Archaic Almanac 群雄流星群

しゅーげつ

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第五部 瓦解のクリアレギス

85.白嶺の稜線を臨む

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 戦役初日、州境で小競り合いが始まっていた頃、ロガー村では平穏な時が流れていた。


 一足先に村に戻ったビエラは、有り合わせの廃材での蜂箱作りを開始し孤軍奮闘悪戦苦闘、
子供達が駆け回る作業場――休耕畑に雑貨屋の徒弟になっていたギャレットを呼び出した。

 グレイドルは断髪式をした後、渡河の前に預けた重荷――戦斧の回収と蜜蜂の確保の為に、
アッパービレッジへ出向いて不在だった為でもある。

 「あーもう! なんで上手く行かないの……グレイ兄ぃはこういうの得意なんだけどなぁ。
ねぇギャレットさん、ちょっとこの板を抑えといてくれる?」

 「……いや、これさ……ちゃんと図面引いた? 多分全然小さいと思うけど……」
 「図面? ってこれで小さいの? 言ったって蜂の巣箱でしょ?」
 「俺も実物見た訳じゃないんだけど、兄貴が乗れる程の大きさじゃなかったっけか?」

 うーんと不安そうにしゃがんだギャレットは地面を棒で掻き、縮小された製作図を書いた。
思いのほか精巧で同じ様に目線を合わせて屈んだビエラが嬉しそうに笑う。

 「えー? 案外上手いね。さっすが! 村一番の雑貨屋の若旦那!」
 「いや……この村雑貨屋一軒しかないよな? 元々細工師だからこのくらいは、まぁ」


 余談だがロガー村の雑貨屋はパルベスギルド嬢、オフェリアの生家でもある。

 頑固な性格の父が一人で店を回しているが、ギャレットは彼の厳しい指導にも良く耐えた。
生真面目な性格で手先も器用な為、臆病さで踏み外さなければ真っ当に人の道を歩むだろう。

 廃村間近の村の再興をそっちのけで人助けばかりしているジャックリーパーのペアよりも、
余程現実的に貢献していると言える。

 そんなギャレット達の元に雑貨屋の親父が昼食を持ってやって来たのは昼前の事だった。


 「おおう、居ねぇと思ったらこんな所で油売ってやがったのか坊主」
 「い、いや、別に遊んでた訳じゃぁ……」

 「あ! おじさん、ごめんね。ギャレットさん呼んだの私なんだ! 言っとけば良かった」
 「どうせ暇だしそりゃ構わねぇんだがよ。さっきトゥールギルドから村長に使いが来てな」

 親父が二人に伝えたのは、領主メラニー・フォートレルからの募兵の告知だった。

 「え……何これ? 南が北に攻め込んで来たってこと??」
 「どうやらそうらしい。既にブリブ辺りでやりあってるってぇ話だ。で、どうすんだ?」

 一斉に視線を注ぐ二人に挙動るギャレットは、嫌な予感を隠すように素頓狂な声を上げた。


 「え……お、俺ぇ!?」



 ***


 同じ頃、村から東にあるアッパービレッジの外れ――小さな小屋からは笑い声が木霊する。


 「きゃははははは!! ちょ! 何その頭! たった1日で何があったのよ!!」
 自慢の蛇髪を失い風貌の変わったグレイドルを見るなり、クロエは指差して大爆笑した。


 「くっそ……うっせえよ! 手配されてんだからしゃーねぇだろ!」
 「ひっ ひーっ お腹痛い……アタシが苦労して恩赦取ってあげたのに……っぷ!」

 「もう良いっつうの! って……恩赦って何だよ?」
 メラニーとのやり取りをクロエが話すと、グレイドルの諦め顔は徐々に色を失った。

 「おい……冗談だろ。なら俺の涙の断髪式は……」

 「……ぷぷっ まぁ似合ってんじゃない? バスターさんに似ちゃってるけど」
 「ハゲと一緒にすんじゃねぇよ。俺のは虎を模してんだよ! 見ろやこの斑模様!」

 「……素人が失敗したみたいに見えるけど。で、何の用?」

 「バカ野郎、目の前にあんだろうが。戦斧を取りに来ただけだ」
 無造作に立て掛けてある斧に目をやって、翻ると気を取り直してクロエは調薬を始めた。

 「あれ、やっぱアンタのだったのね。武器なんて興味ないから気付かなかったわ」
 「オメェこそ何やってたんだよ。村に来るんじゃなかったのか?」

 「こっちも色々訳アリなのよ……最初から話すと長くなるんだけど――」


 クロエはトゥールから水精術師を借りて来た経緯を、ヴィルマとの逃避行から順に話した。
幼い身で過酷な旅をしたもんだと若干自虐的な口調に、グレイドルも神妙な面持ちになる。

 「結構苦労したんだな……それで、あのオッサン連中とかガキはどうしたんだ? 一人か? 
蜂のガキには世話になったからよ、駄賃でもやろうかと思ってたんだが」

 「ガキって……コマルね? あの子は村の集会所で勉強会? ジュノおじさんは付き添い。
キタロおじさんとケーシさんは募兵? とかでトゥールに行ったわよ」
 「募兵って何だよ? 何で田舎の爺連中がそんなもんにわざわざ絡むんだ?」

 ふぅと小さく鼻息を吐いたクロエは隣室のドアを眺めて声を落とした。 


 「一緒に逃げて来た子が全然目を覚まさなくってさ。
逃げてる最中は起きてたんだけど……起きたら起きたで大変なのよね。
けどこの村って術師が居なくて……田舎に来るの嫌がるし。
それで術師がいつでも村に居るように、お願いする為に参加したって訳」

 「褒賞代わりって訳か。無関係なガキの為にご苦労なこった、連中もオメェもよ」
 「アンタが言えた事じゃないでしょうが」


 「ただいまー あれ?」

 クロエとグレイドルの間の流れる微妙な空気を破る猫のような声が、木扉の開く音に続く。
コマルに次いで戻ったジュノは、視界を占有する見慣れない戦人を見て体が固まった。

 「なっ だ、誰じゃお主!? ワシの家に勝手に上がりこみおって!」
 「おいおい、おっさん。ついこの前会ったじゃねぇか? ボケてんじゃねぇよ」

 「むむむ……? おお? お主は……そんな頭じゃったか?」
 「だぁぁ! 髪の話はもういんだよ!」

 カタランパークのワスプ掃討に参加したグレイドルと留守番のジュノが顔を合わせたのは、
キタロ達と共にコマルをアッパービレッジに連れて戻ったのが初だった。


 その後ロガー村へ戻ったグレイドルが再び訪れ、コマルに蜂を借りた時の彼は蛇髪だった。
数日で変わった人相に知人が気づけない辺り、断髪の甲斐は多少あったようである。


 「元々妙じゃったが……益々怪体な頭になりおったな?」
 「――だからよ! いや、もういいや面倒くせぇ。おい、ガ……いや、コマルだっけか」

 「なぁに? おじちゃん」
 「おじちゃんじゃねぇ、お兄さんだ。ほらよ、この前の蜂の礼だ。とっとけや」

 そう言って銀貨を差し出すグレイドルを、コマルが不思議そうに見上げ首を傾げる。


 「なあにこれ? 食べれるの? おいしい?」
 「喰うんじゃねぇよ! おい、おっさん……金の使い方も教えてねぇのかよ」

 「バカもん! 子供に大金を渡すんじゃない! 誰かに知れたら危ないじゃろうが!」
 「大金っつったって銀貨3枚ぽっちじゃ、しょぼいナイフ一本買えやしねぇぜ?」

 「これじゃから戦人って連中は……常日頃から銭の感覚が狂っとるんじゃ、まったく」
 「本当よね……銀貨3枚でどれだけ食べられると思ってんのよ、この虎男は」

 「だからもう頭のことには触れんなっての!! ならおっさんが預かっとけや!」

 ドカッと丸椅子に腰を落としたグレイドルに、ジュノは2枚銀貨を返した。


 「当面はこれで十分じゃ…それよりクロエ嬢を送ってくれんか? 残りは護衛料じゃ」
 「え!? 何言ってんのよ、ヴィルマはどうすんの? 連れて歩けないわよあんなんじゃ」

 「娘っ子はワシ等が看といてやるから安心せい。お主も一度村に戻らにゃならんのじゃろ」
 「それは……そうだけど。けど……良いのかなぁ。色々放り出して帰っちゃってさ」

 有難いジュノの申し出に戸惑うクロエだったが、その善意が悲惨な事件に遭う事になると、
渋々護衛を承諾し目撃者となるグレイドルですら知る由も無かった。 


   ***


 アッパービレッジから東。セントラルを北に抜け、鉱山市セリエと中継市ネーヴを素通り、
中央アルフ地方、プローブ領州都プローブに達した男達がいた。

 ヴィーノことヴァンと、元帝国斥候ウィルフである。

 エスパニ奪還の為に動き出したルシアノ達と地下湖で別れた二人は、アルヘ山脈を越えて、
暗黒大陸経由での帝国入りを果たす為にと北上を続けていた。

 その旅程、最初の壁がこのプローブである。


 冠雪の残る堅牢なアルフ山嶺を覆うよう聳える城壁は、一見イベリスの監獄に似ているが、
それでも関門は封鎖されておらず人々は自由に往来している。

 つまりイベリスとは異なり、プローブの壁は王国側からの介入を阻む為の柵ではない。
 むしろ反対側のアルヘ以北の区外からの害獣を防ぎ、中央へ出さない為の内壁だった。

 しかし区外が開拓され脅威が無くなった今もなお、山道へと繋がる北門は封鎖されている。
ヴァンはその門を穏便に突破する為にと、高台にある領主館へと足を向けた。 


 この王国中央を囲む第三次防衛線を構成する関門は、代々プローブ家が治める鉱山都市で、
現領主は造営官を兼ねるボードウィン・プローブである。

 面識のないヴァンが僅かな知己を頼りに便宜を求めて、質素で剛健な邸宅に達した頃には、
日は一度高く上り既に下りを初めていた。

 
 「っかー……ダメだなこりゃ。領主は不在だとよ」

 「ぷはっ なに? もっかい言ってくれるかい?」
 串焼きを片手にボタバックを煽り門外で待っていたウィルフは、喉から酒気を逃がす。
 初夏とは言え肌寒い北の街では口元から白霧が舞い、ヴァンは呆れ顔に溜息を混ぜた。

 「お前ずっと飲み続けてんな……ほどほどにしとけよ? これから登山すんだからよ」
 「だーいじょーぶだいじょぶ、酒入ってる方が手数も口数も増えっから。って……何?」
 周囲を一望出来る崖上から街並みを眺め感慨に耽るヴァンをウィルフが覗き込んだ。

 「……ん? ああいや。ここはあんま変わんねぇなってな」
 「前に来た事が? なんか……見るから窮屈そうな町だけどよ」

 「峡谷に建てたからな。山合の傾斜地だから広い道幅が取れなかったんだよ」
 「へぇ、ちょっと帝都っぽい立地だな……ん? 建てた?」

 「……あー、そんなことより北門に向かうぞ。閉まってんだろうけどな」
 「閉まってるなら行っても意味ないんじゃ……」

 勝手知ったるという足でズンズンと迷うことなく狭路を進んでいくヴァンの後を追いつつ、
ウィルフは喉を鳴らして顔を顰めた。

 「っかー。なんだろうな、この苦味というかエグ味……」
 「露店で買ったやつか? そりゃワームウッドで作る薬酒だからな。他にあったろ?」

 「どれでもいいから強い酒をくれって言ったら、パンパンに詰められたんだよ」
 「好みとか無いのか? エールでもワインでも売ってんだしよ」

 「……酔えりゃなんでも良いからな。味なんて気にしたこと無い」
 「重症だな……もうすぐ着くから飲み歩きはその辺にしとけよ」

 「どこに向かってるんだ? 通りからかなり外れたが……」

 プローブの大通りは基本一本道で、狭路が複雑に入り乱れる裏路地と違い迷うことがない。
にも関わらずヴァンは早々に本筋を逸れ、北門から離れて東へと突き進んでいく。

 狭小住宅街の裏手へ回ると小さな畑や放牧地が所狭しと連なり、
人気の無い丘陵の奥には、断崖絶壁が視界一帯を阻み、聳え立っていた。


 「……ここに何かあるのか? 行き止まりにしか見えないが」
 「あの崖上にちょっとした荘園があるんだが、そっから山道に抜けれるんだよ」

 「抜けるってったって、あんなのどうやって登っ……あれか。地形操作で壁を昇る――と。
けどそれなら穴掘って抜けた方が早いんじゃないか?」

 粗雑に指差すウィルフを信じられないという顔で見返し、ヴィーノはガクッと首を垂れる。


 「あのなぁ……隧道掘るのがどんだけ大変か解ってねぇだろ? 
落盤に爆発、地下水に……頼まれてもやりたくねぇ」
 「まるでやったことがあるみたいに……ならどうする? 今から昇るのか?」

 「お前のその恰好で山に入れる訳ないだろ。夏前つってもここより寒いんだぞ?」
 「飲んでりゃ大丈夫じゃないか? 酒さえ切れなきゃ何とでもなるさ」

 「酒は防寒具じゃねぇ……まぁ今日はここで一泊だ、装備を揃えて体力も回復させねぇと。
翌朝念の為にもう一回領主館に寄って不在なら絶壁登攀だな。居たらラッキーってことで」

 「そりゃ正攻法で北門を通れた方が楽だもんな。よし! なら今日は酒場で一杯やろうぜ! 
師匠の話とかも色々聞きたいからよ!」
 「話っても随分会ってないからな……お前の方が詳しいくらいだと思うがな」
 「良いって良いって! あの人が王国に居た頃の話をしたことは一度も無いからな!」

 「……まぁとりあえず宿を先に探すぞ。んで装備を整えて、酒場はその後だ」


 へいへいと不服そうに、それでも足早に先行するウィルフを追い、ヴィーノは振り返る。
 郷愁を誘う白い峰に後ろ髪惹かれながら、再び賑わいの中へと戻っていった。  
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