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序章
第2話 魔力が枯渇した令嬢
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『初級魔術理論』『魔力回路の形成について』『魔力枯渇症への対処法』……。
どれもこれも、魔法に関する専門書ばかりだ。
まるで、何かに取り憑かれた者が知識を貪った後のような惨状。
これは……魔法の暴発、いや、魔力切れか?
私の経験が、即座に身体の不調の原因を弾き出す。
私が状況を把握しようと荒い呼吸を整えていると、ズキリ、とこめかみに鋭い痛みが走り、脳裏に他人の記憶が雪崩れ込んできた。
――グラエドン王国、辺境伯家長女、エルシア・ラーザン・アシュレイン。
年齢は六歳であり、可愛らしい幼女だ。
そうか、私は……転生したのか。
私はよろめきながら立ち上がり、近くにあった姿見の鏡を覗き込んだ。
そこに映っていたのは、汗で濡れた黒の長髪と、クマの浮いた赤い瞳。
幼いながらも整った顔立ちだが、その顔色は死人のように青白い。
記憶が定着するにつれ、この体が置かれている状況が理解できた。
この世界には魔力という概念がある。
魔法を行使するためのエンジンのようなものだ。
エルシアは、その魔力が生まれつき極端に弱く、脆かった。
魔力を練ろうとすれば、すぐにオーバーヒートを起こし、最悪の場合は命に関わる。
けれど、彼女は諦めきれなかったのだ。
辺境伯家に生まれ、周囲からの期待を感じていた。
数年後に控えた学園への入学には、実技試験が必須だ。
魔法が使えなければ、学園にも入れず、貴族としての面目が潰れる。
そして何より、彼女は家族の力になりたかった。
辺境伯領では数ヶ月前から、魔物の被害が急激に増えている。
村人が襲われ、畑や家畜が荒らされ、冬支度すら危うい状態だ。
だが、領地は宰相派の政治的な圧力を受けているため、王都からの騎士団派遣も、補助金の追加も一切行われていない。
「王妃派」であった父は、過去の政争で失脚し、その報いとして危険な辺境へ左遷されたのだ。
本来なら王家が動くべき状況であるにもかかわらず、どれだけ被害を訴えても王都は沈黙したまま。
まるで――この地がどうなろうと構わぬと言わんばかりだった。
その対応のため、父は連日、夜遅くまで馬を走らせ、母は領民を励ましながら屋敷の内政全てを支えていた。
そんな家族の背中を見て、エルシアは、魔力が弱いから何もできないという事実に、誰よりも強く胸を痛めていた。
だからこそ、幼い体で無謀な特訓を繰り返していたのだ。
こんなやり方では、死んでしまう。
散らばった魔法書を拾い上げ、私はため息をつく。
記憶の中のエルシアは泣いていた。
いくら努力しても、小さな火種ひとつ出せない自分を呪って。
隠れて特訓をして、そして――限界を超えた。
彼女の魂は絶望と共に消え、空っぽになった器に、私が入り込んだということか。
「にしても、魔力がないとはな……」
私は自分の小さな手のひらを握りしめる。
魔女と呼ばれた頃は、国を滅ぼせるほどの魔力を有していた。
それと比べれば、この体の魔力量はコップの水どころか、朝露の一滴ほどしかない。
これでは高位魔法はおろか、生活魔法すら怪しい。
あの弟子にも、復活した魔族たちにも、今のままでは手も足も出ないだろう。
「……だがまあ、それでもいい」
私は鏡の中の、疲れ切った新しい自分に向かって不敵に笑いかけた。
魔力は、天性の才能であり、努力ではあまり伸びないと言われている。
だが、それはあくまで「普通」の常識だ。
私には千年蓄えた知識がある。
魔力効率を極限まで高める術式も、微小な魔力を増幅させる回路の組み方も、外部から魔力を補填する裏技も、腐るほど知っているのだ。
「私が、この辺境伯領を救おう」
そう決意を口にした、その時だった。
ギイイイ……。
背後の重厚な扉が、遠慮がちに開く音がした。
私はビクリと肩を揺らし、視線を向ける。
扉の隙間から、私よりもさらに低い位置にある視線が、じっとこちらを覗いていた。
「おねえちゃん……だいじょうぶ?」
どれもこれも、魔法に関する専門書ばかりだ。
まるで、何かに取り憑かれた者が知識を貪った後のような惨状。
これは……魔法の暴発、いや、魔力切れか?
私の経験が、即座に身体の不調の原因を弾き出す。
私が状況を把握しようと荒い呼吸を整えていると、ズキリ、とこめかみに鋭い痛みが走り、脳裏に他人の記憶が雪崩れ込んできた。
――グラエドン王国、辺境伯家長女、エルシア・ラーザン・アシュレイン。
年齢は六歳であり、可愛らしい幼女だ。
そうか、私は……転生したのか。
私はよろめきながら立ち上がり、近くにあった姿見の鏡を覗き込んだ。
そこに映っていたのは、汗で濡れた黒の長髪と、クマの浮いた赤い瞳。
幼いながらも整った顔立ちだが、その顔色は死人のように青白い。
記憶が定着するにつれ、この体が置かれている状況が理解できた。
この世界には魔力という概念がある。
魔法を行使するためのエンジンのようなものだ。
エルシアは、その魔力が生まれつき極端に弱く、脆かった。
魔力を練ろうとすれば、すぐにオーバーヒートを起こし、最悪の場合は命に関わる。
けれど、彼女は諦めきれなかったのだ。
辺境伯家に生まれ、周囲からの期待を感じていた。
数年後に控えた学園への入学には、実技試験が必須だ。
魔法が使えなければ、学園にも入れず、貴族としての面目が潰れる。
そして何より、彼女は家族の力になりたかった。
辺境伯領では数ヶ月前から、魔物の被害が急激に増えている。
村人が襲われ、畑や家畜が荒らされ、冬支度すら危うい状態だ。
だが、領地は宰相派の政治的な圧力を受けているため、王都からの騎士団派遣も、補助金の追加も一切行われていない。
「王妃派」であった父は、過去の政争で失脚し、その報いとして危険な辺境へ左遷されたのだ。
本来なら王家が動くべき状況であるにもかかわらず、どれだけ被害を訴えても王都は沈黙したまま。
まるで――この地がどうなろうと構わぬと言わんばかりだった。
その対応のため、父は連日、夜遅くまで馬を走らせ、母は領民を励ましながら屋敷の内政全てを支えていた。
そんな家族の背中を見て、エルシアは、魔力が弱いから何もできないという事実に、誰よりも強く胸を痛めていた。
だからこそ、幼い体で無謀な特訓を繰り返していたのだ。
こんなやり方では、死んでしまう。
散らばった魔法書を拾い上げ、私はため息をつく。
記憶の中のエルシアは泣いていた。
いくら努力しても、小さな火種ひとつ出せない自分を呪って。
隠れて特訓をして、そして――限界を超えた。
彼女の魂は絶望と共に消え、空っぽになった器に、私が入り込んだということか。
「にしても、魔力がないとはな……」
私は自分の小さな手のひらを握りしめる。
魔女と呼ばれた頃は、国を滅ぼせるほどの魔力を有していた。
それと比べれば、この体の魔力量はコップの水どころか、朝露の一滴ほどしかない。
これでは高位魔法はおろか、生活魔法すら怪しい。
あの弟子にも、復活した魔族たちにも、今のままでは手も足も出ないだろう。
「……だがまあ、それでもいい」
私は鏡の中の、疲れ切った新しい自分に向かって不敵に笑いかけた。
魔力は、天性の才能であり、努力ではあまり伸びないと言われている。
だが、それはあくまで「普通」の常識だ。
私には千年蓄えた知識がある。
魔力効率を極限まで高める術式も、微小な魔力を増幅させる回路の組み方も、外部から魔力を補填する裏技も、腐るほど知っているのだ。
「私が、この辺境伯領を救おう」
そう決意を口にした、その時だった。
ギイイイ……。
背後の重厚な扉が、遠慮がちに開く音がした。
私はビクリと肩を揺らし、視線を向ける。
扉の隙間から、私よりもさらに低い位置にある視線が、じっとこちらを覗いていた。
「おねえちゃん……だいじょうぶ?」
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