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しおりを挟む「……で、僕はどうして助かったんです? それよりロベリアは?」
ロベリアを――愛しき毒の娘を抱いて、ヨアヒムは死んだはずだった。
実は、何度も口づけなどをして、ヨアヒムはある意味、何度も毒を盛られていた。自主的に。
ロベリアの毒は弱いから。
あの夜にちょうど死ねるよう、二人は計画していた。量を逆算してくれたベラドンナは、無事に国を逃げられただろうか。今頃どこの空の下か。やはりまだ帝国の下だろうか。
ヨアヒムの疑問に、答えとしてルドルフは医務室にいた薬師を紹介してきた。ちなみにここは、城ではなくハーゲンの家の一つ。医務室のようにはなっているが、治療を目的として予め用意しておいた部屋であった。
ヨアヒムを生かすために。
「帝国から優秀な薬師を連れてきた」
赤みある黒髪の男はヨアヒムたちより少し年上だろうか。その若さで帝国でも優秀な薬師であるという。
彼はヨアヒムの脈を取りながらにっこりと笑顔で挨拶を。
「どうも。この国には姉が長いことお世話になってまして。姉の仕送りのおかげで良い学問を受けることができました」
この国のおかげですねと、薬師はセージと名乗った。
察しの良いヨアヒムは、なるほど……と。
姉が誰かを察して。飄々としたその良く似た雰囲気よ。
確かに、この国のおかげで学費ができたわけだ。
ヨアヒムは確かに一度死にかけた。その騒ぎは本物で。誰もがヨアヒムの死を狂言とは思わなく。
本当に毒を喰らっていたのだから。
見届人は――王弟ヴォルフラムの手の者。
毒娘であるロベリアが上手くやったと、報告を。
しかし、そこから先はルドルフの手の者たちが動いた。
医務室に待機していたセージの手により、ヨアヒムは速やかに治療された。蘇生とも言うべきか。
そしてその場でさらに、用意してあった死体と入れ替えられた。
毒により、人相もわからないほどどす黒く腫れ上がった死体と。
瞳も濁り、もとの顔の面影もなく。
わかるのは金髪くらい。
「身代わり……」
「あ、気にしないで良いよ。この国のひとじゃなくて……帝国の犯罪者だから」
死体は毒により刑を受けたものをご用意された。
兄たちに「金髪の若いの、いない?」と聞いて。ルドルフ自ら調達してきた。
金髪の、自分たちと同じ年頃でも――死んでも良い奴。
「うん、そいつ、孤児や平民の子供に酷いことしてやがってたやつだから、本当に気にしないで良いよ」
帝国にて、人拐いがちょこちょこ起きていた。
その犯人がこの死体――正体はとある伯爵子息だった。貴族らしい金髪の。
見目の良い平民や孤児院の少女や、ときに少年まで。
彼は後見人になろうなどと、甘い言葉で誘い――口にも出したくない酷い行いをしていた。
彼はその年齢と金髪のために。前々から疑わしきを捜査を早めて調べられたから。彼にとっては不運だったかもしれないが、そのおかげで今回の被害者は救われることとなった……命ばかりは。
もっと早く、捕らえられたらとは、誰もが。
そもそも、こんな人で無しがどうして存在するのかも、まともな誰もが悩むところでもあろうが。
一緒に現場に乗り込んで捕らえてくれたルドルフの二番目の兄は、その現場の有り様に「毒なんて優しい殺し方……もっと、こう! 鞭打ちも、手足削ぎ落としても足りん!」と、憤っていた。
ヨアヒムの代わりだから、身体に傷をつけるわけにはいかなかったから。
その分、セージによって長く苦しむ毒を調合されたという。子息は、三日三晩苦しんで最後には殺してくれと慈悲を願い――死体となった。まぁ、慈悲はなかったが。
姉が作ったロベリアの毒は痛みもなく優しいが、弟が調合したこの毒はとても残酷に。
けれども罰としては相応しい。
彼はのたうち回りながら、自分が殺した子供たちを何やら見たようで……――。
二番目の兄は、これからも帝国の膿出しを頑張ると言っていた。彼は帝位を継がず、兄を助けると。
「ヴォルフラム殿下みたいにどっかに隠し子いませんよね?」
思わず訊いてしまったルドルフは悪くないとは思うが、婚約者を溺愛していた兄に殴られたのはやっぱりルドルフが悪かった。
その質問は三番目の兄にも呆れられたが、この兄が色々と調べて、薬師の里や学院を卒業していたセージと引き合わせてくれた。書庫に引きこもりがちな伯父の後をこの兄が引き継ぐ……かもしれない。
兄たちは、帝位を護った祖父たちを尊敬はしていたから。
けれども今回の、大叔父でありルドルフには祖父になるヴォルフラムのやったことには思うところがあり。
ちなみに長兄と三番目の兄が正妃の子で。二番目はルドルフとはまた違う側妃の子であった。
ルドルフには妹がいて、今回のことで一番祖父にがっかりしたのは彼女であったのは、また後の話。
余談だが。二番目の兄が帝位につきたくないのは、父親のように何人か側妃を娶らねばならなくなるかもしれないのが嫌だそうで。
婚約者にベタ惚れであり。
だから、ヴォルフラムのような隠し子の心配は、まったくもって、失礼な話。
「そういう奴だから、気にしないで?」
「わかりました」
あっさり頷くのは、やはりその辺りは上に立つ者らしいなぁと、セージは思う。
毒により、実の母――ガブリエーレにもわからぬように人相を変えられた伯爵子息は、まさかまさか、この国の王族の霊廟に眠ることになるとは思いもしなかったろう。
跡継ぎが途絶えたことにより、いつか墓仕舞いはあるだろうが、それもさすがに王族のものならば仕来りや儀式もあり、数十年は先だ。
その頃にはさらに滅んだ王族など、ヨアヒムの人相など、不明となろう。
「それで、ロベリアは? ロベリアに何を?」
いや、そっちが優先かよ、とルドルフとセージは突っ込むことをなんとか我慢した。自分の身代わりの説明など後で良かったのね、と。
いやもうコイツ、二番目の兄様と仲良くなれそう……。
後ろ方向に前向きだったお前と似た者同士だろうと、後に兄たちにはやっぱり総突っ込みされたが。
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