【魔女ローゼマリー伝説】~5歳で存在を忘れられた元王女の私だけど、自称美少女天才魔女として世界を救うために冒険したいと思います!~

ハムえっぐ

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第5章 籠の中の鳥

第37話 新年の誓い

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「新年といえば、やっぱり美味しい物をたらふく食べて、飲んで、馬鹿騒ぎすることよねえ! うんうん、人間の街もなかなか分かっているじゃない!」

 ベレニスはテーブルに山と盛られたご馳走を前に、満面の笑みでそう宣った。

 きらびやかな王都リオーネの宴会場は、新年を祝う熱気に満ちている。
 夜空を彩る花火の光が窓から差し込み、会場内は無数のランプの柔らかな光で照らされ、華やかな装飾と人々の賑やかな笑い声で溢れていた。

 あちこちからグラスがぶつかり合う乾杯の音と、楽団が奏でる陽気な音楽が重なり合う、まさしく祝祭の空間だ。

 邪教『真実の眼』の影、双子の魔女、そして姿を消したルリア。
 ……解決すべき問題は山積みだが、今この瞬間だけは、少しだけ肩の力を抜いてもいいだろう。

 一つの朗報としては、モリーナさんが再び女子寮の寮長として復帰する方向で話が進んでいることだ。
 レオノールやマーガレット叔母様たちの尽力、そして『回想人形』に込められた元寮生たちの想いが、重臣たちの頑なな心を少しずつ溶かし始めているらしい。
 まだ正式決定ではないが、大きな前進だ。

 モリーナさん自身の記憶は完全には戻っていない。
 だが、テレサさんには断片的にこう語ったそうだ。

『女子寮で……何か恐ろしい本を読んだ気がするのです。……そうです、退寮したリリさんの部屋を整理していた時に、同室だったルリアさんから「これもリリさんの物かもしれません」と渡された本を預かりました。……それを手にした瞬間から、何かに魅入られたように……』

 禁書、あるいはそれに類する魔術的な品物だろう。
 それをルリアさんが意図的にモリーナさんに渡したとすれば……やはり彼女は……

『ローゼマリー様、貴重な実験結果、ありがとうございました』

 現実へ戻る寸前に耳にした、あの冷たい声が蘇る。
 実験……? モリーナ寮長を利用して、一体何を観測していたというの?

「そういえば、ベレニスさんとクリスさんは人間の街で新年を迎えるのは初めてだったっすか? この時期、人間たちは女神様に向かって、今年叶えたい願い事や達成したい目標なんかを祈る習慣があるらしいっすよ」

 フィーリアが山盛りの肉料理に目を輝かせているベレニスとクリスに、小さな声で説明する。
 その言葉に、ベレニスと、隣で同じく料理に夢中だったクリスが「へえ~」と感心したように声を漏らした。

 ふと見ると、ヴィレッタとレオノールはすでに、人混みから少し離れた場所で静かに目を閉じ、女神フェロニアに祈りを捧げていた。

 レオノールからは(姉様たちと、今度こそ広い世界へ冒険の旅に出たいです!)という、非常にわかりやすい念がひしひしと伝わってくるが……今は聞こえないふりをしておこう。
 マーガレット叔母様の視線が怖いからね。

「ねえ、リョウは何を願ったの?」

 近くで黙々と食事をしていたリョウに尋ねると、彼は迷いなくこう答えた。

「もっと強く。剣の腕を、さらに磨きたいと願った」

 はあ……知っていたけどさ。この男は新年だろうと何だろうと、本当にブレないんだから。

「うわっ! ホント、つまんないわね、傭兵! こういう時はね、もっとこう、でっかい野望を持つべきなのよ! 例えば私みたいに『この世の全ての美味しいものを食べ尽くしたい!』とかね!」

 ベレニスが得意げに胸を張って宣言したが、それ、ただの食い意地じゃない? 野望とは違う気がするぞ。

「う~ん……ちゃんと服を着ることに慣れる、かなあ?」

 次にクリスが、少し恥ずかしそうに今年の抱負を口にするが……えっ⁉ まだ服に慣れていなかったの⁉
 というか、それを新年の目標にするのはどうなのよ、クリス!

「自分は無論、皆さんと行動を共にして、少しでもお役に立てるように精進するっすね。それと商人として、もっと大きな取引に関わって、世界を見てみたいっす!」

 フィーリアらしい、堅実で前向きな願いだ。
 まあ現実でも、すでにリョウのぬいぐるみを『幸運を呼ぶ魔除け』と称して販売し、王都で予想外の大ヒットを飛ばしてウハウハしている。

 私やレオノールたちの危機を救った、『魔除け』のぬいぐるみってフレーズで儲けるとは……恐るべしフィーリア。

 けど……『魔除け』ってネーミング、ルリアが最初に言ったんだし、ネーミングライセンスを払ってあげなよ?

「わたくしは当然、シャルロッテの無事と一刻も早い奪還を願いました。……それからリョウ様! ベレニスの言う『野望』とまでは申しませんが、もう少し志は大きくお持ちになるべきです! 剣の腕だけでは、ローゼを守り切れません!」

 ヴィレッタが祈りを終えてこちらへ戻ってきた。
 後半は少し頬を膨らませて、リョウにぷんすかと説教している。
 新年早々、お疲れ様です。リョウ、凹まないで。

「皆さん! 私の願いは姉様や師匠たちが叶えてくれると信じています! 私も剣士として、全力で協力しますから!」

 レオノールが祈りを終え、満面の笑みでこちらに駆け寄ってきた。
 大声で宣言するが、だからマーガレット叔母様がこっちを睨んでいるってば! ここは全力でスルーだ、スルー!

「それで、ローゼは何を願いましたの?」

「ふふん♪ ローゼの願い事は、どうせアレでしょ? 『アレがもうちょっとマシな男になりますように』とかじゃないの~?」

 ヴィレッタが優しく尋ねてくると同時に、ベレニスが悪戯っぽい笑みを浮かべて茶化してくる。

「ぷはっ! ベレニスさん、それは女神様でも天地がひっくり返らないと無理っすよ!」

「そうだね~。リョウがあのままだから、リョウなんだもんね~」

 フィーリアが盛大に吹き出し、クリスも天然な追い打ちをかけてくるが、おにょれら、どういう意味じゃああああ!

「アレですか? 師匠がもっとマシに……? おお! なるほど! 確かにそれは無理難題ですね! 女神様も困ってしまいます!」

 おいこらレオノール⁉ あんたが一番に納得するんじゃない!

「もう、ベレニス、フィーリア、クリス、レオノールまで。ローゼをからかうのはよしてくださいませ。ローゼがそのような、実現不可能な願い事をするほど愚かではないことくらい、わたくしが一番よく知っています」

 ヴィレッタが呆れたように、庇うように言ってくれるが……ヴィレッタ? 「実現不可能」って、さらっと酷いこと言っていない⁉

 女子陣が好き勝手に私の(主にリョウ関連の)願い事を予想して盛り上がる中、当のリョウはといえば、遠くで酔っ払ったダリム宰相に捕まって絡まれ、非常に眠そうな顔をしている。
 はあ……全く。みんなの言う通りだよ、本当に。この鈍感男め。

 私は一つ咳払いをして、皆の注目を集めると、決意を込めた表情で、自分の本当の願い事を告げた。

「当然! 邪教『真実の眼』を追って、シャルロッテを必ず助け出す! それから邪教の本拠地を突き止めて、関係者全員ぶっ潰す! 師匠である魔女ディルにも直接会って、盗んだ魔導書を返せって文句言って……ついでにギャフンと言わせる! 各地で悪さをしている魔獣も全部退治して、大陸中に燻っている戦乱の火種も全部消して、みんなが安心して暮らせる世界にする! ……かな?」

 うん♪ 完璧な新年の誓いでしょ?
 ……あれ? なんで皆、そんな微妙な顔をしているの⁉
 リョウだけは頷いて納得しているが、ヴィレッタとレオノールは完全に呆れているし、クリスは苦笑い。
 フィーリアは笑いを必死に堪えているし、ベレニスに至っては、お腹を抱えて大爆笑しているんですけど⁉

「あっははは! さすがローゼはローゼねえ! それ、本気で1年で全部達成するつもりでしょ? 欲張り過ぎてウケるわー!」

 ベレニスめ! 美味しいものを食べ尽くすなんていう、ある意味達成不可能な願い事をしたあんたにだけは言われたくないぞ!

「う~ん。各国間の利害が絡むから、戦乱の火種を全部消す、っていうのは現実的ではないっす。……でも、その壮大な野望、嫌いじゃないっすよ。ふふっ」

 フィーリアめ、こういう時はちゃんとフォローしてくれっての!

「ローゼ、志が高いのは素晴らしいことですが、それは先ほどリョウ様に申し上げたことです。ローゼの場合は、もう少しご自身の幸せ……例えば、素敵な方との出会いとか、そういうこともお考えになってくださいまし」

「いやあ、姉様は過去のどんな英雄をも凌駕する器の持ち主ですから! これくらいの高望みをして当然だと思います! さすが姉様です!」

 ヴィレッタとレオノールまで、なんか方向性の違う呆れ方をしてくるし!

 もう! いいもん!

 結局、新年を祝う王都リオーネでの宴は、賑やかで、そして少し……いや、かなりカオスな状態で更けていった。

 ベレニスに「ローゼのほっぺ、ぷにぷに~」とか言いながら絡まれ、フィーリアに「ローゼさん、この新しい靴どうすか? サイズぴったりだと思うんすけど」と足のサイズを測られる。
 クリスには「これ、美味しいからあげる~」と次々に料理を押し付けられ、ヴィレッタは「リョウ様! ローゼの願い事を叶えるためにも、もっとしっかりなさい!」と、いつの間にか酔って寝てしまったリョウに説教を続けている。
 レオノールは「姉様あったか~い」と私にぴったりくっついて離れないが……まあ、温かいから良しとしよう。

 来年も、またその次の年も、こうして大切な仲間たちと、賑やかで、ちょっと騒がしい新年を迎えられますように。
 そんなささやかな願い事を、私は喧騒の中で、そっと女神様に囁いたのだった。
 
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