1 / 26
01
しおりを挟む王子が、死んだ。
王家の、たった一人の後継ぎが。
新婚の――初夜の、その最中に。
――毒殺されたのだ。
王子ヨアヒムは、愛する妃との、その初夜の最中――腹上死したとある。やがてそれは毒殺であるとの結果が。
疑われたのは妻となった伯爵令嬢のロベリア。
しかし初夜の場は見届け役たちもいたこともあり、彼女の疑いはすぐにはれた。
初夜の寝室を整えたのは信頼ある城の者たちであり。
ロベリアも式のあと、何時間もかけて磨かれ、寝室には薄衣一枚しか身に着けていなかった。
彼女が何かしらを持ち込んだり、仕込むことはない――できるはずがない。
それを疑われたら城の、その仕度をした者たちの方こそを疑わねばならなくなる。
その指揮を一切仕切った王妃こそを。
「ロベリア……っ、ロベ……り……」
「あ、あ、ヨアヒムさまぁ……あ、も、もう、重たいです、わ……? ヨアヒムさま? え、あ、ヨアヒムさま!? い、いやぁ! 誰か、誰か、ヨアヒムさまが!?」
見届け役たちは、その瞬間の様子も。その薄い布で覆われた天蓋の中の様子にも、ロベリアの無罪を。
彼女は直ぐ様、人を呼んでいた。彼女が犯人であれば、逃げるか何かしら隠蔽などをしただろう。
そんな間もなく、彼女は医師が呼ばれて駆けつけるまで、必死に王子の名を呼んで――震えていた。
初夜の甘やかな空気の中、自分に覆いかぶさっていた王子の異変に悲鳴をあげたロベリアは、自身の上で王子が亡くなったことに憔悴していて。
そんな目に遭った彼女を誰が疑えようか。
今も半ば幽閉のようにされているが、おとなしく……泣き暮らしている。
その時の様子から、城に住まう誰しもに――憐れと。
夜には悲鳴すらあげて、眠れないようだとの報告に、王妃も……。はじめは息子の死に、誰かに当たりたかった母としてロベリアを責めていた彼女は、それらの報告に、ロベリアこそが息子の死を、唯一自分と分け合える存在であるとわかって涙した。
そして、どうしてヨアヒムが毒を飲んだのかと調べ続けられた。
ヨアヒムには外傷はなかった。ならば、いつ、飲まされたのか。
状況から、遅効性の毒を飲んだのだと思われた。
その日、ヨアヒムは多くの人に会い――祝いの酒も何杯も飲んでいた。
準備の為に早く下がったロベリアより、彼は長く祝いの場にいたのも確認されていた。
「やはり、マーガレット……いえ、でも……」
マーガレット。
疑われた令嬢がいた。けれども彼女には鉄壁のアリバイがあり。
ヨアヒムが断罪をした――ロベリアの、姉。
ヨアヒムとロベリアの結婚は、国中で話題になっていた。
ロベリアは姉であるマーガレットに長年虐げられていた。そのことにヨアヒムが気が付き、救った美談として。
ロベリアは美しかった。
儚げなその美にも、理由がある。
幼い頃は病弱で、いつも寝込んでいたという。
よく熱を出し、両親もかかりきりに。
それを、親の愛が奪われたと思った姉は、妹に嫉妬した。
姉は何度も妹を虐めたという。
ときに大事な薬を捨てたり――妹自身も、修道院の前に捨て置くなどもしたという。
真夏の暑い最中に。
真冬の寒い最中に。
小さな荷物鞄一つしか持たせず、家から追い出そうとすら。
やがて長じたロベリアは身体も丈夫になったが、マーガレットはそれでも妹を虐げ続けたという。
そんな可哀想なロベリアは学園にてヨアヒムに見初められた。
幼い頃は身体が弱かったとあるが、今はもう健常――子を孕める――と医師の診断もあり、ロベリアは王太子妃になることになった。
渋った王妃も、会ってみてロベリアがきちんと淑女教育されていたことに、うなずいた。
伯爵令嬢ならば身分も許容範囲だ。
――何より。
「もしもわたしが子を成せなかったときには、どうぞ側妃を娶ってくださいませ。王家の尊きお血筋を残すためならば……」
それを自分から頼み、願う心構えがある娘よ。
自分がヨアヒム一人しか産めなかったことを気にしていた王妃は、ロベリアの覚悟に胸を打たれた。
他に妃を出したい家も、側妃の枠があるとわかれば黙り。むしろ二人の間に入る余地がないのかとあきらめていた家々たちは目を光らせた。
「……でも、一年か二年くらいは、ヨアヒム様を独り占めするのを許してくださいませね?」
そんな可愛らしい願い。
それを聞いたヨアヒムは喜んでうなずいた。
そもそも結婚したばかりですぐに側妃を選ぶのも外聞悪くあろう。二年後ならば、貴族たちも納得できた。それぐらいならば――むしろ娘たちの用意もできるから好都合。実子なり、養子なり――……。
そして――二年待たずに。
その夜に、王家の血筋は終わりとなった。
誰が王子を殺したのか。
39
あなたにおすすめの小説
【完結】虐げられた可哀想な女の子は王子様のキスに気付かない
堀 和三盆
恋愛
ノーラはラッテ伯爵家の長女。けれど後妻となった義母も、そして父も、二人の間に産まれた一歳違いの妹だけを可愛がり、前妻との娘であるノーラのことは虐げている。ノーラに与えられるのは必要最低限『以下』の食事のみ。
そんなある日、ピクニックと騙され置き去りにされた森の中でノーラは一匹のケガをした黒猫を拾う。
妹は病弱アピールで全てを奪い去っていく
希猫 ゆうみ
恋愛
伯爵令嬢マチルダには妹がいる。
妹のビヨネッタは幼い頃に病気で何度か生死の境を彷徨った事実がある。
そのために両親は過保護になりビヨネッタばかり可愛がった。
それは成長した今も変わらない。
今はもう健康なくせに病弱アピールで周囲を思い通り操るビヨネッタ。
その魔の手はマチルダに求婚したレオポルドにまで伸びていく。
侯爵家を守るのは・・・
透明
恋愛
姑に似ているという理由で母親に虐げられる侯爵令嬢クラリス。
母親似の妹エルシーは両親に愛されすべてを奪っていく。
最愛の人まで妹に奪われそうになるが助けてくれたのは・・・
拝啓 お顔もお名前も存じ上げない婚約者様
オケラ
恋愛
15歳のユアは上流貴族のお嬢様。自然とたわむれるのが大好きな女の子で、毎日山で植物を愛でている。しかし、こうして自由に過ごせるのもあと半年だけ。16歳になると正式に結婚することが決まっている。彼女には生まれた時から婚約者がいるが、まだ一度も会ったことがない。名前も知らないのは幼き日の彼女のわがままが原因で……。半年後に結婚を控える中、彼女は山の中でとある殿方と出会い……。
そういう時代でございますから
Ruhuna
恋愛
私の婚約者が言ったのです
「これは真実の愛だ」ーーと。
そうでございますか。と返答した私は周りの皆さんに相談したのです。
その結果が、こうなってしまったのは、そうですね。
そういう時代でございますからーー
*誤字脱字すみません
*ゆるふわ設定です
*辻褄合わない部分があるかもしれませんが暇つぶし程度で見ていただけると嬉しいです
どうぞお好きになさってください
はなまる
恋愛
ミュリアンナ・ベネットは20歳。母は隣国のフューデン辺境伯の娘でミュリアンナは私生児。母は再婚してシガレス国のベネット辺境伯に嫁いだ。
兄がふたりいてとてもかわいがってくれた。そのベネット辺境伯の窮地を救うための婚約、結婚だった。相手はアッシュ・レーヴェン。女遊びの激しい男だった。レーヴェン公爵は結婚相手のいない息子の相手にミュリアンナを選んだのだ。
結婚生活は2年目で最悪。でも、白い結婚の約束は取り付けたし、まだ令息なので大した仕事もない。1年目は社交もしたが2年目からは年の半分はベネット辺境伯領に帰っていた。
だが王女リベラが国に帰って来て夫アッシュの状況は変わって行くことに。
そんな時ミュリアンナはルカが好きだと再認識するが過去に取り返しのつかない失態をしている事を思い出して。
なのにやたらに兄の友人であるルカ・マクファーレン公爵令息が自分に構って来て。
どうして?
個人の勝手な創作の世界です。誤字脱字あると思います、お見苦しい点もありますがどうぞご理解お願いします。必ず最終話まで書きますので最期までよろしくお願いします。
不機嫌な侯爵様に、その献身は届かない
翠月るるな
恋愛
サルコベリア侯爵夫人は、夫の言動に違和感を覚え始める。
始めは夜会での振る舞いからだった。
それがさらに明らかになっていく。
機嫌が悪ければ、それを周りに隠さず察して動いてもらおうとし、愚痴を言ったら同調してもらおうとするのは、まるで子どものよう。
おまけに自分より格下だと思えば強気に出る。
そんな夫から、とある仕事を押し付けられたところ──?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる