【魔女ローゼマリー伝説】~5歳で存在を忘れられた元王女の私だけど、自称美少女天才魔女として世界を救うために冒険したいと思います!~

ハムえっぐ

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第4章 竜は泉で静かに踊る

第37話 アランの傭兵ども

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「よろしいですか、リョウ様。わたくしたちは、ラインハルト陛下を救出した一行としてパーティーに招かれているのです。ダンスも行われるでしょう。社交場でのダンスは教養の見せ所です。絶対に足を踏んではいけません」

 ヴィレッタが貴族令嬢然として、社交ダンスの嗜みをリョウにレクチャーしだした。

 これから行われるであろう、社交ダンスという未知の経験について、リョウは後に語る。

 剣舞でも見せればいいんだろ? と考えていたと。

「ローゼもボサッとしていてはなりません。ダンスが始まったら、リョウ様の手をしっかり握ってリードするのですよ」

 私にまで⁉ 正直、ダンスなんてやったことないんだけど⁉

 でもヴィレッタの言う通り、社交場では恥をかかないように振る舞わなきゃだよね。

 でも、リョウとダンスかあ~。
 えっと……あれ? 真冬なのに暑くない? 王都リオーネって。

 ……ぽわわーんと妄想の中で、優雅に踊る私とリョウのダンスに拍手喝采が鳴り響き、お似合いの2人と祝福の鐘を鳴らされる!

「よろしいですか? そもそもダンスというのは、大陸暦以前からある、女性が殿方に洗練された姿を披露する場なのです。殿方も女性をエスコートし、パートナーの魅力を最大限に引き出さなければなりません」

 妄想に浸っている私を余所にヴィレッタの説明は続く。

 ベレニスとフィーリアとクリスは後に語る。
 話の途中でリョウは、身分証である銀の認識証を見せたブラウン髪の大男に、ゴツンと頭を叩かれ引き摺られてどこかへ行ってしまったのだ。
 だが、私とヴィレッタの様子から黙っていよう、リョウならどこかへ自分の足で行ったと説明しておこう。
 でないと自分たちが怒られると頷きあったと。

「という訳でして、社交場のダンスは殿方の嗜みなのです。リョウ様は恥をかかないように、今から練習しなければなりません。……あれ? リョウ様は?」

「さ、さあ? 傭兵なら話に飽きたんじゃない」

 あさっての方向を向くベレニスの目は泳いでいる。

「リョウ様! どこですか⁉ リョウ様‼ えっと……ローゼも現実に戻ってくださいまし‼」

 ヴィレッタにガクガクと身体を揺らされ、私は意識を取り戻したのであった。

 でもリョウはどこに消えたのやら?

 後に私はリョウを連れ去った人物から聞く。
 あの時のリョウは死を覚悟した面持ちだったと。

 ***

 リョウは王宮の賓客をもてなす一室に連れ込まれていた。
 そこは、荒々しさと規律が混在する独特の雰囲気に満ちている。

 その一室、10人以上のアラン傭兵団の証たる黄土色の鎧を着た面々の中で、1人だけ修道服姿のテレサが一応リョウの弁護を担当する。

「……以上を持ちまして、リョウへのペナルティは街に到着したら必ず報告書を作成して、提出する手筈になりました」

「うぇーい」

 茶褐色の髪の青年カルマンがハイタッチを求めてくるので、リョウは渋々応じた。

「つーかさあ。ノイズを殺したんだろ? ならリョウに旅をさせる意味なくない?」

 リョウを連れ去った大男が座る机に柄悪く座りながら、七色の髪をした妙齢の女性がリョウに問いかける。

 アラン傭兵団随一の乱暴者と恐れられる七色の凶戦士、副団長のアレクシア・シャングリラである。
 カルマンやサラといった他の団員たちは、楽しげな笑みを浮かべ成り行きを見守る。

「魔女を見つけたらすぐに報告しろと言ってあったが、何故報告を怠った。あまつさえ一緒に旅をしている。これはどういうことだ?」

 席に座る大男が、リョウを問い質す。

「団長、そんなのは可愛いからよ。男っつーのは性欲で動くもんよ。他にも一緒にいるのはエルフにドワーフに公爵令嬢。全員女ってのがウケるわ~。リョウはパルケニアに返して、あたいがその面子と旅するでよくない?」

 答えたのはアレクシアだ。クククッと笑いながら、冗談とも本気ともつかぬ言葉を付け加える。

 リョウは釈然としないが、事実だけに何も言い返せない。

 そんなリョウの様子を見て、団長と呼ばれた大男はため息をつく。

「リョウがパルケニアに居づらいのは理解している。が、ダーランドでもまだ俺たちに需要がある。ベルガー王国からも、俺たちに依頼が入っているからそこへ行くのもいい。各地で魔獣や盗賊が頻発化している現状だ。お前をいつまでも遊ばせてはおけん。どうするかを、俺たちが帰還する間に考えておけ」

「ヒュー♪ グレン団長、優しい♪」

 茶褐色のセミロングヘアの少女サラが茶化す横では、兄のカルマンがうんうんと頷く。

「俺だって美少女たちと旅がしてえ! リョウ、てめえこの野郎! 1人だけいい思いをしやがって!」

 そんな2つ年上のカルマンの恨み節に、リョウは肩に手を乗せて呟く。

「……地獄だぞ」

「は? ……お、おう」

 リョウの言葉にカルマンは固まり、傭兵たちは笑い転げた。

「なら決まりだな。パーティーが終わったら団に戻れや。あたいの隊でいいかい団長」

「いえ、アレクシア殿、グレン団長。お願いがあります。このまま、ローゼたちとの旅の同行をお許し頂けないでしょうか?」

 頭を下げるリョウの姿に、グレンは意外に思った。
 なぜなら、他人にあまり興味を持たなかったリョウが人名を出したのだ。

 フッと、笑みが溢れそうになるのを堪える。

「はは~ん、リョウはマゾだったかい? あたいの隊でも地獄を見せてあげられるぜ?」

 そんなアレクシアの軽口に、リョウは頭を上げず言葉を返す。

「俺は今まで復讐のために戦ってきました。憎悪のみで剣技を磨いてきた。アラン傭兵団に拾われ、命を永らえたことも罪だとすら考えていた。俺が存在する理由は、デリムの仲間たちの仇であるノイズをこの手で屠るため。そこに他に理由はないと」

 一息に語るリョウの眼は、憎悪に燃えていた過去を振り払う様に鋭い。

「だがローゼたちと出会い、旅をしました。俺の事情に巻き込んだり、あいつらの事情に巻き込まれたりしているうちに、あいつらの手助けをしたいと、あいつらの笑顔を護りたいと、そう考えるようになった。……だから俺はローゼたちと一緒に旅がしたい。俺の我儘を、お許しください」

 リョウの言葉にグレンはニヤリと笑う。
 変わったな。良い方向に。
 そう感じながら口を開く。

「あらかたの事情は聞いている。だがリョウよ。お前はダーランドでも、ベルガーでも、ファインダでも目立ちすぎた。もう世間はお前を無視できない。俺は運命ってのは嫌いでな。英雄の運命なんざどうでもいい。お前が昔のお前のままだったら、世間がどう言おうが連れ帰るつもりだった。旅を続ける覚悟、世間の期待に応える覚悟ができたんだな?」

 グレンの言葉にリョウは力強く頷いた。

「そうさ、お前はそうでなきゃな! 俺たち全員を振り回した我儘野郎だ! 勝手にどこへでも行って、好きなことをやりやがれってんだ‼」

 そんなカルマンの言葉を皮切りに、グレンも団員たちもリョウの我儘を認めていった。

 ……ただアレクシアだけは、剣を床に突き立て柄に両手を乗せた。
 それだけで、室内はしんと静まり返った。

「そこまで言うんだ。傭兵団の証たる認識証と鎧を置いていきな」

「お、おいアレクシア」

「団長は黙ってな。団ってのはなあ、家族なんだ。団に尽くし団を家族と思えってのがアラン傭兵団の教えさ。リョウはこれから好き勝手やるって言いやがる。それって、家族を捨てると言っているのと同じだよなあ。なら、もう家族じゃねえよなあ?」

 そんなアレクシアの言葉に、団員たちはやれやれと頭を振った。

「おい、どうしたリョウよ? あたいの気が変わらねえうちに、さっさと鎧と認識証を渡しな。……気が変わったら、この剣でプスリさ」

 他人から見れば、今のリョウの感情を知ることは難しいだろう。
 口下手なリョウだ。言葉を紡ぐ才能はない。
 それでも、思っていることをありのままにリョウは口にしていくのであった。

「我儘なのは重々承知しています。ならばもう一つ我儘を言います。アラン傭兵団の所属のままでいさせてください。団長やみんなへの恩義は忘れるつもりもありません。だからお願いします」

 アレクシアは剣を抜き、切っ先をリョウに向けた。

「傭兵の仕事はしねえけど、傭兵でいさせてくれってのか。随分と虫がいい話だなあ」

「旅路では、アランの傭兵は、身分を証明するのにこれ以上ない立場という考えはあります。ですがそれは、救いを求めている者が信じるに足る、頼りにしてくれる存在でもある証なのです。俺はそれに応え続けたい。そして高らかに誇らしく言いたい。『アラン傭兵団のリョウ・アルバース。アランの傭兵の誇りにかけて戦い抜く』と」

「……バカだバカだと思っていたが、ここまでバカだったとはねえ」

 嘆息するアレクシアに、テレサが役目である弁護を再開した。

「グレン団長、アレクシア副団長。他の幹部の方々もそうですが、アラン傭兵団はリョウに貸しがあります。オルガ・フーガの暴走をリョウが止めた件です」

 テレサの言葉に、グレンは合点がいったと頷きアレクシアは頭を掻きむしる。

 邪教の魔女に利用され、復讐に走った仲間の名に全員が複雑な胸中を覗かせた。

「それを言うなよテレサ。あんなのわかるかよ」

「……ええ。ただ結果的には、リョウに私怨で暴走し、復讐に走ったオルガと対峙させてしまいました。この事態を招いたのは、同じ団員である我ら目上の者の責任。ですので、この程度の我儘ぐらいは聞いてあげてもよろしいのでは?」

 テレサの訴えにアレクシアは、クソッと毒づいてリョウを見つめる。

「オーケーわーったよ。ただアラン傭兵団を名乗る以上、負けたら殺す。以上だ」

 そう言うや、不貞腐れたようにアレクシアは机に座った。

「俺からは国家間、民族間の戦争にどっぷり巻き込まれんようにしろ。弱者を護り、理不尽な暴力を跳ね除けろ。……それだけだ」

 グレンの言葉にリョウは大きく頷くのだった。

「パーティー前にこんな話をして悪かったな。だが、このタイミングでしかリョウの本心は聞けんと考えてな。さあて、俺たちも主賓だが、主役はリョウだ。とっとと戻って正装してこい」

 リョウは一礼し、部屋を出る前に振り向く。

 グレンの慈愛に満ちた眼差しに背中を押されつつ、団員たち1人1人を見つめ、礼をして部屋から去った。

 その姿を見送りながら、アレクシアがボソリと呟く。

「楽な選択肢を選ばねえってのも、難儀なもんだ」

「クスッ、副団長。まるで、子を見守る親のような、慈愛に満ちた顔をしていますよ」

「はあ? おいテレサ。あたいはまだ32だぞ! あんなでけえガキがいてたまるかよ!」

 慌てるアレクシアに、団員たちが笑いの渦を巻き起こす。

 グレンはやれやれと肩を竦めながら、俺たちも楽な選択肢を選ばないようにしないとな、と決意を新たにしたのであった。
 
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