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第6章 雪原は鮮血に染まる
第8話 お見舞い品の感想は?
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ー大陸暦1118年ー
リョウとクレアは王都に戻り、魔導具店の店主に報告すると、店主は目を丸くして驚き、すぐに安堵の表情を浮かべた。
「おお、リョウ殿! まさか本当に仕留めてくるとは! いやはや見事! これで厄介事が一つ片付いたわい!」
店主は約束通り、サンストーン・グレイプの原体をリョウに手渡す。
傍らで顛末を聞いていたクレアに、店主は小さな革袋を差し出した。
「クレア殿にも情報提供と大ウグイ運搬の礼じゃ。少ないが受け取ってくだされ」
中には小金貨が一枚。
クレアはそれを受け取り、店主に尋ねた。
「あの少年なら、倒すと信じていたのかね?」
「……はっはっは、まさか。だがリョウ殿なら、何かを起こすかもとは思っとったよ。あの一帯は荒くれ者が多くてな。下手に討伐隊を組んでも、奴らとの揉め事で失敗する。陛下や宰相閣下がご不在で、他の英雄殿たちも病と聞き、頭を抱えていたところじゃった。リョウ殿が現れてくれて、正直助かったわい」
店主の言葉に、クレアは(なるほど、そういう役割も期待されていたのか)と内心で納得した。
リョウが手にしたサンストーン・グレイプと、交渉で確保した高級果実を見て、クレアは彼に向き直る。
ふわりと、彼女の特製香油の微かな香りがリョウの鼻をくすぐった。
「それじゃあ、私はこれで旅立つさね。君の仲間たちが、早く良くなるといいねえ」
「クレア殿、本当に世話になりました。このご恩は忘れません。また、どこかでお会いできる日を」
リョウが深々と頭を下げる。
その律儀な姿に、クレアはふと遠い過去を思い描いた。
(……あの時も、こうだったかねえ……)
千年以上も前の記憶。
意地っ張りなドワーフ王シュタインが、人間の使者と大喧嘩。一触即発の危機になった。
自分が間に立ち、根気強く対話し仲裁した。
礼にシュタインが鍛えた漆黒の剣を貰い、それをディンレル王女アリスの側仕え、誠実で強い瞳のキルア族の青年、ヒイラギに譲った日のこと。
リョウの真っ直ぐな瞳と、仲間を思うひたむきさが、あの頃のヒイラギと重なる。
だが感傷に浸る時間は短い。
「達者でね、リョウ・アルバース。君の武運を祈っているさね」
クレアは穏やかに微笑み、リョウに背を向けた。
微笑みの奥には、単なる別れの挨拶だけでない打算と、かつての友人に似た少年への微かな感傷が隠されていたが、リョウは気づかない。
リョウ自身も、クレアとの短い濃密な交流、助言や言葉にならない励ましを胸に刻んでいた。
サンストーン・グレイプや高級果物。
それらは見舞い品以上の、彼女との奇妙な縁の証のようだ。
彼女の博識、落ち着き、時折見せる寂寥感漂う微笑み……彼女は何者なのか。
疑問が、リョウの心に小さな棘のように残った。
(……そうだ。大ウグイの売却益と、これまでの報酬で貯めた金がある。以前から考えていた、あれを買うにはちょうど良いかもしれん)
リョウは仲間たちの待つ王宮へ戻る前に、ある場所へ立ち寄った。
***
王宮の部屋に戻ると、ローゼたちはベッドから起き上がり、侍女が用意した軽めの夕食を楽しんでいた。
熱はまだあるようだが、顔色はずいぶん良い。
「あっ! リョウ、お帰りなさい! わあ、すごい! こんなにたくさんの果物! これ全部、リョウが私たちのために?」
ローゼが目を輝かせ、リョウが抱える大きな籠を見つめる。
「傭兵! ブラックベリーは⁉ まさか手に入らなかったんじゃ………って、何これ? ジャムじゃないの!」
ベレニスは一瞬不満げだったが、ジャム瓶を開け、指ですくって舐めると「んん~っ!」と満足げに頬を緩ませた。
すぐにパンにたっぷり塗り、大きな口で頬張り至福の表情で目を閉じる。
「おおっ! リョウ様、正直期待してなかったっすが、これは見事な梨っす! この甘みとシャリシャリ感! 歯ごたえ抜群っす! ありがとうっす! ちょっと見直したっすよ!」
フィーリアは大ぶりの梨に豪快に齧りつき、溢れる果汁で口の周りを濡らしながら満足そうに頷いた。
「まさか……遠くパルケニアから離れたこのファインダで、故郷レスティアのリンゴと同じ風味に出会えるなんて。……リョウ様、感謝いたします。初めて……ええ、初めて戦い以外で、わたくしの期待を大きく超えてくださいました」
ヴィレッタはナイフで丁寧にリンゴの皮を剥き、薄く切って一口一口、故郷を思い出すように味わった。
「おおー! 師匠! これです、これ! 私が食べたかったマンゴーです! 南国でしか味わえない、この口の中でとろける濃厚な甘さ……最高です! いくらでも食べられます!」
レオノールはマンゴーを受け取るや否や、かぶりつき、あっという間に平らげた。
侍女に窘められても、どこ吹く風だ。
「ふふ、まさか本当に手に入れてくれるなんて~。サンストーン・グレイプだよね? これ、とこしえの森でもすごく貴重だったんだ。いい香り……もぐもぐ……ん~、ぷはぁ。美味しい~」
クリスはオレンジ色に輝く果実を、小さな口で幸せそうに頬張り、うっとり目を細めた。
「このイチゴ、すごく美味しい! 粒も大きいし、甘さと酸味のバランスが絶妙だよ! これ、すごく高かったんじゃない? 無理しちゃって……えへへ……でも、ありがとう、リョウ。嬉しい」
ローゼは真っ赤な大粒のイチゴを手に取り、愛おしそうに見つめ、一粒一粒大切そうに口に運んだ。
仲間たちの満面の笑みと感謝の言葉に、リョウは苦労が報われたような温かい充足感に包まれた。
よかった、間に合って。頑張ってよかった。
だが……なぜだろう。心のどこかに、妙な落ち着かなさが残る。
クレアとの別れ際の光景が、脳裏にちらつく。
彼女の言葉、微笑み。今も鼻の奥に残るような微かな香油の香り。
それらが単なる気のせいでは片付けられない、何か説明のつかない引っかかりを感じさせる。
あれほどの知識と立ち居振る舞いの人物が、なぜ今まで名を知られていなかったのか。その違和感が拭えない。
「……ところでリョウ」
不意に、ローゼがじっとリョウを見つめて言った。
「リョウから、なんだか……知らない女の人の香水の匂いがするんだけど?」
「ん? クンクン……あ、本当だ。いい匂いだね~。でも、リョウからは魚臭い匂いの方が強いのに、ローゼ、鼻がいいんだね~」
クリスがのんきに相槌を打つと、途端に他の少女たちの視線も、詮索するようにリョウへ突き刺さった。
(嘘だろ⁉)
リョウは内心で叫ぶ。たしかにクレアからは常に微かに良い香りがした。
けれどそれは本当に微量で、リョウ自身、言われるまで意識していなかったほどだ。
なのに、なぜローゼは気づくんだ⁉
動揺を悟られまいと、リョウは咄嗟に話題を変えた。
「そ、そうだ! みんなが寝込んでいる間に、移動用の馬車を買っておいた。これからの旅に必要だろう。御者は俺がやる」
リョウの突然の告白に、少女たちの目が点になる。
「は……? 馬車? 一体いくら使ったの? 私たちに一言も相談なしに⁉」
ローゼが代表して詰め寄る。他のメンバーも唖然としたり、呆れたり、疑念の目を向けたりしている。
リョウに促され、半信半疑で外に出ると、立派な幌付きの大型馬車が停まっていた。
毛艶の良い頑丈そうな馬が二頭繋がれている。
「こ、これは……」
ヴィレッタが息をのむ。
「軽く見積もっても小金貨8枚は下らない代物っすよ……リョウ様、これまでの貯金をほとんどつぎ込んだんじゃ……?」
フィーリアがジト目でリョウを見る。
幌の中は、大人10人が余裕で寝泊まりできそうな広さで、食料や水を保存する樽や木箱も綺麗に積まれていた。
御者台も広く、快適そうだ。
馬たちはローゼを見ると、なぜかニヤリと歯を見せて笑ったように見えた。
「こいつらの名前はフタエゴとバラオビだ。以前、ダリム宰相から紹介された馬商人の店で見かけてな。ずっと気になっていたんだ。今回の報酬と貯金で、ようやく手が届いた」
リョウは2頭の馬のたてがみを誇らしげに撫でる。
「馬車自体は素晴らしいものっすけど……リョウ様は武具とかこういう道具を見る目は一流っすねえ。はあ……でも、こんな高価な買い物を相談なしにするなんて、これだからこの人は……」
フィーリアが深いため息をつく。
「フタエゴとバラオビ、ですか? 何か特別な意味がある名前なのでしょうか?」
ヴィレッタが興味深そうに馬を見つめる。
「ちょっとアンタたち! 新入りは私の言うことを聞きなさい! おすわり! おーすーわーり!」
ベレニスが女王様然として馬たちに命令するが、馬たちは鼻で笑うように無視している。
(……絶対こいつら、普通の馬じゃないよね)
ローゼは確信に近い思いでため息をついた。
「まあまあ、いいじゃない~。これなら雪道でも安心だし、丈夫そうだから……いざとなったら非常食にもなりそうだしね~」
クリスがじゅるりと涎を垂らしながら馬たちを見つめると、2頭の馬はサッと青ざめ、クリスに向かって恭しく跪いた。
(いや賢すぎでしょ! 本当にただの馬なの⁉)
ローゼはもはやツッコむ気力も失せていた。
「これで金は底をついたが、良い買い物をした。馬具も全て新調した。みんなの体調が完全に回復したら、ガーデリア地方へ出立しよう」
リョウの言葉にローゼたちは一応頷いた。
だが苦労して果物を集めてくれた彼への感謝は、相談なしの高額な買い物によって、かなり相殺されてしまっていた。
どうしてこの男は、こういう大事なことを1人で決めてしまうのか……と、全員が呆れと不満の入り混じった視線をリョウに送るのだった。
ちなみに、フタエゴとバラオビという名前は馬肉の部位の名称である。
後にそれを知ったヴィレッタが、恐ろしい剣幕でリョウに説教するのだが、その頃には2頭の馬の名前に慣れており、変わることはなかった。
リョウの株が、またしても急落することになるのは言うまでもない。
リョウとクレアは王都に戻り、魔導具店の店主に報告すると、店主は目を丸くして驚き、すぐに安堵の表情を浮かべた。
「おお、リョウ殿! まさか本当に仕留めてくるとは! いやはや見事! これで厄介事が一つ片付いたわい!」
店主は約束通り、サンストーン・グレイプの原体をリョウに手渡す。
傍らで顛末を聞いていたクレアに、店主は小さな革袋を差し出した。
「クレア殿にも情報提供と大ウグイ運搬の礼じゃ。少ないが受け取ってくだされ」
中には小金貨が一枚。
クレアはそれを受け取り、店主に尋ねた。
「あの少年なら、倒すと信じていたのかね?」
「……はっはっは、まさか。だがリョウ殿なら、何かを起こすかもとは思っとったよ。あの一帯は荒くれ者が多くてな。下手に討伐隊を組んでも、奴らとの揉め事で失敗する。陛下や宰相閣下がご不在で、他の英雄殿たちも病と聞き、頭を抱えていたところじゃった。リョウ殿が現れてくれて、正直助かったわい」
店主の言葉に、クレアは(なるほど、そういう役割も期待されていたのか)と内心で納得した。
リョウが手にしたサンストーン・グレイプと、交渉で確保した高級果実を見て、クレアは彼に向き直る。
ふわりと、彼女の特製香油の微かな香りがリョウの鼻をくすぐった。
「それじゃあ、私はこれで旅立つさね。君の仲間たちが、早く良くなるといいねえ」
「クレア殿、本当に世話になりました。このご恩は忘れません。また、どこかでお会いできる日を」
リョウが深々と頭を下げる。
その律儀な姿に、クレアはふと遠い過去を思い描いた。
(……あの時も、こうだったかねえ……)
千年以上も前の記憶。
意地っ張りなドワーフ王シュタインが、人間の使者と大喧嘩。一触即発の危機になった。
自分が間に立ち、根気強く対話し仲裁した。
礼にシュタインが鍛えた漆黒の剣を貰い、それをディンレル王女アリスの側仕え、誠実で強い瞳のキルア族の青年、ヒイラギに譲った日のこと。
リョウの真っ直ぐな瞳と、仲間を思うひたむきさが、あの頃のヒイラギと重なる。
だが感傷に浸る時間は短い。
「達者でね、リョウ・アルバース。君の武運を祈っているさね」
クレアは穏やかに微笑み、リョウに背を向けた。
微笑みの奥には、単なる別れの挨拶だけでない打算と、かつての友人に似た少年への微かな感傷が隠されていたが、リョウは気づかない。
リョウ自身も、クレアとの短い濃密な交流、助言や言葉にならない励ましを胸に刻んでいた。
サンストーン・グレイプや高級果物。
それらは見舞い品以上の、彼女との奇妙な縁の証のようだ。
彼女の博識、落ち着き、時折見せる寂寥感漂う微笑み……彼女は何者なのか。
疑問が、リョウの心に小さな棘のように残った。
(……そうだ。大ウグイの売却益と、これまでの報酬で貯めた金がある。以前から考えていた、あれを買うにはちょうど良いかもしれん)
リョウは仲間たちの待つ王宮へ戻る前に、ある場所へ立ち寄った。
***
王宮の部屋に戻ると、ローゼたちはベッドから起き上がり、侍女が用意した軽めの夕食を楽しんでいた。
熱はまだあるようだが、顔色はずいぶん良い。
「あっ! リョウ、お帰りなさい! わあ、すごい! こんなにたくさんの果物! これ全部、リョウが私たちのために?」
ローゼが目を輝かせ、リョウが抱える大きな籠を見つめる。
「傭兵! ブラックベリーは⁉ まさか手に入らなかったんじゃ………って、何これ? ジャムじゃないの!」
ベレニスは一瞬不満げだったが、ジャム瓶を開け、指ですくって舐めると「んん~っ!」と満足げに頬を緩ませた。
すぐにパンにたっぷり塗り、大きな口で頬張り至福の表情で目を閉じる。
「おおっ! リョウ様、正直期待してなかったっすが、これは見事な梨っす! この甘みとシャリシャリ感! 歯ごたえ抜群っす! ありがとうっす! ちょっと見直したっすよ!」
フィーリアは大ぶりの梨に豪快に齧りつき、溢れる果汁で口の周りを濡らしながら満足そうに頷いた。
「まさか……遠くパルケニアから離れたこのファインダで、故郷レスティアのリンゴと同じ風味に出会えるなんて。……リョウ様、感謝いたします。初めて……ええ、初めて戦い以外で、わたくしの期待を大きく超えてくださいました」
ヴィレッタはナイフで丁寧にリンゴの皮を剥き、薄く切って一口一口、故郷を思い出すように味わった。
「おおー! 師匠! これです、これ! 私が食べたかったマンゴーです! 南国でしか味わえない、この口の中でとろける濃厚な甘さ……最高です! いくらでも食べられます!」
レオノールはマンゴーを受け取るや否や、かぶりつき、あっという間に平らげた。
侍女に窘められても、どこ吹く風だ。
「ふふ、まさか本当に手に入れてくれるなんて~。サンストーン・グレイプだよね? これ、とこしえの森でもすごく貴重だったんだ。いい香り……もぐもぐ……ん~、ぷはぁ。美味しい~」
クリスはオレンジ色に輝く果実を、小さな口で幸せそうに頬張り、うっとり目を細めた。
「このイチゴ、すごく美味しい! 粒も大きいし、甘さと酸味のバランスが絶妙だよ! これ、すごく高かったんじゃない? 無理しちゃって……えへへ……でも、ありがとう、リョウ。嬉しい」
ローゼは真っ赤な大粒のイチゴを手に取り、愛おしそうに見つめ、一粒一粒大切そうに口に運んだ。
仲間たちの満面の笑みと感謝の言葉に、リョウは苦労が報われたような温かい充足感に包まれた。
よかった、間に合って。頑張ってよかった。
だが……なぜだろう。心のどこかに、妙な落ち着かなさが残る。
クレアとの別れ際の光景が、脳裏にちらつく。
彼女の言葉、微笑み。今も鼻の奥に残るような微かな香油の香り。
それらが単なる気のせいでは片付けられない、何か説明のつかない引っかかりを感じさせる。
あれほどの知識と立ち居振る舞いの人物が、なぜ今まで名を知られていなかったのか。その違和感が拭えない。
「……ところでリョウ」
不意に、ローゼがじっとリョウを見つめて言った。
「リョウから、なんだか……知らない女の人の香水の匂いがするんだけど?」
「ん? クンクン……あ、本当だ。いい匂いだね~。でも、リョウからは魚臭い匂いの方が強いのに、ローゼ、鼻がいいんだね~」
クリスがのんきに相槌を打つと、途端に他の少女たちの視線も、詮索するようにリョウへ突き刺さった。
(嘘だろ⁉)
リョウは内心で叫ぶ。たしかにクレアからは常に微かに良い香りがした。
けれどそれは本当に微量で、リョウ自身、言われるまで意識していなかったほどだ。
なのに、なぜローゼは気づくんだ⁉
動揺を悟られまいと、リョウは咄嗟に話題を変えた。
「そ、そうだ! みんなが寝込んでいる間に、移動用の馬車を買っておいた。これからの旅に必要だろう。御者は俺がやる」
リョウの突然の告白に、少女たちの目が点になる。
「は……? 馬車? 一体いくら使ったの? 私たちに一言も相談なしに⁉」
ローゼが代表して詰め寄る。他のメンバーも唖然としたり、呆れたり、疑念の目を向けたりしている。
リョウに促され、半信半疑で外に出ると、立派な幌付きの大型馬車が停まっていた。
毛艶の良い頑丈そうな馬が二頭繋がれている。
「こ、これは……」
ヴィレッタが息をのむ。
「軽く見積もっても小金貨8枚は下らない代物っすよ……リョウ様、これまでの貯金をほとんどつぎ込んだんじゃ……?」
フィーリアがジト目でリョウを見る。
幌の中は、大人10人が余裕で寝泊まりできそうな広さで、食料や水を保存する樽や木箱も綺麗に積まれていた。
御者台も広く、快適そうだ。
馬たちはローゼを見ると、なぜかニヤリと歯を見せて笑ったように見えた。
「こいつらの名前はフタエゴとバラオビだ。以前、ダリム宰相から紹介された馬商人の店で見かけてな。ずっと気になっていたんだ。今回の報酬と貯金で、ようやく手が届いた」
リョウは2頭の馬のたてがみを誇らしげに撫でる。
「馬車自体は素晴らしいものっすけど……リョウ様は武具とかこういう道具を見る目は一流っすねえ。はあ……でも、こんな高価な買い物を相談なしにするなんて、これだからこの人は……」
フィーリアが深いため息をつく。
「フタエゴとバラオビ、ですか? 何か特別な意味がある名前なのでしょうか?」
ヴィレッタが興味深そうに馬を見つめる。
「ちょっとアンタたち! 新入りは私の言うことを聞きなさい! おすわり! おーすーわーり!」
ベレニスが女王様然として馬たちに命令するが、馬たちは鼻で笑うように無視している。
(……絶対こいつら、普通の馬じゃないよね)
ローゼは確信に近い思いでため息をついた。
「まあまあ、いいじゃない~。これなら雪道でも安心だし、丈夫そうだから……いざとなったら非常食にもなりそうだしね~」
クリスがじゅるりと涎を垂らしながら馬たちを見つめると、2頭の馬はサッと青ざめ、クリスに向かって恭しく跪いた。
(いや賢すぎでしょ! 本当にただの馬なの⁉)
ローゼはもはやツッコむ気力も失せていた。
「これで金は底をついたが、良い買い物をした。馬具も全て新調した。みんなの体調が完全に回復したら、ガーデリア地方へ出立しよう」
リョウの言葉にローゼたちは一応頷いた。
だが苦労して果物を集めてくれた彼への感謝は、相談なしの高額な買い物によって、かなり相殺されてしまっていた。
どうしてこの男は、こういう大事なことを1人で決めてしまうのか……と、全員が呆れと不満の入り混じった視線をリョウに送るのだった。
ちなみに、フタエゴとバラオビという名前は馬肉の部位の名称である。
後にそれを知ったヴィレッタが、恐ろしい剣幕でリョウに説教するのだが、その頃には2頭の馬の名前に慣れており、変わることはなかった。
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