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しおりを挟む妻の死で気落ちしているうちに。
彼はまた哀しみに襲われた。
ロベリアが。
妻に似た娘は、身体も妻に似てしまった。
彼女が命がけで産んだというのに、ロベリアも産まれたときから病気がちな子だった。
三歳を迎えられないかもしれない。
医者にそう言われながら。
マーガレットも、自分も幼いというのに妹の看病の手伝いを。
そうして世間では王と王妃の突然の死で哀しみに暮れる中、ロベリアの小さな命まで。
ミヒャエルはその続いた不幸に打ちひしがれた。
最愛の妻が。
王妃が。
王が。
愛しき我が子まで。
その夜。
打ちひしがれたミヒャエルはまだ幼いマーガレットにも、妹の死を伝えられなかった。
妻の死から、そしてロベリアの体調もあり、あまりかまってやれなくて悪いと思いながら。
幼くも賢いマーガレットは、使用人たちの言うことを良く聞いてくれている。
ロベリアの看病の手伝いも、彼らに良く尋ねていたというのに。
ヒューリック家の仕来りで、使用人はヒューリック伯爵領のものたちを優先的に雇っていた。彼らは後の主人となるマーガレットをよく守りしてくれている。
この王都の家も、若いうちに都会を体験させてやりたいと領の若者たちを何かしら雇っていたから、兄や姉やがたくさんいるようなものだ。
葬儀の手配をしなければならないが、その気力がわかない。まだロベリアの小さな身体は、ベッドにあり。まるで眠っているようだった。
そんな、打ちひしがれたミヒャエルに、幼い頃から仕えてくれた執事が来客を……。
それは帝国からの使者だった。
彼らは、恐ろしいことを――赦しがたい話を、教えてくれた。
ユリアンは。
エリーゼは。
側妃ガブリエーレに殺されたのだ。
帝国の使者たちはさらに、エリーゼの本当の身分を教えてくれた。
なんと……彼女は帝国の王弟の娘だったのだ。
それを、この国は。
ガブリエーレのバルグレラ公爵家は。
帝国の血により、己たちの地位が揺らぐのを恐れたのだろう……と。
そんなことのために、あの愛し合う二人の邪魔をして。
エリーゼに避妊薬さえ。
エリーゼに子さえできないように非道なことをして――側妃として王家を乗っ取った。
なんてことを。
子を亡くして哀しみで震えていたミヒャエルは、怒りで震えることになった。
そして彼はうなずいた。
彼らの計画に。
彼らにより、持ちかけられたのは――恐ろしい計画だった。
毒には毒をもって。
そのために必要なものがあるから、帝国はミヒャエルに話を持ちかけたのだ。
――愛娘の籍を。今し方亡くなった娘の……。
これは、仇討ちだ。
正当なる――忠義だ。
きっと亡き妻も応援してくれる。
「ベラドンナ――ベラと、お呼びください」
帝国より遣わされたのは、赤みがかった黒髪が美しい女だった。
彼女は帝国より育ての親として派遣されたのだ。彼女の一族はそうしたこと――毒や薬に精通した一族であるという。
――毒の娘の製作者として。
彼女は遠縁の紹介として。
細身で背の高い彼女は、ヴィオラとは正反対で。誰もがミヒャエルから望んだのではなく、再婚は子供たちのためだと思っただろう。
ミヒャエルは条件を一つつけた。
もうひとりの愛娘であるマーガレットには、一切関わらせないことを。もしものときは帝国で保護を。
大事なヴィオラの、もはやただひとりの忘れ形見を。
ベラは三歳ほどになる娘もつれていた。
――新しいロベリアを。
ロベリアは、帝国の者たちの手を借りて内密に弔った。
――その小さな亡骸は母ヴィオラの棺の中に納められた。せめて、母とともに眠れるように。
新しいロベリアの瞳は淡い瑠璃色をしていた。
それはヴィオラと同じ――本当のロベリアとも。
偶然なのか、あえてそうした子供を選んだのか。探したのか。
あえて、だろう。
ヒューリックは、計画には賛同しても、亡き娘と同じ瞳のその子を他人とは思えなかった。
せめて、父親としての愛情は。
甘やかさないようにとベラに怒られても、毒によりいつしか髪が白くなった子を放っておけず、何かと構った。
慣らせるために弱い分、成分優先で不味い毒のあと、飴玉を用意したり――。
娘が毒による発熱などで寝込んでいるときに、気晴らしになるよう、時間をつくって本を読んでやったり――。
ミヒャエルはロベリアを亡き娘のように、いつしか愛していた。
けれども、もう何もが遅い。
ヴィオラと同じ瞳で――死ぬために嫁ぐ娘よ。
王子の死を聞き、ミヒャエルが崩れ落ち、泣くのは己の忠義よりも――ロベリアもまた……。
……そう、顔立ちは大人になれば変わるのも仕方ないが、瞳の色ばかりは変えようがないから……――。
ロベリアはヴィオラが体調を崩していたし、ロベリア自身も弱かったことから、あまり人目にも触れていなかった。お披露目は赤子のころに一度で。
誰も、入れ替わりを気が付かなかった。
――気がついたのはマーガレットだけ。
そうしてヒューリック家の使用人は、時折体調を悪くして早く領に戻るものがいたが、皆都会の空気や水が悪かったのだろう、と。田舎では笑い話にも。
皆、故郷に戻ればゆっくりと回復したから。
それは主にロベリア付きの使用人たちだった。
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