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第5章 籠の中の鳥
第7話 マーガレット妃からの依頼
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テレサさんの案内で、王宮の中でも特に優美な一室に入ると、甘い匂いに芳醇な香りが漂ってくるのを感じる。
部屋には豪華な絨毯が敷かれ、壁には歴代王家の肖像画が飾られていた。
窓からは手入れの行き届いた庭園が見え、鳥のさえずりが聞こえてくる。
私たちを呼んだファインダ王妃マーガレット叔母様は優雅な佇まいで椅子に座っていた。
彼女の穏やかな表情の奥に、王妃としての威厳と決断力が感じられる。
侍女の人が椅子を後ろへ引いて、私とヴィレッタに座るように促してきた。
そこまでしなくてもいいのにと思いつつも、お言葉に甘えて着席する。
テレサさんも着席し、テーブルには4人が揃った。
「呼び立ててごめんなさいね。さあ、遠慮なく召し上がって」
「ありがとうございます。頂きます」
甘い匂いの正体は、バターが入ったクッキーだった。
さくっと口当たりよく、舌の上で蕩ける甘さがたまらない。
紅茶の香りも心を落ち着かせ、舌に含めば脳も身体も幸せを噛み締める一品だ。
ベレニスが羨ましがるだろうから、みんなの分もお土産でもらわなくっちゃね。
クッキーと紅茶を満喫していると、テレサさんがゆっくりと口を開いた。
「王立学校の女子寮にいる、レオノール姫から手紙が届き、ローゼさんとヴィレッタさんの意見を窺いたくお呼びいたしました」
一通の手紙が渡され、ヴィレッタと読んでいくのだが……
『母上! なんと女子寮では、このひと月の間で怪奇現象が連発しているそうなのです。私が体験したのは、ネズミの大群に驚いたルリアが躓いて転んだり、おっと、ルリアというのは仲良くなった女の子です。それから夜中に、天井が蠢いて何かが飛び出して窓を開けて去った、という現象を体験した女の子もいました。以前にも、夜中にドアを激しくノックする音や、奇妙な声を聞いたという人たちや、寝ていたベッドが勝手に動くなんて話を耳にしたのです。女子寮のみんなが信じているわけじゃないのですが、不安に思っている子が多くいます。このレオノール、見事この怪奇現象を調査し解決しますので、吉報をお待ちくだされ!』
レオノールらしい、暑苦しくて元気で、パワフルな手紙の内容だ。
怪奇現象に、彼女の探究心が掻き立てられた感じかな?
ただ、書かれている内容はレオノールのテンションより、遥かに異質で危険だと感じた。
「今まで、外部に漏れていなかった案件なのでしょうか?」
ヴィレッタの疑問に、マーガレット叔母様は頷いた。
「王立学校の女子寮に関しては、寮長のモリーナに一任しております。ですが、このような報告は一切ありません」
大勢の人間が関わる、学校での授業では異変はないようだ。
女子寮のみで起こる事象であるため、今まで外部に漏れなかったってことか。
「貴族令嬢しかいない女子寮です。公に騒ぐには実害がなく、プライドもあり、他の者に相談するのを憚られたかもしれません」
テレサさんの想像は当たっているだろう。
親の、あるいは未来の政敵と一つ屋根の下で暮らしているのだ。
弱みを見せたら、将来にどう響くかわかったものではない。
だから貴族令嬢たちは、この怪奇現象は何かの見間違いや気のせいだと、思い込んで生活しているのだ。
そこへ単細胞の脳筋姫レオノールが、怪奇現象と決めつけて事件解決にノリノリになっている。
今頃、女子寮ではこんなことが起きているんですよと、学校でも言い触らしている姿が容易に想像できる。
「魔女の仕業の可能性が高いと思います」
私は確信を持って告げた。
「マーガレット姉様、私もそう思います。魔女の魔力暴走が一番可能性が高いですが、意図的に、実験として行われていたら危険極まりない状況です」
テレサさんが言った魔女の魔力暴走というのは、魔女としての資質がありながら、自分が魔女だと知りもしないで生活していた少女が起こす事例である。
魔女の力は未知の領域が多く、その暴走は予測不可能だ。
過去には、魔女の一念で街全体が消滅したという伝説すらある。
他にも、異性に振られた瞬間に建物を倒壊させたり、嫉妬の炎が具現化して大火を起こした、なんて逸話すらあるのだ。
そんな少女が女子寮にいたら大変だ。
もし暴走の力が強まれば、女子寮にいる全員の命が危ない。
「意図的に実験ですか……怪奇現象のようにする意味はあるのでしょうか?」
もう1つの予測に、ヴィレッタが小首を傾げた。
「大きな実験前の魔力の渦が、振動となって女子寮全体に影響を及ぼしているって感じかな? 大昔、ただ若返りたいってだけで、村を丸ごと犠牲にした魔女の伝説に酷似している部分が多いかも」
ちなみに若返りの実験は失敗し、その魔女は殺されたという誰も救われなかった話だ。
私の説明に、ヴィレッタも危険な状況を理解したのだろう。
ゴクリとツバを飲んだ。
「レオノールにも魔女の資質はあるはずですが、あの子は魔力の感覚なんて想像もしていないでしょう。私もローラ姉様も、ローゼマリーも魔女だというのに」
嘆息するマーガレット叔母様に、テレサさんが「ちなみに私も少し使えます」と付け加えた。
ただテレサさんの場合、女神フェロニアの洗礼を受けているので神聖魔法のほうがメインになっている。
「わかりました。私たちで調べてみます。女子寮への出入りの許可を頂けますか?」
レオノールが女子寮にいるのだ。
私の従姉妹で懐かれているというのもあるが、ファインダ王国王位継承権第一位の王女なのだ。
何かあっては大変である。
「話が早くて助かりますローゼ。当然報酬も出しますし、お仲間たちにはこちらから伝えておきましょう」
「いえいえそんな、私からみんなに言いますので大丈夫ですよ」
「そんな暇はありませんよ」
パチンと指を鳴らす王妃に、侍女たちが王立学校の制服を持って現れる。
紺のブレザーとチェック柄のスカートだ。
どちらも上質な生地で作られており、袖口には王国の紋章が刺繍されていた。
「まさか……今から行けと?」
「失礼ですがマーガレット王妃様、ローゼはともかく、わたくしは公的にベルガー王国の人間です。ファインダの王立学校に通うのは問題かと……」
ヴィレッタが苦言を呈するが、マーガレット叔母様はどこ吹く風だ。
「留学扱いとしておけば問題ないでしょう。では、よろしく頼みましたよ。ああ、手続きはもう済ませてあります」
テレサさん、助けて! と目で訴えるがニッコリ笑顔で送り出されてしまう。
「寮長のモリーナさんは、私の学生時代の先輩です。何かあれば、私の名前を告げてください」
へえ? テレサさんがそこまで言うって頼りになりそう。
私は少し安心したのと同時に、この任務の重要性を改めて実感して、ヴィレッタと共に王立学校へ通う準備をするのだった。
部屋には豪華な絨毯が敷かれ、壁には歴代王家の肖像画が飾られていた。
窓からは手入れの行き届いた庭園が見え、鳥のさえずりが聞こえてくる。
私たちを呼んだファインダ王妃マーガレット叔母様は優雅な佇まいで椅子に座っていた。
彼女の穏やかな表情の奥に、王妃としての威厳と決断力が感じられる。
侍女の人が椅子を後ろへ引いて、私とヴィレッタに座るように促してきた。
そこまでしなくてもいいのにと思いつつも、お言葉に甘えて着席する。
テレサさんも着席し、テーブルには4人が揃った。
「呼び立ててごめんなさいね。さあ、遠慮なく召し上がって」
「ありがとうございます。頂きます」
甘い匂いの正体は、バターが入ったクッキーだった。
さくっと口当たりよく、舌の上で蕩ける甘さがたまらない。
紅茶の香りも心を落ち着かせ、舌に含めば脳も身体も幸せを噛み締める一品だ。
ベレニスが羨ましがるだろうから、みんなの分もお土産でもらわなくっちゃね。
クッキーと紅茶を満喫していると、テレサさんがゆっくりと口を開いた。
「王立学校の女子寮にいる、レオノール姫から手紙が届き、ローゼさんとヴィレッタさんの意見を窺いたくお呼びいたしました」
一通の手紙が渡され、ヴィレッタと読んでいくのだが……
『母上! なんと女子寮では、このひと月の間で怪奇現象が連発しているそうなのです。私が体験したのは、ネズミの大群に驚いたルリアが躓いて転んだり、おっと、ルリアというのは仲良くなった女の子です。それから夜中に、天井が蠢いて何かが飛び出して窓を開けて去った、という現象を体験した女の子もいました。以前にも、夜中にドアを激しくノックする音や、奇妙な声を聞いたという人たちや、寝ていたベッドが勝手に動くなんて話を耳にしたのです。女子寮のみんなが信じているわけじゃないのですが、不安に思っている子が多くいます。このレオノール、見事この怪奇現象を調査し解決しますので、吉報をお待ちくだされ!』
レオノールらしい、暑苦しくて元気で、パワフルな手紙の内容だ。
怪奇現象に、彼女の探究心が掻き立てられた感じかな?
ただ、書かれている内容はレオノールのテンションより、遥かに異質で危険だと感じた。
「今まで、外部に漏れていなかった案件なのでしょうか?」
ヴィレッタの疑問に、マーガレット叔母様は頷いた。
「王立学校の女子寮に関しては、寮長のモリーナに一任しております。ですが、このような報告は一切ありません」
大勢の人間が関わる、学校での授業では異変はないようだ。
女子寮のみで起こる事象であるため、今まで外部に漏れなかったってことか。
「貴族令嬢しかいない女子寮です。公に騒ぐには実害がなく、プライドもあり、他の者に相談するのを憚られたかもしれません」
テレサさんの想像は当たっているだろう。
親の、あるいは未来の政敵と一つ屋根の下で暮らしているのだ。
弱みを見せたら、将来にどう響くかわかったものではない。
だから貴族令嬢たちは、この怪奇現象は何かの見間違いや気のせいだと、思い込んで生活しているのだ。
そこへ単細胞の脳筋姫レオノールが、怪奇現象と決めつけて事件解決にノリノリになっている。
今頃、女子寮ではこんなことが起きているんですよと、学校でも言い触らしている姿が容易に想像できる。
「魔女の仕業の可能性が高いと思います」
私は確信を持って告げた。
「マーガレット姉様、私もそう思います。魔女の魔力暴走が一番可能性が高いですが、意図的に、実験として行われていたら危険極まりない状況です」
テレサさんが言った魔女の魔力暴走というのは、魔女としての資質がありながら、自分が魔女だと知りもしないで生活していた少女が起こす事例である。
魔女の力は未知の領域が多く、その暴走は予測不可能だ。
過去には、魔女の一念で街全体が消滅したという伝説すらある。
他にも、異性に振られた瞬間に建物を倒壊させたり、嫉妬の炎が具現化して大火を起こした、なんて逸話すらあるのだ。
そんな少女が女子寮にいたら大変だ。
もし暴走の力が強まれば、女子寮にいる全員の命が危ない。
「意図的に実験ですか……怪奇現象のようにする意味はあるのでしょうか?」
もう1つの予測に、ヴィレッタが小首を傾げた。
「大きな実験前の魔力の渦が、振動となって女子寮全体に影響を及ぼしているって感じかな? 大昔、ただ若返りたいってだけで、村を丸ごと犠牲にした魔女の伝説に酷似している部分が多いかも」
ちなみに若返りの実験は失敗し、その魔女は殺されたという誰も救われなかった話だ。
私の説明に、ヴィレッタも危険な状況を理解したのだろう。
ゴクリとツバを飲んだ。
「レオノールにも魔女の資質はあるはずですが、あの子は魔力の感覚なんて想像もしていないでしょう。私もローラ姉様も、ローゼマリーも魔女だというのに」
嘆息するマーガレット叔母様に、テレサさんが「ちなみに私も少し使えます」と付け加えた。
ただテレサさんの場合、女神フェロニアの洗礼を受けているので神聖魔法のほうがメインになっている。
「わかりました。私たちで調べてみます。女子寮への出入りの許可を頂けますか?」
レオノールが女子寮にいるのだ。
私の従姉妹で懐かれているというのもあるが、ファインダ王国王位継承権第一位の王女なのだ。
何かあっては大変である。
「話が早くて助かりますローゼ。当然報酬も出しますし、お仲間たちにはこちらから伝えておきましょう」
「いえいえそんな、私からみんなに言いますので大丈夫ですよ」
「そんな暇はありませんよ」
パチンと指を鳴らす王妃に、侍女たちが王立学校の制服を持って現れる。
紺のブレザーとチェック柄のスカートだ。
どちらも上質な生地で作られており、袖口には王国の紋章が刺繍されていた。
「まさか……今から行けと?」
「失礼ですがマーガレット王妃様、ローゼはともかく、わたくしは公的にベルガー王国の人間です。ファインダの王立学校に通うのは問題かと……」
ヴィレッタが苦言を呈するが、マーガレット叔母様はどこ吹く風だ。
「留学扱いとしておけば問題ないでしょう。では、よろしく頼みましたよ。ああ、手続きはもう済ませてあります」
テレサさん、助けて! と目で訴えるがニッコリ笑顔で送り出されてしまう。
「寮長のモリーナさんは、私の学生時代の先輩です。何かあれば、私の名前を告げてください」
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