いつか優しく終わらせてあげるために。

イチイ アキラ

文字の大きさ
20 / 26

20

しおりを挟む

 ロベリアは姉とは入れ違いで修道院に入る予定だった。
 それがヨアヒムがロベリアの望みを聞いて、立ててくれていた筋道。
 良い修道院を選んでくれていた。
 海の近くにある小高い丘に建てられていて、余生を暮らすには――ヨアヒムを想い、暮らすには、本当に。
 その海を見れば、いつでもヨアヒムを思い出し――祈れる。

 マーガレットは冤罪を晴らされ。ヒューリック伯爵家の跡取りとして再び明るい世界に戻る。
 ロベリアは、静かに終わりを待つ――ヨアヒムの後を追う。そのはずで。
 その前に姉と少しでも。父ともできたら。育ての親は……無理だろうか。会いたい。
 それが今生の最後の願いであった。

 けれども一夜なりとも「王子妃」となった娘の扱いは難しい。
 そうしてロベリアは未だ城に留められていた。
 途中、王妃の毒味に駆り出されたり――その後、王妃が何故か自分の代わりに修道院に入ることになり。

 その海が見える修道院に。

 ――彼の人の瞳の色。

 帝国よりこの属国に第四王子が統治に降され――彼が連れてきた側近の一人に引き合わせられたロベリアは、その珍しい、紫がかった青い色味の瞳を丸く見開いた。
 彼のその胸には、黄泉路で目印になるはずだった――そのロベリアの瞳色の宝石が。

 ルドルフがその瞳を見て、この色を探すのは大変だったろうなと小さく感想を言う横で。彼はルドルフには容赦なく肘打ちしながら、ロベリアに優しく微笑んだ。

 垂れ目気味の、その海のような深い青い色をした瞳で。




「……。」
 ヨアヒムは眩しいと、目を開けた。
 ここで、「天国か地獄は医務室みたいなんだな」てボケを期待したのにと、不満をあとから言われたけれども知ったことではなく。

「……なんで僕、生きてんです?」

 自分の顔をみて嫌そうにしたヨアヒムに、ルドルフはニタァと、なんとも嫌らしい笑みを浮かべた。とても王子さまとは言えない顔だ。

「ざーんねんでーしたーぁ」

 簡単に楽になんかしてやるもんか。

「こんにゃろ……」

 それはかつてヨアヒムがルドルフに言わせた言葉。

 ざまぁと楽しげに笑う王子に、頬を引き攣らせ死に損なった王子。

 似た者同士って、気が合わないんだなぁと――この数日、新たに側近で護衛となり、あれこれとルドルフの手足となって動いていたハーゲンは一人小さく、ため息をついた。

 でも内心では、喜んでいた。

 いつか殺される定めの王子だった。祖父母にはそう覚悟して仕えるようにと――帝国からの指示を受けていたが。
 けれども、それでも。

 ヨアヒムは良い奴だったから。

 彼は敏いし、優しい。彼がいつか本当に王様になってくれたらと、どれほど望んでいただろうか。
 それに何より、幼馴染みだ。 
 共に学んだし、共に悪戯だってした。時に護衛を撒いて下町に行かれたりするのには腹が立ったり。
 けれども、それでも――やっぱり。

 殺したいとは、ずっと思っていなかった。

 ヨアヒムがロベリアに惚れたことにより、彼女毒娘が主流となった王弟の計画だが、それがなければ毒を盛るのは身近にいた自分になっていた可能性が高かったから。
 そのための、幼馴染み。
 思惑込みの関係だったのに、ヨアヒムは死ぬときまで、自分を幼馴染みとして側に置いた。
 ……それどころか。

「……良かった」
 ハーゲンは、小さくため息をつきながらも。心の底から、小さくも本音でつぶやいた。涙で前が見えなくて、一度袖で拭った。
 ヨアヒムが王妃と同じく、自分のような近い者たちのことをも、ルドルフにこっそりと後を頼んでいたのを知って。そんなことするなよ。それなら自分の心配して足掻けよと――怒るのは、泣くのは、もうこれで終いだ。
 これからは、もう……。


 ルドルフはヨアヒムに自分が差し伸ばした手を「絶対いやでーす」と、あっさりと振られたとき。
 むしろ「絶対助けてやるぞ、この野郎」と、逆に。

「……ああ、僕、優秀ですからね? 使い道たくさん? 死なせるには惜しい奴な?」
「まあ、そうだけど、自分で言う?」

 うん、たまにいるのだ。
 こういう、敏い奴。鋭い奴。
 妙にカンが良い奴。

 自分の身近だと祖父の――帝王のディートリヒだろうか。

 だから彼は一番、敵になったら面倒くさい、弟を味方にしたのだろうし。

 そういえばこの国も、元を辿れば帝国の末か。
 遠い遠い親戚か。

 似たような奴がいたって、不思議じゃないのかも。

 それを言うならお前もだろうと、ルドルフの兄たちがため息と苦笑をするだろう。
 すでにハーゲンが似た者同士と見ているように。

 ルドルフに対して兄たちがもやもやしていたように。ヨアヒムに対しては兄の気持ち知らずな彼だった。
「キミ、頭も良い、腕っぷしも良い、しかも下町やあちこちの顔役にも好かれてるしさぁ」
 しかも顔も良い。一番憎らしいところかも。しかも彼女(いやもう奥様?)も美少女だし。こんにゃろめ。

 そんな優秀な奴、さっさと死なして楽になんてしてやるものか。

 あっさりとこの国を押し付けやがって。

「僕は気楽な四男坊として生きてくハズだったんだから。その予定崩されたんだから、キミ、手伝ってよね?」
 
 しかしヨアヒムはせっかく助けた――助かった命に不満そうだった。

 だからルドルフは手持のカードを差し出した――人質、でもある。卑怯かもしれないと、内心では。

「だってロベリアもまだまだ長生きするよ? させるよ? キミ、彼女を長いこと……うーん、ひとりぼっちでキミが黄泉で待つことになるよ? ロベリアを長い間ひとりぼっちにするて言うべきかも……あ、それとも他の男に譲る――」
「ちょっとそれ、詳しく?」


しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

妹なんだから助けて? お断りします

たくわん
恋愛
美しく聡明な令嬢エリーゼ。だが、母の死後に迎えられた継母マルグリットによって、彼女の人生は一変する。実母が残した財産は継母に奪われ、華やかなドレスは義姉たちに着られ、エリーゼ自身は使用人同然の扱いを受ける。そんなある日――。

妹は病弱アピールで全てを奪い去っていく

希猫 ゆうみ
恋愛
伯爵令嬢マチルダには妹がいる。 妹のビヨネッタは幼い頃に病気で何度か生死の境を彷徨った事実がある。 そのために両親は過保護になりビヨネッタばかり可愛がった。 それは成長した今も変わらない。 今はもう健康なくせに病弱アピールで周囲を思い通り操るビヨネッタ。 その魔の手はマチルダに求婚したレオポルドにまで伸びていく。

こうして私は悪魔の誘惑に手を伸ばした

綴つづか
恋愛
何もかも病弱な妹に奪われる。両親の愛も、私がもらった宝物もーー婚約者ですらも。 伯爵家の嫡女であるルリアナは、婚約者の侯爵家次男ゼファーから婚約破棄を告げられる。病弱で天使のような妹のカリスタを抱き寄せながら、真実の愛を貫きたいというのだ。 ルリアナは、それを粛々と受け入れるほかなかった。 ゼファーとカリスタは、侯爵家より譲り受けた子爵領へと移り住み、幸せに暮らしていたらしいのだが。2年後、『病弱』な妹は、出産の際に命を落とす。 ……その訃報にルリアナはひっそりと笑みを溢した。 妹に奪われてきた姉が巻き込まれた企みのお話。 他サイトにも掲載しています。※ジャンルに悩んで恋愛にしていますが、主人公に恋愛要素はありません。

全部私が悪いのです

久留茶
恋愛
ある出来事が原因でオーディール男爵家の長女ジュディス(20歳)の婚約者を横取りする形となってしまったオーディール男爵家の次女オフィーリア(18歳)。 姉の元婚約者である王国騎士団所属の色男エドガー・アーバン伯爵子息(22歳)は姉への気持ちが断ち切れず、彼女と別れる原因となったオフィーリアを結婚後も恨み続け、妻となったオフィーリアに対して辛く当たる日々が続いていた。 世間からも姉の婚約者を奪った『欲深いオフィーリア』と悪名を轟かせるオフィーリアに果たして幸せは訪れるのだろうか……。 *全18話完結となっています。 *大分イライラする場面が多いと思われますので苦手な方はご注意下さい。 *後半まで読んで頂ければ救いはあります(多分)。 *この作品は他誌にも掲載中です。

こんな婚約者は貴女にあげる

如月圭
恋愛
アルカは十八才のローゼン伯爵家の長女として、この世に生を受ける。婚約者のステファン様は自分には興味がないらしい。妹のアメリアには、興味があるようだ。双子のはずなのにどうしてこんなに差があるのか、誰か教えて欲しい……。 初めての投稿なので温かい目で見てくださると幸いです。

愛を騙るな

篠月珪霞
恋愛
「王妃よ、そなた一体何が不満だというのだ」 「………」 「贅を尽くした食事、ドレス、宝石、アクセサリー、部屋の調度も最高品質のもの。王妃という地位も用意した。およそ世の女性が望むものすべてを手に入れているというのに、何が不満だというのだ!」 王妃は表情を変えない。何を言っても宥めてもすかしても脅しても変わらない王妃に、苛立った王は声を荒げる。 「何とか言わぬか! 不敬だぞ!」 「……でしたら、牢に入れるなり、処罰するなりお好きに」 「い、いや、それはできぬ」 「何故? 陛下の望むままなさればよろしい」 「余は、そなたを愛しているのだ。愛するものにそのような仕打ち、到底考えられぬ」 途端、王妃の嘲る笑い声が響く。 「畜生にも劣る陛下が、愛を騙るなどおこがましいですわね」

侯爵家を守るのは・・・

透明
恋愛
姑に似ているという理由で母親に虐げられる侯爵令嬢クラリス。 母親似の妹エルシーは両親に愛されすべてを奪っていく。 最愛の人まで妹に奪われそうになるが助けてくれたのは・・・

蔑ろにされた王妃と見限られた国王

奏千歌
恋愛
※最初に公開したプロット版はカクヨムで公開しています 国王陛下には愛する女性がいた。 彼女は陛下の初恋の相手で、陛下はずっと彼女を想い続けて、そして大切にしていた。 私は、そんな陛下と結婚した。 国と王家のために、私達は結婚しなければならなかったから、結婚すれば陛下も少しは変わるのではと期待していた。 でも結果は……私の理想を打ち砕くものだった。 そしてもう一つ。 私も陛下も知らないことがあった。 彼女のことを。彼女の正体を。

処理中です...