婚約破棄されたから、執事と家出いたします

編端みどり

文字の大きさ
1 / 16

1.お父様 今までお世話になりました

しおりを挟む
拝啓 お父様

王太子殿下との婚約が破棄されました。殿下は真実の愛を見つけたそうです。わたくしは可愛げがない。仕事も遅く、役に立たないから要らないそうです。

お父様はわたくしにいつも、王子との婚約がなければ捨ててやったのにとおっしゃっておられましたし、執事のフォッグにも、いつも役に立たないからクビにしてやると言っておられましたから、これでお父様の望み通りですわ。

わたくしはフォッグと共に家出いたします。

離縁状と解雇状は、お父様が毎日のように下さっていましたので、さっそくすべて記入して、提出いたしました。親戚やお付き合いのある貴族にすべて配布してもまだ余りましたので、ここに予備として1通置いておきます。残りは、わたしが持っておき、お知り合いの方にお会いする度にお渡しして、お知らせしておきますわね。もう受理されていますし、撤回はされないよう魔法契約も結びましたので、お父様との縁は完全に切れておりますから、ご安心くださいませ。
それでは、もう会うことはありませんが、お幸せに。 

「ねぇ、フォッグ、これでいいかしら?」

「お嬢様、拝啓と書かれるのなら、時候の挨拶が必要ですよ」

「あらホント、どうしてこんな基本的な事を間違えたのかしら?」

「お嬢様は苦しい時は完璧でいらっしゃいますが、楽しくなると小さなミスが増えて参ります。きっと、今とても楽しいのではございませんか?」

「さすがね! 確かにわたくし、いや、私は今とっても楽しいわ!!!」

親や婚約者の前では決して見せなかった心からの笑みを浮かべるリリー。リリーの頭を撫でながら執事のフォッグは自らの服のタイを緩め、投げ捨てた。

リリーが書いた手紙の隣に丁寧な字で書いた退職届と解雇状、自らの身分を示すタイとネクタイピンを置いて愛しい人に口付けをするフォッグは、幸せそうな笑みを浮かべていた。

「リリーが楽しそうで良かった。さ、そろそろ行こう。下衆な男達にリリーが食い潰されたら困る」

「あら、そんな事にならないわ。だってわたくしは強いもの」

「……もう強がらなくて良い。オレがリリーを守るから」

「そう言ってくれたのは、フォッグだけ。親も、婚約者も、友人のフリをした令嬢達も……誰もわたくしを守ろうとはしてくれなかった。ただ、庇護を求めるだけ。ただ、労働力を搾取するだけ。自分達は何もしていないのに……」

「もう終わりだ。アイツらがあんなに馬鹿だとは思わなかった。リリーに頼っていた事すら忘れて、馬鹿な女に騙されて……。けど、これからは無理してキッツイメイクをしなくて良いし、好きな物を食べて、好きな事をしよう。オレと一緒なら、穏やかな暮らしを約束する。貴族みたいな暮らしじゃねぇけど……」

「貴族なんてもうゴメンよ。自由はゼロ。起きてから寝るまで、いや、睡眠時すら監視対象。民の為だと頑張ったけど、民はわたくしを悪女と呼んだわ」

「リリーが悪女なら、国民全員悪魔だな。いや、悪魔の方がお優しい。結局、一番怖いのは人間って事か。あんな悪女に騙されるなんて馬鹿な奴らだぜ。もうこんな国、どうでも良い。リリーを国外追放だなんて、ホント、馬鹿にしてやがる。捨てられたのがどちらか、気が付いても遅ぇよ。さ、リリー、家は用意してあるからそろそろ行こうぜ」

「ええ! 行きましょう!」

これは、とある令嬢と執事の物語。

私は祈る、新たな道を選び取った彼等に幸あらん事を。

私は祈る、自分勝手な者達に相応しい罰を。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

(完結)あなたが婚約破棄とおっしゃったのですよ? 

青空一夏
恋愛
スワンはチャーリー王子殿下の婚約者。 チャーリー王子殿下は冴えない容姿の伯爵令嬢にすぎないスワンをぞんざいに扱い、ついには婚約破棄を言い渡す。 しかし、チャーリー王子殿下は知らなかった。それは…… これは、身の程知らずな王子がギャフンと言わされる物語です。コメディー調になる予定で す。過度な残酷描写はしません(多分(•́ε•̀;ก)💦) それぞれの登場人物視点から話が展開していく方式です。 異世界中世ヨーロッパ風のゆるふわ設定ご都合主義。タグ途中で変更追加の可能性あり。

(完結)だったら、そちらと結婚したらいいでしょう?

青空一夏
恋愛
エレノアは美しく気高い公爵令嬢。彼女が婚約者に選んだのは、誰もが驚く相手――冴えない平民のデラノだった。太っていて吹き出物だらけ、クラスメイトにバカにされるような彼だったが、エレノアはそんなデラノに同情し、彼を変えようと決意する。 エレノアの尽力により、デラノは見違えるほど格好良く変身し、学園の女子たちから憧れの存在となる。彼女の用意した特別な食事や、励ましの言葉に支えられ、自信をつけたデラノ。しかし、彼の心は次第に傲慢に変わっていく・・・・・・ エレノアの献身を忘れ、身分の差にあぐらをかきはじめるデラノ。そんな彼に待っていたのは・・・・・・ ※異世界、ゆるふわ設定。

捨てられたなら 〜婚約破棄された私に出来ること〜

ちくわぶ(まるどらむぎ)
恋愛
長年の婚約者だった王太子殿下から婚約破棄を言い渡されたクリスティン。 彼女は婚約破棄を受け入れ、周りも処理に動き出します。 さて、どうなりますでしょうか…… 別作品のボツネタ救済です(ヒロインの名前と設定のみ)。 突然のポイント数増加に驚いています。HOTランキングですか? 自分には縁のないものだと思っていたのでびっくりしました。 私の拙い作品をたくさんの方に読んでいただけて嬉しいです。 それに伴い、たくさんの方から感想をいただくようになりました。 ありがとうございます。 様々なご意見、真摯に受け止めさせていただきたいと思います。 ただ、皆様に楽しんでいただけたらと思いますので、中にはいただいたコメントを非公開とさせていただく場合がございます。 申し訳ありませんが、どうかご了承くださいませ。 もちろん、私は全て読ませていただきますし、削除はいたしません。 7/16 最終部がわかりにくいとのご指摘をいただき、訂正しました。 ※この作品は小説家になろうさんでも公開しています。

見捨てられた逆行令嬢は幸せを掴みたい

水空 葵
恋愛
 一生大切にすると、次期伯爵のオズワルド様に誓われたはずだった。  それなのに、私が懐妊してからの彼は愛人のリリア様だけを守っている。  リリア様にプレゼントをする余裕はあっても、私は食事さえ満足に食べられない。  そんな状況で弱っていた私は、出産に耐えられなくて死んだ……みたい。  でも、次に目を覚ました時。  どういうわけか結婚する前に巻き戻っていた。    二度目の人生。  今度は苦しんで死にたくないから、オズワルド様との婚約は解消することに決めた。それと、彼には私の苦しみをプレゼントすることにしました。  一度婚約破棄したら良縁なんて望めないから、一人で生きていくことに決めているから、醜聞なんて気にしない。  そう決めて行動したせいで良くない噂が流れたのに、どうして次期侯爵様からの縁談が届いたのでしょうか? ※カクヨム様と小説家になろう様でも連載中・連載予定です。  7/23 女性向けHOTランキング1位になりました。ありがとうございますm(__)m

「犯人は追放!」無実の彼女は国に絶対に必要な能力者で“価値の高い女性”だった

佐藤 美奈
恋愛
セリーヌ・エレガント公爵令嬢とフレッド・ユーステルム王太子殿下は婚約成立を祝した。 その数週間後、ヴァレンティノ王立学園50周年の創立記念パーティー会場で、信じられない事態が起こった。 フレッド殿下がセリーヌ令嬢に婚約破棄を宣言した。様々な分野で活躍する著名な招待客たちは、激しい動揺と衝撃を受けてざわつき始めて、人々の目が一斉に注がれる。 フレッドの横にはステファニー男爵令嬢がいた。二人は恋人のような雰囲気を醸し出す。ステファニーは少し前に正式に聖女に選ばれた女性であった。 ステファニーの策略でセリーヌは罪を被せられてしまう。信じていた幼馴染のアランからも冷たい視線を向けられる。 セリーヌはいわれのない無実の罪で国を追放された。悔しくてたまりませんでした。だが彼女には秘められた能力があって、それは聖女の力をはるかに上回るものであった。 彼女はヴァレンティノ王国にとって絶対的に必要で貴重な女性でした。セリーヌがいなくなるとステファニーは聖女の力を失って、国は急速に衰退へと向かう事となる……。

なんでも思い通りにしないと気が済まない妹から逃げ出したい

木崎優
恋愛
「君には大変申し訳なく思っている」 私の婚約者はそう言って、心苦しそうに顔を歪めた。「私が悪いの」と言いながら瞳を潤ませている、私の妹アニエスの肩を抱きながら。 アニエスはいつだって私の前に立ちはだかった。 これまで何ひとつとして、私の思い通りになったことはない。すべてアニエスが決めて、両親はアニエスが言うことならと頷いた。 だからきっと、この婚約者の入れ替えも両親は快諾するのだろう。アニエスが決めたのなら間違いないからと。 もういい加減、妹から離れたい。 そう思った私は、魔術師の弟子ノエルに結婚を前提としたお付き合いを申し込んだ。互いに利のある契約として。 だけど弟子だと思ってたその人は実は魔術師で、しかも私を好きだったらしい。

婚約破棄に全力感謝

あーもんど
恋愛
主人公の公爵家長女のルーナ・マルティネスはあるパーティーで婚約者の王太子殿下に婚約破棄と国外追放を言い渡されてしまう。でも、ルーナ自身は全く気にしてない様子....いや、むしろ大喜び! 婚約破棄?国外追放?喜んでお受けします。だって、もうこれで国のために“力”を使わなくて済むもの。 実はルーナは世界最強の魔導師で!? ルーナが居なくなったことにより、国は滅びの一途を辿る! 「滅び行く国を遠目から眺めるのは大変面白いですね」 ※色々な人達の目線から話は進んでいきます。 ※HOT&恋愛&人気ランキング一位ありがとうございます(2019 9/18)

真実の愛を見つけた婚約者(殿下)を尊敬申し上げます、婚約破棄致しましょう

さこの
恋愛
「真実の愛を見つけた」 殿下にそう告げられる 「応援いたします」 だって真実の愛ですのよ? 見つける方が奇跡です! 婚約破棄の書類ご用意いたします。 わたくしはお先にサインをしました、殿下こちらにフルネームでお書き下さいね。 さぁ早く!わたくしは真実の愛の前では霞んでしまうような存在…身を引きます! なぜ婚約破棄後の元婚約者殿が、こんなに美しく写るのか… 私の真実の愛とは誠の愛であったのか… 気の迷いであったのでは… 葛藤するが、すでに時遅し…

処理中です...