ひとりぼっちの千年魔女、転生したら落ちこぼれ令嬢だったので、家族を守るために魔法を極めます! 〜新たな家族ともふもふに愛されました!〜

空月そらら

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序章

第34話 放たれる淡い光

「巡れ、癒えよ。命の灯火を再び燃やせ」

 私の指先から放たれる淡い光が、次々と傷ついた人々を包み込んでいく。

 クロから供給される魔力は、まるで尽きることのない大河のようだ。

 私はその奔流を精密に制御し、織物を織るように人々の傷を修復していく。

「お、お嬢様……また傷が塞がった……」

「信じられん……あの深手が、一瞬で……」

 クライブが、そして手伝ってくれている村人たちが、目を白黒させながら私を見つめている。

 当然だろう。数十人の重傷者を、たった一人の幼女が、休憩もなしに連続で完治させているのだ。

 常識で考えれば、魔力欠乏で私がミイラになっていてもおかしくない状況。

「……ふぅ。これで、峠は越えたわね」

 最後の一人、腕を骨折していた自警団の青年の治療を終え、私は額の汗を拭った。

 集会所の中には、安堵の空気が満ちていた。

 死の淵にいた人々が、顔色を取り戻し、家族と抱き合って涙を流している。

「ありがとうございます、お嬢様!」

「命の恩人です!」

「アシュレイン家万歳! エルシア様万歳!」

 誰かが声を上げると、それは瞬く間に歓声となって広がった。

 村人たちが私を取り囲み、拝むように感謝を伝えてくる。

 その温かい眼差しに、私の口元も自然と綻んだ。
 
 前世では味わえなかった、「感謝」という報酬。

 それがこんなにも心を豊かにしてくれるなんて。

 私はクロの頭を撫でながら、微笑みを返そうとした。

 ――その時だった。

 ズドオオオオオオオオンッ!!!

 集会所の堅牢な石壁さえも震わせる、凄まじい轟音が響き渡った。

 歓声が一瞬で悲鳴に変わる。

 地面が大きく揺れ、天井からパラパラと砂埃が落ちてくる。

「な、なんだ!?」 

「地震か!?」

 クライブが即座に剣を抜き、入り口へと走る。

 私もその後を追って、集会所の外へと出た。

 そして、その光景に息を呑んだ。

 村の入り口に築かれていた、荷車や木材によるバリケード。

 それが、粉々に粉砕され、宙を舞っていたのだ。

 舞い上がる土煙の向こうから、重厚な足音と共に姿を現したのは――悪夢の具現化だった。

「グオオオオオオオオッ!!」

 咆哮が大気をビリビリと震わせる。

 身長三メートルを超える、緑色の皮膚をした巨体。

 筋肉の塊のような腕には、巨木を削り出した棍棒が握られている。

 豚のような鼻を鳴らし、口からは鋭い牙が突き出している。

 オーク。

 腕力も高い魔物だ。

「バ、バリケードが突破されたぞー!!」

「嘘だろ!? 騎士様たちは何をしているんだ!」

 村人たちがパニックに陥り、逃げ惑う。

 だが、逃げ場などない。

 ここは村の最終防衛ラインなのだ。

 父は……!?

 私は視線を巡らせた。

 遠く、村の外縁部では、激しい剣戟の音と魔物の咆哮が続いている。

 どうやら父ローウェン率いる本隊は、敵の主力部隊に足止めされ、釘付けにされているようだ。

 その隙を突いて、別働隊であるこのオークが防衛線を突破してきたのだ。

 こちらの戦力が手薄になった瞬間を、的確に狙ってきている。

「お嬢様、下がって!」

 クライブが私の前に立ち塞がった。

 集会所の前には、まだ治療が終わったばかりで動けない騎士たちが数名、剣を杖代わりにして立ち上がろうとしている。

「くそっ、子供や老人を殺させるか!」

「俺たちが盾になる! その間に逃げろ!」

 満身創痍の騎士たちが、震える足で前に出る。

 彼らの傷は塞がったとはいえ、失った血液や体力までは戻っていない。

 あんな状態でオークの一撃を受ければ、間違いなく即死だ。

「ダメよ! あなた達じゃ無理だわ!」

 私は叫び、前に出ようとした。

 だが、ガクリと膝が折れそうになる。

 体が、重い。
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