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60 江草隊の進撃
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江草隆繁少佐率いる第四次攻撃隊は、高度一〇〇〇メートルから八〇〇メートルという低高度で進撃を続けていた。
本来であれば、艦爆隊の進撃高度は最低でも三〇〇〇メートル。それを大幅に下げていたのには、理由があった。
今回の攻撃は午前の攻撃と違い、機数はわずか零戦十五機と九九艦爆十二機の二十七機でしかない。
たとえ米空母が残り一隻だったとしても、米艦隊の対空砲火の激しさをすでに体験していた江草には、この攻撃が成功させられるのかどうか、一抹の不安があったのである。
そこで彼が考え出したのが、米艦隊の電探に探知されない高度を進撃し、米艦隊を視認すると同時に高度を一気に上げて急降下に移る、という戦法であった。
米艦隊に、奇襲的な攻撃を仕掛けようというわけである。
英米の海軍が電探を実用化していることはすでに搭乗員たちの間ではある程度、知れ渡っていた。
さらに江草は、電探について造詣の深い蒼龍の柳本柳作艦長からこの海戦に臨む前、電探の特徴について話を聞いたことがあった。あの時の柳本艦長は、単に一航艦と五航戦に電探が配備され、二航戦にのみ配備されなかったことに対する愚痴が言いたかっただけなのかもしれなかったが、その言葉が江草にこの戦法を思いつかせたのである。
幸いなことに江草隊の針路上には高度一〇〇〇メートル付近に断雲が存在しており、敵の電探からだけでなく上空の敵機からも第四次攻撃隊の姿を隠してくれるだろう。
また、今回の攻撃では、これまでのように単縦陣で一本棒となって突っ込む従来の編隊での爆撃から、単機ずつ別々の方向から突入する爆撃方法に変更していた。この戦法ならば、米艦隊は対空砲火を分散しなければならない。必然的に、対応に限界が生じるだろうと考えたのである。
ただしその反面、編隊を崩さなければならないので敵戦闘機からの攻撃に対しては脆弱となる。この点は、護衛の零戦隊の奮戦に任せるしかなかった。
この時、飛龍と米空母との距離は一〇〇浬付近にまで近付いていた。巡航速度で、一時間ほどの距離である。しかも、先行して米空母に接触している二式艦偵から、目標の位置や進行方向などの情報がもたらされていた。
江草ほどの熟練搭乗員にとって、米空母の捕捉はさほど難しいことではなかった。
飛龍から発艦して五十七分後の一三四二時(現地時間:一六四二時)、江草は前方三〇浬(約五十六キロ)の洋上に無数の航跡を発見した。
黒煙を噴き出していない、無傷のエンタープライズ型空母。それを取り巻く護衛艦艇。見事な輪形陣。
紛れもなく、米艦隊に最後に残された空母とその護衛艦艇であろう。
江草は後部座席の石井樹特務少尉に命じ、トツレ(突撃隊形作レ)を打たせる。それと同時に機体を上昇させ、攻撃高度である三〇〇〇メートルを目指す。
艦爆隊の五〇〇メートル上空を少し先行して飛んでいた零戦隊も、米空母部隊を視認したのだろう。同様に上昇を開始して、敵直掩戦闘機の出現に備えようとしていた。
江草隊は、一旦、雲の中に入る。
もし自らの目論見が外れ、米艦隊が電探でこちらを早期に探知していれば、この雲の上にはグラマンが待ち構えているだろう。
雲を突き抜けるという数瞬の間、江草は緊張を覚えずにはいられなかった。
そして、十二機の九九艦爆は断雲を突き抜けた。
「何……?」
ひやりとした感覚と共に上空に警戒を向ければ、そこには予想外の光景が広がっていた。
すでに上空三〇〇〇メートルから四〇〇〇メートル付近で、空戦が始まっていたのである。白煙と黒煙が空中で交錯し、時折火を噴いて墜ちていく。
上昇速度から考えて、ここまで江草隊を護衛していた零戦隊ではあり得ない。
「いったい、何が起こっているのだ……?」
思わず、江草はそう呟いていた。
本来であれば、艦爆隊の進撃高度は最低でも三〇〇〇メートル。それを大幅に下げていたのには、理由があった。
今回の攻撃は午前の攻撃と違い、機数はわずか零戦十五機と九九艦爆十二機の二十七機でしかない。
たとえ米空母が残り一隻だったとしても、米艦隊の対空砲火の激しさをすでに体験していた江草には、この攻撃が成功させられるのかどうか、一抹の不安があったのである。
そこで彼が考え出したのが、米艦隊の電探に探知されない高度を進撃し、米艦隊を視認すると同時に高度を一気に上げて急降下に移る、という戦法であった。
米艦隊に、奇襲的な攻撃を仕掛けようというわけである。
英米の海軍が電探を実用化していることはすでに搭乗員たちの間ではある程度、知れ渡っていた。
さらに江草は、電探について造詣の深い蒼龍の柳本柳作艦長からこの海戦に臨む前、電探の特徴について話を聞いたことがあった。あの時の柳本艦長は、単に一航艦と五航戦に電探が配備され、二航戦にのみ配備されなかったことに対する愚痴が言いたかっただけなのかもしれなかったが、その言葉が江草にこの戦法を思いつかせたのである。
幸いなことに江草隊の針路上には高度一〇〇〇メートル付近に断雲が存在しており、敵の電探からだけでなく上空の敵機からも第四次攻撃隊の姿を隠してくれるだろう。
また、今回の攻撃では、これまでのように単縦陣で一本棒となって突っ込む従来の編隊での爆撃から、単機ずつ別々の方向から突入する爆撃方法に変更していた。この戦法ならば、米艦隊は対空砲火を分散しなければならない。必然的に、対応に限界が生じるだろうと考えたのである。
ただしその反面、編隊を崩さなければならないので敵戦闘機からの攻撃に対しては脆弱となる。この点は、護衛の零戦隊の奮戦に任せるしかなかった。
この時、飛龍と米空母との距離は一〇〇浬付近にまで近付いていた。巡航速度で、一時間ほどの距離である。しかも、先行して米空母に接触している二式艦偵から、目標の位置や進行方向などの情報がもたらされていた。
江草ほどの熟練搭乗員にとって、米空母の捕捉はさほど難しいことではなかった。
飛龍から発艦して五十七分後の一三四二時(現地時間:一六四二時)、江草は前方三〇浬(約五十六キロ)の洋上に無数の航跡を発見した。
黒煙を噴き出していない、無傷のエンタープライズ型空母。それを取り巻く護衛艦艇。見事な輪形陣。
紛れもなく、米艦隊に最後に残された空母とその護衛艦艇であろう。
江草は後部座席の石井樹特務少尉に命じ、トツレ(突撃隊形作レ)を打たせる。それと同時に機体を上昇させ、攻撃高度である三〇〇〇メートルを目指す。
艦爆隊の五〇〇メートル上空を少し先行して飛んでいた零戦隊も、米空母部隊を視認したのだろう。同様に上昇を開始して、敵直掩戦闘機の出現に備えようとしていた。
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そして、十二機の九九艦爆は断雲を突き抜けた。
「何……?」
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思わず、江草はそう呟いていた。
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