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序章
第62話 小さな騎士との約束
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窓を開けると、ひんやりとした風が頬を撫でた。
アシュレイン領の森は、いつの間にか燃えるような赤や黄色に染まり、冬の足音がすぐそこまで近づいていることを告げている。
秋。
収穫の季節であり、そして別れの季節でもある。
私は窓枠に肘をつき、慣れ親しんだ中庭を見下ろした。
いつものように庭師が落ち葉を掃き、遠くの練兵場からは騎士たちの掛け声が聞こえる。
何も変わらない、平和な日常。
けれど、私にとっては今日が、この日常とのしばしの別れの日となる。
「……いよいよ、か」
七歳になった私は、今日、王都へと旅立つ。
魔導学園の入学試験を受けるために。
そして、かつて私を殺した「弟子」と、その背後に蠢く魔王軍の影を追うために。
感慨に耽ろうとした、その時だった。
「お嬢様ぁぁぁーーっ!!」
背後から、悲鳴のような、あるいは絶叫のような声が響き渡った。
バタン! と扉が勢いよく開く。
振り返ると、そこには山のような荷物を抱えたアミナが立っていた。
いや、正確には荷物の山からアミナの顔が辛うじて見えている状態だ。
「ア、アミナ? 何それ?」
「何って、お嬢様のお荷物ですよ! さあ、まだ確認が終わっていません! 最終チェックです!」
アミナはドサドサとベッドの上に荷物を広げ始めた。
トランクケースが三つ。さらに大きな木箱が二つ。
どう見ても、入試へ行くだけの荷物量ではない。
夜逃げか、あるいは民族大移動のレベルだ。
「ちょっと待って、多すぎない? 私、馬車に乗るんだよね? 引っ越し業者を呼んだ覚えはないんだけど」
「何を悠長なことを! 王都は遠いのですよ? 何があるかわかりません!」
アミナは鬼気迫る形相でリストを読み上げ始めた。
「まず、お洋服! 王都の流行に遅れないように、よそ行き用を十着! 普段着を二十着! それから寝間着はシルクの肌触りの良いものを七枚!」
「そんなに着ないよ! 体は一つしかないの!」
「いいえ、必要です! 汚れたらどうするんですか!」
私は顔を真っ赤にして抗議した。
フリルがついた可愛らしい下着を振り回さないでほしい。
クロが「なんだなんだ」と興味津々に近づいてくる。
「備えあれば憂いなしです! それからハンカチ! 涙を拭く用、汗を拭く用、食事用、誰かに貸してあげる用……全部で五十枚!」
「業者か私は!」
アミナの過保護は今に始まったことではないが、今日は輪をかけて酷い。
彼女の目尻にはうっすらと涙が浮かんでいた。
ああ、そうか。
彼女は寂しいのだ。
私が生まれてからずっと、母代わりのように世話を焼いてくれたアミナ。
彼女にとって、私が親元を離れることは、自分の子供を送り出すような辛さがあるのだろう。
私はため息をつくのをやめ、苦笑して彼女の手を取った。
「アミナ、ありがとう。気持ちは嬉しいけど、本当に必要なものだけでいいよ。……ていうか、すぐ帰ってくるんだけどね」
「お嬢様……」
アミナは鼻をすすり、大きな瞳からポロリと涙をこぼした。
「大きくなりましたね……。あんなに小さかったお嬢様が、お一人で王都へ……ううっ、心配ですぅ……!」
「一人じゃないよ。クロもいるし、クライブもいるし」
私はアミナの背中をポンポンと叩いて慰めた。
◇ ◇ ◇
荷造りが終わり、一階のホールへ降りると、そこにはデイルが待っていた。
「おねーちゃん……」
お気に入りのクマのぬいぐるみを胸に抱きしめ、柱の陰から潤んだ瞳でこちらを見ていた。
その瞳は既に決壊寸前で、鼻の頭は真っ赤になっている。
「デイル」
私が名前を呼んでしゃがみ込むと、デイルはタタタッと駆け寄ってきて、私の首に思いっきりしがみついた。
「いやだぁ! おねーちゃん、いかないでぇ……!」
わっと泣き出すデイル。
その小さな体の温もりが、私の胸を締め付ける。
私が本を読んでいる時は静かに隣でお絵かきをし、私が魔法を使う時は誰よりも目を輝かせて拍手してくれた。
世界一可愛い弟だ。
「ごめんね、デイル。でも、すぐには帰れないの」
「やだぁ……ぼくもいくぅ……! おねーちゃんといっしょがいい……!」
アシュレイン領の森は、いつの間にか燃えるような赤や黄色に染まり、冬の足音がすぐそこまで近づいていることを告げている。
秋。
収穫の季節であり、そして別れの季節でもある。
私は窓枠に肘をつき、慣れ親しんだ中庭を見下ろした。
いつものように庭師が落ち葉を掃き、遠くの練兵場からは騎士たちの掛け声が聞こえる。
何も変わらない、平和な日常。
けれど、私にとっては今日が、この日常とのしばしの別れの日となる。
「……いよいよ、か」
七歳になった私は、今日、王都へと旅立つ。
魔導学園の入学試験を受けるために。
そして、かつて私を殺した「弟子」と、その背後に蠢く魔王軍の影を追うために。
感慨に耽ろうとした、その時だった。
「お嬢様ぁぁぁーーっ!!」
背後から、悲鳴のような、あるいは絶叫のような声が響き渡った。
バタン! と扉が勢いよく開く。
振り返ると、そこには山のような荷物を抱えたアミナが立っていた。
いや、正確には荷物の山からアミナの顔が辛うじて見えている状態だ。
「ア、アミナ? 何それ?」
「何って、お嬢様のお荷物ですよ! さあ、まだ確認が終わっていません! 最終チェックです!」
アミナはドサドサとベッドの上に荷物を広げ始めた。
トランクケースが三つ。さらに大きな木箱が二つ。
どう見ても、入試へ行くだけの荷物量ではない。
夜逃げか、あるいは民族大移動のレベルだ。
「ちょっと待って、多すぎない? 私、馬車に乗るんだよね? 引っ越し業者を呼んだ覚えはないんだけど」
「何を悠長なことを! 王都は遠いのですよ? 何があるかわかりません!」
アミナは鬼気迫る形相でリストを読み上げ始めた。
「まず、お洋服! 王都の流行に遅れないように、よそ行き用を十着! 普段着を二十着! それから寝間着はシルクの肌触りの良いものを七枚!」
「そんなに着ないよ! 体は一つしかないの!」
「いいえ、必要です! 汚れたらどうするんですか!」
私は顔を真っ赤にして抗議した。
フリルがついた可愛らしい下着を振り回さないでほしい。
クロが「なんだなんだ」と興味津々に近づいてくる。
「備えあれば憂いなしです! それからハンカチ! 涙を拭く用、汗を拭く用、食事用、誰かに貸してあげる用……全部で五十枚!」
「業者か私は!」
アミナの過保護は今に始まったことではないが、今日は輪をかけて酷い。
彼女の目尻にはうっすらと涙が浮かんでいた。
ああ、そうか。
彼女は寂しいのだ。
私が生まれてからずっと、母代わりのように世話を焼いてくれたアミナ。
彼女にとって、私が親元を離れることは、自分の子供を送り出すような辛さがあるのだろう。
私はため息をつくのをやめ、苦笑して彼女の手を取った。
「アミナ、ありがとう。気持ちは嬉しいけど、本当に必要なものだけでいいよ。……ていうか、すぐ帰ってくるんだけどね」
「お嬢様……」
アミナは鼻をすすり、大きな瞳からポロリと涙をこぼした。
「大きくなりましたね……。あんなに小さかったお嬢様が、お一人で王都へ……ううっ、心配ですぅ……!」
「一人じゃないよ。クロもいるし、クライブもいるし」
私はアミナの背中をポンポンと叩いて慰めた。
◇ ◇ ◇
荷造りが終わり、一階のホールへ降りると、そこにはデイルが待っていた。
「おねーちゃん……」
お気に入りのクマのぬいぐるみを胸に抱きしめ、柱の陰から潤んだ瞳でこちらを見ていた。
その瞳は既に決壊寸前で、鼻の頭は真っ赤になっている。
「デイル」
私が名前を呼んでしゃがみ込むと、デイルはタタタッと駆け寄ってきて、私の首に思いっきりしがみついた。
「いやだぁ! おねーちゃん、いかないでぇ……!」
わっと泣き出すデイル。
その小さな体の温もりが、私の胸を締め付ける。
私が本を読んでいる時は静かに隣でお絵かきをし、私が魔法を使う時は誰よりも目を輝かせて拍手してくれた。
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