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辺境伯夫人は頑張ります
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王太子殿下に連れられて王城に行くのかと思ったら、見知らぬ場所に出た。
大量のゲートがある。ここは……この間ハンス王子をお見送りした各国へ繋がるゲートだわ。だけど、様子がおかしい。居る筈の見張りが居ない。随所に設置された魔道具も、全て闇に覆われている。これでは、録画する事は不可能だ。音声だけは録れているかもしれないが……あまり期待は出来ないだろう。
「ここは?」
「……」
「殿下?! 王太子殿下?!」
まるで糸の切れた人形のように、動かなくなる王太子殿下。
「……やっと、連れ出せたんだ。ったく、遅いよ。そろそろ魔法の効果が切れるから焦ってたんだけど……やっぱり王太子が直接迎えに行くのは効くね。お久しぶり、シャーリー様」
「ハンス王子……。貴方の仕業ですの? 我が国の至宝である王太子殿下に、何をなさったのですか?」
「……至宝、ねぇ。貴女を攫おうとした男を信じるの?」
「殿下のご様子は明らかに異常です。本来の王太子殿下は、思慮深いお方ですわ」
「ふーん、そう。ついでに王太子の信頼も失わせようと思ったんだけど……アンタがそんな様子なら、期待は出来ないかぁ」
「王太子殿下の積み上げてきた信頼は、こんな事では揺るぎませんわ」
「まあ良い。予定の獲物は連れて来てくれたからね。さっさと俺に惚れてくれりゃあ話は簡単だったのに。アンタの国、なんなの。みんないい子ちゃんばっかり。エリザベスだって、俺に見向きもしない。王妃は国王にべったり。熊に嫁がされた哀れなアンタならいけると思ったのに、なんであんな熊が良いのさ」
「……熊、ですか。誰を指しているのか分かりかねますわ」
「辺境伯の化け物熊だよ! なんなのアイツ! アイツが辺境に君臨していると邪魔なんだよ! だから、唯一の弱点であるアンタを狙ったんだ。熊に攫われたお姫様なら、助けを求めてくれると思ったのに」
「フレッドは、熊ではありません。わたくしの大事な夫です」
「……熊にベタ惚れって本当だったんだね。信じなかった僕の失敗か。あーくそっ! なんであんなのが良いの?! 辺境伯って金だけはあるもんね。金目当て?」
「いいえ」
「そんなキラキラしたドレスやアクセサリー付けてる癖に、いい子ちゃんぶっちゃって。そのドレス、うちの国じゃ王族でもなかなか入手出来ない希少な絹だよ。姉上に見せたら、剥ぎ取られちゃうかも」
「そうなんですね。夫からのプレゼントですから剥ぎ取られる訳に参りませんわ。よろしければ、わたくしが運営する商会のドレスをお売りしますわよ。同じ絹を使用した最高級のドレスがごさいます」
「……ちっ……、豊かで良いよな。こっちは税金が搾り取れなくて困ってんのに」
「飢饉のせいですわね」
「ああ、そうだよ。だからちょっとくらい豊かな所から搾り取ろうとして何が悪い? 僕はね、出来損ないなの。顔だけ王子なんて呼ばれてる。僕が出来るのは女を誘惑する事だけ。それなのに、アンタの国は誰も僕に見向きもしない! このままじゃ僕は王族から追放される!!!」
「だから……魔法まで使って王太子殿下を操ったんですか?」
「この魔法、知ってるの? 辺境伯って田舎でしょう? なんでそんな知識があるのさ」
やはり、魔法か。
正直、精神に作用する魔法があったが今は失われている。程度の知識しかない。
ここからはハッタリ合戦よ。いかにわたくしが油断ならないかを見せて、話を引き伸ばす。
幸い、ここはゲートがあれば何処からでもすぐに来れる。フレッドが出かけてから1時間。フレッドならすぐにわたくしの居場所を把握して、ゲートに来てくれる。
ここでは魔法も使えるし、記録玉も起動しているから証拠も取れる。これで、王太子殿下の無実は証明された。
あとは最高で1時間、時間を稼げれば良い。
「辺境伯夫人を舐めないで下さいませ。辺境は国を守る最初の盾。皆、あらゆる事態を想定して常に研鑽を積んでおりますわ。わたくしは力こそありませんが、知識で夫を支えておりますの」
「アンタが熊と結婚してから、辺境はますます守りが強固になった。辺境で一番邪魔なのはアンタなんだよ」
「まぁ、そんな事ありませんわ。夫は常に鍛錬を欠かしませんし、わたくしよりもたくさん勉強しているのですよ。真剣に学ぶフレッドは、とってもとっても素敵なんですの」
「……うっとりとした顔で言われてもね。アンタ、あの熊の何処が好きなの?」
やった! やりました!
この質問なら、1時間なんて余裕ですわ!
わたくしはうっとりとしながら、フレッドの素晴らしさを羅列し始めた。もちろん、余計な情報は与えないように慎重に。
けんなりとした顔をしながら、わたくしの話を聞き続けるハンス王子。
そうそう、そうですわよね。
わたくしの話から、情報が取れるかもしれませんもの。ここに居る筈の見張りは居ない。
どんな手を使ったか分からないけど、録画も止まってる。
ここは、貴方のテリトリー。
もうわたくしを手に入れたおつもりでしよう?
ゆっくり、わたくしの話を聞いて下さいませ。
大量のゲートがある。ここは……この間ハンス王子をお見送りした各国へ繋がるゲートだわ。だけど、様子がおかしい。居る筈の見張りが居ない。随所に設置された魔道具も、全て闇に覆われている。これでは、録画する事は不可能だ。音声だけは録れているかもしれないが……あまり期待は出来ないだろう。
「ここは?」
「……」
「殿下?! 王太子殿下?!」
まるで糸の切れた人形のように、動かなくなる王太子殿下。
「……やっと、連れ出せたんだ。ったく、遅いよ。そろそろ魔法の効果が切れるから焦ってたんだけど……やっぱり王太子が直接迎えに行くのは効くね。お久しぶり、シャーリー様」
「ハンス王子……。貴方の仕業ですの? 我が国の至宝である王太子殿下に、何をなさったのですか?」
「……至宝、ねぇ。貴女を攫おうとした男を信じるの?」
「殿下のご様子は明らかに異常です。本来の王太子殿下は、思慮深いお方ですわ」
「ふーん、そう。ついでに王太子の信頼も失わせようと思ったんだけど……アンタがそんな様子なら、期待は出来ないかぁ」
「王太子殿下の積み上げてきた信頼は、こんな事では揺るぎませんわ」
「まあ良い。予定の獲物は連れて来てくれたからね。さっさと俺に惚れてくれりゃあ話は簡単だったのに。アンタの国、なんなの。みんないい子ちゃんばっかり。エリザベスだって、俺に見向きもしない。王妃は国王にべったり。熊に嫁がされた哀れなアンタならいけると思ったのに、なんであんな熊が良いのさ」
「……熊、ですか。誰を指しているのか分かりかねますわ」
「辺境伯の化け物熊だよ! なんなのアイツ! アイツが辺境に君臨していると邪魔なんだよ! だから、唯一の弱点であるアンタを狙ったんだ。熊に攫われたお姫様なら、助けを求めてくれると思ったのに」
「フレッドは、熊ではありません。わたくしの大事な夫です」
「……熊にベタ惚れって本当だったんだね。信じなかった僕の失敗か。あーくそっ! なんであんなのが良いの?! 辺境伯って金だけはあるもんね。金目当て?」
「いいえ」
「そんなキラキラしたドレスやアクセサリー付けてる癖に、いい子ちゃんぶっちゃって。そのドレス、うちの国じゃ王族でもなかなか入手出来ない希少な絹だよ。姉上に見せたら、剥ぎ取られちゃうかも」
「そうなんですね。夫からのプレゼントですから剥ぎ取られる訳に参りませんわ。よろしければ、わたくしが運営する商会のドレスをお売りしますわよ。同じ絹を使用した最高級のドレスがごさいます」
「……ちっ……、豊かで良いよな。こっちは税金が搾り取れなくて困ってんのに」
「飢饉のせいですわね」
「ああ、そうだよ。だからちょっとくらい豊かな所から搾り取ろうとして何が悪い? 僕はね、出来損ないなの。顔だけ王子なんて呼ばれてる。僕が出来るのは女を誘惑する事だけ。それなのに、アンタの国は誰も僕に見向きもしない! このままじゃ僕は王族から追放される!!!」
「だから……魔法まで使って王太子殿下を操ったんですか?」
「この魔法、知ってるの? 辺境伯って田舎でしょう? なんでそんな知識があるのさ」
やはり、魔法か。
正直、精神に作用する魔法があったが今は失われている。程度の知識しかない。
ここからはハッタリ合戦よ。いかにわたくしが油断ならないかを見せて、話を引き伸ばす。
幸い、ここはゲートがあれば何処からでもすぐに来れる。フレッドが出かけてから1時間。フレッドならすぐにわたくしの居場所を把握して、ゲートに来てくれる。
ここでは魔法も使えるし、記録玉も起動しているから証拠も取れる。これで、王太子殿下の無実は証明された。
あとは最高で1時間、時間を稼げれば良い。
「辺境伯夫人を舐めないで下さいませ。辺境は国を守る最初の盾。皆、あらゆる事態を想定して常に研鑽を積んでおりますわ。わたくしは力こそありませんが、知識で夫を支えておりますの」
「アンタが熊と結婚してから、辺境はますます守りが強固になった。辺境で一番邪魔なのはアンタなんだよ」
「まぁ、そんな事ありませんわ。夫は常に鍛錬を欠かしませんし、わたくしよりもたくさん勉強しているのですよ。真剣に学ぶフレッドは、とってもとっても素敵なんですの」
「……うっとりとした顔で言われてもね。アンタ、あの熊の何処が好きなの?」
やった! やりました!
この質問なら、1時間なんて余裕ですわ!
わたくしはうっとりとしながら、フレッドの素晴らしさを羅列し始めた。もちろん、余計な情報は与えないように慎重に。
けんなりとした顔をしながら、わたくしの話を聞き続けるハンス王子。
そうそう、そうですわよね。
わたくしの話から、情報が取れるかもしれませんもの。ここに居る筈の見張りは居ない。
どんな手を使ったか分からないけど、録画も止まってる。
ここは、貴方のテリトリー。
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ゆっくり、わたくしの話を聞いて下さいませ。
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