9 / 32
セドリックの後悔
しおりを挟む
始業の朝、セドリックはアリエルが来るのを待ち構えていた。
昨日はあれからワトー家へ行ったが、門番がとりついでくれることはなく、文字通りの門前払いをくらってしまった。
だから、朝一番に謝罪をしようと待っていたのに、サンドラから話があると廊下に呼び出された。
どうしてもすぐに話を聞いて欲しいと悲し気に縋ってくる。
これがサンドラの手管なのだと思い知っていたセドリックは断ったが、
「アリエル様の事でお話があるのです。」
「アリエルの?」
それでセドリックは足を止めた。
「はい、昨日あれからアリエル様の所にお詫びに出かけたのです。」
「ええ?!」
サンドラは廊下で話は出来ないと庭に移動した。
「昨日は本当に申し訳ありませんでした。」
サンドラが改めてセドリックに謝罪する。
「・・・それで昨日アリエルは何か言ってましたか?僕には会ってくれなかったんです。」
「それが・・・私も会えなかったのです。娼婦のような者とは話す気にもならない。と会っては頂けませんでした。」
「まさか!アリエルがそんなことを言うはずが!」
「・・・ですが・・・本当なのです。留学とは名ばかりでやっていることは娼婦と変わらないと。虫唾が走ると・・・執事の方から伝言をいただきました。」
サンドラはハンカチで目をおさえる。
「セドリック様だけではなくいろんな方に助けていただいているのは事実です。そう言われても仕方がないことをしているのは私なので仕方がありません。でも・・・でも・・娼婦などと言われてはやはり悲しくて。このことを他の方に話すとまたアリエル様のお立場が悪くなると思うと・・・セドリック様にしかこの悲しみを打ち明けられなくて・・・ごめんなさい・・・」
ぽろぽろ泣き出したサンドラは次第に呼吸を乱し、呼吸困難を起こし苦しみだした。
苦しんでいるサンドラはセドリックに縋るように倒れ込んできたが、流石に突き飛ばすこともできずセドリックは背中をさすってやった。
しばらくそうしていると、次第に呼吸が調っていき、サンドラは落ち着きを取り戻した。
「・・・アリエルはサンドラ様の事情を知らないので責めないでやってください。」
「もちろんですわ。」
「サンドラ様を傷つけたことはお詫びします・・・けどアリエルを傷つけてそんなひどいこと言わせてしまったのは僕のせいです。」
「アリエル様はセドリック様の事も・・・汚らわしいと。私たち二人を視界に入れたくないほど嫌悪していると・・・言われました。」
「アリエルが・・・僕を汚らわしいと・・・」
「はい・・・私のせいで本当にご迷惑を・・・必ず私、アリエル様にわかっていただきますわ。」
「・・・いえ、それは。僕が対応すべきことですのでサンドラ様は気にされませんように。」
「でも・・・」
「本当に申し訳ないと思って下さるなら今後僕とは距離を置いていただきたいのです、お願いします。」
これ以上サンドラといることは身の破滅だとセドリックは感じていた。
「わかりました。ご迷惑をおかけして申し訳ありませんでした。」
そしてようやくサンドラが離れてくれ、移動しようと体の向きを変えた時、アリエルの後ろ姿が見えた気がして全身の血の気が引いた。
セドリックはアリエルを追いかけて走り出した。
すると前方、門の外の馬車前でクロウに抱き込まれるアリエルが見えた。それを目にした途端、ズキンと胸が痛んだ。
わずかにクロウが視線をこちらに向け、眼があったような気がした。
その瞬間、また体がこわばったように足が進まなくなってしまった。
それ以上近づくことが出来ず、遠ざかっていく馬車を絶望感一杯で見送った。
昨日に続き大失態を重ねてしまった、アリエルはおそらく誤解し、傷ついただろう。
アリエルがあの護衛に慰められている姿を見ただけでこんなに苦しいのに、アリエルはどれほど傷ついたのだろう。
そう悔やんでいると晴天に一回大きな雷の音が鳴り響いた。
衝撃でよろめきそうになるほど大きな雷は雨雲を呼び、みるみる間に大雨が降りだしセドリックは後ろ髪を引かれるように門の方を振り返りながら校舎へと走った。
その日、学院を終えてアリエルの家に向かった僕は、アリエルが領地に行ったことを知った。
アリエルは愚かな僕に、謝罪の機会さえ与えてくれなかった。
昨日はあれからワトー家へ行ったが、門番がとりついでくれることはなく、文字通りの門前払いをくらってしまった。
だから、朝一番に謝罪をしようと待っていたのに、サンドラから話があると廊下に呼び出された。
どうしてもすぐに話を聞いて欲しいと悲し気に縋ってくる。
これがサンドラの手管なのだと思い知っていたセドリックは断ったが、
「アリエル様の事でお話があるのです。」
「アリエルの?」
それでセドリックは足を止めた。
「はい、昨日あれからアリエル様の所にお詫びに出かけたのです。」
「ええ?!」
サンドラは廊下で話は出来ないと庭に移動した。
「昨日は本当に申し訳ありませんでした。」
サンドラが改めてセドリックに謝罪する。
「・・・それで昨日アリエルは何か言ってましたか?僕には会ってくれなかったんです。」
「それが・・・私も会えなかったのです。娼婦のような者とは話す気にもならない。と会っては頂けませんでした。」
「まさか!アリエルがそんなことを言うはずが!」
「・・・ですが・・・本当なのです。留学とは名ばかりでやっていることは娼婦と変わらないと。虫唾が走ると・・・執事の方から伝言をいただきました。」
サンドラはハンカチで目をおさえる。
「セドリック様だけではなくいろんな方に助けていただいているのは事実です。そう言われても仕方がないことをしているのは私なので仕方がありません。でも・・・でも・・娼婦などと言われてはやはり悲しくて。このことを他の方に話すとまたアリエル様のお立場が悪くなると思うと・・・セドリック様にしかこの悲しみを打ち明けられなくて・・・ごめんなさい・・・」
ぽろぽろ泣き出したサンドラは次第に呼吸を乱し、呼吸困難を起こし苦しみだした。
苦しんでいるサンドラはセドリックに縋るように倒れ込んできたが、流石に突き飛ばすこともできずセドリックは背中をさすってやった。
しばらくそうしていると、次第に呼吸が調っていき、サンドラは落ち着きを取り戻した。
「・・・アリエルはサンドラ様の事情を知らないので責めないでやってください。」
「もちろんですわ。」
「サンドラ様を傷つけたことはお詫びします・・・けどアリエルを傷つけてそんなひどいこと言わせてしまったのは僕のせいです。」
「アリエル様はセドリック様の事も・・・汚らわしいと。私たち二人を視界に入れたくないほど嫌悪していると・・・言われました。」
「アリエルが・・・僕を汚らわしいと・・・」
「はい・・・私のせいで本当にご迷惑を・・・必ず私、アリエル様にわかっていただきますわ。」
「・・・いえ、それは。僕が対応すべきことですのでサンドラ様は気にされませんように。」
「でも・・・」
「本当に申し訳ないと思って下さるなら今後僕とは距離を置いていただきたいのです、お願いします。」
これ以上サンドラといることは身の破滅だとセドリックは感じていた。
「わかりました。ご迷惑をおかけして申し訳ありませんでした。」
そしてようやくサンドラが離れてくれ、移動しようと体の向きを変えた時、アリエルの後ろ姿が見えた気がして全身の血の気が引いた。
セドリックはアリエルを追いかけて走り出した。
すると前方、門の外の馬車前でクロウに抱き込まれるアリエルが見えた。それを目にした途端、ズキンと胸が痛んだ。
わずかにクロウが視線をこちらに向け、眼があったような気がした。
その瞬間、また体がこわばったように足が進まなくなってしまった。
それ以上近づくことが出来ず、遠ざかっていく馬車を絶望感一杯で見送った。
昨日に続き大失態を重ねてしまった、アリエルはおそらく誤解し、傷ついただろう。
アリエルがあの護衛に慰められている姿を見ただけでこんなに苦しいのに、アリエルはどれほど傷ついたのだろう。
そう悔やんでいると晴天に一回大きな雷の音が鳴り響いた。
衝撃でよろめきそうになるほど大きな雷は雨雲を呼び、みるみる間に大雨が降りだしセドリックは後ろ髪を引かれるように門の方を振り返りながら校舎へと走った。
その日、学院を終えてアリエルの家に向かった僕は、アリエルが領地に行ったことを知った。
アリエルは愚かな僕に、謝罪の機会さえ与えてくれなかった。
178
あなたにおすすめの小説
あなただけが私を信じてくれたから
樹里
恋愛
王太子殿下の婚約者であるアリシア・トラヴィス侯爵令嬢は、茶会において王女殺害を企てたとして冤罪で投獄される。それは王太子殿下と恋仲であるアリシアの妹が彼女を排除するために計画した犯行だと思われた。
一方、自分を信じてくれるシメオン・バーナード卿の調査の甲斐もなく、アリシアは結局そのまま断罪されてしまう。
しかし彼女が次に目を覚ますと、茶会の日に戻っていた。その日を境に、冤罪をかけられ、断罪されるたびに茶会前に回帰するようになってしまった。
処刑を免れようとそのたびに違った行動を起こしてきたアリシアが、最後に下した決断は。
【完結】愛したあなたは本当に愛する人と幸せになって下さい
高瀬船
恋愛
伯爵家のティアーリア・クランディアは公爵家嫡男、クライヴ・ディー・アウサンドラと婚約秒読みの段階であった。
だが、ティアーリアはある日クライヴと彼の従者二人が話している所に出くわし、聞いてしまう。
クライヴが本当に婚約したかったのはティアーリアの妹のラティリナであったと。
ショックを受けるティアーリアだったが、愛する彼の為自分は身を引く事を決意した。
【誤字脱字のご報告ありがとうございます!小っ恥ずかしい誤字のご報告ありがとうございます!個別にご返信出来ておらず申し訳ございません( •́ •̀ )】
何年も相手にしてくれなかったのに…今更迫られても困ります
Karamimi
恋愛
侯爵令嬢のアンジュは、子供の頃から大好きだった幼馴染のデイビッドに5度目の婚約を申し込むものの、断られてしまう。さすがに5度目という事もあり、父親からも諦める様言われてしまった。
自分でも分かっている、もう潮時なのだと。そんな中父親から、留学の話を持ち掛けられた。環境を変えれば、気持ちも落ち着くのではないかと。
彼のいない場所に行けば、彼を忘れられるかもしれない。でも、王都から出た事のない自分が、誰も知らない異国でうまくやっていけるのか…そんな不安から、返事をする事が出来なかった。
そんな中、侯爵令嬢のラミネスから、自分とデイビッドは愛し合っている。彼が騎士団長になる事が決まった暁には、自分と婚約をする事が決まっていると聞かされたのだ。
大きなショックを受けたアンジュは、ついに留学をする事を決意。専属メイドのカリアを連れ、1人留学の先のミラージュ王国に向かったのだが…
これ以上私の心をかき乱さないで下さい
Karamimi
恋愛
伯爵令嬢のユーリは、幼馴染のアレックスの事が、子供の頃から大好きだった。アレックスに振り向いてもらえるよう、日々努力を重ねているが、中々うまく行かない。
そんな中、アレックスが伯爵令嬢のセレナと、楽しそうにお茶をしている姿を目撃したユーリ。既に5度も婚約の申し込みを断られているユーリは、もう一度真剣にアレックスに気持ちを伝え、断られたら諦めよう。
そう決意し、アレックスに気持ちを伝えるが、いつも通りはぐらかされてしまった。それでも諦めきれないユーリは、アレックスに詰め寄るが
“君を令嬢として受け入れられない、この気持ちは一生変わらない”
そうはっきりと言われてしまう。アレックスの本心を聞き、酷く傷ついたユーリは、半期休みを利用し、兄夫婦が暮らす領地に向かう事にしたのだが。
そこでユーリを待っていたのは…
【完結】イアンとオリエの恋 ずっと貴方が好きでした。
たろ
恋愛
この話は
【そんなに側妃を愛しているなら邪魔者のわたしは消えることにします】の主人公二人のその後です。
イアンとオリエの恋の話の続きです。
【今夜さよならをします】の番外編で書いたものを削除して編集してさらに最後、数話新しい話を書き足しました。
二人のじれったい恋。諦めるのかやり直すのか。
悩みながらもまた二人は………
真実の愛のお相手様と仲睦まじくお過ごしください
LIN
恋愛
「私には真実に愛する人がいる。私から愛されるなんて事は期待しないでほしい」冷たい声で男は言った。
伯爵家の嫡男ジェラルドと同格の伯爵家の長女マーガレットが、互いの家の共同事業のために結ばれた婚約期間を経て、晴れて行われた結婚式の夜の出来事だった。
真実の愛が尊ばれる国で、マーガレットが周囲の人を巻き込んで起こす色んな出来事。
(他サイトで載せていたものです。今はここでしか載せていません。今まで読んでくれた方で、見つけてくれた方がいましたら…ありがとうございます…)
(1月14日完結です。設定変えてなかったらすみません…)
私は本当に望まれているのですか?
まるねこ
恋愛
この日は辺境伯家の令嬢ジネット・ベルジエは、親友である公爵令嬢マリーズの招待を受け、久々に領地を離れてお茶会に参加していた。
穏やかな社交の場―になるはずだったその日、突然、会場のど真ん中でジネットは公開プロポーズをされる。
「君の神秘的な美しさに心を奪われた。どうか、私の伴侶に……」
果たしてこの出会いは、運命の始まりなのか、それとも――?
感想欄…やっぱり開けました!
Copyright©︎2025-まるねこ
その結婚、承服致しかねます
チャイムン
恋愛
結婚が五か月後に迫ったアイラは、婚約者のグレイグ・ウォーラー伯爵令息から一方的に婚約解消を求められた。
理由はグレイグが「真実の愛をみつけた」から。
グレイグは彼の妹の侍女フィルとの結婚を望んでいた。
誰もがゲレイグとフィルの結婚に難色を示す。
アイラの未来は、フィルの気持ちは…
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる