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第5章 籠の中の鳥
第19話 疑惑
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「……一つだけ、どうしても腑に落ちない点がございます。ローゼ姫様、そしてわたくしの姿を模したぬいぐるみがあるのならば、シャルロッテのものもあるべきはずです。わたくしもシャルロッテも、ローゼ姫様が物心ついた頃よりお側にお仕えしてきた側近。どのような状況にあっても、シャルロッテが姫様のお側を離れるなど考えられません」
ヴィレッタが鋭い指摘と共に、並べられたぬいぐるみたちを注意深く見つめる。
その通りだった。
この7つのぬいぐるみの中に、快活な赤髪のツインテールが特徴の、私たちのもう1人の親友、シャルロッテ・ルインズベリーの姿はなかった。
その事実に、私の胸にも冷たいものが走る。
ヴィレッタの言う通りだ。
シャルロッテがいないなんてありえない。
このぬいぐるみが示す世界が『真実』で、今いるこの世界が『偽り』なのだとしたら……シャルロッテの存在が説明できない。
シャルロッテのいない『真実』など、私には到底信じられない。
「でも……ヴィレッタもそうだけど、私にも、この10年間のベルガーで王女として過ごした記憶がほとんどない。代わりに……そう、なんだか意地の悪い、あのクソババアと一緒にいたような気がするんだ……」
思わず口をついて出た悪態に、私は自分で驚いた。
けれど、その呼称が妙にしっくりくる感覚もある。
金髪で、背が低くて、いつも黒いローブにとんがり帽子を被っていた、いかにも『魔女』って感じの老婆。
「ローゼ姫様、お言葉が過ぎます。それに、王太后陛下はローゼ姫様がお生まれになる前にお亡くなりになっております。わたくしもシャルロッテも、幼少の頃にローゼ姫様と共に、王宮に飾られた王太后陛下の肖像画を拝見した記憶がございます」
ヴィレッタがやんわりと明確に訂正する。
その記憶は私にもある。
肖像画の中の祖母は、穏やかで優しい笑みを浮かべていた。
私が『クソババア』と呼んだ、あの意地悪そうな老婆とは似ても似つかない。
「うん、そのお祖母様じゃなくて、なんていうか、もっとこう、いかにも『我は魔女なり』って感じの、とんがり帽子に黒いローブの、本当に性悪そうなババア……」
思い出そうとすればするほど、その老婆の顔は靄がかかったようにぼやけるのに、彼女に対する強烈な感情だけは、やけにはっきりと胸に残っている。
そこで私は何をしていたんだろう?
魔女の修行……? そして、復讐の旅……?
復讐? いったい、誰に……? 何のために……?
「……一度、シャルロッテにも確認してみるべきかもしれません。シャルロッテは、冷静で物事を合理的に判断できる才に秀でております」
ヴィレッタが提案するが、私は咄嗟に首を横に振っていた。
「ううん、シャルロッテには、しばらく黙っていて。このぬいぐるみに自分の姿がないと知ったら、きっと気分を害すると思うから。それに……」
それに、もしシャルロッテが、私たちと同じように記憶の齟齬を感じていなかったとしたら?
もし彼女が、この『偽りの世界』に完全に順応しているのだとしたら……?
考えたくない可能性が頭をよぎる。
シャルロッテは私の親友だ。絶対に信じている。
「わかりました。ローゼ姫様がそう仰るならその通りにいたします。……ですが、もしシャルロッテをお疑いなのでしたら、それは筋違いだと、わたくしは思います。シャルロッテがローゼ姫様を裏切るようなことは、決してございません」
ヴィレッタは、私の心の揺らぎを見透かしたように、きっぱりと言った。
その真っ直ぐな瞳に、私は少しだけ救われた気持ちになる。
「わかっている。シャルロッテを疑っているわけじゃない。ただ……何か、私たちが見落としている、もっと別の要因があるような気がしてならない。ねえ、ヴィレッタ。この学校か女子寮で、何か不自然な点とか、気になることって他になかった?」
「不自然な点、ですか……ベルガーの王立学校とは勝手が違いますので、判断は難しいです。……ああ、そういえば、以前ルリアさんが、ご自身のルームメイトがいたと仰っていましたが、今はレオノール様と同室になっておいでです。王女であるレオノール様を、他の寮生と同じ2人部屋にするというのは、警護の面や立場を考えると、少し不自然な采配かもしれません」
レオノールとルリアさんが同室。
……たしかに、言われてみれば不自然だ。レオノールは王女なのだから、普通なら1人部屋か、あるいは頼りになる側近が同室になるはず。
ルリアさんは……薄桃色の髪の、穏やかで少し気弱そうな、優しい子。
いつもレオノールに振り回されて、あたふたしているイメージで頼りになるかと言われると違う気がする。
ちょうどその時、小休止の終わりを告げる鐘の音が鳴り響いた。
「ローゼ姫様、もう時間です」
「うん、わかっている。たとえここが偽物の世界かもしれないとしても、今は学生なんだから、ちゃんと勉学に励まなくっちゃね」
「……少し言い方が軽い気もいたしますが、ローゼ姫様の仰る通りですわね」
ヴィレッタと苦笑いを交わし、私たちは教室へと戻った。
自分の席に座ると、隣のシャルロッテが「大丈夫でしたか?」と心配そうに声をかけてきた。
私は「うん、なんでもないよ」と、できるだけ自然な笑顔を返す。
大丈夫じゃないことばかりだが、今はまだ、シャルロッテには何も言えない。
まずは、レオノールともう一度、2人きりで話す機会を作らなければ。そのためにはどうすればいいか。
……私はテスト用紙にペンを走らせながら、頭の中では別の作戦を必死に組み立てていた。
***
「ガードン子爵、大変申し訳ありませんが、王立学校の女子寮は、たとえどのような理由があろうとも男子禁制となっております。陛下にご相談なさっても、許可が下りることはまずないかと。……もし、他に何かご要望があれば、可能な範囲で私から陛下へ取り計らいましょう」
アレックスが、表情こそ冷静さを保っているものの、内心の困惑を隠しきれない様子で丁寧に断りを入れる。
ガードン子爵は、ふむ、と長い白髭を撫で、残念そうにため息をついた。
「ローゼに頼んでみればいいんじゃない~?」
「いや、ローゼなら『エロジジイ!』って一喝して、火の玉の一つでもお見舞いするだけだと思うわよ」
クリスが暢気に提案し、ベレニスが呆れたように即座に否定する。
「失礼ながら、子爵。その要求には、何か特別な理由がおありっすか?」
フィーリアが探るように尋ねるが、ガードン子爵は窓の外を見つめたまま、曖昧に首を振るだけだった。
「それは、まだ言えぬ相談じゃて」
その煮え切らない態度に、フィーリアの目がすっと細められる。
「ガードン子爵、ならば理由は問いません。ただ、一つだけ確認させてください。子爵が女子寮に入ることができれば、今回の怪奇現象について何らかの真相が掴める、あるいは解決の糸口が見つかる、と、そうお考えなのですか?」
リョウが静かに強い意志を込めて問いかけると、ガードン子爵は背を向けたまま、こくりと一度だけ頷いた。
その僅かな動きを見て、フィーリアの頭の中に、一つの仮説が閃いた。
「……ははあ、なるほど。どうやら、かなり高い身分の貴族……あるいは、それ以上の存在が、この件に関わっている可能性がある、ということっすかね? でなければ歴史編纂官である子爵が、ご自身の身を危険に晒してまで潜入しようなどとは考えないっすから。……よろしいっす。策は、こちらで練るっす」
フィーリアが自信ありげに言うと、ガードン子爵はわずかに肩を揺らしたように見えた。
「えー? ちょん切っちゃうの~?」
クリスがあっさりと言うと、アレックスとリョウは思わず身を固くした。
「傭兵が女の子の格好をして潜入するなら、ローゼがどんな反応するか見ものよね~。ていうか、案外似合ったりして? そうなったら、さっきみたいな可愛いゴスロリ服の女の子たちが、また寄ってくるんじゃない?」
「あの子たち、ホントに可愛かったよね~。眼帯してたけど。お人形さんみたいだった」
「まあ、世の中には色々な人がいるっすからね。でも、あの金髪と銀髪のツインテールの姉妹、やけに目立つ容姿なのに、ずっと無表情だったのが少し気になったっすけど」
女子たちの軽口(?)を、リョウは苦虫を噛み潰したような顔で聞いている。
アレックスは再びリョウに同情の視線を送っていたが、双子の容姿を聞いて、次第にその表情が険しくなった。
「待て……その双子の容姿、もしかして……リリ・クラークとロロ・クラークではないか⁉」
「いえ、名前までは名乗りませんでしたので……アレックス殿、その2人をご存知なのですか?」
アレックスのただならぬ様子に、リョウも驚いて尋ね返す。
同時に先ほどの遭遇がやはり人違い、あるいは何かの間違いであったのかもしれないと、僅かな安堵を覚えていた。
「クラーク家……たしか、ファインダ建国の功臣と記録にある侯爵家っすね。そのリリさんとロロさんも、王立学校の生徒っすか?」
アレックスとガードン子爵の尋常でない雰囲気を敏感に察知しながら、フィーリアが核心を突く質問を投げかける。
その問いに、2人は重々しく頷いた。
「……これは、他言無用にしていただきたいのだが」
アレックスは声を潜め、厳しい表情で続けた。
「約ひと月前、クラーク家の領地にある本邸が謎の火災で焼失し、侯爵夫妻をはじめ、一族郎党が全員死亡した。……ただ2人、当時王立学校の女子寮に入っていた双子の令嬢、リリとロロだけが難を逃れた。しかし事件後、2人は学校を自主退学し、領地に戻ったはずなのだが……」
「ホッホッホ……そうじゃな。そして、それ以降、2人の消息はぱったりと途絶え、行方不明となっておるのじゃよ」
ガードン子爵が、アレックスの言葉を引き継ぐように瞳の奥に鋭い光を宿して付け加えた。
「実は儂も、宰相閣下からクラーク家の歴史と、今回の事件の背景について内々に調べるよう命じられておったのじゃ。まさか、その行方不明の双子が、未だにこの王都に潜んでおったとはのう。これは、思った以上に根が深いかもしれんわい」
アレックスとガードン子爵から明かされた衝撃の事実に、場の空気は一変した。
ベレニスもクリスも、さすがにいつもの軽口を忘れ、事の重大さを認識したようだ。
リョウに接触してきたあの無表情な双子が、ただの変わった少女たちではないことを。
このファインダ王国で起きている不可解な出来事の裏に、彼女たちが深く関わっている可能性が高いことを、その場にいた全員が確信した。
リョウは、先ほどの安堵が急速に冷たい不安へと変わっていくのを感じていた。
ヴィレッタが鋭い指摘と共に、並べられたぬいぐるみたちを注意深く見つめる。
その通りだった。
この7つのぬいぐるみの中に、快活な赤髪のツインテールが特徴の、私たちのもう1人の親友、シャルロッテ・ルインズベリーの姿はなかった。
その事実に、私の胸にも冷たいものが走る。
ヴィレッタの言う通りだ。
シャルロッテがいないなんてありえない。
このぬいぐるみが示す世界が『真実』で、今いるこの世界が『偽り』なのだとしたら……シャルロッテの存在が説明できない。
シャルロッテのいない『真実』など、私には到底信じられない。
「でも……ヴィレッタもそうだけど、私にも、この10年間のベルガーで王女として過ごした記憶がほとんどない。代わりに……そう、なんだか意地の悪い、あのクソババアと一緒にいたような気がするんだ……」
思わず口をついて出た悪態に、私は自分で驚いた。
けれど、その呼称が妙にしっくりくる感覚もある。
金髪で、背が低くて、いつも黒いローブにとんがり帽子を被っていた、いかにも『魔女』って感じの老婆。
「ローゼ姫様、お言葉が過ぎます。それに、王太后陛下はローゼ姫様がお生まれになる前にお亡くなりになっております。わたくしもシャルロッテも、幼少の頃にローゼ姫様と共に、王宮に飾られた王太后陛下の肖像画を拝見した記憶がございます」
ヴィレッタがやんわりと明確に訂正する。
その記憶は私にもある。
肖像画の中の祖母は、穏やかで優しい笑みを浮かべていた。
私が『クソババア』と呼んだ、あの意地悪そうな老婆とは似ても似つかない。
「うん、そのお祖母様じゃなくて、なんていうか、もっとこう、いかにも『我は魔女なり』って感じの、とんがり帽子に黒いローブの、本当に性悪そうなババア……」
思い出そうとすればするほど、その老婆の顔は靄がかかったようにぼやけるのに、彼女に対する強烈な感情だけは、やけにはっきりと胸に残っている。
そこで私は何をしていたんだろう?
魔女の修行……? そして、復讐の旅……?
復讐? いったい、誰に……? 何のために……?
「……一度、シャルロッテにも確認してみるべきかもしれません。シャルロッテは、冷静で物事を合理的に判断できる才に秀でております」
ヴィレッタが提案するが、私は咄嗟に首を横に振っていた。
「ううん、シャルロッテには、しばらく黙っていて。このぬいぐるみに自分の姿がないと知ったら、きっと気分を害すると思うから。それに……」
それに、もしシャルロッテが、私たちと同じように記憶の齟齬を感じていなかったとしたら?
もし彼女が、この『偽りの世界』に完全に順応しているのだとしたら……?
考えたくない可能性が頭をよぎる。
シャルロッテは私の親友だ。絶対に信じている。
「わかりました。ローゼ姫様がそう仰るならその通りにいたします。……ですが、もしシャルロッテをお疑いなのでしたら、それは筋違いだと、わたくしは思います。シャルロッテがローゼ姫様を裏切るようなことは、決してございません」
ヴィレッタは、私の心の揺らぎを見透かしたように、きっぱりと言った。
その真っ直ぐな瞳に、私は少しだけ救われた気持ちになる。
「わかっている。シャルロッテを疑っているわけじゃない。ただ……何か、私たちが見落としている、もっと別の要因があるような気がしてならない。ねえ、ヴィレッタ。この学校か女子寮で、何か不自然な点とか、気になることって他になかった?」
「不自然な点、ですか……ベルガーの王立学校とは勝手が違いますので、判断は難しいです。……ああ、そういえば、以前ルリアさんが、ご自身のルームメイトがいたと仰っていましたが、今はレオノール様と同室になっておいでです。王女であるレオノール様を、他の寮生と同じ2人部屋にするというのは、警護の面や立場を考えると、少し不自然な采配かもしれません」
レオノールとルリアさんが同室。
……たしかに、言われてみれば不自然だ。レオノールは王女なのだから、普通なら1人部屋か、あるいは頼りになる側近が同室になるはず。
ルリアさんは……薄桃色の髪の、穏やかで少し気弱そうな、優しい子。
いつもレオノールに振り回されて、あたふたしているイメージで頼りになるかと言われると違う気がする。
ちょうどその時、小休止の終わりを告げる鐘の音が鳴り響いた。
「ローゼ姫様、もう時間です」
「うん、わかっている。たとえここが偽物の世界かもしれないとしても、今は学生なんだから、ちゃんと勉学に励まなくっちゃね」
「……少し言い方が軽い気もいたしますが、ローゼ姫様の仰る通りですわね」
ヴィレッタと苦笑いを交わし、私たちは教室へと戻った。
自分の席に座ると、隣のシャルロッテが「大丈夫でしたか?」と心配そうに声をかけてきた。
私は「うん、なんでもないよ」と、できるだけ自然な笑顔を返す。
大丈夫じゃないことばかりだが、今はまだ、シャルロッテには何も言えない。
まずは、レオノールともう一度、2人きりで話す機会を作らなければ。そのためにはどうすればいいか。
……私はテスト用紙にペンを走らせながら、頭の中では別の作戦を必死に組み立てていた。
***
「ガードン子爵、大変申し訳ありませんが、王立学校の女子寮は、たとえどのような理由があろうとも男子禁制となっております。陛下にご相談なさっても、許可が下りることはまずないかと。……もし、他に何かご要望があれば、可能な範囲で私から陛下へ取り計らいましょう」
アレックスが、表情こそ冷静さを保っているものの、内心の困惑を隠しきれない様子で丁寧に断りを入れる。
ガードン子爵は、ふむ、と長い白髭を撫で、残念そうにため息をついた。
「ローゼに頼んでみればいいんじゃない~?」
「いや、ローゼなら『エロジジイ!』って一喝して、火の玉の一つでもお見舞いするだけだと思うわよ」
クリスが暢気に提案し、ベレニスが呆れたように即座に否定する。
「失礼ながら、子爵。その要求には、何か特別な理由がおありっすか?」
フィーリアが探るように尋ねるが、ガードン子爵は窓の外を見つめたまま、曖昧に首を振るだけだった。
「それは、まだ言えぬ相談じゃて」
その煮え切らない態度に、フィーリアの目がすっと細められる。
「ガードン子爵、ならば理由は問いません。ただ、一つだけ確認させてください。子爵が女子寮に入ることができれば、今回の怪奇現象について何らかの真相が掴める、あるいは解決の糸口が見つかる、と、そうお考えなのですか?」
リョウが静かに強い意志を込めて問いかけると、ガードン子爵は背を向けたまま、こくりと一度だけ頷いた。
その僅かな動きを見て、フィーリアの頭の中に、一つの仮説が閃いた。
「……ははあ、なるほど。どうやら、かなり高い身分の貴族……あるいは、それ以上の存在が、この件に関わっている可能性がある、ということっすかね? でなければ歴史編纂官である子爵が、ご自身の身を危険に晒してまで潜入しようなどとは考えないっすから。……よろしいっす。策は、こちらで練るっす」
フィーリアが自信ありげに言うと、ガードン子爵はわずかに肩を揺らしたように見えた。
「えー? ちょん切っちゃうの~?」
クリスがあっさりと言うと、アレックスとリョウは思わず身を固くした。
「傭兵が女の子の格好をして潜入するなら、ローゼがどんな反応するか見ものよね~。ていうか、案外似合ったりして? そうなったら、さっきみたいな可愛いゴスロリ服の女の子たちが、また寄ってくるんじゃない?」
「あの子たち、ホントに可愛かったよね~。眼帯してたけど。お人形さんみたいだった」
「まあ、世の中には色々な人がいるっすからね。でも、あの金髪と銀髪のツインテールの姉妹、やけに目立つ容姿なのに、ずっと無表情だったのが少し気になったっすけど」
女子たちの軽口(?)を、リョウは苦虫を噛み潰したような顔で聞いている。
アレックスは再びリョウに同情の視線を送っていたが、双子の容姿を聞いて、次第にその表情が険しくなった。
「待て……その双子の容姿、もしかして……リリ・クラークとロロ・クラークではないか⁉」
「いえ、名前までは名乗りませんでしたので……アレックス殿、その2人をご存知なのですか?」
アレックスのただならぬ様子に、リョウも驚いて尋ね返す。
同時に先ほどの遭遇がやはり人違い、あるいは何かの間違いであったのかもしれないと、僅かな安堵を覚えていた。
「クラーク家……たしか、ファインダ建国の功臣と記録にある侯爵家っすね。そのリリさんとロロさんも、王立学校の生徒っすか?」
アレックスとガードン子爵の尋常でない雰囲気を敏感に察知しながら、フィーリアが核心を突く質問を投げかける。
その問いに、2人は重々しく頷いた。
「……これは、他言無用にしていただきたいのだが」
アレックスは声を潜め、厳しい表情で続けた。
「約ひと月前、クラーク家の領地にある本邸が謎の火災で焼失し、侯爵夫妻をはじめ、一族郎党が全員死亡した。……ただ2人、当時王立学校の女子寮に入っていた双子の令嬢、リリとロロだけが難を逃れた。しかし事件後、2人は学校を自主退学し、領地に戻ったはずなのだが……」
「ホッホッホ……そうじゃな。そして、それ以降、2人の消息はぱったりと途絶え、行方不明となっておるのじゃよ」
ガードン子爵が、アレックスの言葉を引き継ぐように瞳の奥に鋭い光を宿して付け加えた。
「実は儂も、宰相閣下からクラーク家の歴史と、今回の事件の背景について内々に調べるよう命じられておったのじゃ。まさか、その行方不明の双子が、未だにこの王都に潜んでおったとはのう。これは、思った以上に根が深いかもしれんわい」
アレックスとガードン子爵から明かされた衝撃の事実に、場の空気は一変した。
ベレニスもクリスも、さすがにいつもの軽口を忘れ、事の重大さを認識したようだ。
リョウに接触してきたあの無表情な双子が、ただの変わった少女たちではないことを。
このファインダ王国で起きている不可解な出来事の裏に、彼女たちが深く関わっている可能性が高いことを、その場にいた全員が確信した。
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