【魔女ローゼマリー伝説】~5歳で存在を忘れられた元王女の私だけど、自称美少女天才魔女として世界を救うために冒険したいと思います!~

ハムえっぐ

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第6章 雪原は鮮血に染まる

第9話 いざ、ガーデリアへ

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 ー大陸暦1118年1月ー

 リオーネの街を出て、北へ続く街道を歩くクレアの隣には、いつの間にか緑髪セミロングの少女がいた。
 彼女はクレアの弟子で、今回の旅にも同行していた。

「クレマンティーヌ先生、その目つきの悪いぬいぐるみは何なのですか? まさかお土産ですか?」

 アロマティカスは、クレマンティーヌが持つリョウモデルの少々不気味なぬいぐるみを訝しげに見つめる。

「ふふ、アロマティカス。これはリオーネの流行り物らしいさね。魔除けの効果があるとか。欲しいならあげよう」

「いえ結構です。それより、もう一つの金髪の魔女のぬいぐるみの方なら、喜んで頂戴いたしますが」

「これは駄目さね。……しかしこれはアリスにも、アニスにも似ている気がするねえ」

 クレマンティーヌはぬいぐるみを眺め呟く。

「それより先生、大ウグイの出現を利用し、リョウ・アルバースに接触したそうですが」

「ああ、あれかね」

 クレマンティーヌは悪びれもせず頷く。

「通りすがりの余興さね。あの少年を少し見たかっただけさね。結果は、まあまあかねえ。予想以上に粘り強く、思い切りが良い」

「まったく、先生はいつも気まぐれなんですから。……それはともかく、マツバからの定期報告です。やはりガーデリア地方に、バアフィンの残留思念が彷徨っているのは確実かと」

「そうかい。さすがは魔王軍五大将軍の一角、白豹将軍バアフィンだねえ。しぶといものさね。では予定通り、彼の魂を回収し復活させるとするかねえ」

 クレマンティーヌの言葉と共に森道へ入ると、彼女の身体が淡い光を放ち、肌が美しい青色に変わった。

「ローレルとチャービル、ノイズ君からの報告はまだかい?」

「はい。特に炎獅将軍イフリートの方は、魂の回収と復活にまだ時間がかかりそうです。黒狼将軍ヒイラギ、雷虎将軍ゴドリッチ、影蛇将軍ルシフェルについても、まだ確たる情報はありません」

「ふむ。バアフィンの存在が確認できたのだ。他の将軍たちも、必ずこの世界のどこかにいるはずさね」

 バアフィンの名を聞き、アロマティカスの表情が僅かに曇る。
 千年前、彼に負わされた屈辱と恐怖が蘇るのだろう。

「ふふ……バアフィンの復活は、少し気が進まないかね?」

 クレマンティーヌが揶揄うように尋ねる。

「……いいえ」

 アロマティカスは首を横に振る。

「我ら7人の魔女がかけられた忌まわしき『呪い』……それを完全に解くには必要なのでしょう。それに……今の私たちが、たかが魔族如きに後れを取る理由などありません」

 そう強気に言い放ちつつも、アロマティカスは無意識に歩調を速めた。

(まあ、私も今は生物学的には魔族の一種なんだがねえ……)

 クレマンティーヌは内心で苦笑し、先を急ぐ弟子の背中を見つめた。
 リオーネの街並みはすでに遠く、目の前にはガーデリア地方へ続く険しい道が広がる。
 クレマンティーヌの銀色の髪が、冬の冷たい風に静かに揺れた。
 彼女の青い瞳と次なる目的地へ向かう足取りには、揺るぎない決意と計画を遂行する覚悟が宿っていた。

 ***

 風邪から回復した私たちは、ファインダ王国王都リオーネを発った。
 快晴の空の下、澄んだ空気は朝の光を反射し、馬車の車輪が石畳を軽やかに転がる。
 絶好の旅日和だ。

 使っているのは、私たちが寝込んでいる間にリョウが購入した最高級馬車。
 深紅のボディに金色の装飾、中は柔らかなベルベットのシートと精巧な木彫りの壁。
 窓からリオーネの街並みが徐々に遠ざかるのが見える。

 この馬車、リョウが言うには、ただ大きいだけでなく特殊合金製で防御力も高く、悪路や雪道でも安定して走れる魔法的な機構も備わっているらしい。
 その分、値段も相当だったようだけど。
 2頭の馬、フタエゴとバラオビも、普通の馬より遥かに頑健で持久力があり、多少の魔獣なら蹴散らす力を持つそうだ。

「レオノールとは会えなかったわね。可哀想にねえ。勉強漬けの場所に幽閉なんて、私だったら発狂してるわ」

 ため息混じりにベレニスが呟いた。彼女の白銀の長い髪が朝陽に輝く。

 昨日の夜のこと。
 レオノールは目を輝かせ、私たちに同行したいと熱心に訴えてきた。
 しかし彼女は、本来王立学校女子寮に幽閉されている身の上。

「みなさんの旅立ち前に、お泊まり会したいです!」

 あの日、そう駄々をこねて、どさくさ紛れに付いてこようとして、私の風邪に巻き込んじゃったんだよね。

「いやいやレオノール。あんたは風邪が治ったんだから女子寮に戻らないと」

 私の説得に、レオノールはふくれっ面をしていた。

「そんな! 酷いです姉様! 私だって皆さんと一緒に世界を救うのです! 七英雄のフォレスタ様も、私を含めてよろしくと告げたじゃないですか!」

 以前、とこしえの森で全滅寸前だった私たちを救ってくれた七英雄フォレスタの御魂の残滓の言葉。

 ……フォレスタ。エルフの女王にして七英雄の一人。
 夢の記憶が蘇る。
 とこしえの森へ向かうアニスたちの悲劇。
 それにザックス。七英雄の1人、神官ザックス。
 この人物が当時リュンカーラにいたという記録はない。

(アニスと元々知り合いだった? それともただの夢?)

 私は振り払うように首を振った。

 レオノールの言っていることはわかるけど、彼女の立場を考えないわけにはいかない。
 それに、マーガレット叔母様を悲しませるわけにはいかないしね。

「レオノールは一国の姫君なのです。危険な旅に連れて行くのは、ラインハルト陛下もマーガレット王妃様もお許しになりません」

「だからこのまま逃げるのです! 王都を出れば、父も母もまさか追手は使いますまい!」

 ヴィレッタが嗜めレオノールが叫んでいると、ドアが開いた。

「ちょっ……! 助け……」

 マーガレット王妃に仕える侍女たちがレオノールを囲み、連れ去るのにかかった時間は僅か数秒。

 パタリと扉が閉まる前に、侍女たちは私たちにお辞儀をした。
 マーガレット叔母様の侍女たち……恐るべし。

 とまあ、そんなことがあった。

「でもさあ、レオノールが将来王妃になるのって想像できないよね~」

 馬車の中で、クリスは暢気に鼻歌を歌いながら外を眺めている。

「ベレニス、クリス。レオノールは勉強もさることながら、人脈づくりが重要なのです。本人もそれはわかっているはずです」

 ヴィレッタの落ち着いた声が馬車内に響く。
 彼女の言葉には経験に裏打ちされた重みがある。
 公爵令嬢としての教育を受けた彼女だからこそ、理解できるのだろう。

 ヴィレッタの言う通り、王になるには人脈が何より重要だ。
 将来、側に置くべき人材と今のうちに交流しておかないと後で苦労する。
 それが貴族や王族に生まれた者の宿命だ。

 まあ、偉そうなことを言う資格は、ベルガー王女の身分を放棄した私にはないけどね。

 私はレオノールにお土産を買ってあげないと、と考えながら、昨夜見た夢を思い出しつつ景色を眺めた。

 あの夢でアニスが感じていた苛立ちや喜び、ザックスへの呆れ、マツバへの信頼……それらが、まるで自分の感情のように妙に生々しく心に残っている。

 これは一体、何なのだろうか?
 
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