いつか優しく終わらせてあげるために。

イチイ アキラ

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 王子が、死んだ。

 王家の、たった一人の後継ぎが。
 新婚の――初夜の、その最中に。


 ――毒殺されたのだ。


 王子ヨアヒムは、愛する妃との、その初夜の最中――腹上死したとある。やがてそれは毒殺であるとの結果が。

 疑われたのは妻となった伯爵令嬢のロベリア。
 しかし初夜の場は見届け役たちもいたこともあり、彼女の疑いはすぐにはれた。

 初夜の寝室を整えたのは信頼ある城の者たちであり。
 ロベリアも式のあと、何時間もかけて磨かれ、寝室には薄衣一枚しか身に着けていなかった。

 彼女が何かしらを持ち込んだり、仕込むことはない――できるはずがない。

 それを疑われたら城の、その仕度をした者たちの方こそを疑わねばならなくなる。
 その指揮を一切仕切った王妃こそを。


「ロベリア……っ、ロベ……り……」
「あ、あ、ヨアヒムさまぁ……あ、も、もう、重たいです、わ……? ヨアヒムさま? え、あ、ヨアヒムさま!? い、いやぁ! 誰か、誰か、ヨアヒムさまが!?」


 見届け役たちは、その瞬間の様子も。その薄い布で覆われた天蓋の中の様子にも、ロベリアの無罪を。
 彼女は直ぐ様、人を呼んでいた。彼女が犯人であれば、逃げるか何かしら隠蔽などをしただろう。
 そんな間もなく、彼女は医師が呼ばれて駆けつけるまで、必死に王子の名を呼んで――震えていた。

 初夜の甘やかな空気の中、自分に覆いかぶさっていた王子の異変に悲鳴をあげたロベリアは、自身の上で王子が亡くなったことに憔悴していて。
 そんな目に遭った彼女を誰が疑えようか。
 今も半ば幽閉のようにされているが、おとなしく……泣き暮らしている。

 その時の様子から、城に住まう誰しもに――憐れと。

 夜には悲鳴すらあげて、眠れないようだとの報告に、王妃も……。はじめは息子の死に、誰かに当たりたかった母としてロベリアを責めていた彼女は、それらの報告に、ロベリアこそが息子の死を、唯一自分と分け合える存在であるとわかって涙した。

 そして、どうしてヨアヒムが毒を飲んだのかと調べ続けられた。
 ヨアヒムには外傷はなかった。ならば、いつ、飲まされたのか。
 状況から、遅効性の毒を飲んだのだと思われた。
 その日、ヨアヒムは多くの人に会い――祝いの酒も何杯も飲んでいた。
 準備の為に早く下がったロベリアより、彼は長く祝いの場にいたのも確認されていた。

「やはり、マーガレット……いえ、でも……」

 マーガレット。
 疑われた令嬢がいた。けれども彼女には鉄壁のアリバイがあり。

 ヨアヒムが断罪をした――ロベリアの、姉。

 ヨアヒムとロベリアの結婚は、国中で話題になっていた。

 ロベリアは姉であるマーガレットに長年虐げられていた。そのことにヨアヒムが気が付き、救った美談として。

 ロベリアは美しかった。
 儚げなその美にも、理由がある。
 幼い頃は病弱で、いつも寝込んでいたという。
 よく熱を出し、両親もかかりきりに。
 それを、親の愛が奪われたと思った姉は、妹に嫉妬した。
 姉は何度も妹を虐めたという。

 ときに大事な薬を捨てたり――妹自身も、修道院の前に捨て置くなどもしたという。

 真夏の暑い最中に。
 真冬の寒い最中に。
 小さな荷物鞄一つしか持たせず、家から追い出そうとすら。

 やがて長じたロベリアは身体も丈夫になったが、マーガレットはそれでも妹を虐げ続けたという。

 そんな可哀想なロベリアは学園にてヨアヒムに見初められた。
 幼い頃は身体が弱かったとあるが、今はもう健常――子を孕める――と医師の診断もあり、ロベリアは王太子妃になることになった。
 渋った王妃も、会ってみてロベリアがきちんと淑女教育されていたことに、うなずいた。
 伯爵令嬢ならば身分も許容範囲だ。
 ――何より。

「もしもわたしが子を成せなかったときには、どうぞ側妃を娶ってくださいませ。王家の尊きお血筋を残すためならば……」

 それを自分から頼み、願う心構えがある娘よ。

 自分がヨアヒム一人しか産めなかったことを気にしていた王妃は、ロベリアの覚悟に胸を打たれた。
 他に妃を出したい家も、側妃の枠があるとわかれば黙り。むしろ二人の間に入る余地がないのかとあきらめていた家々たちは目を光らせた。

「……でも、一年か二年くらいは、ヨアヒム様を独り占めするのを許してくださいませね?」

 そんな可愛らしい願い。
 それを聞いたヨアヒムは喜んでうなずいた。
 そもそも結婚したばかりですぐに側妃を選ぶのも外聞悪くあろう。二年後ならば、貴族たちも納得できた。それぐらいならば――むしろ娘たちの用意もできるから好都合。実子なり、養子なり――……。


 そして――二年待たずに。
 その夜に、王家の血筋は終わりとなった。

 誰が王子を殺したのか。


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