13 / 29
バレる
しおりを挟む
それからマルクは毎日のように食堂に食事にくるようになった。
同じく、あの日をきっかけにサミュエルも時々食堂にやってくるようになった。
「マルク様、よく一緒に食事されている方とは仲がよろしいのですか?」
「ああ、サミュエルの事?そうなんだ、学友でね。」
「そうだったんですか・・・」
サミュエルが初めて食堂に来た時も同席していたから、知り合いだとは思っていたけど友人とは思わなかった。少しセシルの顔が曇る。
「あいつがどうかした?」
「いいえ、なんでもありません。」
いつかサミュエルからセシルの事を聞くかもしれない。
知られたくないと思った。もう平民として、ただのシルとして一人で生きていこうと決意しているのだから。
「シル。」
不安そうな顔のセシルをマルクが抱き寄せる。
「何か心配なことがあったら俺に相談するんだよ。」
「うん、ありがとう。」
でも・・・誰にも知られたくはないが、もしこの先マルクとの未来があるのならいつか話す日が来るかもしれない。ただしばらくの間は、このままでいたかった。
それ以来、サミュエルとマルクが二人で食事をしているとついつい目をやってしまう。何の話をしているのだろう、自分の事を話ししているのではないだろうかと気になって仕方がなかった。
ある日思い切って、帰っていくサミュエルの後を追った。
「シャリエ子爵令息様」
セシルが呼びかけるとサミュエルは驚いたように、だが嬉しそうに振り向いた。
「どうした?セシル。」
「あの・・・私、マルク様とお付き合いをしています。」
「ああ、知ってるよ。あいつはいい奴だから安心して任せている。」
「それで・・・・その・・・私の事を・・・」
「心配しなくてもいい。セシルが僕の妹だということは言うつもりはないよ。ああ、最近浮かない顔をしていると思ったらそれが心配だったのか。もう・・・僕は顔を出さない方がよさそうだね。」
「・・・」
セシルは何も言えなかった。
心の中では少しそう思っていたから。
サミュエルは寂しそうに
「今までごめんよ。もう行かない。でも、僕はセシルの事を本当に大切に思っているから困ったことがあれば必ず相談にくるんだよ。僕も父上も待っているから。」
そう言うとサミュエルはさっと踵を返すと歩いていった。
セシルは深く頭を下げ、頭をあげた時にはその目には涙が溜まっていた。
次の日、夕方店に現れたマルクは仕事が終われば一緒に出掛けようと誘ってくれた。
早めに上がらせてくれたルルに感謝しながら、二人は公園のベンチに座る。
「シル、俺はシルの事が本当に好きだ。」
「ま、マルク様、急にどうしたのですか?」
セシルは体中の温度が急激に上がるのを感じた。
「何があっても俺の気持ちは変わらないからシルの事を教えて欲しい。」
「・・・どういうこと?」
上昇した体温は冷や水を浴びたようにさがり、瞳は不安げに揺れる。
「・・・昨日、サミュエルが来ただろう?」
セシルはびくりと体を震わせた。
「あの時、俺近くまで行ってたんだ。嫉妬して追いかけたんだ。それで・・・聞いてしまって・・・ごめん。」
サミュエルの事がばれた、自分がサミュエルの妹で貴族だと知られたに違いない。ではなぜあんなところで働いているのだと追及されるだろう。
「・・・あいつと兄妹なんだ?」
「・・・いいえ。」
「隠さないで。別に悪いことではないじゃないか。」
セシルはぶんぶんと首を横に振る。
サミュエルとは兄弟なんかじゃない、血のつながりなどないのだから。
「サミュエルからセシルという妹が可愛いと昔聞いたことがあるんだ。シルがセシルなんだろ?アナベルの事は・・・」
そこまで聞いたセシルの目から涙がこぼれる。
「だったら何ですか⁉マルク様に関係ありません!私はシルです!ただのシルなんです!親も兄弟もおりません!」
セシルはベンチから立ち上がったかと思うと走り出した。
「シル!待って!ごめん!責めるつもりじゃ・・・」
少し薄暗くなってきた公園内でシルを追いかける。いつも鍛えている騎士であるマルクは簡単にシルに追いついてしまう。
後ろから抱きしめてもシルは逃れようともがく。
「ごめん、シル!聞いて!俺はただシルが辛そうだったから!何とかしてあげたくて話を聞きたかっただけなんだ。もういいから、もう聞かないから!」
声を出すのを堪えて泣いているシルに胸が締め付けられたマルクは、自分の胸にシルを抱き込んだ。
「これなら声が漏れないよ。思いきり泣いていいから・・・」
それからしばらくマルクはセシルが落ち着くまでそうしていた。
ほどなくして泣き止んだセシルは我に返って、羞恥に苛まれていた。
マルクの胸に顔面を押し付けながら、この後どうしようかと困っていた。
(はずかし・・・子供みたいに泣いちゃって)
一人で気を張っていたところへの不意打ちとマルクに真実を知られた不安。兄に対する罪悪感と皆から疎まれた日々を思い出したのとで感情がぐちゃぐちゃになってしまったのだ。
そして波が過ぎたらもう、すっかり落ち着いたのだが顔をあげるタイミングがわからない。第一声はなんといえばいいのかわからないと困っていると、
「落ちついた?」
マルクが頭の上でそう聞いて来た。セシルはマルクの目に顔を押し付けたまま肯いた。
「本当はずっとこうしていたいけど、これ以上遅くなれば店主が心配するだろう?送っていくよ。」
店舗兼住居に居候させてもらっているセシルとしてはルルに心配をかけるわけにはいかない。
「・・・うん、ありがとう。ごめんなさい。」
マルクは手をつなぎ、店の前まで送ってくれた。
セシルは涙でぐちゃぐちゃの顔を見られたくなくてずっと俯いていたが、別れる間際にマルクの指がそっとセシルの顎にかかり上を向かされたと思ったら、そっと唇にマルクがキスをした。
「じ、じゃあお休み。また明日!」
そういうなり、マルクは猛ダッシュで走っていった。
そんな後ろ姿を見て思わずセシルは笑顔になったのだった。
同じく、あの日をきっかけにサミュエルも時々食堂にやってくるようになった。
「マルク様、よく一緒に食事されている方とは仲がよろしいのですか?」
「ああ、サミュエルの事?そうなんだ、学友でね。」
「そうだったんですか・・・」
サミュエルが初めて食堂に来た時も同席していたから、知り合いだとは思っていたけど友人とは思わなかった。少しセシルの顔が曇る。
「あいつがどうかした?」
「いいえ、なんでもありません。」
いつかサミュエルからセシルの事を聞くかもしれない。
知られたくないと思った。もう平民として、ただのシルとして一人で生きていこうと決意しているのだから。
「シル。」
不安そうな顔のセシルをマルクが抱き寄せる。
「何か心配なことがあったら俺に相談するんだよ。」
「うん、ありがとう。」
でも・・・誰にも知られたくはないが、もしこの先マルクとの未来があるのならいつか話す日が来るかもしれない。ただしばらくの間は、このままでいたかった。
それ以来、サミュエルとマルクが二人で食事をしているとついつい目をやってしまう。何の話をしているのだろう、自分の事を話ししているのではないだろうかと気になって仕方がなかった。
ある日思い切って、帰っていくサミュエルの後を追った。
「シャリエ子爵令息様」
セシルが呼びかけるとサミュエルは驚いたように、だが嬉しそうに振り向いた。
「どうした?セシル。」
「あの・・・私、マルク様とお付き合いをしています。」
「ああ、知ってるよ。あいつはいい奴だから安心して任せている。」
「それで・・・・その・・・私の事を・・・」
「心配しなくてもいい。セシルが僕の妹だということは言うつもりはないよ。ああ、最近浮かない顔をしていると思ったらそれが心配だったのか。もう・・・僕は顔を出さない方がよさそうだね。」
「・・・」
セシルは何も言えなかった。
心の中では少しそう思っていたから。
サミュエルは寂しそうに
「今までごめんよ。もう行かない。でも、僕はセシルの事を本当に大切に思っているから困ったことがあれば必ず相談にくるんだよ。僕も父上も待っているから。」
そう言うとサミュエルはさっと踵を返すと歩いていった。
セシルは深く頭を下げ、頭をあげた時にはその目には涙が溜まっていた。
次の日、夕方店に現れたマルクは仕事が終われば一緒に出掛けようと誘ってくれた。
早めに上がらせてくれたルルに感謝しながら、二人は公園のベンチに座る。
「シル、俺はシルの事が本当に好きだ。」
「ま、マルク様、急にどうしたのですか?」
セシルは体中の温度が急激に上がるのを感じた。
「何があっても俺の気持ちは変わらないからシルの事を教えて欲しい。」
「・・・どういうこと?」
上昇した体温は冷や水を浴びたようにさがり、瞳は不安げに揺れる。
「・・・昨日、サミュエルが来ただろう?」
セシルはびくりと体を震わせた。
「あの時、俺近くまで行ってたんだ。嫉妬して追いかけたんだ。それで・・・聞いてしまって・・・ごめん。」
サミュエルの事がばれた、自分がサミュエルの妹で貴族だと知られたに違いない。ではなぜあんなところで働いているのだと追及されるだろう。
「・・・あいつと兄妹なんだ?」
「・・・いいえ。」
「隠さないで。別に悪いことではないじゃないか。」
セシルはぶんぶんと首を横に振る。
サミュエルとは兄弟なんかじゃない、血のつながりなどないのだから。
「サミュエルからセシルという妹が可愛いと昔聞いたことがあるんだ。シルがセシルなんだろ?アナベルの事は・・・」
そこまで聞いたセシルの目から涙がこぼれる。
「だったら何ですか⁉マルク様に関係ありません!私はシルです!ただのシルなんです!親も兄弟もおりません!」
セシルはベンチから立ち上がったかと思うと走り出した。
「シル!待って!ごめん!責めるつもりじゃ・・・」
少し薄暗くなってきた公園内でシルを追いかける。いつも鍛えている騎士であるマルクは簡単にシルに追いついてしまう。
後ろから抱きしめてもシルは逃れようともがく。
「ごめん、シル!聞いて!俺はただシルが辛そうだったから!何とかしてあげたくて話を聞きたかっただけなんだ。もういいから、もう聞かないから!」
声を出すのを堪えて泣いているシルに胸が締め付けられたマルクは、自分の胸にシルを抱き込んだ。
「これなら声が漏れないよ。思いきり泣いていいから・・・」
それからしばらくマルクはセシルが落ち着くまでそうしていた。
ほどなくして泣き止んだセシルは我に返って、羞恥に苛まれていた。
マルクの胸に顔面を押し付けながら、この後どうしようかと困っていた。
(はずかし・・・子供みたいに泣いちゃって)
一人で気を張っていたところへの不意打ちとマルクに真実を知られた不安。兄に対する罪悪感と皆から疎まれた日々を思い出したのとで感情がぐちゃぐちゃになってしまったのだ。
そして波が過ぎたらもう、すっかり落ち着いたのだが顔をあげるタイミングがわからない。第一声はなんといえばいいのかわからないと困っていると、
「落ちついた?」
マルクが頭の上でそう聞いて来た。セシルはマルクの目に顔を押し付けたまま肯いた。
「本当はずっとこうしていたいけど、これ以上遅くなれば店主が心配するだろう?送っていくよ。」
店舗兼住居に居候させてもらっているセシルとしてはルルに心配をかけるわけにはいかない。
「・・・うん、ありがとう。ごめんなさい。」
マルクは手をつなぎ、店の前まで送ってくれた。
セシルは涙でぐちゃぐちゃの顔を見られたくなくてずっと俯いていたが、別れる間際にマルクの指がそっとセシルの顎にかかり上を向かされたと思ったら、そっと唇にマルクがキスをした。
「じ、じゃあお休み。また明日!」
そういうなり、マルクは猛ダッシュで走っていった。
そんな後ろ姿を見て思わずセシルは笑顔になったのだった。
314
あなたにおすすめの小説
【完結】私を忘れてしまった貴方に、憎まれています
高瀬船
恋愛
夜会会場で突然意識を失うように倒れてしまった自分の旦那であるアーヴィング様を急いで邸へ連れて戻った。
そうして、医者の診察が終わり、体に異常は無い、と言われて安心したのも束の間。
最愛の旦那様は、目が覚めると綺麗さっぱりと私の事を忘れてしまっており、私と結婚した事も、お互い愛を育んだ事を忘れ。
何故か、私を憎しみの籠った瞳で見つめるのです。
優しかったアーヴィング様が、突然見知らぬ男性になってしまったかのようで、冷たくあしらわれ、憎まれ、私の心は日が経つにつれて疲弊して行く一方となってしまったのです。
戻る場所がなくなったようなので別人として生きます
しゃーりん
恋愛
医療院で目が覚めて、新聞を見ると自分が死んだ記事が載っていた。
子爵令嬢だったリアンヌは公爵令息ジョーダンから猛アプローチを受け、結婚していた。
しかし、結婚生活は幸せではなかった。嫌がらせを受ける日々。子供に会えない日々。
そしてとうとう攫われ、襲われ、森に捨てられたらしい。
見つかったという遺体が自分に似ていて死んだと思われたのか、別人とわかっていて死んだことにされたのか。
でももう夫の元に戻る必要はない。そのことにホッとした。
リアンヌは別人として新しい人生を生きることにするというお話です。
冷遇された聖女の結末
菜花
恋愛
異世界を救う聖女だと冷遇された毛利ラナ。けれど魔力慣らしの旅に出た途端に豹変する同行者達。彼らは同行者の一人のセレスティアを称えラナを貶める。知り合いもいない世界で心がすり減っていくラナ。彼女の迎える結末は――。
本編にプラスしていくつかのifルートがある長編。
カクヨムにも同じ作品を投稿しています。
〖完結〗王女殿下の最愛の人は、私の婚約者のようです。
藍川みいな
恋愛
エリック様とは、五年間婚約をしていた。
学園に入学してから、彼は他の女性に付きっきりで、一緒に過ごす時間が全くなかった。その女性の名は、オリビア様。この国の、王女殿下だ。
入学式の日、目眩を起こして倒れそうになったオリビア様を、エリック様が支えたことが始まりだった。
その日からずっと、エリック様は病弱なオリビア様の側を離れない。まるで恋人同士のような二人を見ながら、学園生活を送っていた。
ある日、オリビア様が私にいじめられていると言い出した。エリック様はそんな話を信じないと、思っていたのだけれど、彼が信じたのはオリビア様だった。
設定ゆるゆるの、架空の世界のお話です。
【完結】お父様。私、悪役令嬢なんですって。何ですかそれって。
紅月
恋愛
小説家になろうで書いていたものを加筆、訂正したリメイク版です。
「何故、私の娘が処刑されなければならないんだ」
最愛の娘が冤罪で処刑された。
時を巻き戻し、復讐を誓う家族。
娘は前と違う人生を歩み、家族は元凶へ復讐の手を伸ばすが、巻き戻す前と違う展開のため様々な事が見えてきた。
幼馴染みの婚約者が「学生時代は愛する恋人と過ごさせてくれ」と言ってきたので、秒で婚約解消を宣言した令嬢の前世が、社畜のおっさんだった件。
灯乃
ファンタジー
子爵家の総領娘である令嬢の前に、巨乳美少女と腕を組んだ婚約者がやってきた。
曰く、「学生時代くらいは、心から愛する恋人と自由に過ごしたい。それくらい、黙って許容しろ」と。
婚約者を甘やかし過ぎていたことに気付いた彼女は、その場で婚約解消を宣言する。
前半はたぶん普通の令嬢もの、後半はおっさんコメディーです。
妹が公爵夫人になりたいようなので、譲ることにします。
夢草 蝶
恋愛
シスターナが帰宅すると、婚約者と妹のキスシーンに遭遇した。
どうやら、妹はシスターナが公爵夫人になることが気に入らないらしい。
すると、シスターナは快く妹に婚約者の座を譲ると言って──
本編とおまけの二話構成の予定です。
夫に相手にされない侯爵夫人ですが、記憶を失ったので人生やり直します。
MIRICO
恋愛
第二章【記憶を失った侯爵夫人ですが、夫と人生やり直します。】完結です。
記憶を失った私は侯爵夫人だった。しかし、旦那様とは不仲でほとんど話すこともなく、パーティに連れて行かれたのは結婚して数回ほど。それを聞いても何も思い出せないので、とりあえず記憶を失ったことは旦那様に内緒にしておいた。
旦那様は美形で凛とした顔の見目の良い方。けれどお城に泊まってばかりで、お屋敷にいてもほとんど顔を合わせない。いいんですよ、その間私は自由にできますから。
屋敷の生活は楽しく旦那様がいなくても何の問題もなかったけれど、ある日突然パーティに同伴することに。
旦那様が「わたし」をどう思っているのか、記憶を失った私にはどうでもいい。けれど、旦那様のお相手たちがやけに私に噛み付いてくる。
記憶がないのだから、私は旦那様のことはどうでもいいのよ?
それなのに、旦那様までもが私にかまってくる。旦那様は一体何がしたいのかしら…?
小説家になろう様に掲載済みです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる