ひとりぼっちの千年魔女、転生したら落ちこぼれ令嬢だったので、家族を守るために魔法を極めます! 〜新たな家族ともふもふに愛されました!〜

空月そらら

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序章

第19話 戦熊ベアロス、炎に沈む

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 斧と接触する直前、熱弾が直角に軌道を変え、刃をスルリと迂回したのだ。

 まるで生き物のように死角へと回り込み、無防備な脇腹へと殺到する。

 ジュッ!!

「グオオオッ!!?」

 命中。

 高熱の弾丸がベアロスの脇腹を焼き、焦げ臭い煙を上げた。

 ベアロスはたまらず後退し、焼けた患部を手で押さえる。

「い、ってぇ……! テメェ、今、魔法を曲げやがったな!? 卑怯だぞ!」

「戦いに卑怯も何もないわ。学習不足ね、自称・幹部候補さん」

 私は挑発的に言い放ったが、内心では冷や汗をかいていた。

 ハァ、ハァ……。

 息が上がる。

 今の「軌道変更」は、通常の魔法の三倍の集中力と魔力制御を使う。

 たった一発。それだけで、額から脂汗が流れ落ちていた。

 ベアロスが、その醜悪な顔を歪めながら私を睨みつける。

 そして、ニタリと下卑た笑みを浮かべた。

「……なんだぁ、おい。威勢がいい割には、もうバテてんじゃねぇか?」

「っ……」

「額からすげぇ汗だぞ? 顔色も真っ青だ。ハハァ、さてはテメェ、魔法の使い方は上手いが、その魔力自体は空っぽ寸前の欠陥品だな?」

 見抜かれた。

 野生の勘というやつか、それとも戦闘経験の差か。

 図星を突かれ、私は唇を噛む。

「ガス欠寸前の雑魚が、無理して強がってんじゃねぇぞ! 一気にすり潰してやる!」

 ベアロスの雰囲気が変わった。

 遊びは終わりだと言わんばかりに、全身から赤いオーラのような闘気を立ち昇らせる。

 本格的な戦闘開始だ。

「死ねぇッ!!」

 ベアロスが突進してくる。

 今度は単発攻撃ではない。

 横薙ぎ、縦斬り、突き。巨大な斧をまるで小枝のように振り回し、怒涛の連撃を繰り出してくる。

 ブンッ! ゴオッ!

 風圧だけで体が切れそうだ。

 私は必死に風魔法を使用し、回避行動を繰り返す。

 防戦一方じゃジリ貧……!

 でも、無駄弾を撃つ余裕はない。

 確実な一撃を当てるには、相手の動きを誘導し、隙を作るしかない。

 私は残りの魔力を計算する。

 あと二発。いや、工夫すれば三発はいけるか?

 私は再び右手に魔力を込めた。

 今度は「弾丸」ではない。

 持続性と操作性を重視した形状変化だ。

「我が指先に宿りしは、紅蓮の蛇!《ヒート・サーペント》」

 指先から炎が伸びる。

 それは鞭のようにしなり、鎌首をもたげた蛇の形を成した。

  一度放てば終わりの弾丸と違い、魔力を細く供給し続けることで、私の意志通りに動き回る自律兵器だ。

 これなら、魔力消費を最低限に抑えつつ、継続戦闘ができる。

「また小賢しい手品かぁ!」

 ベアロスが斧を振り下ろす。

 私は指先を指揮者のように振るった。

 シュルルッ!

 炎の蛇が空中で身をくねらせ、斧の一撃を回避する。

 そしてそのままベアロスの腕に絡みつこうと殺到する。

「うおっ! チョロチョロと!」 

「食らいつきなさい!」

 私が指を握り込むと、炎で象られた蛇が、ベアロスの顔面めがけて噛みつく仕草を見せた。
 
 不意を突かれたベアロスは、慌てて顔を背け、反射的に腕でそれを払おうとする。

 ――そこだ。

 視界が塞がれ、体勢が完全に崩れた、その一瞬。
 
 私は残った魔力を、迷いなく両手へと集束させた。

 熱が、地面の奥から応える。
 
 私は短く、しかし確かな言葉を紡ぐ。

「――陽炎よ、応えよ。地に眠る熱、道を拓け」

 両掌に、灼ける気配が宿る。

「――《アル・イグニス》」


 詠唱が結ばれた瞬間、ベアロスの足元から灼熱の奔流が一気に噴き上がった。

 炎は柱のように立ち上がり、周囲の空気ごと巻き込みながら、逃げ場を与えず燃え広がる。

「て、でめえッ……な、なにを……」

 言葉は途中で途切れ、次の瞬間、ベアロスの身体は力なく地面へと崩れ落ちた。

 森を揺らす重い地響き。
 
 それを最後に、嘆きの森の自称・幹部候補は沈黙する。

 「な、なんとか成功した……」

 前世では、遊びで扱っていた火魔法《アル・イグニス》。
 
 この身体で使えるかは賭けだったが、どうやら問題はなかったようだ。

 私用に再構築した魔法を使い始めてから、魔力を無駄に垂れ流すことなく、自然に制御できている。

「はぁ……はぁ……っ……」
 
 だが、勝利の余韻に浸る余裕などなかった。

 私はその場に膝をつき、泥の中に手をついた。

 視界がぐるぐると回る。

 魔力欠乏による激しい頭痛と吐き気。

 指先が痺れて感覚がない。

 本当に危なかった。

 あと一秒、判断が遅れていたら潰されていたのは私の方だ。

 私は震える足に喝を入れ、どうにか立ち上がった。

 そして、岩陰へとおぼつかない足取りで向かう。

 そこには、戦いの成り行きを固唾を呑んで見守っていた、小さな黒い影があった。
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