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第7章 絶望の鐘
第9話 ディンレル王国滅亡 神話のエルフ
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王都リュンカーラにあるドワーフ工房店、店主のグラベックは来訪者の応対に追われていた。
店の中は金属の冷たい匂いと、木炭の燃える香りが交錯し、静かに働くドワーフたちの手元には精緻な剣や防具が並べられている。
「リュンカーラを去れ、か。忠告は感謝する。だが我らがシュタイン王の名を汚すわけにはいかん。滅びるからと、沈む船からネズミが逃げるように去るのはドワーフの恥よ」
頑固に言い放つグラベックの声は、他の訪問者たちを振り返らせるほど力強い。
グラベックの言葉を受けて、古くからの顔馴染みであり、クレマンティーヌとも親しいエルフのアレゼルは緑髪緑眼の美貌をわずかに曇らせ、嘆息を漏らす。
「人の争いに巻き込まれ、死ぬ必要はなかろう」
ここに来る直前、アレゼルは牢にいるクレマンティーヌにも告げたが拒否された。
幼き頃から知るクレマンティーヌに、舌打ちをもって憤りを表す。
「あの楽観主義者め。『なんとかするさね』といつものように返事されたが、今回ばかりはどうにもならない」
「クレマンティーヌなら大丈夫じゃろ。あの娘なら何があっても生きておろう。何しろ、フェロニア大司祭の御息女なのだからな。女神の加護があろうて。儂らドワーフとてそうよ。寿命はともかく、生命力と耐久力はエルフより儂らが上よ」
グラベックは力強く言い放った。
「……そうか。忠告はしたぞ。他のドワーフや亜人どもに伝えておいてくれ。残る残らないの選択はそれぞれ個人の判断に任せる。数百居るエルフには、先刻風に乗せて通達してある。無視しているのはエレミアとエレノアくらいか。その2人以外からはすでに応答があり、大半が里に戻るとのことだ」
「さすがはアレゼルよ。エルフの先代女王に一番長く仕えた女神の時代を知る者よ。そのような精霊魔法、儂らドワーフの技術では永遠に到達出来ぬ」
グラベックはアレゼルを称えた後、作業台へ戻り、ミスリル製の剣や鎧の品定めに取り掛かる。
戦いが始まるなら、武具はすぐに売れるはずだ。
信じる者に売ると決意した彼は、これらの武具が来るべき戦いで役立つことを願った。
(エレミアとエレノアに直接会い、連れ帰るか。それで終いだ)
心に決めたアレゼルは踵を返し、喧騒を極める王都の街並みを眺めた。
人々の間から聞こえる声にはアリス姫とアニス姫を心配するものが多かったが、どこか「なんとかなるさ」という雰囲気も漂っている。
(2人の姫は人気が高い。姉妹仲も良い。魔女としての才能も群を抜くという。あのクレマンティーヌが入れ込み、数年滞在しただけはあるのだろう)
内心で分析しつつも、アレゼルは険しい表情を浮かべる。
人の身では災厄に勝てぬのだ。
「10年後、アリス様は玉座に座り愛する人を隣にし、アニス様は美しい光を放つ魔法を使いこなしているんだぜ。なら大丈夫さ。両姫様が幸せなのだ、ならリュンカーラもディンレル王国も未来は輝かしいってものよ!」
ふと耳に入ったのは大声で叫ぶ男の声。
男は大工のようで、群衆は彼の言葉に頷きながら耳を傾けていた。
(危険な噂話だ。断片的な情報を鵜呑みにしている。魔女か巫女の占いか? 意図的に流布しているのなら、放置や無視はできぬ。特に精霊は悪意を告げていないようだが)
そう考えたアレゼルは気になり、男に噂を誰から聞いたのかを尋ねた。
「うへえ。すんごい別嬪さんなエルフさんで……えへ、ササスって男でさあ、教会のザックス神官様に仕えている中年の男です」
「ほう、これは礼だ」
アレゼルはそう言って、金貨を渡し、デレデレする男や見惚れる群衆の中を去った。
(チラッと、クレマンティーヌから聞いていたな。特に才はないが酒好きの善人と。大方耳にした話を、考えもせず流布しているのだろう)
アレゼルは人の滅びなど、どうでもいい。
エレミアとエレノアの若きエルフ姉妹を、未来へ繋げるのが彼女の使命だ。
(フォレスタを支える、これからの存在よ。ここで無意味に死なすわけにはいかぬ)
その思いがアレゼルの心を駆け抜け、彼女の足取りは自然と速くなる。
街の喧騒を背に、彼女は未来を切り開くために進み続けた。
店の中は金属の冷たい匂いと、木炭の燃える香りが交錯し、静かに働くドワーフたちの手元には精緻な剣や防具が並べられている。
「リュンカーラを去れ、か。忠告は感謝する。だが我らがシュタイン王の名を汚すわけにはいかん。滅びるからと、沈む船からネズミが逃げるように去るのはドワーフの恥よ」
頑固に言い放つグラベックの声は、他の訪問者たちを振り返らせるほど力強い。
グラベックの言葉を受けて、古くからの顔馴染みであり、クレマンティーヌとも親しいエルフのアレゼルは緑髪緑眼の美貌をわずかに曇らせ、嘆息を漏らす。
「人の争いに巻き込まれ、死ぬ必要はなかろう」
ここに来る直前、アレゼルは牢にいるクレマンティーヌにも告げたが拒否された。
幼き頃から知るクレマンティーヌに、舌打ちをもって憤りを表す。
「あの楽観主義者め。『なんとかするさね』といつものように返事されたが、今回ばかりはどうにもならない」
「クレマンティーヌなら大丈夫じゃろ。あの娘なら何があっても生きておろう。何しろ、フェロニア大司祭の御息女なのだからな。女神の加護があろうて。儂らドワーフとてそうよ。寿命はともかく、生命力と耐久力はエルフより儂らが上よ」
グラベックは力強く言い放った。
「……そうか。忠告はしたぞ。他のドワーフや亜人どもに伝えておいてくれ。残る残らないの選択はそれぞれ個人の判断に任せる。数百居るエルフには、先刻風に乗せて通達してある。無視しているのはエレミアとエレノアくらいか。その2人以外からはすでに応答があり、大半が里に戻るとのことだ」
「さすがはアレゼルよ。エルフの先代女王に一番長く仕えた女神の時代を知る者よ。そのような精霊魔法、儂らドワーフの技術では永遠に到達出来ぬ」
グラベックはアレゼルを称えた後、作業台へ戻り、ミスリル製の剣や鎧の品定めに取り掛かる。
戦いが始まるなら、武具はすぐに売れるはずだ。
信じる者に売ると決意した彼は、これらの武具が来るべき戦いで役立つことを願った。
(エレミアとエレノアに直接会い、連れ帰るか。それで終いだ)
心に決めたアレゼルは踵を返し、喧騒を極める王都の街並みを眺めた。
人々の間から聞こえる声にはアリス姫とアニス姫を心配するものが多かったが、どこか「なんとかなるさ」という雰囲気も漂っている。
(2人の姫は人気が高い。姉妹仲も良い。魔女としての才能も群を抜くという。あのクレマンティーヌが入れ込み、数年滞在しただけはあるのだろう)
内心で分析しつつも、アレゼルは険しい表情を浮かべる。
人の身では災厄に勝てぬのだ。
「10年後、アリス様は玉座に座り愛する人を隣にし、アニス様は美しい光を放つ魔法を使いこなしているんだぜ。なら大丈夫さ。両姫様が幸せなのだ、ならリュンカーラもディンレル王国も未来は輝かしいってものよ!」
ふと耳に入ったのは大声で叫ぶ男の声。
男は大工のようで、群衆は彼の言葉に頷きながら耳を傾けていた。
(危険な噂話だ。断片的な情報を鵜呑みにしている。魔女か巫女の占いか? 意図的に流布しているのなら、放置や無視はできぬ。特に精霊は悪意を告げていないようだが)
そう考えたアレゼルは気になり、男に噂を誰から聞いたのかを尋ねた。
「うへえ。すんごい別嬪さんなエルフさんで……えへ、ササスって男でさあ、教会のザックス神官様に仕えている中年の男です」
「ほう、これは礼だ」
アレゼルはそう言って、金貨を渡し、デレデレする男や見惚れる群衆の中を去った。
(チラッと、クレマンティーヌから聞いていたな。特に才はないが酒好きの善人と。大方耳にした話を、考えもせず流布しているのだろう)
アレゼルは人の滅びなど、どうでもいい。
エレミアとエレノアの若きエルフ姉妹を、未来へ繋げるのが彼女の使命だ。
(フォレスタを支える、これからの存在よ。ここで無意味に死なすわけにはいかぬ)
その思いがアレゼルの心を駆け抜け、彼女の足取りは自然と速くなる。
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