55 / 57
辺境伯夫人は頑張ります
18
しおりを挟む
「これは、大事な証拠です。簡単に渡せません」
「……そう。ならさ、あそこで動かない男、放っておいて良いの?」
フレッドが、険しい顔でハンス王子を睨む。
「そんな顔しても、魔法を解除出来るのは僕だけなんだ! そ、その記録玉を寄越せ!!!」
「フレッド、この記録玉を渡しましょう。我々にとっても、エリザベスにとっても記録玉より王太子殿下の方が大事よ」
「……シャーリー……そうか。分かった。この記録玉を渡します。ただし、まず王太子殿下の魔法を解いて下さい」
「無理無理無理! そんな事したら魔法を解いた途端に捕まるじゃん! みんな嘘吐きなんだからさっ!」
「フレッドは嘘など吐きませんわっ!」
「なんで無条件で夫を信じるんだよ! アンタはちょっとは夫を疑えよっ!」
「フレッドを疑った事などありません。フレッドが渡すと言ったなら、この記録玉はハンス王子の手に渡ります。もちろん、王太子殿下の魔法を解いて頂けたら、ですけれど」
「我々が信用出来ないのは分かります。だから記録玉は、こちらのゲートのすぐ近くに置きます。私は離れておきますよ。これなら魔法を解いてすぐに証拠を持って逃げられる。ちなみに、今動いたら無条件で攻撃しますからそのおつもりで」
フレッドが剣を構える。ハンス王子は、ビクビクなさっている。そんなに怖がらなくても、動かなければフレッドは何もしませんのに。
「分かってる。動かないし、魔法もちゃんと解除する。だからその記録玉を渡せ。証拠さえなければお前達は僕を訴えられないだろ」
「悔しいですが、そうですね」
「で、この男の魔法を解かない限り、いや……その記録玉がある限り、僕は逃げられない」
「その通りです。うちの妻は賢いでしょう?」
「ああ、本当に賢く、度胸のある素晴らしい女性だ。貴殿が心から羨ましいよ。悔しいが僕の負けだ。でも、証拠だけは回収させて貰う」
「王太子殿下を元に戻して頂けるなら、この記録玉を渡しますわ」
「……だったら、それアンタが持っててよ。ちゃんと魔法を解除したら僕に渡して」
「承知しました。フレッド、それで良い?」
フレッドは不機嫌だ。わたくしがハンス王子に近寄るのが嫌なんだろう。
「何故、シャーリーに持たせるのですか」
「置いておくってのも悪い案じゃないけど、記録玉を取ろうとして背中を向けたら捕まっちゃうでしょ。言っとくけど辺境伯殿が僕に渡すのはナシだからね! 僕に近寄って良いのは、そこでぼんやりしてる男とシャーリー様だけ! 僕はすぐ逃げられるようにここにいる。あの男、早く連れて来てよ。魔法を解除するから。そっちが納得出来たら、記録玉を渡して。良いよね?」
「分かりました。フレッド、これはわたくしが持つわ」
「確かにその方がこちらも都合が良いです。ただし、シャーリーに指1本でも触れたら、その場で斬ります」
「分かってるよ! そんな顔で睨まなくても理解してる! 僕だって死にたくないもん。ほら、早く!」
その後、王太子殿下は魔法が解除され元に戻られた。あの日の茶会から王太子殿下の記憶は消えておられた。話をして、正常な状態かご確認する際に、何が起きたかも説明した。元に戻った王太子殿下は当然のようにハンス王子に記録玉を渡す事に反対なさったが、約束だからとフレッドが説得してくれた。
そして、わたくしの手からハンス王子に記録玉が手渡された。
「……本当に渡すとはね。お人好しにも程があるでしょ」
「フレッドは約束を守ると申し上げたではありませんか」
「……はぁ。本当にアンタが羨ましいよ」
「いい加減、私の妻をアンタと呼ぶのはやめて頂けますか? 不愉快です。お約束通り記録玉はお渡ししたのですから、さっさと逃げたらいかがですか」
「分かっているだろうが、平和条約は破棄だ」
王太子殿下が、ハンス王子にそう宣言する。
「はぁ……分かってますよ。あーあ、僕もアン……失礼、シャーリー様みたいに家族を捨てられたら良いのに」
「捨てればよろしいではありませんか」
「僕には辺境伯殿みたいに庇護してくれる人は居ない。家族を捨てたら生きていけないよ」
「ハンス王子、その記録玉は重要な交渉カードだとご理解してらっしゃいますよね?」
「そりゃあね。だから、コレを兄上に渡して許しを乞おうかなって」
「ご家族がお嫌いなのでしょう?」
「大っ嫌いだね」
「でしたら、わざわざお戻りにならなくてもよろしいではありませんか」
「……は?」
「王太子殿下、我が国が欲しくてたまらない物を持って無条件降伏して来た敵国の方が居たら……どうなさいます?」
「そういう事か。それはもちろん、丁重に保護するよ」
「いや、いやいやいや! そんなの信じられないよ!」
「でしょうね。ですからどうぞお帰り下さいませ。そうだ、フレッドは記録玉持ってる?」
「あるぞ。さすがに起動する暇はなかったが。コレは空だから渡しても構わない」
「ありがとう。さすがフレッドだわ。複製して、おひとつ隠し持っておけばよろしいですわ。さ、どうぞ」
ハンス王子に、空の記録玉を差し出す。
「……なんでそんなに優しいのさ」
「特に意味はありません。我々は、ハンス王子にお渡しした記録玉を欲しがっている。それだけです」
「シャーリー、もう良いから戻っておいで」
「分かったわ」
「……それじゃ、また」
そう言って、ハンス王子はゲートに消えた。
「……そう。ならさ、あそこで動かない男、放っておいて良いの?」
フレッドが、険しい顔でハンス王子を睨む。
「そんな顔しても、魔法を解除出来るのは僕だけなんだ! そ、その記録玉を寄越せ!!!」
「フレッド、この記録玉を渡しましょう。我々にとっても、エリザベスにとっても記録玉より王太子殿下の方が大事よ」
「……シャーリー……そうか。分かった。この記録玉を渡します。ただし、まず王太子殿下の魔法を解いて下さい」
「無理無理無理! そんな事したら魔法を解いた途端に捕まるじゃん! みんな嘘吐きなんだからさっ!」
「フレッドは嘘など吐きませんわっ!」
「なんで無条件で夫を信じるんだよ! アンタはちょっとは夫を疑えよっ!」
「フレッドを疑った事などありません。フレッドが渡すと言ったなら、この記録玉はハンス王子の手に渡ります。もちろん、王太子殿下の魔法を解いて頂けたら、ですけれど」
「我々が信用出来ないのは分かります。だから記録玉は、こちらのゲートのすぐ近くに置きます。私は離れておきますよ。これなら魔法を解いてすぐに証拠を持って逃げられる。ちなみに、今動いたら無条件で攻撃しますからそのおつもりで」
フレッドが剣を構える。ハンス王子は、ビクビクなさっている。そんなに怖がらなくても、動かなければフレッドは何もしませんのに。
「分かってる。動かないし、魔法もちゃんと解除する。だからその記録玉を渡せ。証拠さえなければお前達は僕を訴えられないだろ」
「悔しいですが、そうですね」
「で、この男の魔法を解かない限り、いや……その記録玉がある限り、僕は逃げられない」
「その通りです。うちの妻は賢いでしょう?」
「ああ、本当に賢く、度胸のある素晴らしい女性だ。貴殿が心から羨ましいよ。悔しいが僕の負けだ。でも、証拠だけは回収させて貰う」
「王太子殿下を元に戻して頂けるなら、この記録玉を渡しますわ」
「……だったら、それアンタが持っててよ。ちゃんと魔法を解除したら僕に渡して」
「承知しました。フレッド、それで良い?」
フレッドは不機嫌だ。わたくしがハンス王子に近寄るのが嫌なんだろう。
「何故、シャーリーに持たせるのですか」
「置いておくってのも悪い案じゃないけど、記録玉を取ろうとして背中を向けたら捕まっちゃうでしょ。言っとくけど辺境伯殿が僕に渡すのはナシだからね! 僕に近寄って良いのは、そこでぼんやりしてる男とシャーリー様だけ! 僕はすぐ逃げられるようにここにいる。あの男、早く連れて来てよ。魔法を解除するから。そっちが納得出来たら、記録玉を渡して。良いよね?」
「分かりました。フレッド、これはわたくしが持つわ」
「確かにその方がこちらも都合が良いです。ただし、シャーリーに指1本でも触れたら、その場で斬ります」
「分かってるよ! そんな顔で睨まなくても理解してる! 僕だって死にたくないもん。ほら、早く!」
その後、王太子殿下は魔法が解除され元に戻られた。あの日の茶会から王太子殿下の記憶は消えておられた。話をして、正常な状態かご確認する際に、何が起きたかも説明した。元に戻った王太子殿下は当然のようにハンス王子に記録玉を渡す事に反対なさったが、約束だからとフレッドが説得してくれた。
そして、わたくしの手からハンス王子に記録玉が手渡された。
「……本当に渡すとはね。お人好しにも程があるでしょ」
「フレッドは約束を守ると申し上げたではありませんか」
「……はぁ。本当にアンタが羨ましいよ」
「いい加減、私の妻をアンタと呼ぶのはやめて頂けますか? 不愉快です。お約束通り記録玉はお渡ししたのですから、さっさと逃げたらいかがですか」
「分かっているだろうが、平和条約は破棄だ」
王太子殿下が、ハンス王子にそう宣言する。
「はぁ……分かってますよ。あーあ、僕もアン……失礼、シャーリー様みたいに家族を捨てられたら良いのに」
「捨てればよろしいではありませんか」
「僕には辺境伯殿みたいに庇護してくれる人は居ない。家族を捨てたら生きていけないよ」
「ハンス王子、その記録玉は重要な交渉カードだとご理解してらっしゃいますよね?」
「そりゃあね。だから、コレを兄上に渡して許しを乞おうかなって」
「ご家族がお嫌いなのでしょう?」
「大っ嫌いだね」
「でしたら、わざわざお戻りにならなくてもよろしいではありませんか」
「……は?」
「王太子殿下、我が国が欲しくてたまらない物を持って無条件降伏して来た敵国の方が居たら……どうなさいます?」
「そういう事か。それはもちろん、丁重に保護するよ」
「いや、いやいやいや! そんなの信じられないよ!」
「でしょうね。ですからどうぞお帰り下さいませ。そうだ、フレッドは記録玉持ってる?」
「あるぞ。さすがに起動する暇はなかったが。コレは空だから渡しても構わない」
「ありがとう。さすがフレッドだわ。複製して、おひとつ隠し持っておけばよろしいですわ。さ、どうぞ」
ハンス王子に、空の記録玉を差し出す。
「……なんでそんなに優しいのさ」
「特に意味はありません。我々は、ハンス王子にお渡しした記録玉を欲しがっている。それだけです」
「シャーリー、もう良いから戻っておいで」
「分かったわ」
「……それじゃ、また」
そう言って、ハンス王子はゲートに消えた。
61
あなたにおすすめの小説
婚約破棄された翌日、兄が王太子を廃嫡させました
由香
ファンタジー
婚約破棄の場で「悪役令嬢」と断罪された伯爵令嬢エミリア。
彼女は何も言わずにその場を去った。
――それが、王太子の終わりだった。
翌日、王国を揺るがす不正が次々と暴かれる。
裏で糸を引いていたのは、エミリアの兄。
王国最強の権力者であり、妹至上主義の男だった。
「妹を泣かせた代償は、すべて払ってもらう」
ざまぁは、静かに、そして確実に進んでいく。
真実の愛がどうなろうと関係ありません。
希猫 ゆうみ
恋愛
伯爵令息サディアスはメイドのリディと恋に落ちた。
婚約者であった伯爵令嬢フェルネは無残にも婚約を解消されてしまう。
「僕はリディと真実の愛を貫く。誰にも邪魔はさせない!」
サディアスの両親エヴァンズ伯爵夫妻は激怒し、息子を勘当、追放する。
それもそのはずで、フェルネは王家の血を引く名門貴族パートランド伯爵家の一人娘だった。
サディアスからの一方的な婚約解消は決して許されない裏切りだったのだ。
一ヶ月後、愛を信じないフェルネに新たな求婚者が現れる。
若きバラクロフ侯爵レジナルド。
「あら、あなたも真実の愛を実らせようって仰いますの?」
フェルネの曾祖母シャーリンとレジナルドの祖父アルフォンス卿には悲恋の歴史がある。
「子孫の我々が結婚しようと関係ない。聡明な妻が欲しいだけだ」
互いに塩対応だったはずが、気づくとクーデレ夫婦になっていたフェルネとレジナルド。
その頃、真実の愛を貫いたはずのサディアスは……
(予定より長くなってしまった為、完結に伴い短編→長編に変更しました)
新しい人生を貴方と
緑谷めい
恋愛
私は公爵家令嬢ジェンマ・アマート。17歳。
突然、マリウス王太子殿下との婚約が白紙になった。あちらから婚約解消の申し入れをされたのだ。理由は王太子殿下にリリアという想い人ができたこと。
2ヵ月後、父は私に縁談を持って来た。お相手は有能なイケメン財務大臣コルトー侯爵。ただし、私より13歳年上で婚姻歴があり8歳の息子もいるという。
* 主人公は寛容です。王太子殿下に仕返しを考えたりはしません。
姉の婚約者であるはずの第一王子に「お前はとても優秀だそうだから、婚約者にしてやってもいい」と言われました。
ふまさ
恋愛
「お前はとても優秀だそうだから、婚約者にしてやってもいい」
ある日の休日。家族に疎まれ、蔑まれながら育ったマイラに、第一王子であり、姉の婚約者であるはずのヘイデンがそう告げた。その隣で、姉のパメラが偉そうにふんぞりかえる。
「ぞんぶんに感謝してよ、マイラ。あたしがヘイデン殿下に口添えしたんだから!」
一方的に条件を押し付けられ、望まぬまま、第一王子の婚約者となったマイラは、それでもつかの間の安らぎを手に入れ、歓喜する。
だって。
──これ以上の幸せがあるなんて、知らなかったから。
[完結中編]蔑ろにされた王妃様〜25歳の王妃は王と決別し、幸せになる〜
コマメコノカ@女性向け・児童文学・絵本
恋愛
王妃として国のトップに君臨している元侯爵令嬢であるユーミア王妃(25)は夫で王であるバルコニー王(25)が、愛人のミセス(21)に入り浸り、王としての仕事を放置し遊んでいることに辟易していた。
そして、ある日ユーミアは、彼と決別することを決意する。
「帰ったら、結婚しよう」と言った幼馴染みの勇者は、私ではなく王女と結婚するようです
しーしび
恋愛
「結婚しよう」
アリーチェにそう約束したアリーチェの幼馴染みで勇者のルッツ。
しかし、彼は旅の途中、激しい戦闘の中でアリーチェの記憶を失ってしまう。
それでも、アリーチェはルッツに会いたくて魔王討伐を果たした彼の帰還を祝う席に忍び込むも、そこでは彼と王女の婚約が発表されていた・・・
【完結】さようなら、婚約者様。私を騙していたあなたの顔など二度と見たくありません
ゆうき
恋愛
婚約者とその家族に虐げられる日々を送っていたアイリーンは、赤ん坊の頃に森に捨てられていたところを、貧乏なのに拾って育ててくれた家族のために、つらい毎日を耐える日々を送っていた。
そんなアイリーンには、密かな夢があった。それは、世界的に有名な魔法学園に入学して勉強をし、宮廷魔術師になり、両親を楽させてあげたいというものだった。
婚約を結ぶ際に、両親を支援する約束をしていたアイリーンだったが、夢自体は諦めきれずに過ごしていたある日、別の女性と恋に落ちていた婚約者は、アイリーンなど体のいい使用人程度にしか思っておらず、支援も行っていないことを知る。
どういうことか問い詰めると、お前とは婚約破棄をすると言われてしまったアイリーンは、ついに我慢の限界に達し、婚約者に別れを告げてから婚約者の家を飛び出した。
実家に帰ってきたアイリーンは、唯一の知人で特別な男性であるエルヴィンから、とあることを提案される。
それは、特待生として魔法学園の編入試験を受けてみないかというものだった。
これは一人の少女が、夢を掴むために奮闘し、時には婚約者達の妨害に立ち向かいながら、幸せを手に入れる物語。
☆すでに最終話まで執筆、予約投稿済みの作品となっております☆
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる