたのによお』
ノイズの姿は霧のように揺らめき、その声は耳元で囁くように響いた。
リョウは一瞬、かつての憎しみが蘇るのを感じたが、すぐに仲間たちの顔が脳裏に浮かび、その感情を打ち消した。
『…………』
『はっ! だんまりかよ! まあ、いいさ。俺は俺のやりたいようにやるだけだ。お前はせいぜい死ぬまでその剣で、救う価値のねえこの世界で護る戦いをして無様に散りな。その時は俺が地獄から迎えに来てやるぜ』
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ノイズは返答を待たずに消え、リョウは目が覚めた。
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