ひとりぼっちの千年魔女、転生したら落ちこぼれ令嬢だったので、家族を守るために魔法を極めます! 〜新たな家族ともふもふに愛されました!〜

空月そらら

文字の大きさ
50 / 63
序章

第50話 偽りの癒やし、本物の嘆き

しおりを挟む
色は、どす黒く濁った深緑色。

 瓶の底には、何やら泥のような沈殿物が溜まっている。

 蓋の隙間からは、薬草特有の清涼感など微塵もない、

 焦げ臭いような、腐葉土のような異臭が漏れ出していた。

 これを……飲ませているの? これを傷口にかけているの?

 私の前世の知識――魔女としての知識が、警鐘を鳴らしまくっている。

 ポーションというのは本来、薬草の持つ有効成分を液体という媒体に転写・固定化させたものだ。

 適切な手順で作られたポーションは、澄んだエメラルドグリーンか、あるいは淡い青色をしている。

 光にかざせば透き通って輝くものなのだ。

 だが、ここにあるのは「薬草の煮汁」だ。

 しかも、煮込みすぎて成分が変質し、灰汁も不純物も全部一緒くたになっている。

 これでは治癒効果は期待できないどころか、最悪の場合、不純物が原因で中毒症状を起こしたり、傷口を悪化させたりしかねない。

 私は衝撃を隠しつつ、背伸びをして一番端の瓶を指差した。

「ねえ、ハンク先生。これ、なあに?」

 私の問いかけに、ハンク医師が重い足取りで近づいてきた。

「ああ、それはポーションですよ。傷を治す薬です」

「……なんか、色が汚いね。泥んこ遊びの水みたい」

 私は子供特有の残酷な素直さを装って言った。

 アミナが「お嬢様、そのようなことは!」と慌てて嗜めるが、ハンク医師は怒らなかった。

 むしろ、深く、深くため息をついたのだ。

 その肩が、ガクリと落ちる。

「……おっしゃる通りです、お嬢様。これは、ひどい代物だ」

 彼は自嘲気味に笑った。

「本来のポーションは、もっと澄んだ色をしていると聞いています。王都の錬金術師が作るような高級品は、キラキラと輝いているとも」

「じゃあ、なんでこれは泥んこなの?」

「……ないんですよ」

 ハンク医師は、瓶を一本手に取り、悔しそうに見つめた。

「材料が、圧倒的に足りないんです。本来なら『ヒールグラス』の葉だけを使い、綺麗な湧き水で時間をかけて抽出しなきゃならん。だが、この辺りの森は魔物のせいで荒らされ、良質な薬草は手に入りにくくなった」

 彼は瓶を振った。

 中の濁った液体がちゃぷんと揺れる。

「それに、私たちには技術がない。見様見真似で、書物の端っこに書いてあるようなやり方を真似るしかないんです。茎も根も一緒くたに煮込んで、少しでも量をごまかすしかない……」

 それが、辺境の現実だった。

 錬金術師などという高度な職人は、こんな田舎にはいない。

 ポーションギルドから買い付けるには、予算も輸送手段も限られている。

 だから、現地調達でなんとかするしかないのだが、その結果がこれだ。

「これでも……ないよりはマシなんです。痛みに苦しむあいつらに、気休めでも何かしてやりたい。たとえ泥水みたいな薬でも、飲めば少しは痛みが引く……そう信じさせてやるしかないんです」

 ハンク医師の声は震えていた。

 それは、患者を救えない無力感と、医師としての矜持がぶつかり合った、悲痛な叫びだった。

 彼は拳を握りしめ、棚に拳を押し当てた。

「材料も不足しているし、製法も……我々にはこれが限界だ」

 その言葉は、重く、暗く、診療所の床に落ちた。

 周りの看護をしている女性たちも、俯いてしまっている。

 アミナも、かける言葉が見つからないようで、沈痛な面持ちで口を結んでいた。

 限界。

 そう、今の彼らの知識と環境では、これが限界なのだ。

 誰も悪くない。

 悪いのは、知識が断絶されているこの世界の歪な構造と、理不尽な魔物の脅威だ。

 私はハンク医師の嘆きを聞きながら、心の中で静かに炎を燃やしていた。

 クロが私の足元で、心配そうに見上げている。

 私はクロの頭をそっと撫でながら、改めてその濁ったポーションを見据えた。
 
 この老医師の嘆きは、希望に変わるだろうか。

 いや、変えなければならない。
 
 かつて「深森の魔女」と呼ばれた、私の知識だけだ。
しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

転生能無し少女のゆるっとチートな異世界交流

犬社護
ファンタジー
10歳の祝福の儀で、イリア・ランスロット伯爵令嬢は、神様からギフトを貰えなかった。その日以降、家族から【能無し・役立たず】と罵られる日々が続くも、彼女はめげることなく、3年間懸命に努力し続ける。 しかし、13歳の誕生日を迎えても、取得魔法は1個、スキルに至ってはゼロという始末。 遂に我慢の限界を超えた家族から、王都追放処分を受けてしまう。 彼女は悲しみに暮れるも一念発起し、家族から最後の餞別として貰ったお金を使い、隣国行きの列車に乗るも、今度は山間部での落雷による脱線事故が起きてしまい、その衝撃で車外へ放り出され、列車もろとも崖下へと転落していく。 転落中、彼女は前世日本人-七瀬彩奈で、12歳で水難事故に巻き込まれ死んでしまったことを思い出し、現世13歳までの記憶が走馬灯として駆け巡りながら、絶望の淵に達したところで気絶してしまう。 そんな窮地のところをランクS冒険者ベイツに助けられると、神様からギフト《異世界交流》とスキル《アニマルセラピー》を貰っていることに気づかされ、そこから神鳥ルウリと知り合い、日本の家族とも交流できたことで、人生の転機を迎えることとなる。 人は、娯楽で癒されます。 動物や従魔たちには、何もありません。 私が異世界にいる家族と交流して、動物や従魔たちに癒しを与えましょう!

不倫されて離婚した社畜OLが幼女転生して聖女になりましたが、王国が揉めてて大事にしてもらえないので好きに生きます

天田れおぽん
ファンタジー
 ブラック企業に勤める社畜OL沙羅(サラ)は、結婚したものの不倫されて離婚した。スッキリした気分で明るい未来に期待を馳せるも、公園から飛び出てきた子どもを助けたことで、弱っていた心臓が止まってしまい死亡。同情した女神が、黒髪黒目中肉中背バツイチの沙羅を、銀髪碧眼3歳児の聖女として異世界へと転生させてくれた。  ところが王国内で聖女の処遇で揉めていて、転生先は草原だった。  サラは女神がくれた山盛りてんこ盛りのスキルを使い、異世界で知り合ったモフモフたちと暮らし始める―――― ※第16話 あつまれ聖獣の森 6 が抜けていましたので2025/07/30に追加しました。

150年のりんご採取で異世界最強の大魔導士になった私は、林檎の聖女と讃えられ可愛い弟子たちと平和なスローライフを満喫します!

風戸輝斗
ファンタジー
「誰かのためにがんばれる子になりなさい」という母からの教えを忠実に守り過労死した降幡理央は、プリオリという若々しい少女となって魔法やモンスターが存在する異世界に転生する。 彼女が転移した地は「林檎の森」と呼ばれる(結界が張られているために世界からは隔絶されている)場所だった。 どれだけ採取しても底尽きることのないりんごであふれるその森で、プリオリはりんご採取の日々に明け暮れる。その間、彼女のスキルである【採取】が機能し、それによりりんごを採取するだけで経験値が入る。 そんな日々を150年繰り返し、プリオリは異世界最強の魔導士となる。 結界の存在を知らず異世界に存在する人間は自分ひとりだけだと思っていたプリオリだが、意図せず結界を壊したことで世界が拓け、人間と交流を育むようになる。 林檎の森が突如現れた謎の地であるため、そこに住んでいたプリオリは魔女だと恐れられ皇女から処刑宣告までされてしまうが、人間と魔族の争いに終止符を打つことで不信感は払拭される。そして、世界を救った林檎の聖女だと人間と魔族双方から讃えられるようになる。林檎の森の聖女様だから、林檎の聖女である。 こうしてはじまる林檎の聖女となったプリオリの新たなスローライフ。 ダンジョンの奥底で助けた謎の金色もふもふペットメープルとふたりで過ごす日常に、盗みたくないけど盗みを繰り返していた13歳の少女モカモカが弟子として加わり、魔族王妃の娘であり人類滅亡を悲願とする13歳の少女ギルティアも弟子として加わって……。 これは、異世界最強の魔導士である林檎の聖女様がスローライフを満喫しようとする物語。 あるいは、お師匠様として、お母さんとして、ふたりの少女を幸せに導こうと奮闘する物語。 ※「小説家になろう」「カクヨム」様にもマルチ投稿しています。

幼女はリペア(修復魔法)で無双……しない

しろこねこ
ファンタジー
田舎の小さな村・セデル村に生まれた貧乏貴族のリナ5歳はある日魔法にめざめる。それは貧乏村にとって最強の魔法、リペア、修復の魔法だった。ちょっと説明がつかないでたらめチートな魔法でリナは覇王を目指……さない。だって平凡が1番だもん。騙され上手な父ヘンリーと脳筋な兄カイル、スーパー執事のゴフじいさんと乙女なおかんマール婆さんとの平和で凹凸な日々の話。

異世界転生旅日記〜生活魔法は無限大!〜

一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
☆1/19〜1/27まで、予約投稿を1話ずつ行います。 農家の四男に転生したルイ。   そんなルイは、五歳の高熱を出した闘病中に、前世の記憶を思い出し、ステータスを見れることに気付き、自分の能力を自覚した。  農家の四男には未来はないと、家族に隠れて金策を開始する。  十歳の時に行われたスキル鑑定の儀で、スキル【生活魔法 Lv.∞】と【鑑定 Lv.3】を授かったが、親父に「家の役には立たない」と、家を追い出される。   家を追い出されるきっかけとなった【生活魔法】だが、転生あるある?の思わぬ展開を迎えることになる。   ルイの安寧の地を求めた旅が、今始まる! 見切り発車。不定期更新。 カクヨム(吉野 ひな)にて、先行投稿しています。

元公爵令嬢は年下騎士たちに「用済みのおばさん」と捨てられる 〜今更戻ってこいと泣きつかれても献身的な美少年に溺愛されているのでもう遅いです〜

日々埋没。
ファンタジー
​「新しい従者を雇うことにした。おばさんはもう用済みだ。今すぐ消えてくれ」  ​かつて婚約破棄され、実家を追放された元公爵令嬢のレアーヌ。  その身分を隠し、年下の冒険者たちの身の回りを世話する『メイド』として献身的に尽くしてきた彼女に突きつけられたのは、あまりに非情な追放宣告だった。  ​レアーヌがこれまで教育し、支えてきた若い男たちは、新しく現れた他人の物を欲しがり子悪魔メイドに骨抜きにされ、彼女を「加齢臭のする汚いおばさん」と蔑み、笑いながら追い出したのだ。 ​ 地位も、居場所も、信じていた絆も……すべてを失い、絶望する彼女の前に現れたのは、一人の美少年だった。 ​「僕とパーティーを組んでくれませんか? 貴方が必要なんです」  ​新米ながら将来の可能性を感じさせる彼は、レアーヌを「おばさん」ではなく「一人の女性」として、甘く狂おしく溺愛し始める。  一方でレアーヌという『真の支柱』を失った元パーティーは、自分たちがどれほど愚かな選択をしたかを知る由もなかった。  ​やがて彼らが地獄の淵で「戻ってきてくれ」と泣きついてきても、もう遅い。  レアーヌの隣には、彼女を離さないと誓った執着愛の化身が微笑んでいるのだから。

異世界で目覚めたら、もふもふ騎士団に保護されてました ~ちびっ子だけど、獣人たちの平穏のためお世話係がんばります!!~

ありぽん
ファンタジー
神のミスで命を落とした芽依は、お詫びとして大好きな異世界へ転生させてもらえることに。だが転生の際、またしても神のミスで、森の奥地に幼女の姿で送られてしまい。転生の反動で眠っていた瞳は、気づかないうちに魔獣たちに囲まれてしまう。 しかしそんな危機的状況の中、森を巡回していた、獣人だけで構成された獣騎士団が駆け付けてくれ、芽依はどうにかこの窮地を切り抜けることができたのだった。 やがて目を覚ました芽依は、初めは混乱したものの、すぐに現状を受け入れ。またその後、同じ種族の人間側で保護する案も出たが、ある事情により、芽依はそのまま獣騎士団の宿舎で暮らすことに。 そこで芽依は、助けてくれた獣騎士たちに恩を返すため、そして日々厳しい任務に向かう獣人たちが少しでも平穏に過ごせるようにと、お世話係を買って出る。 そんな芽依に、当初は不安だった獣人たちだったが、元気で明るい瞳の存在は、次第に獣人たちの力となっていくのだった。 これはちびっ子転生者の芽依が、獣人や魔獣たちのために奮闘し、癒しとなっていく。そんな、ほっこりまったり? な物語。

おせっかい転生幼女の異世界すろーらいふ!

はなッぱち
ファンタジー
赤ん坊から始める異世界転生。 目指すはロマンス、立ち塞がるのは現実と常識。 難しく考えるのはやめにしよう。 まずは…………掃除だ。

処理中です...