いつか優しく終わらせてあげるために。

イチイ アキラ

文字の大きさ
2 / 26

02

しおりを挟む

「ロベリア付きの侍女たちが?」

 侍女たちが何人か体調を崩して休んでいるという報告に、無理もないと王妃ガブリエーレもため息をついた。自分とて休みたかった。
 しかし、自分には、替えがない。

 この国の頂点たる自分には。

「……構わないわ。しっかりと休ませてあげなさい」
 実家に宿下がりも許可を出した。
 本当に、無理もない。
 彼女たちはこの数日、式の前からもずっとロベリアの側にいたのだ。
 式のあと――夜の準備から、あの騒ぎの最中も。心労どころか、本当に体調を悪くしているというのも仕方がないだろう。
 疲れからか熱を出していたものもいるらしいが、疲れからならば、うつるようなこともないから城でそのまま休むことも良いだろう。動かす方が、心配でもある。
「体調が良くなっても、しばらくは大事をとるように。手当も出してあげなさい」
 城の侍女となるような娘は、身分や後ろ盾もしっかりとしているものたちだ。
 お調べ・・・が済んでいるならば、疑うことは失礼にあたる。
 代わりの侍女やお付きを手配するよう指示をした。これもまた、身分しっかりとしたものたちを。

 ロベリアはまだ軽く監禁状態だ。
 といっても、彼女自身も憔悴して、出歩くような気分になれないのだろう。
 まぁ、ロベリアが元気だとしても何かの役にたつだろうかと、ガブリエーレは小さく嗤う。

「……こんなことなら、もう一人くらい産むのだったわ……」

 けれども。出産のあの苦しみをもう一度、というのは自分には無理だった。

 そもそも――子作り自体が。




 この国には、現在「王」はいなかった。

 王ユリアンとその正妃エリーゼは、亡くなった。
 ヨアヒムが三歳をむかえた頃に。

 けれどもヨアヒムはエリーゼの子ではない。
 ユリアンの子であることは間違いないが。

 ヨアヒムは、ユリアンとガブリエーレの子だ。

 ガブリエーレは――側妃、いや第二の王子妃であった。
 正妃エリーゼに子ができなかったことにより、ガブリエーレが城に上がることとなった。

 エリーゼには嫁いで三年、子ができなかった。
 そこで本来、正妃となるべく長く教育されていたガブリエーレが側妃となることとなったのだ。

 そう、元々ユリアンの婚約者であったガブリエーレが。

 ガブリエーレは公爵家の娘として、長年王妃となるために様々な教育がなされてきた。
 学園を卒業し、成人をむかえたら――ユリアンと結婚するはずだった。


 それを、たかが男爵家の小娘が横取りした。


 ユリアンが学園で出逢った一輪の花。

 それがエリーゼだ。

 周りの止める声をユリアンは無視をして、エリーゼを――正妃とした。
 ガブリエーレと婚約破棄をして。
 それほどまでにエリーゼには価値があるとして。

 確かに知識は高かった。
 男爵家の娘であるが、成績順で決まる教室では。高成績クラスに配されていたという。
 美しく、人を惹きつける魅力もあった。
 学園で彼女と――ユリアンのまわりはいつも笑顔であったという。

 彼らより二歳年下だったガブリエーレが学園に入学した頃には、ユリアンの心はすっかりとエリーゼのものとなり。


 もう、ガブリエーレの入り込む隙はなかった。

 ないはずだった。

 隙ができてしまったのだ――子ができなかった。
  
 ユリアンの我儘であろうに、何故か当時の王は二人の結婚を許された。

 王子に捨てられた娘という屈辱を、ガブリエーレには抱かせながら。

 ガブリエーレには多大なる慰謝料を渡されたが。
 たかが慰謝料程度で許せるものか。
 女として蔑ろにされた。
 長年、王妃となるためガブリエーレがどれほどの教育を、努力をしてきたと思っているのか。

 ――ガブリエーレの愛を、蔑ろにされた。


 ガブリエーレに協力するものは、ガブリエーレの生家なるバルグレラ公爵家の他に幾つもあった。

 今現在、ヨアヒムの後見をする家々が。


 ガブリエーレは卑怯であり――正当な手段をとった。




 ――男爵家の娘などの血筋を、王家に入れられるものか。


しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

ブスすぎて嫁の貰い手がないから閨勤侍女になれと言われたので縁を切ります、完全に!完全縁切りの先にあったのは孤独ではなくて…

ハートリオ
恋愛
ルフスは結婚が決まった従姉の閨勤侍女になるよう父親に命令されたのをきっかけに父に無視され冷遇されて来た日々を終わらせようとブラコン父と完全に縁を切る決意する。 一方、従姉の結婚相手はアルゲンテウス辺境伯とのことだが、実は手違いがあって辺境伯が結婚したいのはルフス。 そんなこんなの異世界ファンタジーラブです。 読んでいただけると嬉しいです。

今、私は幸せなの。ほっといて

青葉めいこ
ファンタジー
王族特有の色彩を持たない無能な王子をサポートするために婚約した公爵令嬢の私。初対面から王子に悪態を吐かれていたので、いつか必ず婚約を破談にすると決意していた。 卒業式のパーティーで、ある告白(告発?)をし、望み通り婚約は破談となり修道女になった。 そんな私の元に、元婚約者やら弟やらが訪ねてくる。 「今、私は幸せなの。ほっといて」 小説家になろうにも投稿しています。

拝啓 お顔もお名前も存じ上げない婚約者様

オケラ
恋愛
15歳のユアは上流貴族のお嬢様。自然とたわむれるのが大好きな女の子で、毎日山で植物を愛でている。しかし、こうして自由に過ごせるのもあと半年だけ。16歳になると正式に結婚することが決まっている。彼女には生まれた時から婚約者がいるが、まだ一度も会ったことがない。名前も知らないのは幼き日の彼女のわがままが原因で……。半年後に結婚を控える中、彼女は山の中でとある殿方と出会い……。

(完結)可愛いだけの妹がすべてを奪っていく時、最期の雨が降る(全5話)

青空一夏
恋愛
可愛いだけの妹が、全てを奪っていく時、私はその全てを余すところなく奪わせた。 妹よ・・・貴女は知らない・・・最期の雨が貴女に降ることを・・・ 暗い、シリアスなお話です。ざまぁありですが、ヒロインがするわけではありません。残酷と感じるかどうかは人によるので、わかりませんが、残酷描写シーンはありません。最期はハッピーエンドで、ほのぼのと終わります。 全5話

【完結】髪は女の命と言いますが、それよりも大事なものがある〜年下天才魔法使いの愛には応えられません〜

大森 樹
恋愛
髪は女の命。しかし、レベッカの髪は切ったら二度と伸びない。 みんなには秘密だが、レベッカの髪には魔法が宿っている。長い髪を切って、昔助けた男の子レオンが天才魔法使いとなって目の前に現れた。 「あなたを愛しています!絶対に絶対に幸せにするので、俺と結婚してください!よろしくお願いします!!」 婚約破棄されてから、一人で生きていくために真面目に魔法省の事務員として働いていたレベッカ。天才魔法使いとして入団してきた新人レオンに急に告白されるが、それを拒否する。しかし彼は全く諦める気配はない。 「レベッカさん!レベッカさん!」とまとわりつくレオンを迷惑に思いながらも、ストレートに愛を伝えてくる彼に次第に心惹かれていく…….。しかし、レベッカはレオンの気持ちに答えられないある理由があった。 年上訳あり真面目ヒロイン×年下可愛い系一途なヒーローの年の差ラブストーリーです。

貴方のいない世界では

緑谷めい
恋愛
 決して愛してはいけない男性を愛してしまった、罪深いレティシア。  その男性はレティシアの姉ポーラの婚約者だった。  ※ 全5話完結予定

酷いことをしたのはあなたの方です

風見ゆうみ
恋愛
※「謝られたって、私は高みの見物しかしませんよ?」の続編です。 あれから約1年後、私、エアリス・ノラベルはエドワード・カイジス公爵の婚約者となり、結婚も控え、幸せな生活を送っていた。 ある日、親友のビアラから、ロンバートが出所したこと、オルザベート達が軟禁していた家から引っ越す事になったという話を聞く。 聞いた時には深く考えていなかった私だったけれど、オルザベートが私を諦めていないことを思い知らされる事になる。 ※細かい設定が気になられる方は前作をお読みいただいた方が良いかと思われます。 ※恋愛ものですので甘い展開もありますが、サスペンス色も多いのでご注意下さい。ざまぁも必要以上に過激ではありません。 ※史実とは関係ない、独特の世界観であり、設定はゆるゆるで、ご都合主義です。魔法が存在する世界です。

双子の妹は私に面倒事だけを押し付けて婚約者と会っていた

今川幸乃
恋愛
レーナとシェリーは瓜二つの双子。 二人は入れ替わっても周囲に気づかれないぐらいにそっくりだった。 それを利用してシェリーは学問の手習いなど面倒事があると「外せない用事がある」とレーナに入れ替わっては面倒事を押し付けていた。 しぶしぶそれを受け入れていたレーナだが、ある時婚約者のテッドと話していると会話がかみ合わないことに気づく。 調べてみるとどうもシェリーがレーナに成りすましてテッドと会っているようで、テッドもそれに気づいていないようだった。

処理中です...