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第二十六話【アルベルト視点】
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「おい! もう家賃を3ヶ月も滞納してるぞ! 契約通り出て行け!」
1年を過ぎた頃に家も追い出された。家に毎月金が要るなど知らなかった。サブリナが、お金がある時にと先払いしていたから今まで住めていただけらしい。
サブリナが貯めていた金も残り少なく、滞納する家賃を払うほどの金は残っていなかった。
それからは、路上で生活していた。残った金も、すぐ乱暴者たちに取られた。
力尽きて、路上の隅でぼんやりしていると見覚えのある人物に出会った。騎士になったシルヴィアだ。
シルヴィアは、僕に路上生活者の支援の案内を始めた。ふふっ、やはりシルヴィアは僕が好きだったんだな。そんな案内するフリをして僕を助けるつもりだろう。
そう思い、シルヴィアの手を取ろうとしたら……。
「シルヴィア、残りの説明と案内はオレがやる。まだまだ困窮している市民は居るから次の人に声をかけてきてくれ」
「分かりました」
コイツ、騎士団の団長だよな。何故僕とシルヴィアの時間を邪魔するんだ。そう思って抗議しようとしたら、ものすごい殺気を当てられた。怖すぎて喋る事も出来ない。
団長は、僕を冷たい目で見ながらシルヴィアに話しかけた。
「なぁ、シルヴィア」
「はい、なんでしょうか?」
「アルベルトは、今何処に居るか知ってるか?」
「え……? アルベルトって、あのおバカさんですか?」
「ああ、あのアルベルトだ」
おバカさん? 僕の事を言っているのか?
「知りませんし、知りたくもありません。サブリナ様のように食い潰される女性が居ないかは心配ですけれど」
「サブリナを許してんのか?」
「いいえ、ですがあんな男と婚姻させてしまったのは申し訳なかったなと思います。万が一にでもこちらにまた擦り寄ってきたら困るからと、多少強引に話を進めてしまった自覚はありますから」
「確かに、婚姻届まで用意してるとは思わなかったぜ」
「アルベルト様をサブリナ様に押し付けた自覚はありますわ……」
「ま、あん時のサブリナはシルヴィアを敵視したたし、自業自得だ。オレはアルベルトの居場所を知ってるぜ。知りたいか?」
「いいえ、知りたくないですわ。興味もありませんし」
「だよなぁ……シルヴィアがアルベルトを心配して居場所を探すなんてありえねぇよなぁ……」
今までの会話を聞いていると、シルヴィアは僕の事が嫌いみたいじゃないか。そんな訳、ないよな……? それに、まるで僕が居ないかのような話ぶり。今の髭だらけの僕がアルベルトだと気がついていないのか?
団長が、僕を睨みつけながらシルヴィアに笑いかけ、シルヴィアの頬に手を当てる。
なんだ? シルヴィアはこんなに美しかったか?
「もちろんですわ! カルロ、もうアルベルト様の事を気にしないで下さいまし。わたくし、アルベルト様とこのような事もしなかったのですから!」
そう言って、真っ赤な顔のシルヴィアが団長の手にキスをしていた。手にキスは、貴族もよくやる。夜会でもよく見る。人前でしても、批判される行動ではない。あれから兄上に、散々マナーを叩き込まれたから、それくらいは覚えている。
そういえば、僕はシルヴィアにこのような事をしてもらった事はない。何故、団長にするんだ?
しかも、あんなに嬉しそうに。
「シルヴィア、仕事中だぜ?」
「手を差し出して来たのはカルロですわ!」
そう言って、シルヴィアは真っ赤な顔をして走って行った。
「シルヴィアは可愛いだろ? お固いつまらない女と冷遇して、堂々と浮気するなんてなぁ。誰かさんの見る目がなかったおかげで、シルヴィアはオレの婚約者だ。ありがとよ」
シルヴィアが、団長の婚約者だと?!
団長は公爵家だぞ?!
そんな……そんな上位貴族にシルヴィアが見初められるなんて……。騎士になったのは、結婚を諦めたからだと思っていたのに。
「女性を口説くには段階ってモンがあるんだよ。婚約者だからって何をしても良い訳じゃない。大事に慈しんで、信頼を得ないとなんにも出来ねぇよ。手のキスなら許されてるってのに、お前はいきなり口付けを迫ったんだろ? 拒否されて当然だぜ。おかげで、手のキスもオレが初めてだとよ。可愛いよなぁ」
そういえば婚約破棄のときにも、僕に好意を持った事は無かったと言われたな。負け惜しみだと思っていたがあれはシルヴィアの本音だったのか。
そうか……。僕はシルヴィアに嫌われていたのか。
そう思うと、急に目の前が真っ暗になった。
「何ショック受けてんだ? まさかあの態度で好かれてたなんて思ってねぇよな? サブリナも、もうお前の事なんてどうでも良いってよ」
サブリナも……?
僕は、学園ではシルヴィアの婚約者で、生徒会長のサブリナと恋人で、他の女性もたくさん寄ってきた。シルヴィアは最初は口煩かったが、従順に僕の仕事をしてくれていたのは僕に惚れたからだと思っていたのに、違ったのか……。
確かに、僕はシルヴィアには何をしても良いと思っていた。キスもしてくれないから、たくさん仕事を押し付けた。キスは、サブリナとすれば良いと思っていた。
それからは、路上で暮らしながら騎士団が案内してくれた炊き出しでなんとか食い繋いだ。無気力だった。シルヴィアも何度か手伝っていたが、団長が決して僕に近づけさせなかった。そんなある日、ニコニコ笑いながら炊き出しをするサブリナを見つけた。
話しかけたら、冷たくあしらわれた。頭にきて怒鳴りつけたら、シルヴィアが怒ってサブリナを助け出した。
その時初めて、シルヴィアは僕がアルベルトだと気がついたらしい。
そうか、本当に僕に気がついてなかったのか。
それから、僕は炊き出しに行けなくなった。騎士団が拒否する訳ではない。シルヴィアも、サブリナも炊き出し場で人気者だったらしく、他の路上生活者が僕を見つけると素早く追い出すようになってしまったのだ。
シルヴィアやサブリナが居なくても、炊き出しに行こうとすると会場に着く前に連れ出される。
何人もに囲まれては、どうする事も出来なかった。
もうずいぶんまともな食事を取っていない。僕は……どうなるんだろう……。どこで、間違えたんだろう。
1年を過ぎた頃に家も追い出された。家に毎月金が要るなど知らなかった。サブリナが、お金がある時にと先払いしていたから今まで住めていただけらしい。
サブリナが貯めていた金も残り少なく、滞納する家賃を払うほどの金は残っていなかった。
それからは、路上で生活していた。残った金も、すぐ乱暴者たちに取られた。
力尽きて、路上の隅でぼんやりしていると見覚えのある人物に出会った。騎士になったシルヴィアだ。
シルヴィアは、僕に路上生活者の支援の案内を始めた。ふふっ、やはりシルヴィアは僕が好きだったんだな。そんな案内するフリをして僕を助けるつもりだろう。
そう思い、シルヴィアの手を取ろうとしたら……。
「シルヴィア、残りの説明と案内はオレがやる。まだまだ困窮している市民は居るから次の人に声をかけてきてくれ」
「分かりました」
コイツ、騎士団の団長だよな。何故僕とシルヴィアの時間を邪魔するんだ。そう思って抗議しようとしたら、ものすごい殺気を当てられた。怖すぎて喋る事も出来ない。
団長は、僕を冷たい目で見ながらシルヴィアに話しかけた。
「なぁ、シルヴィア」
「はい、なんでしょうか?」
「アルベルトは、今何処に居るか知ってるか?」
「え……? アルベルトって、あのおバカさんですか?」
「ああ、あのアルベルトだ」
おバカさん? 僕の事を言っているのか?
「知りませんし、知りたくもありません。サブリナ様のように食い潰される女性が居ないかは心配ですけれど」
「サブリナを許してんのか?」
「いいえ、ですがあんな男と婚姻させてしまったのは申し訳なかったなと思います。万が一にでもこちらにまた擦り寄ってきたら困るからと、多少強引に話を進めてしまった自覚はありますから」
「確かに、婚姻届まで用意してるとは思わなかったぜ」
「アルベルト様をサブリナ様に押し付けた自覚はありますわ……」
「ま、あん時のサブリナはシルヴィアを敵視したたし、自業自得だ。オレはアルベルトの居場所を知ってるぜ。知りたいか?」
「いいえ、知りたくないですわ。興味もありませんし」
「だよなぁ……シルヴィアがアルベルトを心配して居場所を探すなんてありえねぇよなぁ……」
今までの会話を聞いていると、シルヴィアは僕の事が嫌いみたいじゃないか。そんな訳、ないよな……? それに、まるで僕が居ないかのような話ぶり。今の髭だらけの僕がアルベルトだと気がついていないのか?
団長が、僕を睨みつけながらシルヴィアに笑いかけ、シルヴィアの頬に手を当てる。
なんだ? シルヴィアはこんなに美しかったか?
「もちろんですわ! カルロ、もうアルベルト様の事を気にしないで下さいまし。わたくし、アルベルト様とこのような事もしなかったのですから!」
そう言って、真っ赤な顔のシルヴィアが団長の手にキスをしていた。手にキスは、貴族もよくやる。夜会でもよく見る。人前でしても、批判される行動ではない。あれから兄上に、散々マナーを叩き込まれたから、それくらいは覚えている。
そういえば、僕はシルヴィアにこのような事をしてもらった事はない。何故、団長にするんだ?
しかも、あんなに嬉しそうに。
「シルヴィア、仕事中だぜ?」
「手を差し出して来たのはカルロですわ!」
そう言って、シルヴィアは真っ赤な顔をして走って行った。
「シルヴィアは可愛いだろ? お固いつまらない女と冷遇して、堂々と浮気するなんてなぁ。誰かさんの見る目がなかったおかげで、シルヴィアはオレの婚約者だ。ありがとよ」
シルヴィアが、団長の婚約者だと?!
団長は公爵家だぞ?!
そんな……そんな上位貴族にシルヴィアが見初められるなんて……。騎士になったのは、結婚を諦めたからだと思っていたのに。
「女性を口説くには段階ってモンがあるんだよ。婚約者だからって何をしても良い訳じゃない。大事に慈しんで、信頼を得ないとなんにも出来ねぇよ。手のキスなら許されてるってのに、お前はいきなり口付けを迫ったんだろ? 拒否されて当然だぜ。おかげで、手のキスもオレが初めてだとよ。可愛いよなぁ」
そういえば婚約破棄のときにも、僕に好意を持った事は無かったと言われたな。負け惜しみだと思っていたがあれはシルヴィアの本音だったのか。
そうか……。僕はシルヴィアに嫌われていたのか。
そう思うと、急に目の前が真っ暗になった。
「何ショック受けてんだ? まさかあの態度で好かれてたなんて思ってねぇよな? サブリナも、もうお前の事なんてどうでも良いってよ」
サブリナも……?
僕は、学園ではシルヴィアの婚約者で、生徒会長のサブリナと恋人で、他の女性もたくさん寄ってきた。シルヴィアは最初は口煩かったが、従順に僕の仕事をしてくれていたのは僕に惚れたからだと思っていたのに、違ったのか……。
確かに、僕はシルヴィアには何をしても良いと思っていた。キスもしてくれないから、たくさん仕事を押し付けた。キスは、サブリナとすれば良いと思っていた。
それからは、路上で暮らしながら騎士団が案内してくれた炊き出しでなんとか食い繋いだ。無気力だった。シルヴィアも何度か手伝っていたが、団長が決して僕に近づけさせなかった。そんなある日、ニコニコ笑いながら炊き出しをするサブリナを見つけた。
話しかけたら、冷たくあしらわれた。頭にきて怒鳴りつけたら、シルヴィアが怒ってサブリナを助け出した。
その時初めて、シルヴィアは僕がアルベルトだと気がついたらしい。
そうか、本当に僕に気がついてなかったのか。
それから、僕は炊き出しに行けなくなった。騎士団が拒否する訳ではない。シルヴィアも、サブリナも炊き出し場で人気者だったらしく、他の路上生活者が僕を見つけると素早く追い出すようになってしまったのだ。
シルヴィアやサブリナが居なくても、炊き出しに行こうとすると会場に着く前に連れ出される。
何人もに囲まれては、どうする事も出来なかった。
もうずいぶんまともな食事を取っていない。僕は……どうなるんだろう……。どこで、間違えたんだろう。
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