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第13話 才能への評価
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ライオネル公爵の言葉は、私の心に深く、深く突き刺さった。『現場を見る目』『弱者への配慮』『実現可能性への深い洞察』――それらは、私が政策を考える上で、常に最も大切にしてきたことだったからだ。
エスタードの貴族社会では、そういった地道な視点は軽んじられがちだった。彼らが好むのは、もっと派手で、耳障りの良い、しかし実現性の乏しい理想論ばかり。私の提案も、レオンハルト殿下に取り上げられるまでは、何度も握りつぶされそうになったことがある。
それを、この人は……この冷徹だと思っていた公爵は、正確に評価してくれていたというのだろうか。
「……ですが、私は……エスタードでは、そのような評価は……」
言葉を詰まらせる私に、公爵は静かに言った。
「エスタードの現王太子が、貴女の真の価値を見抜けなかったのは、彼の不幸であり、エスタード王国にとっての損失だろう。……だが、私にとっては好都合だった」
その言葉には、ほんの少しだけ、皮肉めいた響きが混じっているように感じられた。
「私は、家柄や見目麗しさといった表面的なものよりも、実質を重んじる。ヴァルテンベルク公爵家を、そしてこのガルディア王国を支えるのは、そのような実力のある人間だ。貴女の持つ分析力、洞察力、そして何よりもその『献策』を生み出す才能は、我が国にとってこそ必要なものだと判断した」
必要なもの――。
その言葉が、私の胸に強く響いた。誰かに必要とされるなんて、もう二度と感じることのない感情だと思っていた。レオンハルト殿下に捨てられ、家族からも厄介者扱いされ、自分の存在価値を見失いかけていた私にとって、それはまるで乾いた大地に降り注ぐ恵みの雨のようだった。
「だから、貴女が婚約を破棄されたと聞き、私はすぐに行動を起こした。これは、貴女にとっても、私にとっても、そしてガルディア王国にとっても、最善の縁談だと確信している」
そこまで言い切る公爵の黒い瞳には、揺るぎない自信と、有無を言わせぬような強い意志が宿っていた。
混乱していた頭が、少しずつ整理されていく。つまり、この縁談は、レオンハルト殿下の当てつけでも、何かの間違いでもなく、このライオネル公爵が、私の『才能』を見込んで申し込んできた、ということなのだ。
(私の……才能……?)
そんな大げさなものを持っているとは思えない。ただ、私は、困っている人々のために、国のために、自分にできることを精一杯やってきただけだ。それが、こんな形で評価されるなんて、夢にも思わなかった。
喜び、という単純な感情だけではなかった。驚き、戸惑い、そしてほんの少しの恐怖。この人の期待に応えられるのだろうか、という不安。そして、心の奥底からじわじわと湧き上がってくる、温かい何か。それは、長い間忘れかけていた、自分自身への信頼のようなものかもしれない。
「……公爵様は、私のことを、買い被っていらっしゃいます。私は、それほど大した人間ではございません」
思わず、弱気な言葉が口をついて出た。
すると、公爵は初めて、その唇の端にほんのわずかな笑みの形を浮かべた。それは、嘲笑でも、憐憫でもない、もっと別の……まるで、興味深いものを見つけた子供のような、そんな純粋な好奇心にも似た表情だった。
「そうかな? 私の目に狂いはなかったと自負しているが。……まあ、貴女が自分の価値をどう評価するかは自由だ。だが、これだけは言っておこう。貴女の才能は、このヴァルテンベルクでこそ、存分に開花するだろう。私は、そのための環境を提供するつもりだ」
その言葉には、有無を言わせぬ力があった。彼は本気で、私に何かを期待しているのだ。そして、その期待は、私がこれまで受けてきたどんな評価よりも、ずっと具体的で、真剣なもののように感じられた。
まだ、心の整理はつかない。この人を完全に信じられるわけでもない。けれど、少なくとも、この縁談は私にとって、決して悪いものではないのかもしれない。そう思い始めた。
レオンハルト殿下に捨てられた時、私の人生は終わったのだと思った。けれど、もしかしたら、それは新しい始まりだったのかもしれない。この、冷たい美貌の奥に計り知れない深淵を隠したような公爵と共に歩む、未知の人生の――。
エスタードの貴族社会では、そういった地道な視点は軽んじられがちだった。彼らが好むのは、もっと派手で、耳障りの良い、しかし実現性の乏しい理想論ばかり。私の提案も、レオンハルト殿下に取り上げられるまでは、何度も握りつぶされそうになったことがある。
それを、この人は……この冷徹だと思っていた公爵は、正確に評価してくれていたというのだろうか。
「……ですが、私は……エスタードでは、そのような評価は……」
言葉を詰まらせる私に、公爵は静かに言った。
「エスタードの現王太子が、貴女の真の価値を見抜けなかったのは、彼の不幸であり、エスタード王国にとっての損失だろう。……だが、私にとっては好都合だった」
その言葉には、ほんの少しだけ、皮肉めいた響きが混じっているように感じられた。
「私は、家柄や見目麗しさといった表面的なものよりも、実質を重んじる。ヴァルテンベルク公爵家を、そしてこのガルディア王国を支えるのは、そのような実力のある人間だ。貴女の持つ分析力、洞察力、そして何よりもその『献策』を生み出す才能は、我が国にとってこそ必要なものだと判断した」
必要なもの――。
その言葉が、私の胸に強く響いた。誰かに必要とされるなんて、もう二度と感じることのない感情だと思っていた。レオンハルト殿下に捨てられ、家族からも厄介者扱いされ、自分の存在価値を見失いかけていた私にとって、それはまるで乾いた大地に降り注ぐ恵みの雨のようだった。
「だから、貴女が婚約を破棄されたと聞き、私はすぐに行動を起こした。これは、貴女にとっても、私にとっても、そしてガルディア王国にとっても、最善の縁談だと確信している」
そこまで言い切る公爵の黒い瞳には、揺るぎない自信と、有無を言わせぬような強い意志が宿っていた。
混乱していた頭が、少しずつ整理されていく。つまり、この縁談は、レオンハルト殿下の当てつけでも、何かの間違いでもなく、このライオネル公爵が、私の『才能』を見込んで申し込んできた、ということなのだ。
(私の……才能……?)
そんな大げさなものを持っているとは思えない。ただ、私は、困っている人々のために、国のために、自分にできることを精一杯やってきただけだ。それが、こんな形で評価されるなんて、夢にも思わなかった。
喜び、という単純な感情だけではなかった。驚き、戸惑い、そしてほんの少しの恐怖。この人の期待に応えられるのだろうか、という不安。そして、心の奥底からじわじわと湧き上がってくる、温かい何か。それは、長い間忘れかけていた、自分自身への信頼のようなものかもしれない。
「……公爵様は、私のことを、買い被っていらっしゃいます。私は、それほど大した人間ではございません」
思わず、弱気な言葉が口をついて出た。
すると、公爵は初めて、その唇の端にほんのわずかな笑みの形を浮かべた。それは、嘲笑でも、憐憫でもない、もっと別の……まるで、興味深いものを見つけた子供のような、そんな純粋な好奇心にも似た表情だった。
「そうかな? 私の目に狂いはなかったと自負しているが。……まあ、貴女が自分の価値をどう評価するかは自由だ。だが、これだけは言っておこう。貴女の才能は、このヴァルテンベルクでこそ、存分に開花するだろう。私は、そのための環境を提供するつもりだ」
その言葉には、有無を言わせぬ力があった。彼は本気で、私に何かを期待しているのだ。そして、その期待は、私がこれまで受けてきたどんな評価よりも、ずっと具体的で、真剣なもののように感じられた。
まだ、心の整理はつかない。この人を完全に信じられるわけでもない。けれど、少なくとも、この縁談は私にとって、決して悪いものではないのかもしれない。そう思い始めた。
レオンハルト殿下に捨てられた時、私の人生は終わったのだと思った。けれど、もしかしたら、それは新しい始まりだったのかもしれない。この、冷たい美貌の奥に計り知れない深淵を隠したような公爵と共に歩む、未知の人生の――。
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