まさか、今更婚約破棄……ですか？

エピローグ（完）

　キィ、キィ、と穏やかにロッキングチェアが揺れる。
　オリビアは暖炉の前で小さな靴下を編んでいた。時折、大きなお腹を愛おしげに撫でる。
　ミハエルと結婚して数年。オリビアは最高に幸せな日々を過ごしていた。
　靴下を編み終えたら、次はブランケットにしようかしら。と、楽しい計画を立てていると、

「失礼します。オリビア若奥様」

　部屋にエンバー家の使用人が入ってきた。　

「お手紙が届いております」

「ありがとう」

　オリビアは自分宛の封書を受け取り、裏返した。差出人の名前はない。しかし……宛先に書かれた筆跡には見覚えがあった。
　オリビアはクスリと笑って開封していない手紙を暖炉に放った。
　そして、燃え尽きるのを待つまでもなく手紙と差出人の存在を忘れて、鼻歌混じりに編み物を再開した。