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正式に結婚できる?

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 ヨハンは次の休みにエミリアを散策にさそった。
 いつものような観光コースの下見ではなく純粋な街歩きだ。

「こうして何も考えないでゆっくり歩くのは久しぶりかもしれません。」
 いつもは観光案内視点で見てしまうため、楽しみよりも評価の目で見てしてしまう。
「ここのお庭素敵ですね。」
 ヨハンが指す一軒家は赤い屋根に煙突があって、壁には木の扉付きの窓が並んでいる。庭には花壇があり、薬草やお花が植わっている。椅子が置いてあって外でもお茶が飲めるようだ。
 今は庭もない集合住宅に住んでいるため、庭付きの家を見ると自分ならどんな花を植えようとか自然に思い浮かべて楽しくなってくる。
 二人は周りの家や公園、お店など見ながらゆっくりと街中を歩く。
「ヨハン様、こちらの家にはレモンの木がありますわ!」
 幾つかの実がなっている。
「レモンはお好きですか?」
「はい!子爵家のシェフがレモンを使った美味しいお菓子を作ってくれるのです!紅茶に浮かべても、ジャムにしても美味しいですわ!あ、自分では作れませんけど、作ってみたいなあって思います。」
「ふふ、いいですね。この家を気に入ってくださったのはなんたる重畳。」
 ヨハンは嬉しそうに笑う。
「ヨハン様もレモンお好きですか?」
「はい。たった今大好物になりました。」
「まあ!ちゃんと好物になるよう頑張ってレモンのお菓子作りますわ。」
 エミリアの言葉に再び小躍り部隊に召集がかかったのだった。

 その後、食事をしてからケーキをお土産に家に戻った。
 ヨハンが自分がしますのでと、お茶を入れケーキを皿に入れて出してくれる。
「エミリア様!」
「は、はい?」
 いきなり大声でいうヨハンにびっくりして、声が裏返る。
「す、すいません。緊張してしまって・・・」
「?」
「正式に婚姻を結びたい。結婚してください!」
「え?」
「エミリア様が仕事を大切にしているのは知っております。決して婚姻が仕事の足枷にならないように私も精一杯努力いたしますのでどうかお願いします。」
「ヨハン様・・・」
 エミリアとて、ヨハンの求婚を受け入れた以上いつかは結婚する日が来るとは思っていたが、仕事が順調で、今の関係も心地よく結婚が思考の外にあったのだ。
 改めて言われて、そうだったと思いだし、考えていなかったことが後ろめたい気持ちになった。
「あ、あの・・・」
「お嫌ですか?」
 嫌ではない。
 嫌ではないが考えていなかっただけ。だから心の準備が追いついていないだけ。でもそれを言うのは申し訳ない気がして言いにくい。
「・・・嫌ではありません。ですが・・・」
「よかった!それはよかった!!」

 ヨハンにはその言葉だけで十分だった。
「では、婚姻届けを出しましょう!ね?善は急げですよ、こういうのは勢いが大事なのです。」
 ああ、嬉しいと本当に喜ぶヨハンを見てエミリアの気持ちも固まった。
「至らないことだらけの私ですが、よろしくお願いいたします。」
 エミリアは頭を下げた。
「ただ・・・両親がどういうか。両家は拗れていると聞いております。・・・私たちの婚約はおそらく解消になっておりますし気は進みませんが両親と話し合いをしなければならないかと。私は・・・正直もう話し合いはしたくないのです。」
「僕のせいで本当に申し訳ありません。」
「いえ。きっかけはそうかもしれませんが、ヨハン様のせいではありません。両親が私の事を・・・愛していなかったということです。そのことを突き付けられながら生きていくのは辛かった。この国に来たのも・・・どちらかといえば、両親から逃げてきたようなものです。もう顔を合わせるのも苦しかったのです。」
「エミリア様・・・」
「・・・ごめんなさい。こんなことを話すつもりはなかったのですが。ヨハン様が正式な婚姻を結びたいと言って下さったから。私が両親にわだかまりを持っているせいで、難しいかもしれないのです。」
「・・・こちらの国の法律ではこの国に住まいと職場があるものはこの国に婚姻届けを出せば婚姻関係が認められるようです。貴族としての婚姻にはなりませんが。」
「まあ、そうなのですか。ですが・・・それではヨハン様までご実家との関係がなくなってしまいますわ。それに貴族籍も無くなってしまうのではありませんか?」
「私は構いません、実家との縁がなくなると言っても紙切れの事です。もともと三男ですし、恩恵を受けようとも思っておりませんでしたから。エミリア様は・・・貴族でなくなるのはお嫌ですか?」
「いいえ。そうであれば仕事はしておりませんから、それは気にしておりません。ただ、どうするのがよいのか少し不安に思います。」
「そうですね、当然だと思います。この件に関しましては少し時間を下さいませんか。」

数日後、ヨハンは休暇を取り、アルテオ国に旅立った。
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