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1.お父様 今までお世話になりました
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拝啓 お父様
王太子殿下との婚約が破棄されました。殿下は真実の愛を見つけたそうです。わたくしは可愛げがない。仕事も遅く、役に立たないから要らないそうです。
お父様はわたくしにいつも、王子との婚約がなければ捨ててやったのにとおっしゃっておられましたし、執事のフォッグにも、いつも役に立たないからクビにしてやると言っておられましたから、これでお父様の望み通りですわ。
わたくしはフォッグと共に家出いたします。
離縁状と解雇状は、お父様が毎日のように下さっていましたので、さっそくすべて記入して、提出いたしました。親戚やお付き合いのある貴族にすべて配布してもまだ余りましたので、ここに予備として1通置いておきます。残りは、わたしが持っておき、お知り合いの方にお会いする度にお渡しして、お知らせしておきますわね。もう受理されていますし、撤回はされないよう魔法契約も結びましたので、お父様との縁は完全に切れておりますから、ご安心くださいませ。
それでは、もう会うことはありませんが、お幸せに。
「ねぇ、フォッグ、これでいいかしら?」
「お嬢様、拝啓と書かれるのなら、時候の挨拶が必要ですよ」
「あらホント、どうしてこんな基本的な事を間違えたのかしら?」
「お嬢様は苦しい時は完璧でいらっしゃいますが、楽しくなると小さなミスが増えて参ります。きっと、今とても楽しいのではございませんか?」
「さすがね! 確かにわたくし、いや、私は今とっても楽しいわ!!!」
親や婚約者の前では決して見せなかった心からの笑みを浮かべるリリー。リリーの頭を撫でながら執事のフォッグは自らの服のタイを緩め、投げ捨てた。
リリーが書いた手紙の隣に丁寧な字で書いた退職届と解雇状、自らの身分を示すタイとネクタイピンを置いて愛しい人に口付けをするフォッグは、幸せそうな笑みを浮かべていた。
「リリーが楽しそうで良かった。さ、そろそろ行こう。下衆な男達にリリーが食い潰されたら困る」
「あら、そんな事にならないわ。だってわたくしは強いもの」
「……もう強がらなくて良い。オレがリリーを守るから」
「そう言ってくれたのは、フォッグだけ。親も、婚約者も、友人のフリをした令嬢達も……誰もわたくしを守ろうとはしてくれなかった。ただ、庇護を求めるだけ。ただ、労働力を搾取するだけ。自分達は何もしていないのに……」
「もう終わりだ。アイツらがあんなに馬鹿だとは思わなかった。リリーに頼っていた事すら忘れて、馬鹿な女に騙されて……。けど、これからは無理してキッツイメイクをしなくて良いし、好きな物を食べて、好きな事をしよう。オレと一緒なら、穏やかな暮らしを約束する。貴族みたいな暮らしじゃねぇけど……」
「貴族なんてもうゴメンよ。自由はゼロ。起きてから寝るまで、いや、睡眠時すら監視対象。民の為だと頑張ったけど、民はわたくしを悪女と呼んだわ」
「リリーが悪女なら、国民全員悪魔だな。いや、悪魔の方がお優しい。結局、一番怖いのは人間って事か。あんな悪女に騙されるなんて馬鹿な奴らだぜ。もうこんな国、どうでも良い。リリーを国外追放だなんて、ホント、馬鹿にしてやがる。捨てられたのがどちらか、気が付いても遅ぇよ。さ、リリー、家は用意してあるからそろそろ行こうぜ」
「ええ! 行きましょう!」
これは、とある令嬢と執事の物語。
私は祈る、新たな道を選び取った彼等に幸あらん事を。
私は祈る、自分勝手な者達に相応しい罰を。
王太子殿下との婚約が破棄されました。殿下は真実の愛を見つけたそうです。わたくしは可愛げがない。仕事も遅く、役に立たないから要らないそうです。
お父様はわたくしにいつも、王子との婚約がなければ捨ててやったのにとおっしゃっておられましたし、執事のフォッグにも、いつも役に立たないからクビにしてやると言っておられましたから、これでお父様の望み通りですわ。
わたくしはフォッグと共に家出いたします。
離縁状と解雇状は、お父様が毎日のように下さっていましたので、さっそくすべて記入して、提出いたしました。親戚やお付き合いのある貴族にすべて配布してもまだ余りましたので、ここに予備として1通置いておきます。残りは、わたしが持っておき、お知り合いの方にお会いする度にお渡しして、お知らせしておきますわね。もう受理されていますし、撤回はされないよう魔法契約も結びましたので、お父様との縁は完全に切れておりますから、ご安心くださいませ。
それでは、もう会うことはありませんが、お幸せに。
「ねぇ、フォッグ、これでいいかしら?」
「お嬢様、拝啓と書かれるのなら、時候の挨拶が必要ですよ」
「あらホント、どうしてこんな基本的な事を間違えたのかしら?」
「お嬢様は苦しい時は完璧でいらっしゃいますが、楽しくなると小さなミスが増えて参ります。きっと、今とても楽しいのではございませんか?」
「さすがね! 確かにわたくし、いや、私は今とっても楽しいわ!!!」
親や婚約者の前では決して見せなかった心からの笑みを浮かべるリリー。リリーの頭を撫でながら執事のフォッグは自らの服のタイを緩め、投げ捨てた。
リリーが書いた手紙の隣に丁寧な字で書いた退職届と解雇状、自らの身分を示すタイとネクタイピンを置いて愛しい人に口付けをするフォッグは、幸せそうな笑みを浮かべていた。
「リリーが楽しそうで良かった。さ、そろそろ行こう。下衆な男達にリリーが食い潰されたら困る」
「あら、そんな事にならないわ。だってわたくしは強いもの」
「……もう強がらなくて良い。オレがリリーを守るから」
「そう言ってくれたのは、フォッグだけ。親も、婚約者も、友人のフリをした令嬢達も……誰もわたくしを守ろうとはしてくれなかった。ただ、庇護を求めるだけ。ただ、労働力を搾取するだけ。自分達は何もしていないのに……」
「もう終わりだ。アイツらがあんなに馬鹿だとは思わなかった。リリーに頼っていた事すら忘れて、馬鹿な女に騙されて……。けど、これからは無理してキッツイメイクをしなくて良いし、好きな物を食べて、好きな事をしよう。オレと一緒なら、穏やかな暮らしを約束する。貴族みたいな暮らしじゃねぇけど……」
「貴族なんてもうゴメンよ。自由はゼロ。起きてから寝るまで、いや、睡眠時すら監視対象。民の為だと頑張ったけど、民はわたくしを悪女と呼んだわ」
「リリーが悪女なら、国民全員悪魔だな。いや、悪魔の方がお優しい。結局、一番怖いのは人間って事か。あんな悪女に騙されるなんて馬鹿な奴らだぜ。もうこんな国、どうでも良い。リリーを国外追放だなんて、ホント、馬鹿にしてやがる。捨てられたのがどちらか、気が付いても遅ぇよ。さ、リリー、家は用意してあるからそろそろ行こうぜ」
「ええ! 行きましょう!」
これは、とある令嬢と執事の物語。
私は祈る、新たな道を選び取った彼等に幸あらん事を。
私は祈る、自分勝手な者達に相応しい罰を。
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