10 / 26
10
しおりを挟むそれは行く行くは新たなる王と王妃となる二人の結婚式の夜。
そわそわとしていたのは花嫁の父親。ヒューリック伯爵。
愛娘が嫁いだのだから仕方ないだろうと、祝いの席にいるものたちは微笑ましくみていた。
やがて準備のために花嫁が退出し――宴もお開き。花婿たる王子もさがられた。
友人や親戚や、彼の後見になる有力貴族たちから、かなり飲まされていたようだが大丈夫だろうかと、宴を下がるものたちは、笑いながら。
何とめでたい。
この国には今は王はいない。
その残された王子が成長するまで、その母である王妃に政治を許されていた。帝国も、後継ぎが産まれていたならば、彼が成長するまで――と。王が亡くなったときには、いまだ先王が復権できたのもあり。
そうしてようやく。
王子は成長し、結婚式まで挙げられるお年になられた。
彼に子ができれば、戴冠となる――。
――彼に、子ができれば。
その宴の数時間後。
――その王子の死が。
ミヒャエルは報告に崩れ落ちた。
誰もが彼の心情を思い、震えて泣く彼に、声もかけられなかった。
うずくまる彼が、歓喜に震えているとは思いもしなかった――いや、哀しみにも震えていた。
「ああ、ユリアンさま……エリーゼさま……」
――仇は討ちました……!
ミヒャエル・ヒューリックは目立たない男だった。
成績は良く、高位クラスには所属していたが、そんな中にいても平凡な容姿で。性格も真面目さだけが取り柄だった。
彼は学園を卒業後、家を継ぐために準備をし。一つ歳下の婚約者の卒業をまって結婚した。
婚約者のヴィオラはその花の名前のように可愛いかった。
愛していた。
ヴィオラはやがて女の子を二人も産んでくれた。
初めの子は自分に似てしまったが、その素朴な感じが可愛いと妻に言われて嬉しかった。自分に似ていることが――妻には喜びであると愛しさがあふれ、マーガレットと名付けた。
マーガレットが産まれたことでヒューリック伯爵家を継ぐこともできた。
次の子はヴィオラに似て可愛らしい顔立ちをしていた。
淡い茶色の髪は自分とマーガレットと同じであっても、顔立ちが赤子の頃から整っていた。
妻から続き、花の名前が良いかと悩みロベリアと名付けた。その愛らしさには合うと思い――。
――その花に毒があるとは、なんて偶然か。
実はヴィオラは生来あまり身体が強くなかった。けれども彼女自身が子を望んだこともあり、強く反対できなかった。
結果、ロベリアを産んだあとに体調を崩しがちになり、ヴィオラは亡くなった。
ミヒャエルやマーガレット、そしてロベリアに愛を伝えて。
学園にてクラスメイトであった、なんと王子のユリアンとその妃のエリーゼからも悼むお手紙を頂戴して。
お二人は結婚しても子ができず――エリーゼ妃にはなんとお労しいことか、側妃を娶ることになったというのに。
学園であんなにも輝いていた二人が。
ここに、美談を信じるものがいた。
ミヒャエルは平凡で、成績だけが良い男だった。
もし、二人と同い年でなければ――あの輝かしいクラスでなければ、暗い人生になっていただろう。
現に、学園に入るまでは、同世代の集まりでは弾かれていた。軽く虐めにもあっていた。伯爵家の跡取りという地位がなければ、もっと酷い目にあっていただろう。
けれど不和を嫌う王子殿下が、良く気を払い、何かと手助けしてくださった。高位クラスで浮かずにすんだのはユリアンと――明るく、朗らかで、クラスの中心にいたエリーゼのおかげだ。
エリーゼもまた、よくミヒャエルに話しかけてくれた。男爵令嬢だから馴れ馴れしいと怒る声もありはしたが、ミヒャエルにはエリーゼに話かけられることは有難かった。
いつかその恩に報いたい。
ヴィオラにそう語って、よく笑われたものだ。それは応援な意味の笑みで。
幼い頃からの付き合いの婚約者が、虐めにあい卑屈にならないかヴィオラは心配していたのだという。
「学園に入ったらわたしが守らなくちゃ、て!」
一年遅れを悔しがっていたら、ミヒャエルは案外平和に過ごしていて。
ヴィオラはミヒャエルから話を聞いて、彼女もユリアンとエリーゼに感謝をしていた。
ヒューリック家は長く王国にあり、忠義厚い家なのだから。
王と王妃に忠誠を尽くそう。国のために。
その誇りをもって、ミヒャエルは家を継いだのだ。
けれども彼の決意を、一番応援して、支えてくれていた最愛の妻が亡くなった。
そして彼女が残してくれた、また愛しき我が子まで……――。
63
あなたにおすすめの小説
妹なんだから助けて? お断りします
たくわん
恋愛
美しく聡明な令嬢エリーゼ。だが、母の死後に迎えられた継母マルグリットによって、彼女の人生は一変する。実母が残した財産は継母に奪われ、華やかなドレスは義姉たちに着られ、エリーゼ自身は使用人同然の扱いを受ける。そんなある日――。
妹は病弱アピールで全てを奪い去っていく
希猫 ゆうみ
恋愛
伯爵令嬢マチルダには妹がいる。
妹のビヨネッタは幼い頃に病気で何度か生死の境を彷徨った事実がある。
そのために両親は過保護になりビヨネッタばかり可愛がった。
それは成長した今も変わらない。
今はもう健康なくせに病弱アピールで周囲を思い通り操るビヨネッタ。
その魔の手はマチルダに求婚したレオポルドにまで伸びていく。
こうして私は悪魔の誘惑に手を伸ばした
綴つづか
恋愛
何もかも病弱な妹に奪われる。両親の愛も、私がもらった宝物もーー婚約者ですらも。
伯爵家の嫡女であるルリアナは、婚約者の侯爵家次男ゼファーから婚約破棄を告げられる。病弱で天使のような妹のカリスタを抱き寄せながら、真実の愛を貫きたいというのだ。
ルリアナは、それを粛々と受け入れるほかなかった。
ゼファーとカリスタは、侯爵家より譲り受けた子爵領へと移り住み、幸せに暮らしていたらしいのだが。2年後、『病弱』な妹は、出産の際に命を落とす。
……その訃報にルリアナはひっそりと笑みを溢した。
妹に奪われてきた姉が巻き込まれた企みのお話。
他サイトにも掲載しています。※ジャンルに悩んで恋愛にしていますが、主人公に恋愛要素はありません。
全部私が悪いのです
久留茶
恋愛
ある出来事が原因でオーディール男爵家の長女ジュディス(20歳)の婚約者を横取りする形となってしまったオーディール男爵家の次女オフィーリア(18歳)。
姉の元婚約者である王国騎士団所属の色男エドガー・アーバン伯爵子息(22歳)は姉への気持ちが断ち切れず、彼女と別れる原因となったオフィーリアを結婚後も恨み続け、妻となったオフィーリアに対して辛く当たる日々が続いていた。
世間からも姉の婚約者を奪った『欲深いオフィーリア』と悪名を轟かせるオフィーリアに果たして幸せは訪れるのだろうか……。
*全18話完結となっています。
*大分イライラする場面が多いと思われますので苦手な方はご注意下さい。
*後半まで読んで頂ければ救いはあります(多分)。
*この作品は他誌にも掲載中です。
こんな婚約者は貴女にあげる
如月圭
恋愛
アルカは十八才のローゼン伯爵家の長女として、この世に生を受ける。婚約者のステファン様は自分には興味がないらしい。妹のアメリアには、興味があるようだ。双子のはずなのにどうしてこんなに差があるのか、誰か教えて欲しい……。
初めての投稿なので温かい目で見てくださると幸いです。
愛を騙るな
篠月珪霞
恋愛
「王妃よ、そなた一体何が不満だというのだ」
「………」
「贅を尽くした食事、ドレス、宝石、アクセサリー、部屋の調度も最高品質のもの。王妃という地位も用意した。およそ世の女性が望むものすべてを手に入れているというのに、何が不満だというのだ!」
王妃は表情を変えない。何を言っても宥めてもすかしても脅しても変わらない王妃に、苛立った王は声を荒げる。
「何とか言わぬか! 不敬だぞ!」
「……でしたら、牢に入れるなり、処罰するなりお好きに」
「い、いや、それはできぬ」
「何故? 陛下の望むままなさればよろしい」
「余は、そなたを愛しているのだ。愛するものにそのような仕打ち、到底考えられぬ」
途端、王妃の嘲る笑い声が響く。
「畜生にも劣る陛下が、愛を騙るなどおこがましいですわね」
侯爵家を守るのは・・・
透明
恋愛
姑に似ているという理由で母親に虐げられる侯爵令嬢クラリス。
母親似の妹エルシーは両親に愛されすべてを奪っていく。
最愛の人まで妹に奪われそうになるが助けてくれたのは・・・
蔑ろにされた王妃と見限られた国王
奏千歌
恋愛
※最初に公開したプロット版はカクヨムで公開しています
国王陛下には愛する女性がいた。
彼女は陛下の初恋の相手で、陛下はずっと彼女を想い続けて、そして大切にしていた。
私は、そんな陛下と結婚した。
国と王家のために、私達は結婚しなければならなかったから、結婚すれば陛下も少しは変わるのではと期待していた。
でも結果は……私の理想を打ち砕くものだった。
そしてもう一つ。
私も陛下も知らないことがあった。
彼女のことを。彼女の正体を。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる