ひとりぼっちの千年魔女、転生したら落ちこぼれ令嬢だったので、家族を守るために魔法を極めます! 〜新たな家族ともふもふに愛されました!〜

空月そらら

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序章

第35話 新たな地響き

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クロから魔力は供給されている。

 けれど、私の肉体そのものに蓄積された疲労までは回復していないのだ。

 連続の治療行為で、私の神経は焼き切れる寸前だった。

「お嬢様は下がってください! ここは俺たちが!」 

「そうっすよ! ボスは後ろでふんぞり返っててください!」

 クライブが背中越しに叫ぶ。

 彼の背中から、いつもの「サボり魔」の雰囲気は消えていた。

 剣を構える重心は低く、全身から鋭い闘気が立ち昇っている。

「……分かったわ」

 私は歯噛みしながらも、一歩下がった。

 今の私が無理に出て倒れれば、それこそ全滅の引き金になる。

 私は集会所の入り口、震える子供たちの前に立ち、最後の砦となる覚悟を決めた。

「グガアアッ!」

 オークが棍棒を振り上げ、突進してきた。

 速い。巨体に似合わぬスピードだ。

 騎士の一人が盾を構える。

「止まれぇぇッ!」

「無理だ、避けろ!」

 ドゴォォッ!!

 棍棒が盾を直撃する。

 金属がひしゃげる嫌な音と共に、騎士がボールのように吹き飛ばされた。

 圧倒的な質量差。まともに受ければ粉砕される。

 オークは止まらない。

 そのまま、無防備になった別の騎士へと棍棒を振り下ろす。

「――遅いっすよ」

 ヒュンッ。

 風を切る音がしたかと思うと、オークの棍棒を持った手首から、鮮血が噴き出した。

「グギッ!?」

 クライブだ。

 彼はいつの間にかオークの懐に潜り込み、神速の斬撃を見舞っていたのだ。

 「硬ぇな……! 鋼鉄かよ、この皮膚!」

 クライブは舌打ちしながら、バックステップで距離を取る。

 オークの皮膚は分厚い脂肪と筋肉、そして魔力で強化されており、並の剣では傷一つつかない。

 だが、クライブの一撃は確実に肉を裂いていた。

 私は目を見開いた。

 あいつ、ただのサボり魔じゃなかった。

 あの剣速、そして的確に腱を狙う技術。

 父にも匹敵するかもしれない手練れだ。

「オラオラ! こっちだデカブツ!」

 クライブは挑発しながら、オークを翻弄する。

 彼なら、勝てるかもしれない。

 そう希望を持った矢先だった。

 ドスッ、ドスッ、ドスッ……。

 新たな地響き。

 壊されたバリケードの向こうから、もう一体の巨大な影が現れた。

 「……嘘でしょ」

 二体目のオークだ。

 しかも、一体目よりもさらに一回り大きく、手には巨大な戦斧を持っている。

「チッ! 増援かよ!」

 クライブが焦りの声を上げる。

 彼は今、手負いの一体目を抑えるので手一杯だ。

 二体同時に相手をする余裕はない。

 二体目のオークは、クライブを無視して、真っ直ぐに私たちがいる集会所へと視線を向けた。

 その濁った瞳が、獲物を見つけた喜びに歪む。

「ウガアアアッ!」

 雄叫びを上げ、二体目が突進を開始した。

 狙いは、私の後ろにいる子供たちだ。

「きゃああああ!」 

「おかあちゃーん!」

 子供たちが泣き叫ぶ。

 動ける騎士はもういない。

 クライブも遠すぎる。

 このままでは、蹂躙される。

 私の脳内で、何かがカチリと音を立てて切り替わった。

 疲労? 関係ない。

 危険は、承知の上だ。

 私は震える足を叱咤し、一歩、前へ踏み出した。

「お嬢様!? ダメだ!」

 遠くでクライブが叫ぶ。

 負傷した騎士が、私のドレスの裾を掴んで止めようとする。

「お逃げください……っ!」
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