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始まりの森編
試行錯誤は人生の嗜みと人は言う
しおりを挟むいやいや訂正、さっき倒した兎のドロップ品が入っていた。兎の肉と兎の毛皮が1個ずつ、ドロップは何気に良さ気で助かるけど。
ってか運営さん、ビギナーに回復薬くらい持たせてよ! 何気に殺意が高い限定サーバ、この先がちょっと……いや、かなり心配ではある。
やっぱりこの『始まりの森』、普通に考えて初心者の振るい落としエリアなのだろう。まぁ、さすがに不条理な罠やソロじゃ倒せない敵が出て来るとは思わないが。
それでも、架空世界の常識を知らないせいで倒されるパターンは大いにありそう。改めて自分のステータスを確認するけど、管理すべきポイントバーが4本もある。
まずは2つ、HPとMPは分かり易い、体力と魔力は休憩したお陰で満タンである。もっとも俺のキャラは、今の所1つも魔法を覚えていないけど。
それからSPはスキルポイントの略らしく、これはいわゆる必殺技を使う時に必要なポイントらしい。戦闘行為をこなす事で微増して行くが、休憩を取ると減っちゃうみたい。
必殺技はどの武器にも用意されていて、その武器のスキルを伸ばして行く事で自然に覚える事が出来るそう。俺の現在のスキルPは、弓矢と短剣に1ずつ……スキル所持数はゼロ。
確かポイントが4の倍数で、ランダムにスキルは所有出来るって話だったような?
魔法も同じ感じで、スキル4Pを覚えたい属性に振り込めば、やっぱりランダムに覚えていけるそうだ。その肝心のポイントだけど、レベルアップ毎に2Pは貰えるらしい。
つまりこの窮地を脱するには、レベル3まで上げてしまえば良いって理屈だ。それとも他に、どこかで使えそうな得物を探すべき?
弓矢と短剣で戦闘の度に死にかけるより、その方が余程建設的な気がする。ただしこんな森の中、当然の如く武器など売っていない。
……まぁ、武器や防具を買おうにも、お金は1円(?)も無いけどな。ここら辺は潔いと言うか、サバイバル感は溢れ返らんばかり。
そう、生き残るためにはまずは知恵を絞らねばならないようだ。サバイバルの原点だ、手元にあるモノと知恵で窮地を切り抜けて行く的な。
そうそう、言い忘れていたけどポイントバーの最後の1本はスタミナである。最近のバーチャゲームは、全般的にゲーム内でも“食事”が可能だと琴音は言っていた。
このゲームもご多分に漏れず可能みたいで、しかも積極的に食事をとらないとスタミナが減って行くらしい。そうなると、HPやMPにまでダメージが来てしまう仕様なのだとか。
面倒だけど、冒険者もやはり身体が資本だって解釈で合ってる?
そんな事を思いながら、休憩ついでに周囲を窺っていた俺である。油断して敵に急襲されたら堪らないとの行為だったが、この森の植生に気付けたのは幸運だったかも。
何と言うか、その辺はやけにリアルで色んな植物で溢れている。探せば木の実やキノコ類も採れるかも知れない、ついでに木の枝で棍棒か木槍が作れるかも?
幸い手元にナイフもあるし、まずは戦闘より探索を先にしてみようか。そんないきなりの方針の転換で、冒険者と言うより遭難者みたいな境遇だと思わなくもない。
それでも、このままゲームを進めるよりは、恐らくは良策で建設的だと考えた次第。取り敢えずは探索だ、不慣れな戦闘行為よりは興が乗るのも確か。
それはある意味当たりの選択だった、何しろ意外と簡単に食用可能な果実と木の蔦が採集出来たのだ。それから試しに、手頃なサイズの木の枝をへし折ってナイフで加工してみる。
そんな無理矢理な収集作業でも、システムはちゃんとアイテムを得たと認識してくれた。粗削りながらも、何とか15分後には槍っぽいフォルムの棒が完成。
アイテム名は“粗末な手製の木槍”で、攻撃力はたったの3である。
――粗末な手製の木槍 耐久3、攻+3
それでも攻撃力はナイフと大して違わないし、こちらの方がリーチ的に有利な筈。試しに振り回してみても、何の違和感も感じない程度にはしっくり来ている。
逆にナイフで切り掛かる方が、俺からすれば不慣れな動作だったり。そんな感じでメイン武器を交換、試しにと側にいたウサギ型モンスターに突き掛かってみる。
ウン、最初の戦闘よりは簡単に倒せたような?
多少は慣れもあるんだろうけど、リーチ差があるのは大きいと思う。それより手作りだけあって、耐久値が低いのがネックな気が。
これが減ってゼロになると、武器も防具も壊れてしまう筈。その位はゲーム経験が無くても分かる、後で予備の武器をを作っておこうかな。
時間は掛かってしまうが、その辺は致し方が無い。それとも修理の手段が、この森のどこかに存在するとか? そう言えば、森の探索が一向に進んでいないなぁ。
何にしろ時間はたっぷりある、家事や勉強に追われる日々の俺にとって贅沢な程に。意識をステータス画面へと向けると、自分のステータスに加えて残り時間が表示された。
うん、こちらの時間でまだ3時間以上も滞在出来るってさ。偉大なるは倍速の世界、ゲームのみに使うには勿体無さ過ぎる機能だと思う。
その内に色々な分野へと、この架空世界は発展を遂げて行くのだろうけれど。今はとにかく、収集したアイテムの分析を先にすべきだろう。
兎の肉は、当然の如く煮るなり焼くなりしないと食べられない様子。さっき採集した木の実は、どうやら生でもオッケーみたい。
その代わり、食べてみたらスタミナは申し訳程度しか回復しなかった。
兎の毛皮や木の蔦は、今の所使い道がハッキリしていない。何かに加工出来そうな予感はあるんだけど、何かしらの加工スキルがゲーム的に必要な気もする。
まぁ、ログアウトした後で琴音にでも聞いてみようか。今は手に入れた新しい武器を手に、もっと周囲の探索をしておきたい。
いや、同じ手順で今度は棍棒とかも作っておきたいかも? 当然だが、予備の武器はあった方が良い、自作武器の耐久値の低さを考えれば尚の事。
ところが実際は、そう都合よくこちらの思惑通りには進まなかった。武器素材の手頃の大きさの木の枝が、何と“採集制限”に引っ掛かって入手出来なかったのだ。
この“採集制限”は、プレーヤーが好き勝手にフィールドに点在する採集ポイントから、素材や果物を採り過ぎないようにとの規制らしい。
確かにそうだ、無制限に回収出来たら色々と不味いだろう。ゲーム世界とは言え、尚更に上限があって当然なのは理解出来る。
その制限が無いと、換金可能な素材を取り放題で、あっという間にインフレが巻き起こっちゃうだろう。それでもさっきのポイントは、一応記録しておきたいかも?
時間の経過と共に、その後も採集にお邪魔するかも知れない。
マップの開き方を試行錯誤していたら、色々と一度も開いていなかった簡易ウィンドウがあるのを発見した。自分のステータスとか、目視可能な情報は結構あるみたい。
それはまぁ、今はいいやと華麗にスルーして。だって『初心者Lv1』の弱っちい数字の羅列なんて、見ていて感心出来るモノなどでは決してない。
それよりマップは……ああ、ちゃんと見付ける事が出来ました。何か結構歩き回っていた模様、このゲームはオートマッピング仕様みたい。
俺が歩き回った場所は、くっきりと雲が晴れた様に表示されている。そして良く見ると、スタート地点の側に鈍く光る光点が1つ。
どうやら最初に訪れるべきチェックポイント、見事に無視して徘徊していたようですなぁ。ちょっとだけ反省、いやでも俺って初心者だし?
何と言っても、まだこちらでは1時間も経っていない訳だから。そんな遠回りしたとも思わない……とか考えつつ、元来た道を戻ってみたり。
そう言えば琴音から、敵が入って来れない安全地帯があるって聞いたような。そこ以外でログアウトするのは、正直危ないよと釘を差されていた記憶がある。
ふむふむ、それならスタート地点の近くにあるのは納得出来る。
それをまるっと無視したのはご愛嬌、ってか本当にNPCの1人にも出会っていない現状を鑑みるに。ちょっと不安なのは仕方がない、アドバイス無しに突き進んで痛い目を見たくないのは誰だって同じである。
このゲームのNPCの人工知能、物凄く秀逸なんだとの噂もあるし。
「おっと、この辺りがスタート地点になるのかな……?」
10分足らずで戻って来れたその場所だけど、確かに何となく見覚えがある。その間に3匹ずつ兎と芋虫型のモンスターを狩って、見事初レベルアップを果たす事に成功した。
良く分からないが、ステータスなどの数値が微増したらしい。HPやMP、それからスタミナなどもレベルアップに伴って上昇してくれた模様。
てんで初心者には変わりないが、まぁ生存率も微増したかな? そんな事を考えつつ、ようやくそのエリアに到着したのはスタートから約1時間ちょっと後の事。
ちなみに貰えたスキルPは、今回はまるっと保留しておいた。武器スキルに注ぎ込むのも考えたけど、やっぱり魔法も使ってみたい。
せっかくの手持ちのMPが勿体無いってのもあるし、ファンタジーを満喫したいって思いもある。何しろ魔法だ、現実世界ではまずあり得ない。
割とミーハーで節約根性の漂う理由だけど、それが自分と言う人間な訳で。
中立エリアは、温かで静謐な空気が漂う一種独特な空間だった。何と言うか、冬の温室に入った時の様な空気の違いは、肌にヒシヒシと感じられる。
敵に襲われない場所ってのは、まぁ正直有り難いモノではある。その代わりと言うか、ここに居座っていても経験値は入って来ないし、勿論のこと物語は全く進展しない。
いや違った、広場の中央に目を引く大樹が1本。
恐らく、ここから物語が始まるのだろう。この『始まりの森』を突破する為の、数多のキャラクターたちが織り成す振るい落としのバトルロイヤル。
もちろん、この俺もその中の1人だ……そして、簡単にドロップアウトしてやるつもりはない。難易度は未だに判然としないが、簡単過ぎる事は絶対にないだろう。
俺は中央の大樹を仰ぎ見ながら、そんな事を思っていた。
――そうそう忘れていた、このゲームのタイトルだが『ミックスブラッドオンライン』と言うらしい。琴音曰く、この手のVRMMOの中では断トツの出来と売上との事。
ついでに言っておこうか、俺の名前は八崎恭輔――どこにでもいる、ごく普通の高校生だ。
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