いつか優しく終わらせてあげるために。

イチイ アキラ

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「ロベリアに何を?」
 返答次第ではヨアヒムはルドルフの喉笛を噛み千切るだろう。容赦なく。

 ヨアヒムは決して自分の立場を蔑ろにしたわけではないのだけれども。ルドルフがいた事や、自分が生き延びていることに、状況をさっさと理解したのだ。
 本当に敏く。
 だから、やっぱり自分はしがらみを一抜けしてルドルフに押し付けたのは成功しているから、やっぱりロベリアが質問の優先で良い、と。
 ルドルフのことは短い付き合いだが、信用した。信頼は、そこまではしていないからの質問だ。
 彼の祖父には、きちんと――自分が死んだと伝わったのか。

 自分のために選ばれ。自分を殺すために、毒を含んで。自らの身体を毒の塊に。
 すべてすべて、あったこともない自分のために。
 そうして生きてきたロベリア。
 そんなにも頑張ってきたロベリアを、ヨアヒムは学園で気がつけて良かったと、心底から思う。
 初めは「真っ白だなんて、珍しいな」くらいの気持ちが。

 彼女の家族思いなところや、同じく家族に愛されているところにも惹かれて。

 王子は自分を殺す少女に、本気で恋をした。


 ロベリアとは最高で最後の夜を過ごした。それが自分の最後の記憶と思い出だ。
 その夜を抱いて、自分は死んだ。
 それがどっこい――今これだ。生きてる。生き延びてる。

 もしや事後の指図しておいたことや、ロベリアの演技に何か問題がと心配をした。
 もしや自分の死だけでは、王弟ヴォルフラムは満足しなかったのか?
 ロベリアにも何か……そうならば、今は我が身は死んだ存在。ならば――。

「お祖父様には、きちんと、貴方の毒の仕返し計画が無事に完了したと報告が入っているよ。だから僕が、今ここ、なんだし。うん、ロベリアは完璧に演技したよ。キミが死んだあとを……つか、ロベリアの上で死ぬのて、キミやりすぎ」
「最後までロベリアを抱いていたかったんで」

 残されるロベリアの気持ちを考えろやと言ったつもりなのだけど……これアレだ。「ロベリアにそれくらい思って欲しかった」とか、きっとそんな返事くる気配しかしない。
 ルドルフもそろそろ理解しはじめた。いや、したくはなかったけども。怖い、ヤンデレてこういうのをいうのかしら、いや違うのかなと、その数秒間で途方もなく思考がこんがらがった。
「……ロベリア、さすがにキミが死んだと思っているから落こんでるけど。うん、ちゃんと元気だよ」
 ルドルフの返事を聞いて、ヨアヒムは起きかけた頭を枕に戻した。やはりしんどかったらしい。今一瞬、ものすごい殺気感じたけど、気の所為だよね、うん?

「ロベリア様の毒は――まぁ、出来損ないでして」
 
 任せたと、何だか疲れた顔したルドルフにふられて、セージが説明を。
 確かに、自分がしたほうが話が早いかと。

 出来損ない。

 それは侮辱にあたる言葉ではあるが。

 ――この場合にだけは、救いである。

「ヒューリック家の薬師は詳細な製造書カルテをつけてくれていたから、助かりました。手間が省けまくって」
 カルテ、めちゃくちゃ解りやすいなこれ、と。彼は自分の姉の優秀さにこっそり感動してしまっていたり。里にいたころは自分で「ほどほど」て言ってたくせに。
 なるほど、里長が選んだわけだ。
 長く自分や里のせいでこの国に縛られたと、姉には申し訳ない気持ちがあるが……案外、いやけっこう楽しく過ごしていたみたいで。
 姉が、優秀だと改めて思うことは。

「中和剤や緩和剤までしっかり考えてあるぅ……こうしますか、な意表ついたやり方まで……」

 己の作った毒には、解毒剤も作っておくのが、薬師の絶対だ。

 セージの優秀な姉は、きちんとしていた。
 セージはそのロベリア作品についてはその製造書とおりに――やるのがちょっと悔しかったので。

 ……製造書に秘められた願いもきちんと読み取ったから。

「えー……ロベリア様は、このままではもって数年、よくて頑張ると十年、でしたが……」

 だから、時間差の心中となった彼らを。

「ですが、薬師の里で育ち、帝国の最新式の医学薬学を学んだこの私ならばあと二十――いえ、三十年は生かしてみせます」

 姉の願いでもある。
 姉はそのために、出来損ないに、した。

 もしかしたら、身体から抜くことができるかもしれない、毒を――彼女の身体に貯めさせた。

 帝国の願いとおりに毒の娘は作りながら。
 その上で、みごとに裏切った。
 まさかヨアヒムに見初められ、彼の手の上で転がされるのは予想外であったが。姉はその上も飄々と転がされて、彼さえも。

 そのために書かれた「製造書」――姉のすごさ。

 その姉の製造書から、伝わってくる。
「越えてみせろ」
 そのために姉は、自分に学ぶための金と機会と時間をくれた。自分や自らを人質としながら――飄々としたふりで帝国とこの国で綱渡りをみごとにやってのけた。

 十年どころか、あと三十年。
 それは確かに少し早いが、十分生きたと誰もが思うだろう。ロベリアを毒の娘と知るものも、知らないものも。

「そうなったら、キミ、ひとりぼっちで黄泉で待つ? 何十年も? で、ロベリアも何十年も? 独り身未亡人てモテそうだよね。実際ロベリアて美人だし」

 ざまぁと、ルドルフもセージの後ろで――良い笑い顔で。

 
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