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しおりを挟むそれは行く行くは新たなる王と王妃となる二人の結婚式の夜。
そわそわとしていたのは花嫁の父親。ヒューリック伯爵。
愛娘が嫁いだのだから仕方ないだろうと、祝いの席にいるものたちは微笑ましくみていた。
やがて準備のために花嫁が退出し――宴もお開き。花婿たる王子もさがられた。
友人や親戚や、彼の後見になる有力貴族たちから、かなり飲まされていたようだが大丈夫だろうかと、宴を下がるものたちは、笑いながら。
何とめでたい。
この国には今は王はいない。
その残された王子が成長するまで、その母である王妃に政治を許されていた。帝国も、後継ぎが産まれていたならば、彼が成長するまで――と。王が亡くなったときには、いまだ先王が復権できたのもあり。
そうしてようやく。
王子は成長し、結婚式まで挙げられるお年になられた。
彼に子ができれば、戴冠となる――。
――彼に、子ができれば。
その宴の数時間後。
――その王子の死が。
ミヒャエルは報告に崩れ落ちた。
誰もが彼の心情を思い、震えて泣く彼に、声もかけられなかった。
うずくまる彼が、歓喜に震えているとは思いもしなかった――いや、哀しみにも震えていた。
「ああ、ユリアンさま……エリーゼさま……」
――仇は討ちました……!
ミヒャエル・ヒューリックは目立たない男だった。
成績は良く、高位クラスには所属していたが、そんな中にいても平凡な容姿で。性格も真面目さだけが取り柄だった。
彼は学園を卒業後、家を継ぐために準備をし。一つ歳下の婚約者の卒業をまって結婚した。
婚約者のヴィオラはその花の名前のように可愛いかった。
愛していた。
ヴィオラはやがて女の子を二人も産んでくれた。
初めの子は自分に似てしまったが、その素朴な感じが可愛いと妻に言われて嬉しかった。自分に似ていることが――妻には喜びであると愛しさがあふれ、マーガレットと名付けた。
マーガレットが産まれたことでヒューリック伯爵家を継ぐこともできた。
次の子はヴィオラに似て可愛らしい顔立ちをしていた。
淡い茶色の髪は自分とマーガレットと同じであっても、顔立ちが赤子の頃から整っていた。
妻から続き、花の名前が良いかと悩みロベリアと名付けた。その愛らしさには合うと思い――。
――その花に毒があるとは、なんて偶然か。
実はヴィオラは生来あまり身体が強くなかった。けれども彼女自身が子を望んだこともあり、強く反対できなかった。
結果、ロベリアを産んだあとに体調を崩しがちになり、ヴィオラは亡くなった。
ミヒャエルやマーガレット、そしてロベリアに愛を伝えて。
学園にてクラスメイトであった、なんと王子のユリアンとその妃のエリーゼからも悼むお手紙を頂戴して。
お二人は結婚しても子ができず――エリーゼ妃にはなんとお労しいことか、側妃を娶ることになったというのに。
学園であんなにも輝いていた二人が。
ここに、美談を信じるものがいた。
ミヒャエルは平凡で、成績だけが良い男だった。
もし、二人と同い年でなければ――あの輝かしいクラスでなければ、暗い人生になっていただろう。
現に、学園に入るまでは、同世代の集まりでは弾かれていた。軽く虐めにもあっていた。伯爵家の跡取りという地位がなければ、もっと酷い目にあっていただろう。
けれど不和を嫌う王子殿下が、良く気を払い、何かと手助けしてくださった。高位クラスで浮かずにすんだのはユリアンと――明るく、朗らかで、クラスの中心にいたエリーゼのおかげだ。
エリーゼもまた、よくミヒャエルに話しかけてくれた。男爵令嬢だから馴れ馴れしいと怒る声もありはしたが、ミヒャエルにはエリーゼに話かけられることは有難かった。
いつかその恩に報いたい。
ヴィオラにそう語って、よく笑われたものだ。それは応援な意味の笑みで。
幼い頃からの付き合いの婚約者が、虐めにあい卑屈にならないかヴィオラは心配していたのだという。
「学園に入ったらわたしが守らなくちゃ、て!」
一年遅れを悔しがっていたら、ミヒャエルは案外平和に過ごしていて。
ヴィオラはミヒャエルから話を聞いて、彼女もユリアンとエリーゼに感謝をしていた。
ヒューリック家は長く王国にあり、忠義厚い家なのだから。
王と王妃に忠誠を尽くそう。国のために。
その誇りをもって、ミヒャエルは家を継いだのだ。
けれども彼の決意を、一番応援して、支えてくれていた最愛の妻が亡くなった。
そして彼女が残してくれた、また愛しき我が子まで……――。
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