私の婚約者はちょろいのか、バカなのか、やさしいのか

れもんぴーる

文字の大きさ
26 / 33

両親との再会

しおりを挟む
 アルテオ国から帰国したヨハンはなんと、エミリアの両親を連れて帰ってきた。
 両親はエミリアを見るなり謝罪した。
「・・・。」
 エミリアは驚いて言葉がなかった。

 婚約に関する事でエミリアの心情を全く思いやらなかったこと、婚約で得られる利益に目がくらみ大切な娘を傷つけたあげく、家出させることになってしまった後悔と謝罪。
 バランド家にも多大なる迷惑をかけたこと、娘の覚悟を知り、悩みをあしらったことを心から後悔して反省している。許してくれとは言えないが、異国の地で生きると決め、ヨハン殿と婚姻を結ぶのなら精一杯できる援助はさせて欲しいと長々と両親の気持ちを伝えてくれた。
「・・・今更どうされたのですか?お父様にはお父様のお考えがあります。謝っていただく事ではありません。」
「お前が私を尊敬してくれていたとヨハン殿から聞いた。そして今は・・・失望させてしまったのだな。私はお前の事を幸せにしてくれる相手だと思ってヨハン殿と婚約させたのだ、しかしそれ以来バランド家から何かと助言をしていただき、私の仕事に欠かせなくなっていったのだ。どんどん目的が逆転していき、いつの間にかバランド家の力と知識が私にとって手離せないものになってしまっていた・・・だからそれを脅かすお前に苛立ってしまった。すまなかった。」


 ヨハンは帰国して、まず自分の両親を説得した。
 レイノー国で弁護士をし、侯爵家の後ろ盾も得ており経済的にも社会的にもしっかりやっている。だから実家の力を当てにしないからフィネル家とバランド家の婚約破棄騒動を治めて欲しいと。
 しかし父親は、体面があるという。
 自分も不貞をしているくせに浮気者のヨハンを嫌ってエミリアが異国へ逃亡したという醜聞がでたらしい。その噂はエミリア、ヨハン両方ともを貶めていた。
 バランド子爵は、直ちに噂の出所を突き止め、アイラ親子を徹底的に叩きのめした。二度と社交界に顔を出すどころか、領地で暮らすこともできないほどの慰謝料をむしり取った。
 しかし、その折にヨハンの愚かな行動が世間に知られ、現在はフィネル家への同情が集まっているという。それに便乗したフィネル家は慰謝料を増額してきたという。バランド家としてはもう縁を切りたい対象となっていた。

「わかりました。私の事はいなかった者としてお考え下さい。これまでお世話になりました。」
 父には父の考え、矜持がある。それは尊重したい。
「何を言ってる!」
 平民となりエミリアと結婚するつもりである。
「肝心のエミリア嬢の気持ちはどうなのだ。あれだけ追いかけても駄目なのだろう。」
「いいえ、ついに気持ちをわかってくださったのです!結婚を承知くださいました。」
 満面の笑顔で言うヨハンにバランド子爵は心の中で溜息をついた。
 我が子ながら、恐ろしいほどの執着と執念。
 一歩間違えれば怖い。それをさわやかそうな見た目と一見明るい性格がかろうじて怖さを薄めているが、エミリア嬢も根負けしたのだろうと少々気の毒に思った。
「エミリア様は私の仕事ぶりを認めて下さり、私にその・・惚れたと。」
 少し顔を赤らめていうヨハンに
「そ、そうか。」
 としか言えなかった。
 頼る者がいない異国の地で、商売をする心労不安はいかばかりであっただろう。そこに同郷の、仕事だけはできる優しさと真面目さだけが取り柄の少々抜けているこの三男が追いかけてきた時、その胸によぎったのは恐怖か、望郷か。
 厭うていた相手とはいえ、仕事で頼るうちにほだされたに違いない。
 ヨハンの執念勝ちという事か。

「・・・わかった。お前がそこまで頑張り、彼女を望むのなら彼女は認めよう。ただし、あちらが謝罪するまでは家同士の付き合いはするつもりはない。」
「ありがとうございます!十分です。ではフィネル子爵夫妻にもお許しをいただいてまいります!」

 そしてヨハンは、フィネル家子爵夫妻に会いに行ったのだった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

不愛想な婚約者のメガネをこっそりかけたら

柳葉うら
恋愛
男爵令嬢のアダリーシアは、婚約者で伯爵家の令息のエディングと上手くいっていない。ある日、エディングに会いに行ったアダリーシアは、エディングが置いていったメガネを出来心でかけてみることに。そんなアダリーシアの姿を見たエディングは――。 「か・わ・い・い~っ!!」 これまでの態度から一変して、アダリーシアのギャップにメロメロになるのだった。 出来心でメガネをかけたヒロインのギャップに、本当は溺愛しているのに不器用であるがゆえにぶっきらぼうに接してしまったヒーローがノックアウトされるお話。

殿下からの寵愛は諦めることにします。

木山楽斗
恋愛
次期国王であるロウガスト殿下の婚約は、中々決まらなかった。 婚約者を五人まで絞った現国王だったが、温和な性格が原因して、そこから決断することができなかったのだ。 そこで国王は、決定権をロウガスト殿下に与えることにした。 王城に五人の令嬢を集めて、ともに生活した後、彼が一番妻に迎えたいと思った人を選択する。そういった形式にすることを決めたのだ。 そんな五人の内の一人、ノーティアは早々に出鼻をくじかれることになった。 同じ貴族であるというのに、周りの令嬢と自分を比較して、華やかさがまったく違ったからである。 こんな人達に勝てるはずはない。 そう思った彼女は、王子の婚約者になることを諦めることを決めるのだった。 幸か不幸か、そのことを他の婚約者候補や王子にまで知られてしまい、彼女は多くの人から婚約を諦めた人物として認識されるようになったのである。 そういう訳もあって、彼女は王城で気ままに暮らすことを決めた。 王子に関わらず、平和に暮らそうと思ったのである。 しかし、そんな彼女の意図とは裏腹に、ロウガスト殿下は彼女に頻繁に話しかけてくる。 どうして自分に? そんな疑問を抱きつつ、彼女は王城で暮らしているのだった。

【完】貴方達が出ていかないと言うのなら、私が出て行きます!その後の事は知りませんからね

さこの
恋愛
私には婚約者がいる。 婚約者は伯爵家の次男、ジェラール様。 私の家は侯爵家で男児がいないから家を継ぐのは私です。お婿さんに来てもらい、侯爵家を未来へ繋いでいく、そう思っていました。 全17話です。 執筆済みなので完結保証( ̇ᵕ​ ̇ ) ホットランキングに入りました。ありがとうございますペコリ(⋆ᵕᴗᵕ⋆).+* 2021/10/04

好きな人と友人が付き合い始め、しかも嫌われたのですが

月(ユエ)/久瀬まりか
恋愛
ナターシャは以前から恋の相談をしていた友人が、自分の想い人ディーンと秘かに付き合うようになっていてショックを受ける。しかし諦めて二人の恋を応援しようと決める。だがディーンから「二度と僕達に話しかけないでくれ」とまで言われ、嫌われていたことにまたまたショック。どうしてこんなに嫌われてしまったのか?卒業パーティーのパートナーも決まっていないし、どうしたらいいの?

これ以上私の心をかき乱さないで下さい

Karamimi
恋愛
伯爵令嬢のユーリは、幼馴染のアレックスの事が、子供の頃から大好きだった。アレックスに振り向いてもらえるよう、日々努力を重ねているが、中々うまく行かない。 そんな中、アレックスが伯爵令嬢のセレナと、楽しそうにお茶をしている姿を目撃したユーリ。既に5度も婚約の申し込みを断られているユーリは、もう一度真剣にアレックスに気持ちを伝え、断られたら諦めよう。 そう決意し、アレックスに気持ちを伝えるが、いつも通りはぐらかされてしまった。それでも諦めきれないユーリは、アレックスに詰め寄るが “君を令嬢として受け入れられない、この気持ちは一生変わらない” そうはっきりと言われてしまう。アレックスの本心を聞き、酷く傷ついたユーリは、半期休みを利用し、兄夫婦が暮らす領地に向かう事にしたのだが。 そこでユーリを待っていたのは…

殿下が私を愛していないことは知っていますから。

木山楽斗
恋愛
エリーフェ→エリーファ・アーカンス公爵令嬢は、王国の第一王子であるナーゼル・フォルヴァインに妻として迎え入れられた。 しかし、結婚してからというもの彼女は王城の一室に軟禁されていた。 夫であるナーゼル殿下は、私のことを愛していない。 危険な存在である竜を宿した私のことを彼は軟禁しており、会いに来ることもなかった。 「……いつも会いに来られなくてすまないな」 そのためそんな彼が初めて部屋を訪ねてきた時の発言に耳を疑うことになった。 彼はまるで私に会いに来るつもりがあったようなことを言ってきたからだ。 「いいえ、殿下が私を愛していないことは知っていますから」 そんなナーゼル様に対して私は思わず嫌味のような言葉を返してしまった。 すると彼は、何故か悲しそうな表情をしてくる。 その反応によって、私は益々訳がわからなくなっていた。彼は確かに私を軟禁して会いに来なかった。それなのにどうしてそんな反応をするのだろうか。

うまくいかない婚約

ありがとうございました。さようなら
恋愛
エーデルワイスは、長年いがみ合っていた家門のと結婚が王命として決まっていた。 そのため、愛情をかけるだけ無駄と家族から愛されずに育てられた。 婚約者のトリスタンとの関係も悪かった。 トリスタンには、恋人でもある第三王女ビビアンがいた。 それでも、心の中で悪態をつきながら日々を過ごしていた。

【完】婚約者に、気になる子ができたと言い渡されましたがお好きにどうぞ

さこの
恋愛
 私の婚約者ユリシーズ様は、お互いの事を知らないと愛は芽生えないと言った。  そもそもあなたは私のことを何にも知らないでしょうに……。  二十話ほどのお話です。  ゆる設定の完結保証(執筆済)です( .ˬ.)" ホットランキング入りありがとうございます 2021/08/08

処理中です...