【魔女ローゼマリー伝説】~5歳で存在を忘れられた元王女の私だけど、自称美少女天才魔女として世界を救うために冒険したいと思います!~

ハムえっぐ

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第6章 雪原は鮮血に染まる

第30話 白銀の魔獣

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 窓から外を覗くと、いつの間にか馬車の周囲を黒い影が取り囲んでいた。
 ギラギラと赤い瞳を光らせ、涎を垂らしながら低い唸り声を上げる、狼型の魔獣。その数は十数頭。
 明らかにただの遭遇ではない。待ち伏せされていた?

「みんな、戦闘準備!」

 リョウが叫び剣を抜く音と同時に、私も白銀の杖を強く握りしめた。
 ヴィレッタが私の背後で祈りの言葉を唱え、神聖な光が彼女の手元に集まる。

「ローゼ、無理はなさらないでくださいませ。私が全力で援護します!」

「ありがとう、ヴィレッタ! みんな、行こう!」

 私は杖を構えて炎の魔法を練り上げる。
 雪原に最初の火柱が上がり、魔獣たちが一斉に吠えかかってきた。
 飛びかかってくる黒い影。
 その瞬間、私の心の奥底で、夢の中のアニスの叫びが、再び響いた気がした。

「……私が、守る!」

 その言葉は私の意志となり、杖から放たれる炎に更なる力を与えた。

「数が多すぎるっす! それに、この嫌な感じ……ただの魔獣じゃないっすよ! 近くに、もっとヤバいのがいる気配がするっす!」

 フィーリアが魔導弾を連射し、魔獣を蹴散らしながら叫ぶ。
 彼女の言葉通り、魔獣たちの動きは統率が取れており、背後に強力な指揮官がいることを感じさせた。

 激しい戦闘の最中、狼たちの群れが割れ、その奥からひときわ巨大な影が姿を現した。
 雪のように白い毛皮に燃えるような赤い瞳、そして全身から放たれる圧倒的な威圧感。
 見るからにただの魔獣ではない。古代の伝承に語られる、伝説の魔獣だ。

「あれは……七英雄物語に出てきた、白豹将軍バアフィンに仕えていたという白銀の魔獣……シルバータイラント!」

 私が叫ぶのと、その巨体が猛然と突進してくるのは同時だった。体長は10メートルを優に超え、その動きは巨体からは想像もつかないほど俊敏だ。
 鋭い爪が振り下ろされ、凍てついた大地が容易く引き裂かれる!

「くっ……! みんな、集中して! あのデカいのを先に叩く!」

 私の指示と共に仲間たちが一斉に動く。
 私の灼熱の炎、ヴィレッタの聖なる光の矢、ベレニスの鋭い風の刃、フィーリアの魔導弾、レオノールの二対の剣、リョウの漆黒の剣閃、そしてクリスの長剣が、白銀の魔獣へと叩き込まれる!

 シルバータイラントは猛り狂い、凄まじい咆哮と共に氷のブレスを吐き出す。
 私たちは咄嗟に散開し、あるいは防御魔法でそれを受け止める。

 リョウが前衛で斬りかかり、レオノールが側面から撹乱し、ベレニスとクリスが高い位置から攻撃を加え、私とヴィレッタ、フィーリアが後方から魔法と魔導具で援護する。

 激しい攻防が続く。シルバータイラントの爪と牙は強力で、一撃でも食らえば致命傷になりかねない。
 リョウの鎧が爪で引き裂かれ、ベレニスが氷の破片で傷つく。それでも、私たちは誰1人怯まなかった。

「今! 全力で叩き込む!」

 私が叫び、残る魔力を振り絞って最大級の炎槍を放つ!
 それと同時に仲間たちの攻撃も一点に集中した。
 ヴィレッタの聖なる光が魔獣の動きを鈍らせ、リョウの渾身の一撃が硬い毛皮を貫き、クリスが傷口をさらに深くえぐり、ベレニスとレオノールの追撃が止めを刺した!

「グルオオオオオオオッ…………」

 断末魔の咆哮を残し、白銀の巨体はゆっくりと雪原に崩れ落ちて動かなくなった。
 周囲を取り囲んでいた狼型の魔獣たちも、主を失ったことで混乱したのか散り散りに逃げていった。

「はあっ……はあっ……!」

 激しい戦闘の末の静寂。
 焦げ付いたような臭いと血の匂いが、冷たい風に乗って漂ってくる。

 私は杖を地面に突いて、荒い息を整えながら膝をついた。
 仲間たちも、それぞれ消耗しきった様子で互いの無事を確認し合っていた。

 シルバータイラントが倒れた場所には、キラリと光る赤い宝石のようなものが落ちていた。

「なにこれ? ……魔石? 結構綺麗だけど、お金になるのかしら?」

 ベレニスが拾い上げようとする。

「待つっす、ベレニスさん。こういうのは大抵、何かの仕掛けの鍵になっているのがお約束っすよ」

 フィーリアが冷静に制し、その赤い魔石を慎重に回収した。

「……結局、墓らしいものは、ここには見当たらないな」

 リョウが周囲を見渡しながら呟いた。

「そうね……千年以上も前のことだもの。風雪に埋もれてしまったのかも……」

 私は荒涼とした雪原を眺めながら答えた。

 戦闘は終わった。
 でも私の胸の中には、アニスの記憶の断片と、先ほど見た黒髪の少女の幻影、そしてこの戦いがこれから始まるであろう、もっと大きな何かの序章に過ぎないという、重苦しい予感がまだ強く残っていた。
 
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