鷹鷲高校執事科

三石成

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二月の章

バレンタイン -2-

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 刻んだチョコレートと無塩バターを、五〇度程度の湯煎で丁寧に溶かす。なめらかにすべてを溶かし切ると、カカオパウダーと薄力粉をふるいにかけてダマをとる。

 卵を割り、卵黄と卵白に分けると、湯煎で使った湯の近くにおいて温めておく。

 先ほどの失敗作を外した型には再度敷紙をして、ついでにオーブンを一八〇度に余熱。

「なんか、ここまで丁寧にやらなかったかも」

 白石の指導の元、素直に手を動かし続けがら水島が呟く。

「菓子づくりは普通の料理よりも繊細だって、実習で習っただろ? ほら、ここから混ぜていくぞ。スピードが大事だからな」

 ボウルに卵黄とグラニュー糖を入れて、すぐさま混ぜる。さらに溶かしたチョコレートとバター、ラム酒、ふるった薄力粉とカカオパウダーを加えながら都度、都度よく混ぜる。

 水島がそうした作業をしている間、白石は指示をしながら卵白とグラニュー糖を別のボウルに入れ、泡立て器でしっかり攪拌。ふんわりとしたメレンゲを作っておく。

 両方ともに十分に混ぜ合わせると、今度はチョコレート生地の方にメレンゲを混ぜ込んでいく。初めはひと掬いのメレンゲからはじめ、生地の様子を見ながら追加していけば、艶のある美しい生地が完成する。

「材料は同じなのに、さっきの僕が作ったのと全然違う」

「伊達に三年間、ここの厨房に立ってるわけじゃねぇからな」

 素直に感嘆する様子の水島に、白石は笑う。出来上がった生地を型に流し込み、十分に温まったオーブンに入れて、三〇分。

「完全に時間通りにやると失敗するから、少し早めに開けて、生地の焼き具合を確認しながら出した方がいい」

「中まで焼けてるかなんて見て分かるの?」

「竹串を刺してみて、何もついてこなければ大丈夫だ」

 オーブンの扉を開き、水島は白石の言うように、竹串を中央に刺す。引き抜いても竹串は綺麗なままで、水島はパッと表情を明るくした。

「できてる!」

「ああ、おめでとう。外に出して冷ますぞ。ある程度冷めたら型から外して、切り分けたら……ラッピングするつもりなのか? 明日担当ならランチなりディナーのデザートなりに出してもいいと思うが」

「一応プレゼントだから、ラッピングして朝渡すつもり。ね、それでさ」

 トートバッグからラッピングの袋やリボンを取り出して、水島は言い淀む。

「実はラッピングの袋とかはいっぱいあるから、もしよかったら、いる?」

「え、俺がもらうのか?」

「白石じゃなくて、アルバート様。甘いもの好きなんでしょ、ガトーショコラあげたら喜ぶんじゃないの。宗一郎もこんなホールで全部食べられないし、半分ずつにして……って、ほとんど白石が作ったようなもんだけど」

 なんとも歯切れの悪い言葉だが、白石にも水島の言わんとしている事は伝わった。白石は微笑み、差し出されたラッピングの資材を受け取った。

「ありがとう、じゃあそうさせてもらおうかな」

「ありがとうは、僕のセリフでしょ!」

「なんでそこで怒られなきゃならん。素直じゃねぇな、本当に」

 水島は腰に手を当てて、頬を膨らませながら言う。大変わかりにくいが、それは水島流の「ありがとう」の言葉だった。

 ガトーショコラ作りに熱中し、すでに時刻は真夜中を超えている。冷ましたガトーショコラを六等分にして、一切れごとにフィルムで包むと、三切れずつ袋とリボンで丁寧にラッピングする。

 ついでにと白石が作ったホイップクリームを別の容器に入れて添えれば、市販品にも見劣りしないものが出来上がった。

「よかった、ちゃんとできた。宗一郎、喜んでくれるかな」

 プレゼントとしてきちんと形になった袋を手に、水島は不安と期待を入り混じらせながらも笑う。何も知らずに今の彼の姿を見れば、完全に恋する少年だが、その先にはさらに根深い問題がある。

「心配ねぇよ」

 宗一郎は、他人の心情を慮って大事な決断を違えるようなタイプではない。つまりこのガトーショコラは、宗一郎が水島を指名するかどうかの決断にはなんの影響も与えないだろう。だがしかし、彼は他人の好意を無碍にするようなタイプでもない。確実に喜んではくれる。白石はそれをわかっていながら断言した。

 そしてその程度のことは、水島もまた把握しているのだ。

 水島はちらりと白石を見て、ごく小さな声で再度「ありがとう」と呟くのだった。


 翌日、水島は宗一郎へ、白石はアルバートへとバレンタインのプレゼントを手渡した。

 白石が言った通り、宗一郎は手作りということに興味を示し、アーリーモーニングティーと共に、水島の前で食べてみせながら喜んでいた。

 アルバートの方は無言のままひとしきり白石を抱きしめた後、ガトーショコラを大事そうに仕舞い込んでいた。それは、白石の作るものをいつもあっという間に胃のなかに納めてしまうアルバートにしては珍しい行為だった。

 アルバートは翌日になっても、ガトーショコラをいつまでも食べようとはしなかったのだった。
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