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広がる亀裂
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「公爵令嬢だか何だか知らないが多くの令息を侍らして、とても貴族として品があるとは思えない。アリエルが言ったことは間違えていないよ。」
「ありがとう。でも確かに、異国から来て心細い思いをしているサンドラ様にもっと寄り添うべきだったと反省しているわ。」
「そんなわけない、彼女が侍らすのは高位貴族の令息ばかり。それに婚約者がいる相手に勘違いされるような態度をわざととっているに違いないよ。」
「どうしてそんな事をするのかしら。」
「何か事情があるとしても、彼らが君に冷たい態度をとるのはおかしいだろう。後ろめたいことがあるからあんな態度をとるんだよ。いくら注意したって、お前にはわからない事情ってものがあるんだとにやにやするばかりで嫌な気分だ。でも君の事は僕が守るから。」
そう言ってセドリックがアリエルを励ましてくれた日の事を思い出し、自室で落ち込んでいるアリエルにクロウは声をかける。
「お嬢、ドラゴナ神国に行ってみませんか?」
「え?」
「前侯爵が亡くなり、奥様が消息不明、それに学院での事に加えて・・・今回の事。辛いことが続きすぎました。そんな時に色々考えてもいいことはありません。一度心身ともにゆっくり休めるために王都を離れてみませんか?」
アリエルも自身の心が疲弊しているのを感じていた。
このままここにいると苦しいのは確かだ。
「え?でも・・・どうしてドラゴナ神国に? 異国の者は入れず、外交でさえ限られているってきくわ。それにとても恐ろしい国だとか、神がいるとか真偽不明の話ばかりで・・・傷心を癒すには向かないんじゃないかしら。」
「ええ。正確には限られた者、認められたもの以外が入れないだけです。あの国に神がいるというのはあながちただのおとぎ話ではないのですよ。ですから必ずお嬢様の心を慰め、道を示してくださいます。」
「そんな特別な国なのね。なおさら私なんか入国できないわ。」
「大丈夫です、つてがあります。」
「クロウが?すごいじゃない・・・でも明日から学院が始まるわ。」
アリエルは驚いたようにクロウを見る。
「そうですが、あの二人がいる学院に通っても平気ですか?」
その言葉にアリエルは表情を曇らせる。
長期休みの間、二人がずっと一緒にいたのなら学院中が、セドリックがアリエルからサンドラに心変わりをしたという噂で持ちきりだろう。
これまで以上に嘲笑され、数少ない友人たちも近寄りがたくなってしまうかもしれない。皆に笑われてぽつんと一人で過ごすことを考えると恐ろしくてたまらない。
しかし一日でも休んでしまうと、怖くてもう二度といけなくなってしまう。
「お嬢は、心を癒して気持ちをすっきり立ち直らせてからあの二人と対峙した方がいいですよ。」
「そうね、クロウの言う通り今はどうしたらいいのか考えもまとまらないの。しばらく休学する事だけセドリックに伝えるわ。そうしないと今度本当に顔を合わせづらいから。クロウは準備をしてくれる?」
「はい。入国の許可や方法はお任せください。」
クロウはとても嬉しそうに笑った。
翌日、行きづらい気持ちを何とか奮い立たせて学院へと向かった。
心配していた通り、セドリックとサンドラの事は噂になっていた。
「アリエル様がいらしたわ・・・お可哀そうに。」
そう言う心配をする声もちらほら聞こえたが、
「冷たい人間だから捨てられて当たり前だよ。それに侯爵家を継ぐことも無くなったし、ようやくセドリックの目が覚めたんだよ。」
と辛辣な声も多い。所詮他人事、皆面白おかしく噂する。
そんな空気に居たたまれなくなったアリエルはセドリックを探した。
その辺りを探しても見つけることが出来ず、校舎を出ていくつかある庭を探し歩いた。
「アリエル様、セドリック様をお探しですか?」
「そうなの。」
「先ほど奥庭に行かれる所を見ましたよ。」
通りがかりの学院生が教えてくれたとおり、奥庭にセドリックはいたが・・・
木陰にみえる後ろ姿はセドリック・・・そしてその胸に縋りついているのはサンドラ。
授業が始まるこんなギリギリまで逢引をする二人。
しばし呆然と立ち尽くしたアリエルは、踵を返すと今来たばかりの門の方へ走った。
あふれ出る涙をぬぐいもせず、門を飛び出す。
侯爵家の馬車はまだそこにいた。
クロウがアリエルに気が付き、飛び込んでくるアリエルを抱きとめる。
「クロウ・・・クロウ・・・」
「はい、お嬢様。大丈夫です、私がおります。」
いつもはお嬢と呼ぶくせに、アリエルが苦しい時は不意に優しくお嬢様と呼ぶクロウ。その温かさと安心感にまた涙が出る。
もしかしたらアリエルが帰ってくるかもしれないと、一日待ってくれるつもりだったのだろう。
「・・・もう無理・・・連れて行って。」
「かしこまりました。ドラゴナ神国はアリエル様を優しく迎えてくれますから心配はいりません。私にすべてお任せください。」
クロウは優しい笑みでアリエルを見た。
屋敷に戻るとアリエルは叔父にしばらく療養したいと伝えた。
訝しむ叔父に、今まで気を張って何とか頑張っていたが今になって両親の事が心身に応えたようだとクロウが言いくるめ説得し、行き先は領地ということにし、休養に出ることが決まったのだった。
「ありがとう。でも確かに、異国から来て心細い思いをしているサンドラ様にもっと寄り添うべきだったと反省しているわ。」
「そんなわけない、彼女が侍らすのは高位貴族の令息ばかり。それに婚約者がいる相手に勘違いされるような態度をわざととっているに違いないよ。」
「どうしてそんな事をするのかしら。」
「何か事情があるとしても、彼らが君に冷たい態度をとるのはおかしいだろう。後ろめたいことがあるからあんな態度をとるんだよ。いくら注意したって、お前にはわからない事情ってものがあるんだとにやにやするばかりで嫌な気分だ。でも君の事は僕が守るから。」
そう言ってセドリックがアリエルを励ましてくれた日の事を思い出し、自室で落ち込んでいるアリエルにクロウは声をかける。
「お嬢、ドラゴナ神国に行ってみませんか?」
「え?」
「前侯爵が亡くなり、奥様が消息不明、それに学院での事に加えて・・・今回の事。辛いことが続きすぎました。そんな時に色々考えてもいいことはありません。一度心身ともにゆっくり休めるために王都を離れてみませんか?」
アリエルも自身の心が疲弊しているのを感じていた。
このままここにいると苦しいのは確かだ。
「え?でも・・・どうしてドラゴナ神国に? 異国の者は入れず、外交でさえ限られているってきくわ。それにとても恐ろしい国だとか、神がいるとか真偽不明の話ばかりで・・・傷心を癒すには向かないんじゃないかしら。」
「ええ。正確には限られた者、認められたもの以外が入れないだけです。あの国に神がいるというのはあながちただのおとぎ話ではないのですよ。ですから必ずお嬢様の心を慰め、道を示してくださいます。」
「そんな特別な国なのね。なおさら私なんか入国できないわ。」
「大丈夫です、つてがあります。」
「クロウが?すごいじゃない・・・でも明日から学院が始まるわ。」
アリエルは驚いたようにクロウを見る。
「そうですが、あの二人がいる学院に通っても平気ですか?」
その言葉にアリエルは表情を曇らせる。
長期休みの間、二人がずっと一緒にいたのなら学院中が、セドリックがアリエルからサンドラに心変わりをしたという噂で持ちきりだろう。
これまで以上に嘲笑され、数少ない友人たちも近寄りがたくなってしまうかもしれない。皆に笑われてぽつんと一人で過ごすことを考えると恐ろしくてたまらない。
しかし一日でも休んでしまうと、怖くてもう二度といけなくなってしまう。
「お嬢は、心を癒して気持ちをすっきり立ち直らせてからあの二人と対峙した方がいいですよ。」
「そうね、クロウの言う通り今はどうしたらいいのか考えもまとまらないの。しばらく休学する事だけセドリックに伝えるわ。そうしないと今度本当に顔を合わせづらいから。クロウは準備をしてくれる?」
「はい。入国の許可や方法はお任せください。」
クロウはとても嬉しそうに笑った。
翌日、行きづらい気持ちを何とか奮い立たせて学院へと向かった。
心配していた通り、セドリックとサンドラの事は噂になっていた。
「アリエル様がいらしたわ・・・お可哀そうに。」
そう言う心配をする声もちらほら聞こえたが、
「冷たい人間だから捨てられて当たり前だよ。それに侯爵家を継ぐことも無くなったし、ようやくセドリックの目が覚めたんだよ。」
と辛辣な声も多い。所詮他人事、皆面白おかしく噂する。
そんな空気に居たたまれなくなったアリエルはセドリックを探した。
その辺りを探しても見つけることが出来ず、校舎を出ていくつかある庭を探し歩いた。
「アリエル様、セドリック様をお探しですか?」
「そうなの。」
「先ほど奥庭に行かれる所を見ましたよ。」
通りがかりの学院生が教えてくれたとおり、奥庭にセドリックはいたが・・・
木陰にみえる後ろ姿はセドリック・・・そしてその胸に縋りついているのはサンドラ。
授業が始まるこんなギリギリまで逢引をする二人。
しばし呆然と立ち尽くしたアリエルは、踵を返すと今来たばかりの門の方へ走った。
あふれ出る涙をぬぐいもせず、門を飛び出す。
侯爵家の馬車はまだそこにいた。
クロウがアリエルに気が付き、飛び込んでくるアリエルを抱きとめる。
「クロウ・・・クロウ・・・」
「はい、お嬢様。大丈夫です、私がおります。」
いつもはお嬢と呼ぶくせに、アリエルが苦しい時は不意に優しくお嬢様と呼ぶクロウ。その温かさと安心感にまた涙が出る。
もしかしたらアリエルが帰ってくるかもしれないと、一日待ってくれるつもりだったのだろう。
「・・・もう無理・・・連れて行って。」
「かしこまりました。ドラゴナ神国はアリエル様を優しく迎えてくれますから心配はいりません。私にすべてお任せください。」
クロウは優しい笑みでアリエルを見た。
屋敷に戻るとアリエルは叔父にしばらく療養したいと伝えた。
訝しむ叔父に、今まで気を張って何とか頑張っていたが今になって両親の事が心身に応えたようだとクロウが言いくるめ説得し、行き先は領地ということにし、休養に出ることが決まったのだった。
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