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始まりの森編
最初の躓きは後の糧になる
しおりを挟むさてさて、前回半端にしか出来なかった自己紹介でもしておこうか? いや、俺が誰で何者かなんて別にどうでも良い事だとは思うけど。
ってか、ぶっちゃけただの学生で名乗る程の者でも無い。名前は八崎恭輔、某有名私立進学校に通う高校2年生だ。
成績はまぁ良い方で、可愛い妹が2人いる。両親はいなくて、この事実が将来設計に大いに影を落としてもいる。つまりは2人の妹の将来も、俺に責任が付いて回ると言う。
それがマイナスだとは思っていないが、高校生には重い負荷なのは当然だと思う。俺の成績が良いのも、半ば以上は学費免除を狙っての結果だ。
幸い、ウチの高校にはそう言う制度があるのでそれを有効利用してるって訳だ。両親の残した遺産……と言うか保険の額は、俺達兄妹3人が成人するまで余裕を持って、と言うには残念ながら心許ない。
だから、俺は高校を出たら社会に出て働くつもりでいる。大学も学費免除とか奨学金とか、一応は色々と考えてみたのだけれど。
奨学金と言うのは、ハッキリ言って『働き出したら返還する借金』以外の何物でも無い。自分だけならともかく、家族を背負って借金生活ってのは自分はパスだ。
そんな俺の人生設計に待ったを掛けたのが、幼馴染の琴音だった。どうやら彼女は、夢の様な大学キャンパスライフを俺と過ごす計画を、ずっと脳内で形成していたらしく。
子供の頃からの付き合いなので、そう言った将来の進路なんかは相手にほぼ筒抜けである。何しろ琴音の両親が、俺達兄妹の後継人的な立場だったりもするので。
近所のよしみと言うか、生前の親同士の付き合い的にそうなった次第。
遠方の親戚より近くの知り合いと言うか、俺達もそれに頼ってしまっていて。幸い、家事の分担は自然に兄妹3人で振り分けられていて、それほど琴音の家に頼りっぱなしではない。
そうは言っても、やはり世話になっている家族の一人娘の言動である。完全に頭から無視する訳にもいかず、ってか兄妹同然の幼馴染だもんね。
彼女の溢れ出る妄想にも、多少は我慢しつつ付き合う義理はある。何を一体話しているんだと、思っている人も多いと思うけど。
つまりはこれ、俺がこの『ミックスブラッドオンライン』と言うゲームを始めたきっかけだったりする。えっ、と思う人も恐らく一定数存在するとも思うけれども。
そこがこのゲーム(の特別限定イベント)の、特殊性と言うか……いや、ゲームでは無くその会社を乗っ取った新社長の意向だろうか。
詳しくは知らないが、その新社長はこのゲームのクリアに多額の賞金を懸けたのだ!!
何とも奇特な人物だが、この行動が世間に与えた衝撃は大きかった。賭博性の高いゲームへの締め付け法律など、当の昔に破棄されて存在などしていない。
時代が既に、それどころでは無い時代の流れだったりするのだろう。今や日本にも大小様々なカジノは存在するし、それが結構な一大事業へと育ち切っている。
更にネットを通じての外貨獲得、これを逃す手は無いって事だろうか。そう、ネットを使えば旅費もパスポートも不要で、ちょっとしたバカンスを堪能出来る時代なのだ。
日本はその分野で、そこそこ頑張っているのだと琴音は熱弁を振るっていたけど。つまりはこの手のゲームを始めとする、VRMMO系のタイトルの充実具合とか?
ゲーム製作会社は、面白くて熱中出来るバーチャ世界を全世界に向けて提供する。世界中のゲーマーは、それにインしてお金を落として行く。
そう言う貨幣流通の構図が、今では当然の様に出来上がっているみたい。思えば一部の人間の熱中する、株やら仮想通貨やらのマネーゲーム。
それらと仮想空間での娯楽は、今や大した変わりは無いのかも知れない。俺に関しては、このゲームが最初のバーチャ世界なので、まだ何とも言えないけれど。
子供の頃に祖父母の実家の田舎で鍛えられていた経験もあって、サバイバル的な要素には燃えるモノがあったり無かったり。
――ってな訳で、改めてゲームの話に戻ろうか。
しばらく安全な中立地帯を堪能していたら、不意にアラーム音が脳内に響き渡った。一瞬驚いた俺だが、外世界からの接触だと電子的な音声の告知が知らせてくれた。
同じ室内にる琴音の仕業だなと、大体の見当はついたのだけど。何しろさっきから、向こうが送って来るメールの類いをこちらは無視し続けていたのだ。
何故って、せっかくのファンタジー世界をとことん堪能したかったから。当然の権利に思えるのだけど、向こうはそんな事はお構い無しらしい。
まぁ、向こうがこの筐体のオーナーなのだし、それをまるっと無視するのも悪かったかも。そんな訳で納得出来ないまま、一度ログアウトする事態となった。
そして発見、このゲームはどうやら半ログアウトってのも選択出来るらしい。興味があったので、俺は試しにそっちを選んでみる事に。
ちょっと奇妙な感覚、何だか幽体離脱を経験しているような?
「ちょっと恭ちゃん、何で私の送ったメール無視してるのよっ!? フレンド申請しておかないと、通信とかいろんな機能が使い辛いじゃないのっ!
やり方が分からないなら、ちゃんと訊いてっ!」
「いや、ちょっと進む方向をミスって、つい今しがた安全地帯に辿り着いたばかりなんだ。ってか、ゲームに馴染むのにもう少し時間くれよ」
「だから始める前に、何度も言ってたでしょ! このイベントは一度死んだら1週間はログイン不可能なんだから、相談し合いながら慎重に進もうって。
何でそれ無視して、勝手に迷子になってんのっ……ちゃんとしてっ!?」
ゲーム内で迷子になるのも、果たして俺は許可がいるのだろうか。そもそも、最初はソロ模様なんだから、相談もへったくれもないだろうに。
そんな感じで、色々と思う事はあるけどそれは言わぬが華なのだろう。ってか、このゲームって一度死んだらキャラロストじゃ無かったのね。
何かどこかで、レギュレーションを勘違いしていたらしい。まぁ、ライバル達と競ってゴールを目指すのに、1週間の遅延は致命的っぽいけど。
何にしろ琴音は、このゲームに関してはベテランプレーヤーなのだ。変に逆らって怒らせるのもアレだし、少々煩いのは元からだ。
あしらい方も慣れたモノ、確かにそうだねと相槌を打っておく。それから話題転換に、自分の作ったキャラの不具合点の相談など。
それは割と切実なので、頼りにしてます感は我ながら満載だった……筈なのだけれど。長い付き合いなので、こちらの計略は全部相手にはバレていた模様。
「それより恭ちゃん……半ログアウト取り止めて、一旦ログアウトして! イン時間が消費されてて、このままじゃ時間が勿体無いから!!」
「お、おう……」
怒られた、どうやら半ログアウトは一日の制限時間に食い込んでしまうらしい。この時間制限も割と重大な要素で、琴音によるとベテラン勢は遥か先を進んでいるそうだ。
何しろその差は1週間程度、つまりはこの賞金付きの限定イベントが始まってからの換算で。何でこんなに差がついたかと言えば、ひとえに俺がゲーム参加を渋っていたからだ。
それについても、こちらには真っ当な言い分がある。つまりは、そんな訳の分からない賭け事で、貴重な時間を潰したくなど無いよと。
至極当然な理由だと思うんだけど、彼女の言い分はその真逆だった。宝くじだって買わなきゃ当たらないし、この賞金は宝くじを当てる確率より何倍も高いのだと。
それはまぁ、確率を換算すればその通りではある。何しろ俺が今使わせて貰ってるこの筐体、それなりにお高い値段で誰もがお気楽に購入出来る訳ではない。
しかも、この“高額賞金付き限定イベント”のせいで、筐体&ゲームにプレミアが付き始めているとの噂が。つまりは、後続で参加する人数が増えにくいと言う現象が。
それを踏まえて、ライバルの数は随分と絞られるとの話。
――その話を聞いて、俺の心が揺さぶられたのも本当。
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