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辺境伯夫人は頑張ります
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「シャーリー、すまない。やり過ぎた……」
フレッドがしょんぼりとしながらわたくしに謝罪をする。侍女達の視線が冷たい。
「良いの。わたくしも嬉しかったから」
結局、身体が動かなくてお母様について行く事は出来なかった。エリザベスが心配だから、通信をしたいんだけど……起き上がる事すら困難だ。
お母様が様子を見てきて下さるそうだから、待っておく方が良いかしら。
「奥様は旦那様に甘過ぎますわ!」
「そうですよ! 奥様は繊細な方なんです! 体力お化けの旦那様と一緒にしないで下さい!」
「面目ない……」
侍女達に叱られるフレッドがなんだか可愛い。昨日はあんなに侍女達に怯えられていたのに、今日は叱られている。
なんだかおかしくなって、クスクスと笑ってしまった。すると、フレッドも侍女達も目を見開いている。
「シャーリー……可愛い……」
「本当ですわ。なんて愛らしいのでしょう」
「しばらく2人にしてくれ」
「なりません。これ以上奥様を疲れさせてはいけません」
「うっ……」
「奥様は常識がおありですから、我々が居れば旦那様が迫っても止めて下さいます。ですが、2人きりにしてしまえば、また奥様が疲労してしまわれますわ」
フレッドと、侍女達が揉めている。
「あ、あの……!」
「どうした? シャーリー」
「どうされました? 奥様!」
フレッドと結婚してからは、いつもみんなが優しくしてくれる。ご飯だって美味しいし、ご機嫌を伺わなくても良い。
「フレッドは大好きだけど、今は少し休みたいわ」
こんな風に、自分の意思で発言できる。以前は、いかに姉や両親の機嫌を取るかしか考えてなかった。だって、わたくしが泣いても、喚いても、誰も聞いてくれないのだもの。先生やエリザベスのおかげで少しは話せるようになったけど、フレッドと結婚したら会話の前に悩まなくて良くなった。
今はみんながちゃんとわたくしの話を聞いてくれる。違う事は違うと教えてくれるし、認めてくれる時は認めてくれる。否定する時も、怒鳴ったり食事抜きだと脅したりしない。
だから、自分の意思で話せるようになった。フレッドに一目惚れしてフレッドの事しか考えずに結婚したけど、優しい家族が出来た。使用人も、みんなわたくしを大事にしてくれる。
前だったら、こんな風に言えば姉が怒って食事は抜かれていた。今はそんな事ない。
「分かった。オレは出て行った方が良いか?」
フレッドが寂しそうにしてる。そんな顔されたら、愛しくなってしまう。だけど、さすがにこれ以上は身体がもたない。
「一緒に居たいわ。だけど、身体がつらいから何もしないで欲しいの」
「……分かった。何もしない。約束する」
「2人きりにしてくれる?」
「承知しました。奥様、見事でございますわ」
侍女達は、ニコニコ笑いながら出て行った。フレッドは、そっとわたくしの頭を撫でてくれた。
「これくらいなら良いか?」
「ええ、ありがとう。ねぇフレッド……わたくし、とっても幸せよ」
「ああ、オレも幸せだ」
「こんなに幸せなのは、フレッドを紹介してくれたエリザベスのおかげなのよね。なのにわたくしは……エリザベスの助けになれない」
昨日からずっと、王太子殿下のお言葉が頭から離れない。
「エリザベス様はシャーリーを犠牲にしてまで自分の事を考えるお方か?」
「いいえ。エリザベスはそんな人じゃないわ。先生に相談役を頼めたのに、大事な生徒が居るだろうからって頼まなかった」
「なら、シャーリーが相談役になる事を望むとは思えない」
わたくしは、ハッとした。確かにフレッドの言う通りだ。
「そうね。フレッドの言う通りだわ」
「当事者であるエリザベス様もシャーリーも望んでいないのに、どうしてそんなにシャーリーに拘るんだろうな。シャーリー、王太子殿下に何を言われた?」
「エリザベスが心配ではないのか。親友のわたくしが支えてあげるべきだって仰ってたわ」
その瞬間、フレッドから殺気が溢れた。侍女が居なくて良かった。わたくしは平気だけど、みんなは怯えてしまうもの。
「へぇ……。エリザベス様は王太子殿下の妻なのに……シャーリーに支えろと言うのか……」
フレッドは低い声で何かを呟いている。だけど、声が小さ過ぎで聞こえない。
「ねぇフレッド、エリザベスは何かトラブルに巻き込まれているの? 茶会の時は、そんな話一切聞かなかったんだけど……。もしかして、わたくしに言えない悩みがあったのかしら? お茶会ではお互い惚気話ばっかりしてるのよね。嫌な事があればお互い愚痴は言うけど、そんなに悩んでるようには見えなかったの」
「気になるか?」
「ええ、気になるわ。心配なの。わたくし、あんなにエリザベスと話してたのに気が付かなかったのかしら……」
「安心して。内緒でカールに調べて貰ってる。けど、父上や母上にも言っては駄目。出来る?」
「出来るわ!」
「分かった、ならシャーリはしばらく王城に行かずに大人しくしておいてくれ。別棟に行く時はオレが連れて行く。もちろん、エリザベス様との会話は聞かないから安心してくれ。オレが不在の時に誰が来ても、絶対屋敷を出ないで欲しい。出来るか?」
「ええ、分かったわ。でも、どうして?」
フレッドがしょんぼりとしながらわたくしに謝罪をする。侍女達の視線が冷たい。
「良いの。わたくしも嬉しかったから」
結局、身体が動かなくてお母様について行く事は出来なかった。エリザベスが心配だから、通信をしたいんだけど……起き上がる事すら困難だ。
お母様が様子を見てきて下さるそうだから、待っておく方が良いかしら。
「奥様は旦那様に甘過ぎますわ!」
「そうですよ! 奥様は繊細な方なんです! 体力お化けの旦那様と一緒にしないで下さい!」
「面目ない……」
侍女達に叱られるフレッドがなんだか可愛い。昨日はあんなに侍女達に怯えられていたのに、今日は叱られている。
なんだかおかしくなって、クスクスと笑ってしまった。すると、フレッドも侍女達も目を見開いている。
「シャーリー……可愛い……」
「本当ですわ。なんて愛らしいのでしょう」
「しばらく2人にしてくれ」
「なりません。これ以上奥様を疲れさせてはいけません」
「うっ……」
「奥様は常識がおありですから、我々が居れば旦那様が迫っても止めて下さいます。ですが、2人きりにしてしまえば、また奥様が疲労してしまわれますわ」
フレッドと、侍女達が揉めている。
「あ、あの……!」
「どうした? シャーリー」
「どうされました? 奥様!」
フレッドと結婚してからは、いつもみんなが優しくしてくれる。ご飯だって美味しいし、ご機嫌を伺わなくても良い。
「フレッドは大好きだけど、今は少し休みたいわ」
こんな風に、自分の意思で発言できる。以前は、いかに姉や両親の機嫌を取るかしか考えてなかった。だって、わたくしが泣いても、喚いても、誰も聞いてくれないのだもの。先生やエリザベスのおかげで少しは話せるようになったけど、フレッドと結婚したら会話の前に悩まなくて良くなった。
今はみんながちゃんとわたくしの話を聞いてくれる。違う事は違うと教えてくれるし、認めてくれる時は認めてくれる。否定する時も、怒鳴ったり食事抜きだと脅したりしない。
だから、自分の意思で話せるようになった。フレッドに一目惚れしてフレッドの事しか考えずに結婚したけど、優しい家族が出来た。使用人も、みんなわたくしを大事にしてくれる。
前だったら、こんな風に言えば姉が怒って食事は抜かれていた。今はそんな事ない。
「分かった。オレは出て行った方が良いか?」
フレッドが寂しそうにしてる。そんな顔されたら、愛しくなってしまう。だけど、さすがにこれ以上は身体がもたない。
「一緒に居たいわ。だけど、身体がつらいから何もしないで欲しいの」
「……分かった。何もしない。約束する」
「2人きりにしてくれる?」
「承知しました。奥様、見事でございますわ」
侍女達は、ニコニコ笑いながら出て行った。フレッドは、そっとわたくしの頭を撫でてくれた。
「これくらいなら良いか?」
「ええ、ありがとう。ねぇフレッド……わたくし、とっても幸せよ」
「ああ、オレも幸せだ」
「こんなに幸せなのは、フレッドを紹介してくれたエリザベスのおかげなのよね。なのにわたくしは……エリザベスの助けになれない」
昨日からずっと、王太子殿下のお言葉が頭から離れない。
「エリザベス様はシャーリーを犠牲にしてまで自分の事を考えるお方か?」
「いいえ。エリザベスはそんな人じゃないわ。先生に相談役を頼めたのに、大事な生徒が居るだろうからって頼まなかった」
「なら、シャーリーが相談役になる事を望むとは思えない」
わたくしは、ハッとした。確かにフレッドの言う通りだ。
「そうね。フレッドの言う通りだわ」
「当事者であるエリザベス様もシャーリーも望んでいないのに、どうしてそんなにシャーリーに拘るんだろうな。シャーリー、王太子殿下に何を言われた?」
「エリザベスが心配ではないのか。親友のわたくしが支えてあげるべきだって仰ってたわ」
その瞬間、フレッドから殺気が溢れた。侍女が居なくて良かった。わたくしは平気だけど、みんなは怯えてしまうもの。
「へぇ……。エリザベス様は王太子殿下の妻なのに……シャーリーに支えろと言うのか……」
フレッドは低い声で何かを呟いている。だけど、声が小さ過ぎで聞こえない。
「ねぇフレッド、エリザベスは何かトラブルに巻き込まれているの? 茶会の時は、そんな話一切聞かなかったんだけど……。もしかして、わたくしに言えない悩みがあったのかしら? お茶会ではお互い惚気話ばっかりしてるのよね。嫌な事があればお互い愚痴は言うけど、そんなに悩んでるようには見えなかったの」
「気になるか?」
「ええ、気になるわ。心配なの。わたくし、あんなにエリザベスと話してたのに気が付かなかったのかしら……」
「安心して。内緒でカールに調べて貰ってる。けど、父上や母上にも言っては駄目。出来る?」
「出来るわ!」
「分かった、ならシャーリはしばらく王城に行かずに大人しくしておいてくれ。別棟に行く時はオレが連れて行く。もちろん、エリザベス様との会話は聞かないから安心してくれ。オレが不在の時に誰が来ても、絶対屋敷を出ないで欲しい。出来るか?」
「ええ、分かったわ。でも、どうして?」
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