死神姉妹は斬首刀と踊る~処刑待ちの囚われ元王妃は救国の聖女か亡国の毒婦か~

歌川ピロシキ

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お花畑転生娘とゲーム開始

お花畑転生娘と力の覚醒

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「『力の覚醒』はそれからだいぶ後だったなぁ……」

「それまでに、たくさん『この世界の残酷さ』を見せつけられたんですね」

「うん……何度も何度も、『癒しの力』を使ってみようとしたんだ。でも、どうすればいいのか全然わかんなくて……」

 そのたびに虹色の光が現れて「仕方がない」「この人はこうなる運命だった」と諭したのだと語るミラ。その哀し気な表情に嘘はなく、そのたびに強い無力感に打ちのめされてきたことがうかがえる。
 
「結局、あたし何にもできなくってさ……だから、ゲームのシナリオに関係ないことは、あたしにはどうすることもできないんだってわかったよ」

 その諦めが、いつしか「シナリオに関係のないもの人間はただの背景」という極端な思い込みにつながったのだろう。
 そこに至るまでにミラが繰り返し味わった絶望を想い、マリーは暗く沈んだ。

――子供に繰り返し絶望させておいて、何が創世の女神ですか。これでは弱った人の心につけこみ洗脳するだけの、ただの悪魔ではありませんか。

 それがマリーの偽らざる本音だ。
 しかし、「自分は女神に選ばれて世界を救おうとした」という矜持こそがミラの心を支えているのだからと口には出さずに黙っておく。

「あの頃は、一日も早くゲームが始まってほしかった。力に目覚めたかったよ……」

 疲れたようにこぼしたミラは、そのままぽつりぽつりと『癒しの力』に目覚めた日のことを語り始めた。


※ ※ ※


 治癒魔法が使えることがわかったのは偶然……ということになっている。
 もちろん「ゲーム」の中でプロローグとして描かれていた「シナリオ通りのイベント」ではあるのだが。     

 その日、たまたま孤児院のあった村を通りかかったアピリスティア男爵夫人が急に腹痛を訴えて倒れたのだ。街道沿いとはいえ田舎の小さな村に病院はなく、男爵夫人は仕方なく孤児院のあるこぢんまりとした教会に運び込まれた。

 貴族の嗜みも忘れ、激痛にもがき苦しむ夫人。化粧が落ちるのも構わず脂汗を浮かべ、ドレスをしわくちゃにしてのたうち回る夫人の姿にミラは唖然とした。
 スチルで見た容姿はそこそこ整っていたはずだが、目の前でうめき声をあげてあがいている顔は、まるで悪鬼に襲われたかのように醜く歪んでいる。

――これってヒロインあたしの覚醒イベントよね? 初めての治癒魔法なのに、こんなに苦しそうな人に使って大丈夫? なんかすっごい重症っぽいんだけど。

 この頃になると、ミラも「前世」とこの「乙女ゲームユリコーの世界」の線引きもできていて、目の前の人の死にいちいち動じなくなっていた。

《ゲームのシナリオに無関係な人間は、この世界にとってはただの背景》

 そう思い込むことで、目の前の悲劇から自分の心を守っていたのだ。

 しかし、目の前で急に苦しみだした男爵夫人は、自分を引き取ってくれる大事な「NPC」だ。彼女に養女として迎えられ、貴族の子女としての基礎を教わらなければ、学園に入学することすらかなわない。

 唐突に目の前の「人間キャラクター」の生死が自分の肩にかかっていることを自覚して、緊張で全身に震えが走る。

――絶対に失敗できない。……けど、どうすればいいんだろう?

 魔法の使い方など、習ったことはない。
 それもそうだろう。魔法の使い方など、魔導師団や魔導技術院に所属する術者に弟子入りするか、王立学園にでも入らなければ、学ぶ機会はない。
 高位貴族なら「家庭教師を雇う」という選択肢もあるだろうが、それは財力と人脈が有り余って初めて可能な手段だ。
 読み書きすらまともに教えてもらったことのないミラが、習う機会などあるわけがない。

――どうしよう。ヒロインの特権チートスキルでいきなり使えるようになったり……しないか。

 今まで何度も使おうとしてダメだった。
 心の中で女神に呼びかけたり、傷や病気が治るイメージを思い浮かべたり……
 思いつくことはなんでもやってみたけれども、そもそも魔法がなんなのか、魔力がどんなものかすら知らないミラにはどうしようもなかったのだ。

――このまま力に目覚めなくて、ゲームが始めれなかったらどうしよう?

 ヒロインとして目覚めることができなければ、この世界を救うこともできない。
 みんなが惨めなまま何の意味もなくバタバタと死んでいくような、残酷で理不尽な世界を変えることができない。
 このままでは、せっかく女神に選ばれてゲームの世界に転生してきた意味がないではないか。

――とにかく力に目覚めなくちゃ。お願い、女神様。何でもするから助けてください!!

 ミラは心の底から祈った。おそらく、前世を含めてこれほど熱心に神に祈ったことはなかっただろう。
 ミラにとっては永遠にも等しい時間……しかし、客観的には五分にも満たなかっただろう。

《この時を待っていたわ。いよいよゲームの始まりね。私の可愛いヒロインさん》

 愉し気な声がミラの耳に届いたかと思うと、虹色の光が彼女の視界を覆いつくした。
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