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再会
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アリスの部屋で一晩過ごした聖獣は、朝になると急に尋ねてきた。
『それで決まった?』
「何が?」
『名前だよ』
「誰の」
『僕の』
なんか腹が立つ、この聖獣。
アリスは聖獣をがしっとつかむと、イリークが先に来ているであろう地下の鍛錬所に向かった。
「なるほど。契約者に名づけをしてもらうことで契約が完結するということですね。」
『その通りだ。お前はいつも理解が早い。弟子にもちゃんと・・・』
といいかけて、口をつぐんだ。また攻撃されてはたまらない。
「アリス、聖獣様にお名前をつけて差し上げて。聖獣様と大っぴらにお呼びすることもできないし」
「その権利、師匠にお譲りしますよ。」
『いやいやいや・・・とことんびっくりだよ、君に。こんなうれしいことないでしょ、こんな美しくてかわいい僕に名前つけれるんだよ?感激で打ち震えるところじゃないの!?』
「・・・ケルン」
「ケルン様か、いいじゃないか。」
イリークも賛成し、聖獣は体をぴかりと光らせると、満足そうにうなづいた。
「蹴り倒したいの、「蹴るン」だけどね!」
『・・・・。ひどいっ、信じらんないっ!。』
「ケ、ケルン様。アリスの質の悪い冗談ですよ。とてもかっこいい響きです。高貴で美麗な聖獣様にふさわしいお名前です。」
『・・・そう?まあ、隠しきれない僕の高貴なオーラだとどんな名前も霞んじゃうからなんでもいいけどね。』
おだてられ上手な聖獣は、すぐに機嫌を直した。
人間のお菓子を気に入ったケルンは、自分で選びたいからと町へ連れて行けとアリスをせっついた。
簡単なワンピースの胸元にわざわざポケット作り、そこにケルンを入れて街へ向かった。あっちに行け、こっちに行けとポケットの中から指示するケルンをつつきながらアリスも一緒に買い物を楽しんだ。
こういう風に買い物を楽しんだのは初めてだった。目的をこれと決めず、あちこちの店を覗いて友達とあれこれ言いあってまわるのは心が浮き立つんだなあと初めて知った。今日の相手は友達ではないけれど。
今度はイリークを誘おうとアリスは決めた。
「姉上!」
ケルンと焼き菓子専門店の店先を覗いていると後ろから声をかけられた。
振り向くとルイスが護衛兼付き添いの使用人と一緒に立っていた。
「・・・これは、シルヴェストルご令息。私に何か御用でしょうか。」
高位の貴族に対するよう膝を折り、挨拶をした。
ルイスは泣きそうに顔を歪めた。
「お会いしたかった。僕、謝りたくて!でも許可していただけなくて・・」
「謝罪は必要ありません。では。」
そのまま立ち去ろうとするアリスの手をつかんだ。
「少しだけ・・・時間をください!お願いします!」
何事かとだんだん人の目がこちらに集まってくる。
こいつらはどこまで私の平穏を奪うのか・・・どうしてほっておいてくれないのか、アリスの心に暗く冷たい靄が広がっていく。それに囚われそうになったとき
「いたたた!ちょっと、ケルン!」
ケルンがポケットから飛び出ると頭をつつき始めた。
ルイスも従者もあっけにとられて見ている。
『落ち着いて。ほらほらみんな見てるよ~』
頭を小鳥につつかれて騒いでる女の子を見て周りは笑ってる。
羞恥のあまり顔が真っ赤になり、ここを逃げ出すためにルイスの誘いに応じた。
『それで決まった?』
「何が?」
『名前だよ』
「誰の」
『僕の』
なんか腹が立つ、この聖獣。
アリスは聖獣をがしっとつかむと、イリークが先に来ているであろう地下の鍛錬所に向かった。
「なるほど。契約者に名づけをしてもらうことで契約が完結するということですね。」
『その通りだ。お前はいつも理解が早い。弟子にもちゃんと・・・』
といいかけて、口をつぐんだ。また攻撃されてはたまらない。
「アリス、聖獣様にお名前をつけて差し上げて。聖獣様と大っぴらにお呼びすることもできないし」
「その権利、師匠にお譲りしますよ。」
『いやいやいや・・・とことんびっくりだよ、君に。こんなうれしいことないでしょ、こんな美しくてかわいい僕に名前つけれるんだよ?感激で打ち震えるところじゃないの!?』
「・・・ケルン」
「ケルン様か、いいじゃないか。」
イリークも賛成し、聖獣は体をぴかりと光らせると、満足そうにうなづいた。
「蹴り倒したいの、「蹴るン」だけどね!」
『・・・・。ひどいっ、信じらんないっ!。』
「ケ、ケルン様。アリスの質の悪い冗談ですよ。とてもかっこいい響きです。高貴で美麗な聖獣様にふさわしいお名前です。」
『・・・そう?まあ、隠しきれない僕の高貴なオーラだとどんな名前も霞んじゃうからなんでもいいけどね。』
おだてられ上手な聖獣は、すぐに機嫌を直した。
人間のお菓子を気に入ったケルンは、自分で選びたいからと町へ連れて行けとアリスをせっついた。
簡単なワンピースの胸元にわざわざポケット作り、そこにケルンを入れて街へ向かった。あっちに行け、こっちに行けとポケットの中から指示するケルンをつつきながらアリスも一緒に買い物を楽しんだ。
こういう風に買い物を楽しんだのは初めてだった。目的をこれと決めず、あちこちの店を覗いて友達とあれこれ言いあってまわるのは心が浮き立つんだなあと初めて知った。今日の相手は友達ではないけれど。
今度はイリークを誘おうとアリスは決めた。
「姉上!」
ケルンと焼き菓子専門店の店先を覗いていると後ろから声をかけられた。
振り向くとルイスが護衛兼付き添いの使用人と一緒に立っていた。
「・・・これは、シルヴェストルご令息。私に何か御用でしょうか。」
高位の貴族に対するよう膝を折り、挨拶をした。
ルイスは泣きそうに顔を歪めた。
「お会いしたかった。僕、謝りたくて!でも許可していただけなくて・・」
「謝罪は必要ありません。では。」
そのまま立ち去ろうとするアリスの手をつかんだ。
「少しだけ・・・時間をください!お願いします!」
何事かとだんだん人の目がこちらに集まってくる。
こいつらはどこまで私の平穏を奪うのか・・・どうしてほっておいてくれないのか、アリスの心に暗く冷たい靄が広がっていく。それに囚われそうになったとき
「いたたた!ちょっと、ケルン!」
ケルンがポケットから飛び出ると頭をつつき始めた。
ルイスも従者もあっけにとられて見ている。
『落ち着いて。ほらほらみんな見てるよ~』
頭を小鳥につつかれて騒いでる女の子を見て周りは笑ってる。
羞恥のあまり顔が真っ赤になり、ここを逃げ出すためにルイスの誘いに応じた。
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