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第7章 絶望の鐘
第25話 ディンレル王国滅亡 リュンカーラ滅亡
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アリスを閉ざしていた、クレマンティーヌ特製の結界魔法。
蜘蛛の巣めいて張り巡らされた幾重もの光条が、音を立てて千切れていく。
崩壊の奔流から、禍々しい赤黒のオーラが渦を巻いて噴き上がった。
アレゼルは天を衝く異様な気配に、ただ息を呑んだ。
早すぎる。何者かの陰謀が最悪の形で実を結んだということだけが直感で理解できた。
砕け散る結界の奥から現れる、アリス姫の傍らにいる漆黒の翼を持つルシフェルの姿を見て、アレゼルは全てを悟った。
「ルシフェルか。陰謀の主が貴様だったとはな。……アリス姫。もはや手遅れと見えるが、敢えて問おう。何をする気だ?」
アレゼルの声には怒りと深い諦念が重く滲んでいる。
「あら、びっくり。どうしてここに? でも好都合ですわ。アレゼル様、ご覧なさい? 今からリュンカーラの民の命を贄に、愛しいヒイラギを呼び覚ますのですから」
アリスの言葉は無邪気な響きを帯び、それでいて底なしの狂気を孕んでいた。
かつての凛とした気高さ、慈愛に満ちた面影は見る影もない。
彼女の瞳は血のように燃え盛る赤に染まっている。
「させん!」
アレゼルの怒号が崩れゆく結界の残滓を震わせた。
「させない? ……あらあら、何か勘違いをなさいましたか。エレミアとエレノアはお友達ですもの、命まで奪うつもりはございません。他のエルフの方々にも、どうぞアレゼル様からお伝えくださいな。私に仕えるならば、これまで以上の安寧と幸福をお約束します、と」
アリスの言葉は、計算高さに裏打ちされているかのように冷え切っている。
人の命を、まるで駒のように扱うのが当然であるかのように。
「仕えるだと? 王気取りか。父君である国王陛下はどうするのだ?」
アレゼルは彼女の狂気に呑まれまいと、最後の理性を振り絞る。
「殺します。あの父が、ブロッケンと組んでヒイラギを陥れたのですもの。ああ! 本当に無能! 私がさっさと王位を継いでいれば、こんな悲劇は起きなかったのにッ!」
アリスの絶叫と共に、彼女の身体から想像を絶する魔力が奔出した。
それは王都を呑み込む炎の奔流。
天を焦がす巨大な渦となって膨張し、リュンカーラを遥かに超える範囲を瞬く間に焦土に変えていく。
紅蓮の炎が一瞬にしてリュンカーラを包んだ。
アレゼルは言葉もなく、恐怖に体が震える。
すると、ルシフェルがボソリとアリスに呟いた。
「魔王様。このエルフは仲間に風の精霊を使い、我々のことを報せました。あなたに仕える気はない模様です」
ルシフェルの報告に、アリスの視線が鋭くアレゼルを射抜く。
「おのれルシフェル! フェロニア様を裏切った堕天者が!」
アレゼルの最後の叫びは怒りと悔恨に満ちていたが、アリスの凄まじい魔力の奔流にかき消されてしまう。
アリスの魔力が一条の閃光となり、アレゼルの胸を穿つ。
抵抗する間もなく、彼女の身体は血飛沫を噴出させ、糸の切れた人形のように崩れ落ちていく。
「そう、残念ね」
アリスの唇が残酷な笑みを刻み、瞳は肉塊と化したアレゼルを冷ややかに見下ろす。
「さて、と。うん♪ 白亜宮も貴族街も、綺麗に燃えてる。人が焼ける匂い、芳しいわ。……でも、ヒイラギはまだ目覚めないの。ねえ、ルシフェル、平民街へ行きましょう? エレノアとエレミアなら、きっと力を貸してくれる。お友達ですもの」
アリスは無邪気な子供のように、眼前の惨状にありのままの感想を口にした。
「アノス王の燃える様をご覧にならずともよろしいので?」
ルシフェルが問うと、アリスは虚空を見つめた。
千里眼。
溢れる魔力が可能にした、アリスの新たな能力。
「そうね、一応見ておきましょうか。……うん、もう真っ黒焦げで死んでたわ」
千里を見通す力を手にしたアリスの愉悦は、もはや誰にも止められない。
彼女は高らかに、最高の気分で笑い声を上げた。
「あーっはっは! 我が名は魔王アリス・ディンレル! 今なら出来る! 魔界の門を開くことも! 最愛の人を甦らせることも! さあ! 我を讃えよ! そして平伏せよ! 人間ども!」
狂喜の笑みを浮かべ、アリスは王都リュンカーラを蹂躙する。
ルシフェルもまた、リュンカーラの惨状を愉しげに見つつも、どこか冷めた瞳で唇の端を吊り上げていた。
アレゼルの亡骸は炎に包まれ、やがて灰と化し、骨も残さず消滅していった。
紅蓮の劫火燃え盛る中、ついにヒイラギの目がゆっくりと開く。
「アリス……様」
ヒイラギのかすれた声が、燃え盛る炎の音に混じり、消え入りそうに響く。
「目覚めたのね、ヒイラギ。気分はどう?」
アリスは愛おしげにヒイラギに駆け寄り、彼の温もりを確かめるように抱きしめる。
「……俺は……そうだ、ガーデリア兵のいる峡谷へ飛んだ。そこで矢を受け、ブロッケンの槍に貫かれ……谷底へ落とされた。……フフ、俺が愚かだった。この世で信じられるのはアリス様、あなただけ。この蘇った命、永遠の誓いをあなたに捧げよう」
ヒイラギの言葉はアリスへの絶対的な帰依を示していた。
彼の瞳に、かつての理性の光は欠片も残っていない。
アリスはヒイラギを強く抱きしめ、熱い口づけを交わす。
二度と永遠の別れを許さない儀式のように。
燃え盛るリュンカーラを背景にしながら。
こうして王都リュンカーラは、魔王アリスの手により滅び去った。
蜘蛛の巣めいて張り巡らされた幾重もの光条が、音を立てて千切れていく。
崩壊の奔流から、禍々しい赤黒のオーラが渦を巻いて噴き上がった。
アレゼルは天を衝く異様な気配に、ただ息を呑んだ。
早すぎる。何者かの陰謀が最悪の形で実を結んだということだけが直感で理解できた。
砕け散る結界の奥から現れる、アリス姫の傍らにいる漆黒の翼を持つルシフェルの姿を見て、アレゼルは全てを悟った。
「ルシフェルか。陰謀の主が貴様だったとはな。……アリス姫。もはや手遅れと見えるが、敢えて問おう。何をする気だ?」
アレゼルの声には怒りと深い諦念が重く滲んでいる。
「あら、びっくり。どうしてここに? でも好都合ですわ。アレゼル様、ご覧なさい? 今からリュンカーラの民の命を贄に、愛しいヒイラギを呼び覚ますのですから」
アリスの言葉は無邪気な響きを帯び、それでいて底なしの狂気を孕んでいた。
かつての凛とした気高さ、慈愛に満ちた面影は見る影もない。
彼女の瞳は血のように燃え盛る赤に染まっている。
「させん!」
アレゼルの怒号が崩れゆく結界の残滓を震わせた。
「させない? ……あらあら、何か勘違いをなさいましたか。エレミアとエレノアはお友達ですもの、命まで奪うつもりはございません。他のエルフの方々にも、どうぞアレゼル様からお伝えくださいな。私に仕えるならば、これまで以上の安寧と幸福をお約束します、と」
アリスの言葉は、計算高さに裏打ちされているかのように冷え切っている。
人の命を、まるで駒のように扱うのが当然であるかのように。
「仕えるだと? 王気取りか。父君である国王陛下はどうするのだ?」
アレゼルは彼女の狂気に呑まれまいと、最後の理性を振り絞る。
「殺します。あの父が、ブロッケンと組んでヒイラギを陥れたのですもの。ああ! 本当に無能! 私がさっさと王位を継いでいれば、こんな悲劇は起きなかったのにッ!」
アリスの絶叫と共に、彼女の身体から想像を絶する魔力が奔出した。
それは王都を呑み込む炎の奔流。
天を焦がす巨大な渦となって膨張し、リュンカーラを遥かに超える範囲を瞬く間に焦土に変えていく。
紅蓮の炎が一瞬にしてリュンカーラを包んだ。
アレゼルは言葉もなく、恐怖に体が震える。
すると、ルシフェルがボソリとアリスに呟いた。
「魔王様。このエルフは仲間に風の精霊を使い、我々のことを報せました。あなたに仕える気はない模様です」
ルシフェルの報告に、アリスの視線が鋭くアレゼルを射抜く。
「おのれルシフェル! フェロニア様を裏切った堕天者が!」
アレゼルの最後の叫びは怒りと悔恨に満ちていたが、アリスの凄まじい魔力の奔流にかき消されてしまう。
アリスの魔力が一条の閃光となり、アレゼルの胸を穿つ。
抵抗する間もなく、彼女の身体は血飛沫を噴出させ、糸の切れた人形のように崩れ落ちていく。
「そう、残念ね」
アリスの唇が残酷な笑みを刻み、瞳は肉塊と化したアレゼルを冷ややかに見下ろす。
「さて、と。うん♪ 白亜宮も貴族街も、綺麗に燃えてる。人が焼ける匂い、芳しいわ。……でも、ヒイラギはまだ目覚めないの。ねえ、ルシフェル、平民街へ行きましょう? エレノアとエレミアなら、きっと力を貸してくれる。お友達ですもの」
アリスは無邪気な子供のように、眼前の惨状にありのままの感想を口にした。
「アノス王の燃える様をご覧にならずともよろしいので?」
ルシフェルが問うと、アリスは虚空を見つめた。
千里眼。
溢れる魔力が可能にした、アリスの新たな能力。
「そうね、一応見ておきましょうか。……うん、もう真っ黒焦げで死んでたわ」
千里を見通す力を手にしたアリスの愉悦は、もはや誰にも止められない。
彼女は高らかに、最高の気分で笑い声を上げた。
「あーっはっは! 我が名は魔王アリス・ディンレル! 今なら出来る! 魔界の門を開くことも! 最愛の人を甦らせることも! さあ! 我を讃えよ! そして平伏せよ! 人間ども!」
狂喜の笑みを浮かべ、アリスは王都リュンカーラを蹂躙する。
ルシフェルもまた、リュンカーラの惨状を愉しげに見つつも、どこか冷めた瞳で唇の端を吊り上げていた。
アレゼルの亡骸は炎に包まれ、やがて灰と化し、骨も残さず消滅していった。
紅蓮の劫火燃え盛る中、ついにヒイラギの目がゆっくりと開く。
「アリス……様」
ヒイラギのかすれた声が、燃え盛る炎の音に混じり、消え入りそうに響く。
「目覚めたのね、ヒイラギ。気分はどう?」
アリスは愛おしげにヒイラギに駆け寄り、彼の温もりを確かめるように抱きしめる。
「……俺は……そうだ、ガーデリア兵のいる峡谷へ飛んだ。そこで矢を受け、ブロッケンの槍に貫かれ……谷底へ落とされた。……フフ、俺が愚かだった。この世で信じられるのはアリス様、あなただけ。この蘇った命、永遠の誓いをあなたに捧げよう」
ヒイラギの言葉はアリスへの絶対的な帰依を示していた。
彼の瞳に、かつての理性の光は欠片も残っていない。
アリスはヒイラギを強く抱きしめ、熱い口づけを交わす。
二度と永遠の別れを許さない儀式のように。
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こうして王都リュンカーラは、魔王アリスの手により滅び去った。
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