いつか優しく終わらせてあげるために。

イチイ アキラ

文字の大きさ
6 / 26

06

しおりを挟む

「わたしには何でもお願いを叶えてくれるおじさまがいるの!」

 宝石のような明るいオレンジ色の瞳を輝かせて彼女は言った。
 自分の後ろ盾を、そうとは知らないままに。


 そして彼女は願ったのだ。

「王子さまと結婚したい!」


 その王子さまには幼い頃からの、愛する婚約者がいるとは思いもしないで。

 ――知った後にも。変わらず。





「痛み分け……ってことにしましょうね?」

 帝国の第四王子ルドルフの、ヨアヒムへの悼む言葉のあとに続けられた、そんな言葉の意味を。ガブリエーレはわからず、失礼ながらと問いかけた。
 今この場にはガブリエーレとルドルフだけがテーブルに。

 これから王妃でなくなるものと。
 これから王にならねばならないものの。

 その話し合いが。
 帝国からもかなりの人間が入ることになった。
 乗っ取り――ではないと……この時まで、ガブリエーレは思っていた。
 帝国は元々、この国の上にあるのだから、と……。

「貴方は息子さんを、この国の血統を」
「え?」
「そして私は、伯母を」

 伯母?

「まあ、私というよりお爺さまの、子と……いうべきでしょうかな」
 王家の色――帝国の王家も金の髪と青い瞳であったはず。
 だが、目の前の王子は金の髪に――黄玉のような明るいオレンジ色。

 ――記憶の中にある、忌々しい誰かの色。


「私が王様になれば、お爺さまももう手出しいたしませんから」
 だから、手打ち。痛み分け。
「私は帝位を継ぐ上の兄様たちと仲良いし、可愛がってもらっていますから、安心してくださいな」
 
 そう言って帝国の王子は、オレンジ色の瞳を揺らめかせた。
 帝国の王族らしい美しい金の髪とともに。
 帝国の王族もまた、この国の元であるように金の髪に青い瞳が主であるという。
 しかし政略結婚などで他国の姫を娶ったりするうちに、多少の色違いな子が生まれることもある。

「僕の母方の祖父、ヴォルフラム王弟殿下もそうした色でね」

 ヴォルフラム王弟殿下は兄たる王とは母は別。ヴォルフラムの母の側妃たるその方の瞳は、この黄玉色であった。それは嫁いできた彼女の国の色であり――その方は栗色の髪に黄玉の瞳をしていたらしい。

 数十年前。
 帝国は帝位を巡って争いが起きた。
 それを制したのは第一王子ディードリヒであった。そして腹違いながらも第三王子ヴォルフラムは、ディートリヒと仲が良く、彼の側についた。
 知略と武勇に優れていたヴォルフラムは、将軍として活躍し、兄の助けとなり、他の兄弟や叔父たちと戦い勝利したのだ。

 そんなヴォルフラムには愛する女がいた。
 彼女は城に勤める身分低いメイド――侍女ですらない使用人であったが、ヴォルフラムには癒しであった。

 けれども戦火が酷くなり。彼女はヴォルフラムの「弱点」と成りうる存在になり。
 ヴォルフラムは彼女を城から逃した。
 己の子を宿し、さらに弱点となった女を。
 彼女の生家は身分低くあるからこそ、目立つことなく国から逃れることができた。

 縁を頼りに――この国まで。

 属国に過ぎないこの国は、幸いにも戦火からは逃れて。
 けれども彼女は、やはりその辛い状況からか――お産で亡くなった。
 産まれたのは女の子。

 王弟の血を引き、彼の瞳を受け継いだ子だ。

 産まれたのは女の子と守役に聞いて、ヴォルフラムは、何も知らない平和なこの国で、幸せに暮らして欲しいと願うことにした。
 母の身分も低く、帝国にあってはまた火種にも成りうる存在だ。
 自分は、兄のために有力貴族の娘と婚姻をしなければならない。
 引き取ることは難しいが――哀れなその子の願いは叶えたいと、常に。

 そのまま、匿われた男爵家にてその女の子は偽られながら育てられることとなり――いつしかその国の男の子に恋をした。

 その国の王子さまに――恋を。


 その王弟の子の名を、エリーゼという……――それは亡くなった母と同じ名前を付けられた。
 
 
 
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

ブスすぎて嫁の貰い手がないから閨勤侍女になれと言われたので縁を切ります、完全に!完全縁切りの先にあったのは孤独ではなくて…

ハートリオ
恋愛
ルフスは結婚が決まった従姉の閨勤侍女になるよう父親に命令されたのをきっかけに父に無視され冷遇されて来た日々を終わらせようとブラコン父と完全に縁を切る決意する。 一方、従姉の結婚相手はアルゲンテウス辺境伯とのことだが、実は手違いがあって辺境伯が結婚したいのはルフス。 そんなこんなの異世界ファンタジーラブです。 読んでいただけると嬉しいです。

今、私は幸せなの。ほっといて

青葉めいこ
ファンタジー
王族特有の色彩を持たない無能な王子をサポートするために婚約した公爵令嬢の私。初対面から王子に悪態を吐かれていたので、いつか必ず婚約を破談にすると決意していた。 卒業式のパーティーで、ある告白(告発?)をし、望み通り婚約は破談となり修道女になった。 そんな私の元に、元婚約者やら弟やらが訪ねてくる。 「今、私は幸せなの。ほっといて」 小説家になろうにも投稿しています。

拝啓 お顔もお名前も存じ上げない婚約者様

オケラ
恋愛
15歳のユアは上流貴族のお嬢様。自然とたわむれるのが大好きな女の子で、毎日山で植物を愛でている。しかし、こうして自由に過ごせるのもあと半年だけ。16歳になると正式に結婚することが決まっている。彼女には生まれた時から婚約者がいるが、まだ一度も会ったことがない。名前も知らないのは幼き日の彼女のわがままが原因で……。半年後に結婚を控える中、彼女は山の中でとある殿方と出会い……。

(完結)可愛いだけの妹がすべてを奪っていく時、最期の雨が降る(全5話)

青空一夏
恋愛
可愛いだけの妹が、全てを奪っていく時、私はその全てを余すところなく奪わせた。 妹よ・・・貴女は知らない・・・最期の雨が貴女に降ることを・・・ 暗い、シリアスなお話です。ざまぁありですが、ヒロインがするわけではありません。残酷と感じるかどうかは人によるので、わかりませんが、残酷描写シーンはありません。最期はハッピーエンドで、ほのぼのと終わります。 全5話

【完結】髪は女の命と言いますが、それよりも大事なものがある〜年下天才魔法使いの愛には応えられません〜

大森 樹
恋愛
髪は女の命。しかし、レベッカの髪は切ったら二度と伸びない。 みんなには秘密だが、レベッカの髪には魔法が宿っている。長い髪を切って、昔助けた男の子レオンが天才魔法使いとなって目の前に現れた。 「あなたを愛しています!絶対に絶対に幸せにするので、俺と結婚してください!よろしくお願いします!!」 婚約破棄されてから、一人で生きていくために真面目に魔法省の事務員として働いていたレベッカ。天才魔法使いとして入団してきた新人レオンに急に告白されるが、それを拒否する。しかし彼は全く諦める気配はない。 「レベッカさん!レベッカさん!」とまとわりつくレオンを迷惑に思いながらも、ストレートに愛を伝えてくる彼に次第に心惹かれていく…….。しかし、レベッカはレオンの気持ちに答えられないある理由があった。 年上訳あり真面目ヒロイン×年下可愛い系一途なヒーローの年の差ラブストーリーです。

貴方のいない世界では

緑谷めい
恋愛
 決して愛してはいけない男性を愛してしまった、罪深いレティシア。  その男性はレティシアの姉ポーラの婚約者だった。  ※ 全5話完結予定

酷いことをしたのはあなたの方です

風見ゆうみ
恋愛
※「謝られたって、私は高みの見物しかしませんよ?」の続編です。 あれから約1年後、私、エアリス・ノラベルはエドワード・カイジス公爵の婚約者となり、結婚も控え、幸せな生活を送っていた。 ある日、親友のビアラから、ロンバートが出所したこと、オルザベート達が軟禁していた家から引っ越す事になったという話を聞く。 聞いた時には深く考えていなかった私だったけれど、オルザベートが私を諦めていないことを思い知らされる事になる。 ※細かい設定が気になられる方は前作をお読みいただいた方が良いかと思われます。 ※恋愛ものですので甘い展開もありますが、サスペンス色も多いのでご注意下さい。ざまぁも必要以上に過激ではありません。 ※史実とは関係ない、独特の世界観であり、設定はゆるゆるで、ご都合主義です。魔法が存在する世界です。

双子の妹は私に面倒事だけを押し付けて婚約者と会っていた

今川幸乃
恋愛
レーナとシェリーは瓜二つの双子。 二人は入れ替わっても周囲に気づかれないぐらいにそっくりだった。 それを利用してシェリーは学問の手習いなど面倒事があると「外せない用事がある」とレーナに入れ替わっては面倒事を押し付けていた。 しぶしぶそれを受け入れていたレーナだが、ある時婚約者のテッドと話していると会話がかみ合わないことに気づく。 調べてみるとどうもシェリーがレーナに成りすましてテッドと会っているようで、テッドもそれに気づいていないようだった。

処理中です...