婚約破棄されたから、執事と家出いたします

編端みどり

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2.身勝手な婚約者

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「……リリー……私の為に頑張ると言ったのは偽りだったのか……?」

身勝手な事を呟く男は、大量の書類を前に呆然としていた。

リリーが姿を消してから3日。

彼女に仕事を押し付けていた事も、2度と姿を見せるなと宣言した事も、魔法契約までして大勢の前で婚約破棄し恥をかかせ、国から出て行くよう命令した事も男は忘れていた。

1日目は、愛しい女と堂々といちゃついた。
2日目は、帰って来た両親にこっぴどく叱られた。
3日目の朝、リリーの元婚約者である男の部屋には、大量の書類が積み上がっていた。

「国王陛下のご命令です。全て処理するまで部屋を出るなとの事です」

「なっ……こんなもの終わるわけないだろう!!!」

「リリー様は毎日、この量の書類を的確に処理なさっておられました」

「……は……?! 嘘だろ……? あの無能が……?!」

「事実です。リリー様の処理には何一つ間違いはございませんでした」

「……リリーを呼べ」

「正気ですか? リリー様に国を出ろと命じたのは殿下ですよね?」

「……良いから呼べ! 私の命令だ! どうせ、まだモタモタ屋敷に居るだろ! 私専属の奴隷として働けば許してやると言え!」

「では、命令書をお書き下さい。王太子印を押して、周知すれば貴族であるリリー様は応じるしかないでしょうから」

「よし! すぐに用意するぞ!!!」

王太子が印を押し、国中に命令が周知されると両親が飛んで来た。

「何をしている?! 何故あんなふざけた命令をした!!!」

「リリーを働かせれば良いでしょう? 貴族なのだから、僕の命令には逆らえない。あんな女と結婚する気にはなれませんが、使い道はあります」

「リリーは既に貴族ではないし、家を出て行方不明だ! お前は、無駄に自らの恥を広げただけなんだぞ! 何故わざわざ周知までした!!! 秘密裏にリリーを探すなら、いくらでも人を貸してやったのに! これではリリーを探す事すら出来ないではないか!!!」

「それはっ……! あの侍従がっ……!」

「誰だ?! クビにしてやる!」

「あ、あれ……? 居ない……?」

王太子を唆した侍従の正体はフォッグだった。王子の侍従に与えられるマントを投げ捨て、不愉快そうに歩いている。

「フン、馬鹿め。あの量をリリーは毎日処理してたんだ。出来ないなんて、言わせねぇ。さぁて、あの中にある重要書類に気がつくかねぇ。1ヶ月以内に処理をしねぇと、終わりだぜ。アレはリリーの最後の優しさだ。俺としちゃ、処分しちまいたかったんだけどなぁ。さて、次はあの女狐だ。さっさと終わらせて、リリーのところに帰ろう」

周りに人が居ない事を確認して、フォッグは転移魔法を起動した。
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