【魔女ローゼマリー伝説】~5歳で存在を忘れられた元王女の私だけど、自称美少女天才魔女として世界を救うために冒険したいと思います!~

ハムえっぐ

文字の大きさ
265 / 314
第7章 絶望の鐘

第25話 ディンレル王国滅亡 リュンカーラ滅亡

しおりを挟む
 アリスを閉ざしていた、クレマンティーヌ特製の結界魔法。
 蜘蛛の巣めいて張り巡らされた幾重もの光条が、音を立てて千切れていく。

 崩壊の奔流から、禍々しい赤黒のオーラが渦を巻いて噴き上がった。
 アレゼルは天を衝く異様な気配に、ただ息を呑んだ。

 早すぎる。何者かの陰謀が最悪の形で実を結んだということだけが直感で理解できた。
 砕け散る結界の奥から現れる、アリス姫の傍らにいる漆黒の翼を持つルシフェルの姿を見て、アレゼルは全てを悟った。

「ルシフェルか。陰謀の主が貴様だったとはな。……アリス姫。もはや手遅れと見えるが、敢えて問おう。何をする気だ?」

 アレゼルの声には怒りと深い諦念が重く滲んでいる。

「あら、びっくり。どうしてここに? でも好都合ですわ。アレゼル様、ご覧なさい? 今からリュンカーラの民の命を贄に、愛しいヒイラギを呼び覚ますのですから」

 アリスの言葉は無邪気な響きを帯び、それでいて底なしの狂気を孕んでいた。
 かつての凛とした気高さ、慈愛に満ちた面影は見る影もない。
 彼女の瞳は血のように燃え盛る赤に染まっている。

「させん!」

 アレゼルの怒号が崩れゆく結界の残滓を震わせた。

「させない? ……あらあら、何か勘違いをなさいましたか。エレミアとエレノアはお友達ですもの、命まで奪うつもりはございません。他のエルフの方々にも、どうぞアレゼル様からお伝えくださいな。私に仕えるならば、これまで以上の安寧と幸福をお約束します、と」

 アリスの言葉は、計算高さに裏打ちされているかのように冷え切っている。
 人の命を、まるで駒のように扱うのが当然であるかのように。

「仕えるだと? 王気取りか。父君である国王陛下はどうするのだ?」

 アレゼルは彼女の狂気に呑まれまいと、最後の理性を振り絞る。

「殺します。あの父が、ブロッケンと組んでヒイラギを陥れたのですもの。ああ! 本当に無能! 私がさっさと王位を継いでいれば、こんな悲劇は起きなかったのにッ!」

 アリスの絶叫と共に、彼女の身体から想像を絶する魔力が奔出した。
 それは王都を呑み込む炎の奔流。
 天を焦がす巨大な渦となって膨張し、リュンカーラを遥かに超える範囲を瞬く間に焦土に変えていく。
 紅蓮の炎が一瞬にしてリュンカーラを包んだ。

 アレゼルは言葉もなく、恐怖に体が震える。
 すると、ルシフェルがボソリとアリスに呟いた。

「魔王様。このエルフは仲間に風の精霊を使い、我々のことを報せました。あなたに仕える気はない模様です」

 ルシフェルの報告に、アリスの視線が鋭くアレゼルを射抜く。

「おのれルシフェル! フェロニア様を裏切った堕天者が!」

 アレゼルの最後の叫びは怒りと悔恨に満ちていたが、アリスの凄まじい魔力の奔流にかき消されてしまう。

 アリスの魔力が一条の閃光となり、アレゼルの胸を穿つ。
 抵抗する間もなく、彼女の身体は血飛沫を噴出させ、糸の切れた人形のように崩れ落ちていく。

「そう、残念ね」

 アリスの唇が残酷な笑みを刻み、瞳は肉塊と化したアレゼルを冷ややかに見下ろす。

「さて、と。うん♪ 白亜宮も貴族街も、綺麗に燃えてる。人が焼ける匂い、芳しいわ。……でも、ヒイラギはまだ目覚めないの。ねえ、ルシフェル、平民街へ行きましょう? エレノアとエレミアなら、きっと力を貸してくれる。お友達ですもの」

 アリスは無邪気な子供のように、眼前の惨状にありのままの感想を口にした。

「アノス王の燃える様をご覧にならずともよろしいので?」

 ルシフェルが問うと、アリスは虚空を見つめた。
 千里眼。
 溢れる魔力が可能にした、アリスの新たな能力。

「そうね、一応見ておきましょうか。……うん、もう真っ黒焦げで死んでたわ」

 千里を見通す力を手にしたアリスの愉悦は、もはや誰にも止められない。
 彼女は高らかに、最高の気分で笑い声を上げた。

「あーっはっは! 我が名は魔王アリス・ディンレル! 今なら出来る! 魔界の門を開くことも! 最愛の人を甦らせることも! さあ! 我を讃えよ! そして平伏せよ! 人間ども!」

 狂喜の笑みを浮かべ、アリスは王都リュンカーラを蹂躙する。
 ルシフェルもまた、リュンカーラの惨状を愉しげに見つつも、どこか冷めた瞳で唇の端を吊り上げていた。
 アレゼルの亡骸は炎に包まれ、やがて灰と化し、骨も残さず消滅していった。

 紅蓮の劫火燃え盛る中、ついにヒイラギの目がゆっくりと開く。

「アリス……様」

 ヒイラギのかすれた声が、燃え盛る炎の音に混じり、消え入りそうに響く。

「目覚めたのね、ヒイラギ。気分はどう?」

 アリスは愛おしげにヒイラギに駆け寄り、彼の温もりを確かめるように抱きしめる。

「……俺は……そうだ、ガーデリア兵のいる峡谷へ飛んだ。そこで矢を受け、ブロッケンの槍に貫かれ……谷底へ落とされた。……フフ、俺が愚かだった。この世で信じられるのはアリス様、あなただけ。この蘇った命、永遠の誓いをあなたに捧げよう」

 ヒイラギの言葉はアリスへの絶対的な帰依を示していた。
 彼の瞳に、かつての理性の光は欠片も残っていない。

 アリスはヒイラギを強く抱きしめ、熱い口づけを交わす。
 二度と永遠の別れを許さない儀式のように。
 燃え盛るリュンカーラを背景にしながら。

 こうして王都リュンカーラは、魔王アリスの手により滅び去った。
 
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜

一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m ✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。 【あらすじ】 神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!   そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!  事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます! カクヨム(吉野 ひな)にて、先行投稿しています。

男女比がおかしい世界の貴族に転生してしまった件

美鈴
ファンタジー
転生したのは男性が少ない世界!?貴族に生まれたのはいいけど、どういう風に生きていこう…? 最新章の第五章も夕方18時に更新予定です! ☆の話は苦手な人は飛ばしても問題無い様に物語を紡いでおります。 ※ホットランキング1位、ファンタジーランキング3位ありがとうございます! ※カクヨム様にも投稿しております。内容が大幅に異なり改稿しております。 ※各種ランキング1位を頂いた事がある作品です!

ネグレクトされていた四歳の末娘は、前世の経理知識で実家の横領を見抜き追放されました。これからはもふもふ聖獣と美食巡りの旅に出ます。

旅する書斎(☆ほしい)
ファンタジー
アークライト子爵家の四歳の末娘リリアは、家族から存在しないものとして扱われていた。食事は厨房の残飯、衣服は兄姉のお下がりを更に継ぎ接ぎしたもの。冷たい床で眠る日々の中、彼女は高熱を出したことをきっかけに前世の記憶を取り戻す。 前世の彼女は、ブラック企業で過労死した経理担当のOLだった。 ある日、父の書斎に忍び込んだリリアは、ずさんな管理の家計簿を発見する。前世の知識でそれを読み解くと、父による悪質な横領と、家の財産がすでに破綻寸前であることが判明した。 「この家は、もうすぐ潰れます」 家族会議の場で、リリアはたった四歳とは思えぬ明瞭な口調で破産の事実を突きつける。激昂した父に「疫病神め!」と罵られ家を追い出されたリリアだったが、それは彼女の望むところだった。 手切れ金代わりの銅貨数枚を握りしめ、自由を手に入れたリリア。これからは誰にも縛られず、前世で夢見た美味しいものをたくさん食べる生活を目指す。

3歳で捨てられた件

玲羅
恋愛
前世の記憶を持つ者が1000人に1人は居る時代。 それゆえに変わった子供扱いをされ、疎まれて捨てられた少女、キャプシーヌ。拾ったのは宰相を務めるフェルナー侯爵。 キャプシーヌの運命が再度変わったのは貴族学院入学後だった。

クラス転移したからクラスの奴に復讐します

wrath
ファンタジー
俺こと灞熾蘑 煌羈はクラスでいじめられていた。 ある日、突然クラスが光輝き俺のいる3年1組は異世界へと召喚されることになった。 だが、俺はそこへ転移する前に神様にお呼ばれし……。 クラスの奴らよりも強くなった俺はクラスの奴らに復讐します。 まだまだ未熟者なので誤字脱字が多いと思いますが長〜い目で見守ってください。 閑話の時系列がおかしいんじゃない?やこの漢字間違ってるよね?など、ところどころにおかしい点がありましたら気軽にコメントで教えてください。 追伸、 雫ストーリーを別で作りました。雫が亡くなる瞬間の心情や死んだ後の天国でのお話を書いてます。 気になった方は是非読んでみてください。

断罪後のモブ令息、誰にも気づかれずに出奔する

まる
ファンタジー
断罪後のモブ令息が誰にも気づかれないよう出奔して幸せを探す話

45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる

よっしぃ
ファンタジー
2巻決定しました! 【書籍版 大ヒット御礼!オリコン18位&続刊決定!】 皆様の熱狂的な応援のおかげで、書籍版『45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる』が、オリコン週間ライトノベルランキング18位、そしてアルファポリス様の書店売上ランキングでトップ10入りを記録しました! 本当に、本当にありがとうございます! 皆様の応援が、最高の形で「続刊(2巻)」へと繋がりました。 市丸きすけ先生による、素晴らしい書影も必見です! 【作品紹介】 欲望に取りつかれた権力者が企んだ「スキル強奪」のための勇者召喚。 だが、その儀式に巻き込まれたのは、どこにでもいる普通のサラリーマン――白河小次郎、45歳。 彼に与えられたのは、派手な攻撃魔法ではない。 【鑑定】【いんたーねっと?】【異世界売買】【テイマー】…etc. その一つ一つが、世界の理すら書き換えかねない、規格外の「便利スキル」だった。 欲望者から逃げ切るか、それとも、サラリーマンとして培った「知識」と、チート級のスキルを武器に、反撃の狼煙を上げるか。 気のいいおっさんの、優しくて、ずる賢い、まったり異世界サバイバルが、今、始まる! 【書誌情報】 タイトル: 『45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる』 著者: よっしぃ イラスト: 市丸きすけ 先生 出版社: アルファポリス ご購入はこちらから: Amazon: https://www.amazon.co.jp/dp/4434364235/ 楽天ブックス: https://books.rakuten.co.jp/rb/18361791/ 【作者より、感謝を込めて】 この日を迎えられたのは、長年にわたり、Webで私の拙い物語を応援し続けてくださった、読者の皆様のおかげです。 そして、この物語を見つけ出し、最高の形で世に送り出してくださる、担当編集者様、イラストレーターの市丸きすけ先生、全ての関係者の皆様に、心からの感謝を。 本当に、ありがとうございます。 【これまでの主な実績】 アルファポリス ファンタジー部門 1位獲得 小説家になろう 異世界転移/転移ジャンル(日間) 5位獲得 アルファポリス 第16回ファンタジー小説大賞 奨励賞受賞 第6回カクヨムWeb小説コンテスト 中間選考通過 復活の大カクヨムチャレンジカップ 9位入賞 ファミ通文庫大賞 一次選考通過

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

処理中です...