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始まりの森編
5万人のライバルは果たして多いのか
しおりを挟む現在のイベント参加者は、推測されているところで5万人程度らしい。宝くじの当選確率より、余程現実的だと琴音は自信満々にのたまうのだけれど。
こっちは始めたばかりの初心者だと言う事実を、完全に忘れ去っている気も。推定5万人の参加者の中には、当然ながら『ミックスブラッドオンライン』本編ゲームの、ベテランプレーヤー勢も多数いる。
そんな圧倒的多数を相手に、勝ち名乗りを上げる自信など全く無い。そこは幼馴染の絶大なサポートが、力を発揮すると琴音は考えているのかも。
そんな彼女は俺の参加を何度も誘い待ちして、現在は俺と同じく『始まりの森』から始めてくれている。つまりスタートダッシュからは綺麗に外れて、この森の情報もほとんど知らないそうな。
飽くまで初心者の俺と歩調を合わせ、この限定イベントを楽しむ心積もりらしい。そんなこの“賞金付き”限定サーバだが、風の噂では荒れ模様だとの話。
そりゃまぁ、大金が絡めば極端に走る者も出現するだろう。
「最初の武器を弓矢にしちゃったかぁ……武器の扱いはオート補正が付くとは言え、あんまり日常とかけ離れた動作はさすがに慣れるまでに時間が掛かるよ?
それより恭ちゃん、ちゃんと人間種族にしてくれた?」
「ああ、そうなのか……人種はちゃんと、言われた通りに人間メインにしたよ。これにしなきゃ、最初の街で合流出来なくなるんだろ?」
「うん、そう。最初のスタートの街は、種族ごとに4つに別れてるから……人間種族は、私のサーバではあんまり人気無かったんだけどね。
それでも多分、最初の街は混雑するだろうなぁ」
そうらしい、向こうは合流してからの心配をしてるっぽいが、こちらはそこまで辿り着けるかが物凄く不安である。とにかく琴音の言う理由で、メインサーバでも弓矢の使い手は極僅かしかいないとの事。
ついでに補足しておくと、4つの種族とは『人間』族と『妖精』族、それから『獣人』族と『魔』族である。それぞれメインのスタート地点となる街は違っていて、別々の種族を選択すると最初の街で合流出来ないと言う悲劇が起こる。
それを最初に、琴音から注意されていたって次第。
幼馴染の戦略では、不人気の『人間』種族を選んで初期の混雑を避ける予定だったみたい。その当ては外れそうな上に、多額の賞金に理性のタガが外れた連中が湧いているそうな。
つまりは、ライバルを蹴落とそうとPKに走る不届きモノも暗躍し始めているとの噂が。妙な空気が街中に流れる始末で、琴音も少々不安そうである。
そうは言っても、ゲーム初心者の俺に何が出来る訳でも無く。
「まぁ、慌てて行動して死んじゃったら元も子もないし……最初は特に、振るい落としのソロ仕様が酷いみたいだから。だから恭ちゃんは、自分のペースでアバターを育てていいよ?
他に何か、聞きたい事ってある?」
「むうっ……このゲームって、運とか魅力値があるのな? 何か行動に関係して来んの?」
ちなみに俺のアバター(キャラって呼んだら、琴音に怒られた)は、運は高いが魅力が著しく低い。種族の混血具合を弄れる最初の画面で、その結果はある程度受け入れていたのだが。
今後の指針として、この数値がどの程度プレイに影響して来るのか聞いておきたい。例えば体力や敏捷、器用や腕力値は、ゲームの経験のほぼ皆無な自分にも理解は可能である。
ついでに運も分かるが、魅力値ってのは今ひとつピンと来ない。琴音の説明によると、運が高いとレア種との遭遇率や敵のドロップ運が良くなるらしい。
ゲーム内ガチャの確率も良くなるとの噂もあるが、はっきりとは分からないそう。それから魅力値だが、これが低いとやっぱり苦労するそうだ。
NPCに冷たくされたりサービスが悪かったり、街の衛兵に目をつけられたり。いわゆる、アウトロー的な扱いを受ける事が多くなるみたい。
ちなみにこの数値、混血具合が多くなるほど上がるらしい。
「えっ、恭ちゃん……よりによって、4種類の混血選んじゃったのっ!? うわぁ、それって割と茨の道だよ……?」
「マジか、何か面白そうだったから……ってか、意味不明の5種族目の血が混ざったキャラが偶然に出来ちゃってな!
これはネタになるかもって、思わず選んじゃったんだけど」
確かにネタにはなるかも知れないけれど、そのフラグを拾ったプレーヤーは、メインサーバのベテラン5年選手にもいないそうだ。
琴音の説明によると、既に死にフラグとして定着して久しいガラクタ設定っぽい。つまりは、誰からも忘れ去られてしまった死に設定扱いなのだそう。
そんな設定に嬉々として乗っかってしまった自分は、ひょっとして恥ずかしい人種なのかも。そう思うと赤面の至りだが、知らなかったのだから仕方が無い。
それはそうと、幼馴染から成長の指針を色々と補充する事には成功した。
しばらく後に、お互いに再度のログイン。まだまだ時間は、半分以上は残っている。取り敢えず、怒られない様にメールからフレ承認の返事を送るのを忘れずにこなす。
……これで良しっと、琴音を本気で怒らせると後が怖いからなぁ。何しろ相手は、ウチの妹達も味方につける術を心得ているから。
そうなると家内外問わず敵だらけ、毎日が針のムシロ状態である。その危険は回避出来たが、こちらのアバター格差は未だに酷いままである。
手製の粗末な武器しか持たない俺は、確実に戦闘弱者のカテゴリーに位置する訳で。つまりは、この安全地帯で武器屋の類いは発見出来ず終い。
もちろん、防具屋や道具屋も右に同じである。ただし、変なNPCは数人姿を見掛ける事には成功した。何か動物の着ぐるみっぽい、犬や熊の顔の外見のフォルムの奴らが数名ほど。
そいつ等は特に動き回る訳でも無く、こちらに話し掛ける訳でも無く佇んでいる。思い切ってこちらから話し掛けてみたけど、言葉での返答は全く無し。
声は出せないのかも、こっちの言ってる事は通じてるっぽいけど。まぁ、着ぐるみに流暢に喋られても、ちょっと気持ち悪いとも思う。
唯一の向こうのリアクションは、丘に聳える樹木を指差す事のみ。
何があるんだろうと近寄ってみると、なるほど全てが解決した。いやいや、それは大仰過ぎるか、とにかく発見したのは木の幹にピン止めされた数々の紙切れ。
何と言うか、クエ依頼書って奴が数枚……それから交換チケットも、数枚混じっている感じ。交換チケットはポーション券だったり、武器装備の修繕券だったりするらしい。
手に取ると、どの着ぐるみに手渡せば良いか印が表示される親切設計。なるほどこれは便利かも、例えば薬品系はネコの着ぐるみNPCに、武器の修繕はクマの着ぐるみに頼む感じ。
取り敢えずはチケットを使って、俺はポーションと毒消し薬を貰う事に成功。これでまぁ、最初の何も持たない状態は改善されたっぽい。
クエ依頼書は、確認出来ただけで5枚ほど存在した。兎の毛皮を3枚、それと別に肉を4つ集めて来いってな感じの収集系のモノ。
それから、戦闘蜂を4匹倒せと言う感じの討伐系のモノ。他にも、エリアの東側を歩いて地図を完成させろと言う捜索系のクエストもあった。
それから……最後の1枚は収集系、虹色の果実を5個集めろと書いてある。この依頼書だけ、何故か上等な紙質の物が使われている。
つまりこの依頼が、特別だと言う意思表示なのだろう。それだけ報酬が書かれてあり、その欄を見てみると特別な理由がすぐに分かった。
集めた果実をすぐそこの樹木の洞穴に納めると、どうやらこの『始まりの森』をクリア出来るらしい。つまりはこのクエ、最終目的って解釈で合ってるのかな?
そこから察するに、この『虹色の果実』ってアイテムは、なかなかに希少で集めにくいモノなのだろう。それを探しつつ、森の中を探索するのが俺達に課せられた共通目的……っと。
取り敢えず薬品の補充は出来たし、最終的な目的もハッキリと示された。何よりも安全地帯を発見出来たし、後はレベルを上げたり戦闘に慣れたりして行けば良いだろう。
もちろんその過程でクエもこなすし、探索地域も増やして行く訳だ。終始無言のNPCも、何かしら冒険者に恩恵を与えてくれる事も確認出来た。
後はそう、身近なクエをコツコツとこなして行こうじゃないか。武器や装備を、このエリアでもう少しマシなモノに変更出来るかもと言う淡い期待はきっぱりと忘れ去る。
それから、ようやく与えられた行動指針を脳内にインプット。残されたあと半分の時間を、有効に使って少しでもマシに成長して行かなくちゃ。
勇んで冒険者稼業に精を出すつもりも、張り切ってイベントの上位に食い込むつもりも俺には無い。誘ってくれた琴音には申し訳ないが、自分のペースでやって行くつもり。
この森のクリア方法も分かったし、変な焦りは禁物である。
――さて、それじゃ自分のペースでぼちぼちやって行きますか。
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