【魔女ローゼマリー伝説】~5歳で存在を忘れられた元王女の私だけど、自称美少女天才魔女として世界を救うために冒険したいと思います!~

ハムえっぐ

文字の大きさ
226 / 314
第6章 雪原は鮮血に染まる

第22話 雪原

しおりを挟む
 ファインダ王国ガーデリア領直前の街グシュタードに到着したのは、王都リオーネを出て8日後であった。
 街道沿いに位置する街らしく、通過点として利用する旅人や行商人が多く、宿も複数軒建ち並んでいるようだ。

 活気のある、それでいてどこか落ち着いた雰囲気の街並みは、旅の疲れを癒すのにちょうど良さそうだ。
 石畳の道には馬車の轍が深く刻まれ、その両脇には色とりどりの花が植えられた木箱が並べられていた。

 通りにはパン屋から甘い香りが漂い、鍛冶屋の金槌の音と、行商人の賑やかな声が混ざり合う。
 建物の壁には鮮やかな色の絵が描かれており、それぞれの家が個性豊かに彩られている。

 リョウが御者台から降り、馬2頭を近くの厩舎に預ける。
 街の賑わいの中に溶け込むように、私たちは入っていった。

「大雪と聞いてたけど、積もってないわね」

 早速食事と、酒場に入って街の様子を見渡しつつ、ベレニスが呟いた。

「大雪なのはガーデリアより北側の地域で、元々雪原地帯として有名ですね」

 ヴィレッタが指で丁寧に地図上のルートをたどりながら説明する。
 地図には主要都市や街道、そして山脈や川といった地理的な情報が克明に記されている。
 その詳細な地図は、旅の安全と効率的な計画立案に欠かせないものだ。

 ただ、その横にある『ガーデリア完全攻略マニュアル』っていうスイーツ店特集本って何?

 ベレニスが早速手を伸ばし、レオノールとクリスもフィーリアも行きたい店にチェックを入れているけど、ズルいぞ、私も混ぜろ。

「ガーデリア領といえば、良質なワインが有名っすね。そこにも立ち寄ってみたいっす」

 フィーリアが、ガーデリア領のワインについて語り始めた。

「あんた飲めないのに何言ってるのよ。てか私たちで飲めるのってローゼとクリスぐらいじゃない」

 ベレニスはフィーリアの熱弁を遮るように言うと、フィーリアは苦笑いを浮かべた。

「ノンノン、ベレニスさん。ガーデリアのワインは宝石より価値が高いと言われるほどっす。その一本を持っていたお蔭で、大口の取引を成立させた商人は大勢いるっすよ」

 ガーデリアワインの価値の高さを熱っぽく語るフィーリアは、大きく目を輝かせながらワインのボトルを想像するかのように両手を広げた。

 ふ~ん、単なる酒ではなく、一種のステータスシンボル、あるいは縁起物として扱われているのかな。

「まあ、そこにも寄るとして、リョウはどこか寄りたい場所ある?」

 私がそう言いながら、丸印だらけになった本を手渡した。

「俺は、まあ冒険者ギルドで……」

 困惑気味に呟くリョウ。
 相変わらず真面目な奴め。

「魔獣が増えています。気を引き締めなければなりません」

 ヴィレッタが話題を変えて魔獣の増加について言及するけど、スイーツ店特集本に、元々チェックが多かった事実はなかったことにできないからね。

「ここまでの道中も、多くの魔獣が襲って来ましたね! 街道沿いに出没するなんて、今まで珍しかったのに当たり前になりつつあります」

 レオノールも魔獣の増加を実感している様子だ。

 旅人や商人が襲撃される率が、遥かに増していた。

 魔獣の増加傾向は、人々の生活圏を脅かし、世界がゆっくりと狂っていくのを肌で感じる。

 私たちもこの8日間、毎日魔犬やコボルト、ゴブリンといった相手と遭遇した。
 私たちの敵ではないけど、旅路で毎日戦闘になるということは、どこかで人々が襲われている証拠でもあるだろう。
 犠牲者が出ている話を耳にすると心が痛む。

「魔王軍宰相クレマンティーヌの復活、未だに目立った動きはないっすが、これが影響してると思っていいっすね」

 フィーリアの想像に、私たちは身体が引き締まって拳に力が入る。

 邪教『真実の眼』を率いる六賢魔が禁忌の実験により、千年以上前に封印された魔王軍宰相を復活させたという情報。

 私たちの身近な存在をも巻き込み、世界を揺るがすほどの脅威となって迫っていると実感する。

 それに、新年幕開けと共に起きた、ファインダ王国王都リオーネでの邪教の魔女脱獄事件。

 そこで私とヴィレッタは、邪教の魔女に連れ去られたはずの幼馴染、ベルガー王国公爵令嬢シャルロッテ・ルインズベリーが邪教に協力していた魔女だったという事実を知る。
 レオノールも、女子寮で仲良くなったルリア・ニーマイヤーが邪教の魔女であった事実を知ってしまった。

 彼女たちは投獄されていた邪教の魔女にしてファインダ王国侯爵令嬢、リリ・クラークとロロ・クラークを脱獄させたのだ。

『『目覚めの時は近い。その時まで待つ』』

 私を見て呟いたリリとロロの無表情の言葉。

 色々わからない上に、翻弄されっぱなしだ。
 目覚めとは何か? 六賢魔とクレマンティーヌはどこにいるのか?

 私の師匠である魔女ディルが、六賢魔と行動を共にしていたという情報。
 一縷の望みを賭けて、魔女ディルの伝承が残るガーデリア領へと向かう私たちなのだ。

「そういえばローゼ、最近奇妙な夢は見ているのですか?」

 ヴィレッタの優しいまなざしに、私は少し言葉を詰まらせる。
 最近見た夢は断片的にしか思い出せないものの、そこに潜む不穏な空気は、私の心を強く締め付けていた。
 単なる悪夢というよりも、何か重要なメッセージが隠されているような、そんな感覚が残っていたから。

「うん、大丈夫。きっと変な夢を見たのはシャルロッテのことがあって動揺したからかも。あの時はみんなゴメンね。私の魔力が不安定になっちゃった影響で、みんなにも風邪を引かせちゃって」

「別に気にしなくていいわよ。ベッドで1日ぬくぬくできて、美味しい物も食べれたし」

「そうです! と言いますか、姉様も人間だと驚いたぐらいです!」

 おいこらベレニスにレオノール、少しはヴィレッタみたいに私を心配しろ。

「私も初めて風邪ってのを引いたよ~。ローゼに感謝しないとね~」

 クリス? 風邪はラッキーイベントじゃないぞ?

「ローゼさん、見た夢を思い出したら教えてくださいっすね。魔女の生態について興味深い現象っすので」

 フィーリア? 私を人間扱いしてないよね?

「変な夢だった、ぐらいしか覚えてないかな?」

 少し嘘。最近毎日見ている。
 徐々に輪郭がはっきりしているのを自覚している。
 ただ、もう魔力暴走はさせない。
 そんな思いが私の心に宿っていた。

「まあそんなことより、今日はゆっくり休んで明日にはガーデリアに到着するようにしよ」

 私のそんな声に、リョウもみんなも頷くのであった。

 翌日。

 グシュタードの喧騒を背に、私たちはガーデリア地方へと続く雪原を進んでいた。
 馬車が凍てついた土を踏むたび、鈍い軋みが車内に響く。
 空は灰色の雲に覆われ、陽光はどこにも見えず、白い大地は果てなく広がっている。
 遠くに霞む丘の影が、まるで動かぬ亡魂のように佇んでいた。

「うへえ、この景色、死んでるみたいね。何か派手なのが欲しいわ」

 ベレニスが窓に頬杖をついてぼやく。
 白銀の髪が肩に流れ落ち、緑の瞳が退屈そうに外を睨んでいる。

「派手なら魔獣が用意してくれるっすよ。昨日も襲ってきたし、今日も気を抜けないっす」

 フィーリアが地図を丸め、皮肉っぽく口にする。
 緑のツインテールが跳ね、茶色の目が私をチラリと見てきた。

 私は苦笑し、窓の外に目を向ける。

 御者台ではリョウが手綱を握る姿。
 黒髪が風に揺れ、黄土色の皮鎧が雪の白さに浮かぶ。
 腰の剣が静かに揺れ、いつでも戦える気配を漂わせていた。

 しばらく進むと、フタエゴとバラオビが嘶いた。
 視界に道端に黒い塊が横たわっているのが入る。

 近づくにつれ、それが商人の遺体だとわかった。
 服はズタズタに裂け、腕には深い爪痕が刻まれている。凍りついた顔は、恐怖で歪んだまま空を見上げていた。

 血の臭いが風に乗って鼻腔を刺す。
 どこかで嗅いだ記憶があるような、鉄錆のような匂いだ。
 その臭いに、私の胸がざわつく。

「うっ……魔獣に殺られたのかな~」

 クリスが鼻を押さえ、顔をしかめた。
 赤い髪が首に絡まり、赤い瞳が嫌そうに遺体から目を背けた。

 そのままにしてはおけないと、私たちは雪原で穴を掘って死体を埋葬し、女神フェロニアの信徒であるヴィレッタの祈りの言葉を私たちは耳にした。

 その行為も、胸に広がる重苦しさを拭い去るには足りない気分だ。

 しばらく進むも気分が晴れないまま、私は窓に額を預け、白い大地を眺めていた。
 どこまでも続く単調な景色に、寂しさが滲む。

(アニスの夢と現実が重なる……血の臭い、死の気配。同じ過ちを繰り返させない)

 その時、視界が歪み、耳元で風の音が変わる。
 まるで現実と異なる時間の流れが、私の意識を侵食していくかのように。
 
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜

一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m ✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。 【あらすじ】 神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!   そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!  事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます! カクヨム(吉野 ひな)にて、先行投稿しています。

男女比がおかしい世界の貴族に転生してしまった件

美鈴
ファンタジー
転生したのは男性が少ない世界!?貴族に生まれたのはいいけど、どういう風に生きていこう…? 最新章の第五章も夕方18時に更新予定です! ☆の話は苦手な人は飛ばしても問題無い様に物語を紡いでおります。 ※ホットランキング1位、ファンタジーランキング3位ありがとうございます! ※カクヨム様にも投稿しております。内容が大幅に異なり改稿しております。 ※各種ランキング1位を頂いた事がある作品です!

ネグレクトされていた四歳の末娘は、前世の経理知識で実家の横領を見抜き追放されました。これからはもふもふ聖獣と美食巡りの旅に出ます。

旅する書斎(☆ほしい)
ファンタジー
アークライト子爵家の四歳の末娘リリアは、家族から存在しないものとして扱われていた。食事は厨房の残飯、衣服は兄姉のお下がりを更に継ぎ接ぎしたもの。冷たい床で眠る日々の中、彼女は高熱を出したことをきっかけに前世の記憶を取り戻す。 前世の彼女は、ブラック企業で過労死した経理担当のOLだった。 ある日、父の書斎に忍び込んだリリアは、ずさんな管理の家計簿を発見する。前世の知識でそれを読み解くと、父による悪質な横領と、家の財産がすでに破綻寸前であることが判明した。 「この家は、もうすぐ潰れます」 家族会議の場で、リリアはたった四歳とは思えぬ明瞭な口調で破産の事実を突きつける。激昂した父に「疫病神め!」と罵られ家を追い出されたリリアだったが、それは彼女の望むところだった。 手切れ金代わりの銅貨数枚を握りしめ、自由を手に入れたリリア。これからは誰にも縛られず、前世で夢見た美味しいものをたくさん食べる生活を目指す。

3歳で捨てられた件

玲羅
恋愛
前世の記憶を持つ者が1000人に1人は居る時代。 それゆえに変わった子供扱いをされ、疎まれて捨てられた少女、キャプシーヌ。拾ったのは宰相を務めるフェルナー侯爵。 キャプシーヌの運命が再度変わったのは貴族学院入学後だった。

クラス転移したからクラスの奴に復讐します

wrath
ファンタジー
俺こと灞熾蘑 煌羈はクラスでいじめられていた。 ある日、突然クラスが光輝き俺のいる3年1組は異世界へと召喚されることになった。 だが、俺はそこへ転移する前に神様にお呼ばれし……。 クラスの奴らよりも強くなった俺はクラスの奴らに復讐します。 まだまだ未熟者なので誤字脱字が多いと思いますが長〜い目で見守ってください。 閑話の時系列がおかしいんじゃない?やこの漢字間違ってるよね?など、ところどころにおかしい点がありましたら気軽にコメントで教えてください。 追伸、 雫ストーリーを別で作りました。雫が亡くなる瞬間の心情や死んだ後の天国でのお話を書いてます。 気になった方は是非読んでみてください。

断罪後のモブ令息、誰にも気づかれずに出奔する

まる
ファンタジー
断罪後のモブ令息が誰にも気づかれないよう出奔して幸せを探す話

45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる

よっしぃ
ファンタジー
2巻決定しました! 【書籍版 大ヒット御礼!オリコン18位&続刊決定!】 皆様の熱狂的な応援のおかげで、書籍版『45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる』が、オリコン週間ライトノベルランキング18位、そしてアルファポリス様の書店売上ランキングでトップ10入りを記録しました! 本当に、本当にありがとうございます! 皆様の応援が、最高の形で「続刊(2巻)」へと繋がりました。 市丸きすけ先生による、素晴らしい書影も必見です! 【作品紹介】 欲望に取りつかれた権力者が企んだ「スキル強奪」のための勇者召喚。 だが、その儀式に巻き込まれたのは、どこにでもいる普通のサラリーマン――白河小次郎、45歳。 彼に与えられたのは、派手な攻撃魔法ではない。 【鑑定】【いんたーねっと?】【異世界売買】【テイマー】…etc. その一つ一つが、世界の理すら書き換えかねない、規格外の「便利スキル」だった。 欲望者から逃げ切るか、それとも、サラリーマンとして培った「知識」と、チート級のスキルを武器に、反撃の狼煙を上げるか。 気のいいおっさんの、優しくて、ずる賢い、まったり異世界サバイバルが、今、始まる! 【書誌情報】 タイトル: 『45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる』 著者: よっしぃ イラスト: 市丸きすけ 先生 出版社: アルファポリス ご購入はこちらから: Amazon: https://www.amazon.co.jp/dp/4434364235/ 楽天ブックス: https://books.rakuten.co.jp/rb/18361791/ 【作者より、感謝を込めて】 この日を迎えられたのは、長年にわたり、Webで私の拙い物語を応援し続けてくださった、読者の皆様のおかげです。 そして、この物語を見つけ出し、最高の形で世に送り出してくださる、担当編集者様、イラストレーターの市丸きすけ先生、全ての関係者の皆様に、心からの感謝を。 本当に、ありがとうございます。 【これまでの主な実績】 アルファポリス ファンタジー部門 1位獲得 小説家になろう 異世界転移/転移ジャンル(日間) 5位獲得 アルファポリス 第16回ファンタジー小説大賞 奨励賞受賞 第6回カクヨムWeb小説コンテスト 中間選考通過 復活の大カクヨムチャレンジカップ 9位入賞 ファミ通文庫大賞 一次選考通過

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

処理中です...