【魔女ローゼマリー伝説】~5歳で存在を忘れられた元王女の私だけど、自称美少女天才魔女として世界を救うために冒険したいと思います!~

ハムえっぐ

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第6章 雪原は鮮血に染まる

第10話 ディンレル王国滅亡 宮廷魔術師たち

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 ーディンレル暦541年ー

「あら? ザックス神官を運んできてくれたのかい。アニス、ご苦労さま」

 私とマツバが、気絶したザックスを浮遊魔法で担ぎ教会に戻ると、奥から聞き慣れた、少し懐かしい声がした。
 振り返ると、健康的な白い肌と豊満な肉体を持つ銀髪の美女、クレアが立っていたのだ。
 私と姉様が才能に惚れ込み、半ば強引に魔法の師事をお願いした、最強にして最高の魔女である。

「あっ、クレア! いつリュンカーラに戻ってきたの⁉」

 驚きと喜びで、私は思わず浮遊魔法を解きクレアに駆け寄って抱きついた。
 背後でドサッという鈍い音とマツバの小さな呻き声が聞こえた気がするけど、今は気にしない!

「ついさっきさね。アニス、少し見ない間にまた元気があり余っているようだねえ。ディンレル王女姉妹の破天荒な噂は、遠く西方の旅先まで届いていたよ。……うん、背は少し伸びたかな?」

 クレアは優しく私の頭を撫で、慈しむような微笑みを浮かべた。1年ぶりの再会だ。

「もう! クレア、聞いてよ! アリス姉様もお母様もお父様も、みんな酷いの! 私が一番小さいからって、何かあるとすぐ私を叱るんだから! やってることは姉様と同じようなことなのにさ!」

 私はクレアの柔らかく豊かな胸に顔を埋め、溜まっていた愚痴をぶつける。

「ふふ、それはアニスが皆に愛されている証拠さね。心配だからこそ、つい口うるさくなってしまうものだよ。でもまあ、たしかにアニスはまだまだ子供だ。背も小さいし、胸もこれからだねえ」

 クレアはくすくす笑い、私をあやすように抱きしめてくれる。

 クレマンティーヌ。それが彼女の本名。
 大陸でも有数の知識を持ち、様々な種族に友人がいる、底知れない魔女。
 私が「クレア」と愛称で呼ぶことを許してくれた、大切な師匠であり、頼れるお姉さんのような存在だ。
 ……まあ、クレアって呼んでるのは私だけで、姉様や他の子は「先生」って呼んでるんだけど。ちょっと寂しい。

「むー! クレアまでそんなこと言う! まだ13歳なんだから、これから成長するんだもん! それより、ディルとチャービルは? 一緒じゃないの?」

 私はクレアの腕の中から抜け出し、教会の内部をキョロキョロと見回す。
 あの2人なら、どうせどこかに隠れて私を驚かせようと企んでいるに違いない。

(……いた! 天井近くのステンドグラスの影ね!)

 私の視線に気づいたのか、2つの影が同時に動く。

「くらえ、アニス!」

「油断したな!」

 光属性を得意とするディルの閃光弾と、炎属性を得意とするチャービルの火炎弾が、私を目掛け撃ち込まれる。

「フンッ! その程度、読み通りよ!」

 私は即座に魔法障壁を展開し、2つの魔力弾を正面から弾き返す。
 それと同時に左右からも新たな魔力弾が迫っていた!

「アニス様!」

 タイムの放つ水の奔流と、フェンネルの作り出す鋭い氷の矢。
 それが私に直撃する寸前、マツバが素早く前に出て、彼女の闇属性魔法で影の盾を展開し、2つの攻撃を受け止め霧散させた。

「さっすがマツバ! ナイスサポート! そして……今度はこっちの番!」

「「なっ⁉」」

 私が勝ち誇って両手を突き出すと、そこから放たれた眩い金色の魔力光線が、ステンドグラスの影に隠れていたディルとチャービルの顔面を正確に捉え、2人を床へと叩き落とす。

「ぐえっ! くそー、負けたー! アニスのくせに生意気な!」

 ディルが床に手をつきながら悔しがる。

「なんてことだ……アリス様ならともかく、アニスに不覚を取るなんて……屈辱」

 チャービルも呻く。

「って、2人とも! 一言多い!」

 私がピシッと指を差して抗議すると、ディルとチャービルは顔を見合わせ、やがて悪戯っぽく笑い出す。
 私もつられて笑ってしまう。

 金髪ウェーブヘアのディルと、赤髪巻き毛のチャービル。
 2人は私付きの側近であり、同い年の大切な親友だ。
 1年前、西方を旅しながら魔女を探すクレマンティーヌに志願して同行した。
 実力を磨き、見聞を広めたいという強い思いがあったから。
 ……いいなあ、私もいつか、しがらみを忘れて大陸中を旅してみたい。

「それで? この子たちが、クレアが旅先で拾ってきたっていう子たち?」

 私が視線を向けると、マツバがいつの間にか確保していたらしい、2人の小さな女の子が、マツバの背後に隠れるようにしておずおずとこちらを見ていた。

「うぅ……ひっく……ご、ごめんなさい……」

 水色の長い髪の女の子が、しゃくり上げながら謝る。

「わ、私たちはディルとチャービルに、脅されて……王女様を攻撃するつもりなんて……うわーん!」

 白色のショートヘアの女の子も、目に涙をいっぱい溜めて訴える。

「「うわあああああああああああん!」」

 2人の泣き声が共鳴し、魔力を帯びて教会内部に響き渡る。
 ミシミシッと壁に亀裂が走るのを見て、床に転がっていたザックスが飛び起きた。

「ちょおっ⁉ 俺の、いや、女神フェロニア様の教会がああああっ!」

「もう、2人とも泣かないで」

 私はパチンと指を鳴らす。すると、教会の床から色とりどりの美しい花々が咲き乱れ、甘い香りが満ちていく。

「ほら、お近づきの印。私は全然怒ってないから、大丈夫」

 私は咲いた花の中から綺麗なものをいくつか摘み取り、2人の女の子の髪にそっと飾ってあげた。

「わぁ……きれい……」

「ねえフェンネル! お花がいっぱい!」

 さっきまで泣いていたのが嘘のように、2人は目を輝かせて花に見入っている。

「水色の髪の子がタイム。白色の髪の子がフェンネル。2人とも9歳。西方の小さな村で、魔女の力を持つというだけで迫害されそうになっていたのを、保護してきたのさね」

 クレアが優しく説明する。

「タイムちゃんに、フェンネルちゃんね。私はアニス。よろしくね! これからは私たちが守ってあげるから、安心して。もしディルやチャービルが意地悪してきたら、すぐに私に言って? ギャフンと言わせてあげるから!」

 私が笑顔で言うと、2人はこくりと頷いた。

「こらこら、アニス。人聞きの悪いことを言うんじゃない」

 チャービルが呆れたように言う。

「それで? そっちの無口な黒髪の子が、噂のキルアの巫女ちゃんかい? へえ、本当にアノス王が攻め込んで、奴隷にしたってマジだったんだ」

 ディルが興味深そうにマツバを観察するが、マツバは表情を変えず、ただペコリと頭を下げた。

「だから違うって言ってるでしょ! よく見てよ、マツバに奴隷の首枷なんてないじゃない! この子は私の新しい友達なの! まあ、表向きは色々あって『奴隷』ってことになってるけど、いずれは宮廷魔術師になってもらって、私とは対等な友達として付き合ってもらうんだから!」

 私が慌てて訂正する。

「ほう? 宮廷魔術師を目指すとは私のライバルになる気概があるということか」

 チャービルが好戦的な笑みを浮かべると、マツバはビクッと震えて私の後ろに隠れてしまった。
 もう、チャービルったら!

 ディルは冷静沈着、チャービルは猪突猛進。
 2人とも私の言うことなんて全然聞かないけど、大切な友達だ。
 でも、もう少し姉様の側近のローレルやアロマティカスみたいに、私を王女様扱いしてくれてもいいのに。

「まあまあ、チャービル。そんなに威嚇しないの。ほら、笑顔笑顔。私はディル。見ての通り、このアニスと同い年で、宮廷魔術師見習いさ。よろしくね、マツバ」

 ディルが取りなすように言う。

「……マツバ、と申します。兄ヒイラギ共々、アリス王女様、アニス王女様の……奴隷として、お仕えしております」

 だから、その奴隷っていうのやめてってば! と私が心の中で叫ぶ。

 そんな中、ふとクレアが真剣な表情になり、マツバに向き直った。

「マツバ、少し聞きたいことがあるのだけど。君がディンレル王国が滅ぶと予知した、という噂を耳にしたのだけど、それは本当かい? 正直、今のこの国の隆盛ぶりを見ていると、にわかには信じがたいさねえ」

 クレアの声には純粋な心配の色が滲んでいる。

「もちろん、どんな国にも不測の事態はある。流行り病や、天候不順による飢饉……そういった災いが起こる可能性は否定できないねえ。もし君が、何か具体的な危機を視たのであれば教えてはくれないかね? この国と、ここにいる皆のために」

 クレアの真摯な問いかけに、マツバは僅かに逡巡するような表情を見せたが、すぐにいつもの無表情に戻り、静かに首を横に振った。

「……いいえ、クレマンティーヌ様。それはただ一度だけ見た、悪夢のようなもの。目覚めてヒイラギ兄様に話したのを、偶然一族の者が聞き、話に尾ひれがついて広まってしまっただけにございます。未来は常に変化するもの、確定した予知ではございません。きっと、ただの杞憂かと存じます」

 マツバの言葉に嘘があるようには見えない。少なくとも、今の私には。

「まあ、そうだろうね」

 ザックスがいつの間にか復活し、偉そうに腕を組んで言う。

「この大陸始まって以来の天才神官であるこの俺と、宮廷魔術師長のクレマンティーヌ様がこの国にいらっしゃるのだ。おまけに、そこの魔法バカ姉妹も、才能だけならピカイチ。土地も豊かで、民も勤勉。そう簡単に滅ぶような国ではないですよ。流行病の兆候すらありません」

 ザックスの自信満々な言葉に、マツバはコクリと小さく頷く。
 クレアも「その通りだねえ」と暢気に呟いた。
 
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