21 / 39
和解
しおりを挟む
公爵家の馬車に乗り、高級な菓子店についた。
その店の二階は、身分のあるものが落ち着いて喫茶ができるように個室が用意されていた。
「姉上、まずはこうして来ていただいてありがとうございます。」
ルイスは頭を下げた。
ケルンに髪を引っ張られ、それに抵抗しながらアリスは黙ったままだった。
「先日の暴言について心からお詫びします。姉上の・・・姉上の気持ちを考えることなく自分のことばっかりで・・・本当にごめんなさい!許してくれなくていいです、僕が間違っていただけなんです。姉上は何ひとつ悪くない、姉上はシルヴェストルの家族です!」
「・・・。いえ、私のこれまでの言動が悪いのでこちらこそお詫びします。それに・・・私の家族はイリーク様だけですので。お気になさることはありません」
「姉上!」
ルイスは涙をぽろぽろこぼして
「ごめん・・ごめんなさい」
目の前で泣くルイスの顔に、少し成長した過去のルイスの顔が重なる。
「姉上、大丈夫?これ少しだけど・・・」
自宅で軟禁され、食事が減らされ始めたころルイスが差し入れをしてくれた。
アリスは一口サイズの焼き菓子がつまった宝箱のような差し入れを大切に抱きしめた。その後も隙を見ていろいろ差し入れてくれたのはルイスだけだったなあと思いだした。大切な弟だった。
結局はその差し入れに毒が混入されるようになり、そんな思いは忘れてしまっていたのだけれど。毒入りのお菓子を口にして、苦しんでいる姿をわざわざ見に来て嘲笑うルイスを思い出す。
どんどん心が冷えていくと自分でも感じたときケルンから暖かい光の魔力が流れてきたのが分かった。
すると記憶の中のルイスの嘲笑い顔に涙が一筋流れているのが見えた、あの時は苦しさ、裏切られた悔しさで気が付かなった。
「姉上・・・ごめん・・・勝て・・なかっ」
とつぶやくのにも。
冷えかけた心がふたたび温まり、ルイスに対して湧きあがった黒い気持ちが少し薄れた気がするのも、過去世の大事な場面が見えたのもケルンのおかげ?
アリスはケルンを見た。
『聖獣の守護の力思い知ったか!』
勝ち誇ったように今度は頭をつつきだす。
アリスは懲りないケルンを片手でつかむと、カバンにほり込んだ。
急にきゅうきゅう鳴く鳥をつかんでカバンに仕舞ったアリスの行動にルイスの涙は引っ込んでしまった。
確か、人生をかけるほどの大切な場面のはずだ。このおかしなやり取りを前にどんな顔をしたらいいのかわからない。
「あの・・・ペット?連れ歩いてるの」
「・・・ええ。ペットです。」
カバンからきゅう!と抗議のような声が上がる。
「あなた様の気持ちはよくわかりました。本当にもう気にしなくて大丈夫です、わざわざありがとうございました。」
「・・・・それで、その・・・また父上たちが訪問できるようにお願いしたいのだけれど・・・」
「私のために、心を砕く必要はありませんとお伝えください。シルヴェストル家の生活を大切になさってください。」
「姉上もそのうちの一人なんだよ!僕が言っても・・・お前が何言ってるんだって言われても仕方がないけど・・・でも!姉上が幸せじゃなかったら誰も幸せにならないよ!お願い、僕たちができることをさせて!そばに・・そばにいることを許してください。」
アリスは困ったように眉を下げた。
これまで通り、はねつければそれでいい。だけど先ほどみた過去世のルイスの涙と言葉が気にかかる。
なぜあんなこと言ったの?なぜ泣いたの?そう聞きたかった。しかし今のルイスに聞いても伝わるはずもなく。
「・・・とりあえず、いただきませんか」
冷めてしまった紅茶と運ばれてきたお菓子に目を移した。
「う、うん。温かい紅茶に取り替えてもらうよ」
『僕も僕も』
食器を買い取る旨を伝え、ケルンのためにも用意してもらった。
カバンからやっと出してもらえたケルンは、きゅうきゅうとお茶とお菓子を楽しんだ。
毒気を抜かれたようにルイスはこわばっていた身体から力が抜けた。
「なんか、意外です。姉上が鳥を連れ歩くなんて。」
「・・・一応飼い主としてお世話が必要ですから」
『ペットじゃないから!』
「姉上、僕に敬語止めてください。僕のこと嫌いだと思うけど、それでもいいから敬語使わないで・・・・お願い。僕、嫌われても何しても弟でいたい。」
「・・・・。わかったわ。」
「ありがとう。良かった・・」
ルイスは声をつまらせた。
それから特に話が弾んだわけではないが、以前のような完全な拒絶を感じなかったことにルイスはほっとしたようだ。
別れ際には「鳥が好きなようなので」と、一階でお菓子の詰め合わせを贈ってくれた。
『あいついいやつ~』
ケルンのルイスの評価は高まった。
ルイスの懇願によって一時は完全に断たれたと思われた関係は、続けられることになった。以前のようにお茶会でお互いの家を行き来することとなり公爵夫妻は元気を取り戻した。
その店の二階は、身分のあるものが落ち着いて喫茶ができるように個室が用意されていた。
「姉上、まずはこうして来ていただいてありがとうございます。」
ルイスは頭を下げた。
ケルンに髪を引っ張られ、それに抵抗しながらアリスは黙ったままだった。
「先日の暴言について心からお詫びします。姉上の・・・姉上の気持ちを考えることなく自分のことばっかりで・・・本当にごめんなさい!許してくれなくていいです、僕が間違っていただけなんです。姉上は何ひとつ悪くない、姉上はシルヴェストルの家族です!」
「・・・。いえ、私のこれまでの言動が悪いのでこちらこそお詫びします。それに・・・私の家族はイリーク様だけですので。お気になさることはありません」
「姉上!」
ルイスは涙をぽろぽろこぼして
「ごめん・・ごめんなさい」
目の前で泣くルイスの顔に、少し成長した過去のルイスの顔が重なる。
「姉上、大丈夫?これ少しだけど・・・」
自宅で軟禁され、食事が減らされ始めたころルイスが差し入れをしてくれた。
アリスは一口サイズの焼き菓子がつまった宝箱のような差し入れを大切に抱きしめた。その後も隙を見ていろいろ差し入れてくれたのはルイスだけだったなあと思いだした。大切な弟だった。
結局はその差し入れに毒が混入されるようになり、そんな思いは忘れてしまっていたのだけれど。毒入りのお菓子を口にして、苦しんでいる姿をわざわざ見に来て嘲笑うルイスを思い出す。
どんどん心が冷えていくと自分でも感じたときケルンから暖かい光の魔力が流れてきたのが分かった。
すると記憶の中のルイスの嘲笑い顔に涙が一筋流れているのが見えた、あの時は苦しさ、裏切られた悔しさで気が付かなった。
「姉上・・・ごめん・・・勝て・・なかっ」
とつぶやくのにも。
冷えかけた心がふたたび温まり、ルイスに対して湧きあがった黒い気持ちが少し薄れた気がするのも、過去世の大事な場面が見えたのもケルンのおかげ?
アリスはケルンを見た。
『聖獣の守護の力思い知ったか!』
勝ち誇ったように今度は頭をつつきだす。
アリスは懲りないケルンを片手でつかむと、カバンにほり込んだ。
急にきゅうきゅう鳴く鳥をつかんでカバンに仕舞ったアリスの行動にルイスの涙は引っ込んでしまった。
確か、人生をかけるほどの大切な場面のはずだ。このおかしなやり取りを前にどんな顔をしたらいいのかわからない。
「あの・・・ペット?連れ歩いてるの」
「・・・ええ。ペットです。」
カバンからきゅう!と抗議のような声が上がる。
「あなた様の気持ちはよくわかりました。本当にもう気にしなくて大丈夫です、わざわざありがとうございました。」
「・・・・それで、その・・・また父上たちが訪問できるようにお願いしたいのだけれど・・・」
「私のために、心を砕く必要はありませんとお伝えください。シルヴェストル家の生活を大切になさってください。」
「姉上もそのうちの一人なんだよ!僕が言っても・・・お前が何言ってるんだって言われても仕方がないけど・・・でも!姉上が幸せじゃなかったら誰も幸せにならないよ!お願い、僕たちができることをさせて!そばに・・そばにいることを許してください。」
アリスは困ったように眉を下げた。
これまで通り、はねつければそれでいい。だけど先ほどみた過去世のルイスの涙と言葉が気にかかる。
なぜあんなこと言ったの?なぜ泣いたの?そう聞きたかった。しかし今のルイスに聞いても伝わるはずもなく。
「・・・とりあえず、いただきませんか」
冷めてしまった紅茶と運ばれてきたお菓子に目を移した。
「う、うん。温かい紅茶に取り替えてもらうよ」
『僕も僕も』
食器を買い取る旨を伝え、ケルンのためにも用意してもらった。
カバンからやっと出してもらえたケルンは、きゅうきゅうとお茶とお菓子を楽しんだ。
毒気を抜かれたようにルイスはこわばっていた身体から力が抜けた。
「なんか、意外です。姉上が鳥を連れ歩くなんて。」
「・・・一応飼い主としてお世話が必要ですから」
『ペットじゃないから!』
「姉上、僕に敬語止めてください。僕のこと嫌いだと思うけど、それでもいいから敬語使わないで・・・・お願い。僕、嫌われても何しても弟でいたい。」
「・・・・。わかったわ。」
「ありがとう。良かった・・」
ルイスは声をつまらせた。
それから特に話が弾んだわけではないが、以前のような完全な拒絶を感じなかったことにルイスはほっとしたようだ。
別れ際には「鳥が好きなようなので」と、一階でお菓子の詰め合わせを贈ってくれた。
『あいついいやつ~』
ケルンのルイスの評価は高まった。
ルイスの懇願によって一時は完全に断たれたと思われた関係は、続けられることになった。以前のようにお茶会でお互いの家を行き来することとなり公爵夫妻は元気を取り戻した。
110
あなたにおすすめの小説
無魔力の令嬢、婚約者に裏切られた瞬間、契約竜が激怒して王宮を吹き飛ばしたんですが……
タマ マコト
ファンタジー
王宮の祝賀会で、無魔力と蔑まれてきた伯爵令嬢エリーナは、王太子アレクシオンから突然「婚約破棄」を宣告される。侍女上がりの聖女セレスが“新たな妃”として選ばれ、貴族たちの嘲笑がエリーナを包む。絶望に胸が沈んだ瞬間、彼女の奥底で眠っていた“竜との契約”が目を覚まし、空から白銀竜アークヴァンが降臨。彼はエリーナの涙に激怒し、王宮を半壊させるほどの力で彼女を守る。王国は震え、エリーナは自分が竜の真の主であるという運命に巻き込まれていく。
虐げられた令嬢は、姉の代わりに王子へ嫁ぐ――たとえお飾りの妃だとしても
千堂みくま
恋愛
「この卑しい娘め、おまえはただの身代わりだろうが!」 ケルホーン伯爵家に生まれたシーナは、ある理由から義理の家族に虐げられていた。シーナは姉のルターナと瓜二つの顔を持ち、背格好もよく似ている。姉は病弱なため、義父はシーナに「ルターナの代わりに、婚約者のレクオン王子と面会しろ」と強要してきた。二人はなんとか支えあって生きてきたが、とうとうある冬の日にルターナは帰らぬ人となってしまう。「このお金を持って、逃げて――」ルターナは最後の力で屋敷から妹を逃がし、シーナは名前を捨てて別人として暮らしはじめたが、レクオン王子が迎えにやってきて……。○第15回恋愛小説大賞に参加しています。もしよろしければ応援お願いいたします。
【短編完結】地味眼鏡令嬢はとっても普通にざまぁする。
鏑木 うりこ
恋愛
クリスティア・ノッカー!お前のようなブスは侯爵家に相応しくない!お前との婚約は破棄させてもらう!
茶色の長い髪をお下げに編んだ私、クリスティアは瓶底メガネをクイっと上げて了承致しました。
ええ、良いですよ。ただ、私の物は私の物。そこら辺はきちんとさせていただきますね?
(´・ω・`)普通……。
でも書いたから見てくれたらとても嬉しいです。次はもっと特徴だしたの書きたいです。
記憶を失くして転生しました…転生先は悪役令嬢?
ねこママ
恋愛
「いいかげんにしないかっ!」
バシッ!!
わたくしは咄嗟に、フリード様の腕に抱き付くメリンダ様を引き離さなければと手を伸ばしてしまい…頬を叩かれてバランスを崩し倒れこみ、壁に頭を強く打ち付け意識を失いました。
目が覚めると知らない部屋、豪華な寝台に…近付いてくるのはメイド? 何故髪が緑なの?
最後の記憶は私に向かって来る車のライト…交通事故?
ここは何処? 家族? 友人? 誰も思い出せない……
前世を思い出したセレンディアだが、事故の衝撃で記憶を失くしていた……
前世の自分を含む人物の記憶だけが消えているようです。
転生した先の記憶すら全く無く、頭に浮かぶものと違い過ぎる世界観に戸惑っていると……?
【完結】領主の妻になりました
青波鳩子
恋愛
「私が君を愛することは無い」
司祭しかいない小さな教会で、夫になったばかりのクライブにフォスティーヌはそう告げられた。
===============================================
オルティス王の側室を母に持つ第三王子クライブと、バーネット侯爵家フォスティーヌは婚約していた。
挙式を半年後に控えたある日、王宮にて事件が勃発した。
クライブの異母兄である王太子ジェイラスが、国王陛下とクライブの実母である側室を暗殺。
新たに王の座に就いたジェイラスは、異母弟である第二王子マーヴィンを公金横領の疑いで捕縛、第三王子クライブにオールブライト辺境領を治める沙汰を下した。
マーヴィンの婚約者だったブリジットは共犯の疑いがあったが確たる証拠が見つからない。
ブリジットが王都にいてはマーヴィンの子飼いと接触、画策の恐れから、ジェイラスはクライブにオールブライト領でブリジットの隔離監視を命じる。
捜査中に大怪我を負い、生涯歩けなくなったブリジットをクライブは密かに想っていた。
長兄からの「ブリジットの隔離監視」を都合よく解釈したクライブは、オールブライト辺境伯の館のうち豪華な別邸でブリジットを囲った。
新王である長兄の命令に逆らえずフォスティーヌと結婚したクライブは、本邸にフォスティーヌを置き、自分はブリジットと別邸で暮らした。
フォスティーヌに「別邸には近づくことを許可しない」と告げて。
フォスティーヌは「お飾りの領主の妻」としてオールブライトで生きていく。
ブリジットの大きな嘘をクライブが知り、そこからクライブとフォスティーヌの関係性が変わり始める。
========================================
*荒唐無稽の世界観の中、ふんわりと書いていますのでふんわりとお読みください
*約10万字で最終話を含めて全29話です
*他のサイトでも公開します
*10月16日より、1日2話ずつ、7時と19時にアップします
*誤字、脱字、衍字、誤用、素早く脳内変換してお読みいただけるとありがたいです
【完結】王太子は元婚約者から逃走する
みけの
ファンタジー
かつて、王太子アレン・リオ・アズライドは、婚約者であるセレナ・スタン公爵令嬢に婚約破棄を告げた。
『私は真実の愛を見つけたのだ!』と、ある男爵令嬢を抱き寄せて。
しかし男爵令嬢の不義により、騙されていたと嘆く王太子。
再びセレナと寄りを戻そうとするが、再三訴えても拒絶されてしまう。
ようやく逢える事になり、王太子は舞い上がるが……?
『白い結婚だったので、勝手に離婚しました。何か問題あります?』
夢窓(ゆめまど)
恋愛
「――離婚届、受理されました。お疲れさまでした」
教会の事務官がそう言ったとき、私は心の底からこう思った。
ああ、これでようやく三年分の無視に終止符を打てるわ。
王命による“形式結婚”。
夫の顔も知らず、手紙もなし、戦地から帰ってきたという噂すらない。
だから、はい、離婚。勝手に。
白い結婚だったので、勝手に離婚しました。
何か問題あります?
婚約破棄されたトリノは、継母や姉たちや使用人からもいじめられているので、前世の記憶を思い出し、家から脱走して旅にでる!
山田 バルス
恋愛
この屋敷は、わたしの居場所じゃない。
薄明かりの差し込む天窓の下、トリノは古びた石床に敷かれた毛布の中で、静かに目を覚ました。肌寒さに身をすくめながら、昨日と変わらぬ粗末な日常が始まる。
かつては伯爵家の令嬢として、それなりに贅沢に暮らしていたはずだった。だけど、実の母が亡くなり、父が再婚してから、すべてが変わった。
「おい、灰かぶり。いつまで寝てんのよ、あんたは召使いのつもり?」
「ごめんなさい、すぐに……」
「ふーん、また寝癖ついてる。魔獣みたいな髪。鏡って知ってる?」
「……すみません」
トリノはペコリと頭を下げる。反論なんて、とうにあきらめた。
この世界は、魔法と剣が支配する王国《エルデラン》の北方領。名門リドグレイ伯爵家の屋敷には、魔道具や召使い、そして“偽りの家族”がそろっている。
彼女――トリノ・リドグレイは、この家の“戸籍上は三女”。けれど実態は、召使い以下の扱いだった。
「キッチン、昨日の灰がそのままだったわよ? ご主人様の食事を用意する手も、まるで泥人形ね」
「今朝の朝食、あなたの分はなし。ねえ、ミレイア? “灰かぶり令嬢”には、灰でも食べさせればいいのよ」
「賛成♪ ちょうど暖炉の掃除があるし、役立ててあげる」
三人がくすくすと笑うなか、トリノはただ小さくうなずいた。
夜。屋敷が静まり、誰もいない納戸で、トリノはひとり、こっそり木箱を開いた。中には小さな布包み。亡き母の形見――古びた銀のペンダントが眠っていた。
それだけが、彼女の“世界でただ一つの宝物”。
「……お母さま。わたし、がんばってるよ。ちゃんと、ひとりでも……」
声が震える。けれど、涙は流さなかった。
屋敷の誰にも必要とされない“灰かぶり令嬢”。
だけど、彼女の心だけは、まだ折れていない。
いつか、この冷たい塔を抜け出して、空の広い場所へ行くんだ。
そう、小さく、けれど確かに誓った。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる